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ダンジョン作ったら無理ゲーになりました(旧)  作者: 緑葉
第三章 街合宿編
33/189

29話 死霊が逃げたので探しました

ワイトが失踪してから一日、俺達は別荘の中で会議を行った。


「皆、ゴメン。俺が余計なことを言ってワイトを傷つけてしまって」

「そんなことはありません・・・ワイトにも事情があったに違いません」


マリーの言葉に皆が頷くが俺の頭の中では後悔と自分の未熟さで頭いっぱいだった。


「コウキさん・・・いえ、ここではコウキ様と呼ばせてください。コウキ様は何か知っているのですか?何故ワイトが姿を消したのか」


ワイトが逃げた理由・・・それは、あいつの出生が皆と違うこと。それを知られたショックで俺の前から逃げ出した。おそらく、二度と俺達の前に現れようとしない・・・そんな覚悟であいつは俺に背を向けた。


皆にワイトのことを伝えると、中には怒りが込みあがっているのを我慢している者もいれば同情で涙を流す者もいる。


「皆、聞きたいんだけど。今の話を聞いてワイトのことをどう思う?あいつは君たちと違うと言えるか?」

「「「「そんなことありません!」」」」


全員一致、その答えが聞けただけで俺は安心した。


「しかし、ワイトがゾア様から召喚された者だったとは」

「どこか余所余所しい所があったのは分かっていましたが・・・そんな理由が」


もし、自分が同じ立場だったらどうなっていたのだろう?全員がそう考えるとワイトと似たように自分の居場所に不安を感じたようだ。


「しかし、そうなるとマズイですよ。いくら子供の足とはいえ既に半日が経とうとしています。屍人族は身体能力はそこまで高くありませんが体力においては無尽蔵です・・・もし、彼が街の外に出てずっと走り続けていたら・・・」


ジョージの指摘に全員が見合わせる。確かにマズイ、一応門番の人に連絡を入れてもしワイトを見つけたら連絡してくれるように頼んだが、今この街では大量の人が出入りしている。子供のワイトが紛れ込むのはたやすいはず。


「コウキ様のスキルで探すことは出来ないのでしょうか?」

「ああ・・・ワイトを探索系のスキルは持っていないんだ」


正確には【リンク】によって住民たちの居場所は把握することは出来る。だが、唯一ワイトはダンジョンから生まれたモンスターではない。だからワイトと俺はリンクによって繋がっていないのだ。


もっと早く気付いていればこんなことにはならなかったのに・・・


「・・・ならまた探しましょう!もしかしたらまだ街に出ていないかもしれませんし。コウキ様はここに残っていてください!もしかしたらここにやってくるかもしれませんから」


マリーの言葉に全員が賛同し急いで別荘から飛び出した。残された俺はただ椅子の上に座って力が抜けたように天井につるされたシャンデリアを見た。


「何がダンジョンマスターだよ・・・住民1人悩みを解決できなくて何が異世界人だ。俺は異世界から来たチート野郎じゃないんだ・・・馬鹿すぎだろ?エイミィに選ばれて異世界に来て、ダンジョン作って、町を作って・・・有頂天になりすぎたな」


改めて自分の愚かさを感じ自分を嘲笑う気分になっているとドアのほうからノックする音が聞こえた。


「・・・はい、どちら様・・・オバチャン?」


ドアを開くと目の前には肥満体系の一日門番をしていたあのオバチャンだった。


「やあ、コウキ君。ウィリアムから君がここに住んでいるって聞いてね・・・はい、これ引越し祝い!」


オバチャンから手渡されたのは大量の野菜が詰め込まれた袋だった。


「あ・・ありがとうございます」

「どうしたの?元気が無いわね」

「え?・・・いえ、大丈夫ですこちらの問題ですから」


俺の様子に気付いたオバチャンは気になる様子で俺を伺っている。


「いいから、いいから!話なさい!この街に住む子は皆、私の子!子が悩んでいるなら解決するのは親の責務!」

「ありがとう・・・実は仲間の1人の過去を知ってしまいまして。その事をその仲間がしってしまい、そのショックで逃げてしまったのです。今他の仲間達が彼を探しているのですが・・・・」


ワイトのことを簡潔に事情を説明するとオバチャンはやさしく俺の頭を撫でた


「コウキ君・・・君は彼をどう思っているんだい?」

「・・・どうって、当然仲間の1人と」

「それは本心?」


オバチャンに聞かれて俺は少し黙ってしまった。仲間と言えば仲間だ。ダンジョンから生まれようがそんなことは関係無い。だが、多分俺は少しワイトと距離をとった視線で見ていたのかもしれない・・・どこか、同情する気持ちで・・・


「・・・同じだからかもしれません。彼と自分は・・・」


俺はワイトに対して嘘はついていない、真っ直ぐな気持ちで向き合っていたつもりだった。だが、あいつの話を聞いたとき俺はどこか親近感を覚えた。そして、多分あいつは俺の魂を見て同情されていると気付いた・・・


「あいつともっとゆっくり話せたら・・・」

「ねぇ・・・その子の名前教えてくれない?オバチャンが手伝ってあげるから」

「でも、これはこちらの問題d『君は私の子!』・・・ワイト・・・ホワイトリーって名前の子供です。年齢は8歳ぐらいの屍人族」


ワイトのことを伝えるとオバチャンは自分のモニターを開きだす。画面にはこの町のマップが表示され、細かい内容がびっしり書き込まれている。何者なんだこのオバチャン?


「ホワイトリー君ね・・・『検索』・・・『追跡』・・・いた!町の北側にあるギルド工房だね・・・えーと、昨日から寝泊りで作業していたみたいだよ」


工房だと?そこは確か探したはずだが!


「多分、時間制限とかあって、東西南北にある工房を回っていたみたい・・『オバチャンありがとう!』・・」


俺はモニターを開き街のマップを開き、ワイトがいる工房まで走り出した。


【加速スキル】、【肉体強化】、【思考加速】、【重力操作】、【五感強化】・・・自分の持つスキルを駆使しワイトがいる工房まで走り出す。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

工房


工房に入ると鉄が鉄を叩く音が響き渡る。俺は急いで【五感強化】のスキルをオフにする。沢山の炉や作業道具が置かれており、まさに工場と言える場所だった。そんな場所に何故か一箇所だけ人が集まっていた。


「・・・誰だ、あの少年は?」

「見事な出来だな・・・あんな屑鉄からよく作れたな」

「髭は生えていないし・・・ドワーフではないな」


野次馬達が何か反しているのを耳にして、俺は野次馬の間を潜り抜けた。

そこには1人の少年が大量に積み上げられた屑鉄を一生懸命ハンマーで叩いている姿があった。


そして、反対側には名剣ともいえそうな神秘的な輝きを放つ3,4本のアイアンソードが積まれている。


「ワイト!」


俺は叫ぶも、彼の耳には届かない


「こら!作業中に声をかける馬鹿がどこにいる!・・・と言っても無駄だ。あの少年この作業場に来てからずっと剣を作っている。周りにこんなに人がいるのに全く気にせず・・・なんちゅう集中力だ・・あんたもあの子に用事があるならこれが終わってからにしな」


俺の隣にいたドワーフのオッサンが叱ると、後は黙って見守っていると言いたいかのように黙った。


ワイトの作業・・・鍛冶を全く知らない俺でも彼が素人ではないと思えるくらい無駄の無い動き、まるで己の魂を武器に込めているようなそんな熱意。あいつにとって鍛冶とは自分らしくいられる場所なのかもしれない。


「む?最後の工程に入るみたいだな」


オッサンが言うと。ワイトが握っていたハンマーが淡い光を放つのが見えた。おそらく【鍛冶スキル】の技の一つなのだろう。ワイトが何回も剣を叩いていくと剣の形が段々変化していき、何故叩いただけでそんな形になるんだ?とツッコミたくなるような見事な剣が完成した。


ワイトが険しい表情で剣を見ていると、一気に他の作業員達の歓声が沸きあがった。

それだけワイトの作業が凄かったのだろうか、多くの作業員達が拍手をしていた。集中力が途切れたのか、周りに大勢の作業員がいることに気が付くと急に緊張し始め、まるで錆びたロボットのように首を動かす。


「スゲーぞ少年!まさかユニーク武器を作るれるなんて!しかもあんな屑鉄で作るなんて!」

「まさに神の手!鍛冶神が降臨したぞ!」


ユニーク武器?何のことだ?確かにワイトが最後に作った武器だけ形は少し変わっているが、それはスキルによるものではないのか?


「少年!儂の名はトーマス・ドゥーリー。トレスアール支部・鍛冶ギルドのギルドマスターを任されている。君の名を聞かせてもらえないか?」

「・・・ホワイトリーといいます。皆からはワイトと呼ばれています」

「そうかホワイトリー君、君は昨日ギルドに入ったばかりなんだよな?」

「はい。アイアンソード5本作ろうとしたのですが。最後のが失敗してしまいまして」


ワイトが『失敗』と口にした瞬間周りの作業員たちがどよめきだす。


「失敗だと?・・・君が打ったこの剣が?」


オッサン・・・トーマスはさっきワイトが打った剣を手に持ちじっくりと見る。


「これは失敗などではない!ユニーク武器だ・・君は知らないのか?」

「はい・・・今までも何度か武器を打ったのですがいつも10本中1本はそんな風に変わった形になるのです」


何を言っているだ?とそんな風に口をする作業員・・・トーマスは無言で考えると、ワイトの手を引っ張り、置くの部屋に連れて行く。


「お前ら!とっとと作業に戻れ!休憩は終わりだ、残り時間は仕事だからな!休んだら承知しねえぞ!」


トーマスがそういうと作業員たちが『え~!』と言いながら肩が落ちるのが見えた。


ってか、俺も置いてかれてない?急いでワイトを追いかける


「あ、あの!僕なにか悪いことしたのですか」

「そうではない!だが、これから話すことは機密事項だ。あまり公然の場で話したくは無いのだ」


なんだろう、このデジャヴ?


「ちょっと!おっさん・・いや、トーマスさん!待ってくれ!」


俺に気付いたトーマスは立ち止まり振り向いた。そして俺に気付いたワイトは気まずそうな表情ですぐに逃げ出そうとするが、トーマスさんがしっかりと手を握っていてくれたおかげで逃げ出すことが出来ない。


グッジョブ!


「なんだ、小僧?今からこの子と大切な話があるんだが?」

「大切な話なら俺もある!・・・ワイト、俺の話を聞いてくれないか?」


俺は真っ直ぐワイトを見るも、ワイトはいまだ気まずそうな表情で俺の顔を見ようとしない。


「・・・何か事情があるみたいだな。仕方ない、お前も一緒に来な」


トーマスはそのままワイトの手を引っ張りながら、工房の置くの部屋・・・ギルマスの部屋に入った。


「スマンな・・・周りの連中がワイト君の作業に魅入ってしまったようで」

「・・・いえ、最初は驚きましたが大丈夫です。それより、コウキさんなんでここに?皆がこれないように工房を回っていたのに・・・」


どうやら、ワイトは俺達の魂を見ながら工房を回っていたそうだ。よく考えてみたら、ワイトの目って人探しとかにも便利なんだよな・・・俺達の魂からどこに向かっているのかを把握し、そこから離れた場所で作業。そして近づいてくるのを確認するとすぐに別の作業場に移動・・・・


「皆が探している・・・戻ろう」

「でも、僕皆と違うし・『違うからなんだ?』・・・え?」

「トーマスさん、すみませんが少し二人で話をさせてもらえませんか?」

「・・・いいだろう。ここは防音設備だし、外に漏れることは無い。俺は少し作業場の様子を見てくる」


状況を把握してくれたのか、トーマスさんはそう言って部屋から出て行ってもらった。


「ワイト・・・君があの時俺から逃げたのは俺が君に同情しているのを気付いたから逃げたんでしょ?」

「・・・はい。あの時は自分でも訳が分からなくなってコウキさんの魂を見たら同情している色で・・・そう思ったらコウキさんの言葉が・・・」


やっぱりそうだったか。


「ワイト・・・確かに俺はお前に同情した。だが、それはお前が可愛そうだからとか思ったからじゃない。俺もお前と同じ気持ちになったことがあるからだ」

「え?」


あれは俺がまだ小学校一年だったころ、生まれはアメリカだった俺は一時期親の都合で2年ほど日本に滞在していた。物心がついたのはその頃で物事を考える基礎は日本語になっていた。そして、再び親の仕事でアメリカに戻ると言葉を理解できず周りには俺と同じような子供は誰一人いなかった。もし、俺と同じ日本語を話せる子供が身の回りにいたらどれだけ気が楽になっただろう。


言葉を理解できず、他の子と馴染めず1人でパソコンで遊ぶ日々を送る毎日。当然授業も着いていけず、特別クラスに定期的に行くことがあったがあの頃は皆と自分だけ違うんだと思った。自分だけ生きている世界が違う気持ちになった。回りの同級生から話しかけられることもあったが、上手く伝えられず空回りすることもあった。ああ、やっぱり自分は違うんだ・・・そう悩んだ時期があった。


それこそ、親の都合で放り込まれたことを恨んだ気持ちもあった。


「じゃあ、コウキさんも一人ぼっちだったの?」

「まあ、一人ぼっちというか俺が勝手に自分の居場所はここに無いって考え込むようになったんだよな」


あの時ほど孤独を感じたことは無かった。あのときほど苦しい気持ちになったことは無かった、あの時ほど寂しいと感じることは無かった。


「ワイトにとって居場所って何だ?」

「・・・ダンジョン・・でも」

「ワイト・・・確かにお前は皆と違う。生まれも違うし、特別なスキルを持っているわけじゃない。だがな、それだけなんだよ・・・それだけの違いでお前も、俺も悩んでいたんだ」


俺達は他と違う・・・違って当然、でも違うからといって仲間ハズレになる理由にはならない。


「たとえお前が違う出生だろうが、なんだろうが。お前は俺たちの仲間だ・・・胸を張れホワイトリー・・・お前はダンジョンの住民だ。ダンジョンの住民であることに出生も資格も要らないんだよ」


ワイトは体を震わせながら顔を下から上に向ける。歳相応の泣き顔を見せる少年がそこにいた。


「じゃあ、僕はあそこにいて良いんですか?皆と一緒にいても大丈夫なのですか?」

「お前を仲間ハズレにするような馬鹿が現れたら俺に言え。そんな馬鹿な考えをする奴は二度とそんなこと言わせさせないようにしてやる」


まあ、そんな奴があのダンジョンにいるとは思えないが。


「・・ありがとう・・・ございます」


今ワイトの精一杯の感謝の気持ちを伝えた瞬間、俺たちの頭にまたあの機械音みたいな声が聞こえた


固有名・ホワイトリーとのリンクに成功しました。

【鍛冶スキル】がレベル5になりました



何が元でワイトとのリンクに成功したのかは分からない・・・だがこれで俺とワイトには確かなつながりが出来たのを実感した。



その後、他のメンバーにワイトを見つけたことを報告すると全員が一斉に工房へ雪崩こんで来た・・ジョージとテスラからはそれぞれ痛い拳骨をくらい、マリーの優しい抱擁に包まれ、プラムとは『一生親友』と宣言され固い握手を交わしていた。


「・・・話は終わったかな?」

「ええ・・・すみません。ご迷惑をおかけして」

「構わんさ・・・ホワイトリー君は君の仲間なのだろ?」

「ええ・・・そういえば、トーマスさんはワイトに用事があったんですよね?」

「ん?ああ・・・なあ、コウキ君だっけ?さっきウィリアムから連絡があって君の事を聞いた。しばらくここに滞在するのだろ?」


俺とワイトが話している間、トーマスさんはワイトのことを調べ、俺のことを知ったらしい。


「ええ、メンバーの技術向上を目的として合宿を行っているのです」


「なら、しばらくワイト君を預からせてもらえないか?・・・彼を儂の弟子にしたい」


「・・・・え?」


どうやら一難去ってまた一難になりそうだ

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