23話 ダンジョンが開かれたので神も動き出しました
ダンジョンが解放されて一日目を終えた俺達は会議室に集まって現状を報告した。部屋には俺、エイミィ、各フロアボスたちと管理チームに雇ったメンバーの一人妖人族・九尾種のタマモだ。
外見は獣人・狐種のようだが尾の数は九本。モフモフで柔らかそうな尻尾は身体を動かすたびに揺れてつい目で追ってしまう。巫女服とか着せたら絶対似合うはずと思い、今度巫女服とか作ろうと頭の中で計画を練った。
妖人族はその名の通り妖怪が人型に進化した種族。獣人みたいに種類が多くあり、ぬりかべ、かまいたちとか有名な妖怪たちが人型に進化した住民もいた。
「本日、ダンジョンに挑戦した冒険者は総勢1559名。その内約700名が第1階層で脱落、安全エリアに到達してダンジョンから帰った冒険者が90名、現在約150名がダンジョンに滞在しております。冒険者の最高到達階層は第3階層ですが第3階層に到達した冒険者全員が敗北したため、現在、冒険者がいる最高階層は第2階層になります」
つまり1300人以上の冒険者が今日のダンジョンで死亡したということだ。まあ、もちろん本当に死んだのではなくダンジョンの入り口に全員無事に転送されているけど。
改めてこの世界の冒険者のレベルの低さを実感した。だが90名が安全エリアにある転送装置で帰還したということは、戦利品を持ち帰っているはず。その情報が広まれば冒険者達は挑み続けるだろう。
相変わらずフロアボス達の感想は「弱い」、「こちらが鍛えたい」など言っているがまあ、初日なんだし別にいいだろう。
それよりもタマモの堂々とした報告に俺は感心した。普通に考えたら新人社員をいきなり幹部達が集まる場所で発表させているんだからな・・・今後はしっかりと配慮しよう。
「ありがとう、タマモ。冒険者から収穫したものはどうなっている?」
「はい、冒険者達が落とした装備品は全て回収し現在鍛冶師たちに渡し振り分け作業を行っています。冒険者から集めた金額は約3000万Eです。吸収した魔力も上々のことです」
俺はモニターで確認すると確かにお金が3000万Eほど増えていた。このお金は俺の所持金とは別のダンジョン銀行(仮)に飛ぶように設定しているため、俺が個人的に使用することは出来ない。フロアボス達の承認を得て初めて使えるお金で、いわばダンジョンの開拓資金となる。いずれはフロアボスや住民達の給料として支給する予定だ。まあ、このダンジョンにいればお金とか必要ないから、むしろ冒険者から集めた魔力の方が重要かな。
ダンジョンの魔力も確認すると以前見た数値より遥かに上がっている。それだけ、レベルやスキルを吸い取ったのだろう。今頃、帰った冒険者達は泣いているだろうな。だが、この魔力でダンジョン開拓にありがたく使わせてもらうよ。
「分かった、ありがとう。さて皆、早速冒険者達はダンジョンに挑んで現在第2階層にいる。まだ2階層と思っているだろうけどこれはダンジョンの約2%が侵攻されたって意味だ。今後もダンジョン攻略者は増えていくだろうし、あちら側もしっかりと対策も考えてきている。甘い考えを持たないように注意してくれ」
「「「御意!」」」
俺の一言でフロアボスの気合を入れさせる・・・と言ってもこの様子だと冒険者たちがフロアボスのところに辿り着くのもまだ先かもな。
「タマモたちも入れ替わりで、冒険者達の監視を頼む。何か仕出かしたら遠慮なく俺に報告してくれ」
「かしこまりました」
俺は全員を解散させた後、才に連絡を入れた。
「才、今大丈夫か?」
『光輝か。ああ、問題無い。まずはダンジョン開放おめでとう。できれば祝い品でも送りたかったんだがな』
「ありがとう。気持ちだけ受け取っておくよ。冒険者側は大丈夫か?」
『ああ、実力不足の冒険者達の何割かはかなりトラウマを抱えて帰ってきたらしいが、戦利品を持ち帰った冒険者の噂を聞いてやる気を出しているのが多いな』
才からの報告でどうやら作戦は上手くいっているみたいだ。
「そうか、じゃあそんな冒険者たちのために色々と用意しておかないとな」
『あまり気合入れいれすぎて難易度上げすぎるなよ。俺に出動命令が出るかもしれないんだから』
「才はダンジョンには挑まないのか?」
『興味はあるが俺の仕事は人材派遣会社だからな。現在、冒険者の育成部門を立ち上げて忙しいんだ』
「英雄様は冒険より仕事を選びますか」
『まあ、俺の仲間がかなり気合を入れていたからな。近いうちに有給とってダンジョンに挑むって言っていた。多分、お前たちにとって最初の驚異になるぞ』
才の楽しそうな声に俺の背筋は一瞬凍った。英雄の仲間が挑むとか・・・才ほどの強さは無いだろうけど油断は出来ない。
「そうか。じゃあ楽しみにしているよ」
『何かあったらまた連絡をしてくれ。相談にならのってやる』
才は挑戦側、俺は運営側、お互い別の立場にいるがこういう風に気楽に話せるのはうれしいことだ。
「・・・そういえば、俺と対等に話してくれるのってエイミィか才だけじゃないか?」
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地下45階層 管理室
翌日、新たな冒険者たちが再び門になだれ込むように入ってくる。まるで某有名アトラクションパークのようだ。
俺は管理室で部下達と何十もあるモニターから冒険者達を監視していた。エイミィは街の様子を見たいと言って街に残っている。
「昨日より冒険者の数は増えているみたいだな」
「先日の戦利品の情報が各拠点に流れたようです。気合の入った冒険者が目立ちますね」
「第2階層にいた冒険者たちはどうしている?」
「全員がダンジョン攻略を再開しましたが、F地区にある安全エリアにいた冒険者たちが開始直後にオーガ侍と遭遇して脱落しました」
運が悪いな。オーガ侍って確か1階層にいるオークジェネラルと同じエリートモンスターに設定してあるモンスターだ。普通のモンスターと違って強さはかなり上がっているが、その分レアなドロップアイテムが出るようになっている。
「冒険者の中でかなり実力のある集団とかいるか?ダンジョンの脅威になりそうな奴とか?」
「今のところ、そのような冒険者は確認されていません。誰かお探しですか?」
「いや、ちょっと気になってな・・・もし、脅威となりそうな冒険者か集団がいたら報告してくれ。だけどあまり気を張り詰めすぎるなよ」
「かしこまりました」
俺はそう言い残して管理室から出た。
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作業室
「あ、光輝。どうダンジョンの様子は?」
作業室に戻ると街にいるはずのエイミィがモニターで何か作業をしてた。
「ああ、今のところ問題ないよ。冒険者たちもダンジョンに夢中になっている」
「そうなんだ」
「エイミィは何をやっているんだ?街にいたんじゃないのか?」
「うん、街の開拓作業を見ていたんだけどね。あたしも何か手伝えることないかなって思って色々と住民たちを観察したわけ」
「へぇ・・・やるじゃん。っで住民たちのために何かを作ろうと思い作業をしていたってわけか」
「そういこと。ダンジョンの魔力が予想以上に貯まってきたから何か作ろうかなって」
エイミィが自慢気な表情で笑うと俺は一瞬彼女の笑顔に釘付けになった。
「どうしたの?」
「いや・・・それで何を作っているんだ?お前のことだ何か無茶苦茶なのを作りそうでコワイな」
「ひどいな・・・これよ、これ!」
エイミィがモニターを俺に見せると何かの設計図みたいなプログラムのコマンドが羅列されていた。おれはそのコードを読み、自分の頭の中でイメージするとある施設が浮き上がった。
「これって・・・学校?」
規模はそこまで大きくない。よく見る日本風の学校と違って二階建ての木造建築。部屋もそこまで多くなく。どちらかというと昔の日本にあった寺子屋みたいな感じだ。
「そう!街を見てあたし気づいたの。大人たちは皆街作りの作業で忙しく、子供たちも手伝いたいけどやることは限られている。空いている時間はそれぞれバラバラになって外で遊んでいる」
確かに、子供たちのやることといえば、食事の支給の手伝い、スキル持ちなら加工作業の手伝いとかあるが、大人と同じ作業は出来ない。空いた時間とかに何をしているのかは俺もあまり知らない。
「せっかく同じ街で暮らす者同士!もっと交流の場が必要だと」
「それで学校を?」
「そういうこと!共に学び、共に成長する!これぞ青春!これが生きていると実感できる瞬間!」
なんかエイミィのキャラが熱血に変わっているような気がするが、まあ確かに学校はいずれ建てようとは思っていた。
「なるほどな・・・いいんじゃないか?確かに子供たちに学ぶ場所は必要だな。いずれ外の世界も知ってもらうことになるだろうし。俺も手伝うよ」
俺はエイミィの作業を手伝うことにして、モニターを開いた
「え?でも、これ私が勝手に思いついたことだし。光輝には他の作業が・・・」
「プログラムとかはエイミィに任せるよ。俺はプログラムにエラーが無いかをチェックするだけ。俺は俺で他の作業をやるから」
エイミィが嬉しそうな表情を見せ、更にやる気になった姿を見て俺の表情も少しゆるんだ。
「さて、どんな感じかな・・・・・・おいエイミィ、今見ただけでとエラー箇所が10個以上見つけたぞ」
「うげぇ!」
どうやら、学校を作る前にこの神様に勉強を教える方が先になるかもしれない。
新キャラとして、妖人族・九尾種のタマモちゃんが登場しました。
タマモちゃんは光輝が選んだ解析能力が高い人材の一人です。今後は他のメンバーや新キャラたちをどんどん増やしていく予定です。




