22話 冒険者が挑んできたので反撃しました
「スキルの持ち主が死ぬ?」
「当然よ、命あるものは必ず死を迎える・・・生命として当たり前でしょ?」
エイミィの言葉に俺は胸を締め付けられた。死があること・・・それは考えたことがなかった・・・いや、フロアボスや住民たちが『生きて』いると分かった時点でそれは理解していたはず。ただ、そんなことを考えたくもなく、頭の隅に置いていたのかもしれない。
「まあ、このダンジョンにいる限りフロアボス達が倒されてもすぐに復活できるから安心して。住民たちにも同じ効力があるから、少なくともこのダンジョンにいれば、肉体としての限界・・まあ、寿命を迎えるまでは死ぬようなことは起きないから」
エイミィは安心させるつもりで言ったのかも知れないが、俺は改めてこの世界で恐怖を感じた。エイミィは神なんだ、俺たちとは違う・・・価値観や視点が異なっていて当然なんだ。どこか、生命を軽んじている発言に俺は言葉が出なかった。
「・・・まあ、怖いのは分かるわ。私だって光輝に会うまでずっと恩恵を与えては狙う人から逃げていたから・・・このダンジョンができるまで私が安心できる場所なんて無かったわ」
エイミィは優しく俺に手を差し伸べ、立ち上がらせた。
「さぁ、大魔王。あなたはしっかりと役目を果たしなさい。死ぬのが怖いなら強くなればいいのよ。英雄である才だって同じなんだから」
「わかったよ・・・気長にやらせてもらうな。お前を守るダンジョンであり、人を育てるダンジョンにしないと」
エイミィの励ましでなんとか気持ちを切り替えた俺は作業に没頭した。
初めて、エイミィが俺にダンジョンのプログラムを見せてくれた時のように、テンション高くはかどった。
俺がイメージしたもの。それを具現化させる・・・エイミィから貰ったこのスキルで俺はやりたい放題やらせてもらう。
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数週間後
ダンジョンの準備、そして冒険者側の準備が整い。いよいよダンジョンが正式にオープンした。
ロックをかけていた巨大な門が開き、大勢の冒険者、挑戦者たちがなだれ込んだ。
荒くれ者集団のような冒険者がいれば、どこかの国の兵士集団かと思うような隊列の整って進行する兵士たちもいる。
「始まったわね」
「ああ・・・グラムの担当フロアは迷宮フロア。何人がグラムのフロアまで到着できるかな?」
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第1階層 A地区
「・・・おかしい。さっきまであんなに冒険者たちがいたのに、今は数える程度しかいないぞ」
「隊長・・・我々の部隊も後方にいた兵士が行方不明になっております」
「何?!・・・お前らちゃんと見ていたのではないのか?!」
ダンジョンを挑んだとある兵士集団は早速ダンジョンの異変に気づいた。
「隊長!前方にゴブリンの集団が接近してきています!」
「ゴブリンだと?そんなの蹴散らせばいいだろ!・・・・って何だアレは!」
兵士長が前に振り向くと、確かにゴブリンが10匹程度走ってやってくるのが見えた。だが、普通のゴブリンではないことは一目瞭然だった。
ゴブリンの装備は立派で、兵士集団より立派な鎧と武器を身につけていた。
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地下45階層 管理室
ここは、地下45階層に新しく作った部屋。冒険者たちの行動を監視するための場所。ここで、冒険者たちのデータを取って今後のダンジョンの発展につなげるのが目的だ。部屋には大量のモニターが表示されており、それぞれが迷宮の映像を映しだされている。
監視は俺とエイミィ、そして住民の中から特に分析力が優れた人材を5名ほど選んで作業を行っている。今後、新しい階層に挑戦者が増えてきたら増やしていく予定だ。
「お、早速ゴブリンナイツと鉢合わせになったな」
「ねぇ、光輝。他の冒険者たちはどこに行ったの?最初皆、一斉に入ったと思ったんだけど」
「ああ、ちょっと待ってな」
エイミィの質問に答えるため。俺は巨大モニターを開き第一フロアの全体マップを見せた。マップはまさに迷宮。迷路パズルを元に作成した迷宮で多分、1日でクリアするグループはそんなに多くないかと思う。
マップにはいくつもの白い光が点滅していた。
「ダンジョンに入った時にちょっと細工をしていてな。挑戦者30名ずつにランダムで転送されるようになっている。多分、あの部隊にいる数名が30名で切られて別の場所にいるんだろうな」
「なるほど・・・あ、兵士たちが戦うようだよ」
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第1階層 A地区
「っぐ!このゴブリン強いぞ!」
「全員!隊列を乱すな!相手はたかがゴブリンだぞ!誇り高き兵士がゴブリンに負けるなど!あってはならん!」
兵士長の鼓舞で前衛の盾兵士たちが必死にゴブリンたちの猛攻を防ぎ、後衛の弓兵たちが援護をする。
「今だ!かかれ!」
兵士長の号令と共にゴブリンナイツたちが押され。HPが無くなったのか、身体は光の粒子となり残ったのは立派な鎧と武器だった。
「よっしゃ!我々の勝利だ!」
「隊長!ゴブリンが遺したこの鎧と武器はどうしましょう?見たところ、我々の装備より高性能かと思いますが」
「そうだな・・・よし、一つは私が装備。残りは前衛が装備しろ」
「「「っは!」」」
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地下45階層 管理室
「あ〜あ、ゴブリンナイツ負けちゃったね」
「あの兵士達の連携が優れていたのが勝敗の鍵だったね。結構訓練されていたみたいだ」
レベル差ならおそらくゴブリンナイツの方が上だっただろう。だが数と連携と根性で兵士側が勝利した。中々面白いデータが取れたから俺としては見応えのある戦いだった。
「コウキ様、D地区でオークジェネラルが冒険者たちを撃破。冒険者たちは無事入り口に転送されました」
作業メンバーの一人の報告で俺は入り口を映し出しているモニターを見た。オークジェネラルがどんな戦い方をしたのかは分からないが、男性冒険者10名が情けない表情で倒れていた
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「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、俺が悪かった、許してください」
「もう、豚肉食べませんから!一生野菜食べて生活しますから」
「豚、コワイ・・・なんだよ、オークってあんなに強いのか?」
オークジェネラル、一体何をしたんだ?
「あれ?・・俺の武器が無いぞ?」
「俺のもだ・・・せっかく給料つぎ込んで買ったのに!」
「ああ・・所持金が減ってるんだけどどうなっているんだ?!」
「ああ!!俺の剣術スキルのレベルが下がってる!」
「チクショー!もう一回だ!あそこで道具拾えれば・・・あれ?入れないぞ!」
「どうなっているんだよこれ!」
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地下45階層 管理室
「あいつら、入り口の注意書き読んでいないな」
ダンジョンで挑む冒険者たちはたとえ死んでもすぐに入り口にて復活できる。だけどそれでは、ダンジョン側として不利である。
ゲームでもよくある、人海戦術、あるいはゾンビアタックという攻略方法がある。何度でも挑戦できる以上そういう方法で挑んでくるのはわかっていた。
だから、あらかじめデスペナルティをいくつか用意しておいた。冒険者たちがちゃんよ分かるようにダンジョンの入り口に看板を設置し、冒険者たちが集まっている拠点にすでに連絡を才を通して伝えてある。
ダンジョン内で死亡した場合、以下のデスペナルティの一つがランダムで発生する
1.冒険者のレベルが下がる
2.冒険者の所持金を2割減らす
3.冒険者のスキルレベルを1下げる
4.装備品の一つを失う
またダンジョン内で死亡した場合、死亡してから24時間ダンジョンに入ることが出来ない。
つまり、冒険者側もしっかりとリスクを負った状態で挑んでもらう。ちなみに、冒険者たちのレベル、スキルレベルの減った分は魔力となってダンジョンが吸収、所持金は町の費用として活用、装備品は【鍛冶スキル】を持った住民に渡して溶かしてインゴットにしてもらう。
この内容で冒険者側から反発があると思ったが才から『これくらいのリスクを負ってもらわないとそちらは不利だろ?この程度で挑まないようじゃ挑む資格はないさ』と言われた。
まあ、下手な冒険者が犬死しないですむから才にとってはその方がいいのかも。
「現在装備回収班がD地区に向かっています。冒険者の装備品を回収し次第すぐに町へ転送します」
「分かった。他の冒険者たちの監視も忘れずにね」
「「「「「了解しました!」」」」」
五人の部下の返事で俺は力が抜けたように椅子に座り込んだ
「どうやら、ダンジョンは上手くいきそうだな」
「そうだね。ねぇ光輝?」
脱力した俺を覗きこむように彼女はニコやかな表情をしていた
「私、いまもの凄くワクワクしているの・・・こんなに楽しい気持ち初めて」
彼女の笑顔を見て俺は思った
ああ・・俺、この人に惚れちゃっているな




