21話 街を作るので仕事を与えました
宴が終わってから数週間。俺達は地下45階層の街づくりと並行してダンジョンのチェックを行った。
「グラム、街の方はどうか?」
モニターを開くとタンクトップにジーンズそして頭には『安全第一』とかかれたヘルメットを被ったグラムが映し出された。まるでアメリカで見た作業員みたいだな。
『はい、木材はメリアスさんのフロアから、石材は儂のフロアから調達し物資の問題はありません。転送装置も問題なく行えていますので作業は順調です。コウキ様が設計された街もだいぶ形になってきました』
「・・・そうか」
『どうかなさいましたか?』
「いや、予想以上に早くて驚いている」
街のイメージとしては四角の中に『住宅エリア』、『作業エリア』、『娯楽エリア』、『商店街エリア』の4つに分けた感じにしてある。家は基本的に『組み木』を活用したログハウス。かなり技量が必要だから始めは無理かと思ったが【加工スキル】を持った者達によると可能らしく、仕組みさえ分かれば取り掛かれると言った。
日本文化の技術がまさか異世界に伝わるとは、まるで定番の異世界小説の世界だな。
モニターから確認するとすでに立派なログハウスがいくつも建てたれていた。技術力なら間違いなく地球のほうが上だが、効率性ならこちらも負けていない。【加工スキル】を持った職人達が運ばれてくる木材を一瞬で加工して、巨人族や力のある住民達がそれを組み立てる。
「かなりいい感じになってきているな。だけど、住民たちに無理だけはさせるなよ。食料とかはどうなっている?」
『はい、現在カルラが部下を引き連れて担当フロアで収穫をしています。同じくカーツも担当フロアで食用の魚を調達。野菜や果実はメリアスさんのフロアにも探索部隊を派遣していますのでその心配はありません。農業エリアにも作物を育てる場所を確保しましたので【農業スキル】を持った者たちがやっております』
「そうか、担当フロアもあるのに悪いな街づくりの殆どをお前に任せて」
『いえ、コウキ様から頂いた仕事。これほどやり応えのあるものはありません。他のフロアボス達も自分達の仕事を任されて気合を入れています。それに正直、冒険者を待つだけではやはり退屈になってしまいますので』
「はは、そうか。すまないなお前達に退屈な思いをさせて」
『い、いえ!すみません先ほどのは失言でした』
「いや、構わないよ。お前達がそうやって本音を言ってくれると俺もどうすればいいのか分かるからな。些細なことでもいいから何か要望とかあったら言ってくれ」
『御意。それでは儂は作業に戻ります』
現在、フロアボスたちには街づくりや今後の発展のために、担当フロア以外にも仕事を回している。
建設部門:グラム
生活部門:カルラ、カーツ
技術開発部門:ゾア
諜報部門:エドワード
医療部門:ミーシャ
兵士育成部門:リンド
生産部門:メリアス
ダンジョンがいまだ閉鎖状態になっている今、フロアボス達には街づくりと住民育成の方に専念してもらっている。その分、俺とエイミィがダンジョンの調整に取り掛かっている。
「ねぇ光輝。ポップするモンスターは大分溜まってきたよ。そろそろダンジョン解放してもいいんじゃないかな?」
「そうだな・・・外は外で忙しそうだし。あちらの準備が整ったら開くとするか」
この数週間でダンジョンの外で変わったことがいくつかあった。
一週間前に才から連絡があり『世界会議』の結果、ダンジョンの所有権はどの国にも属さないことになった。まあ、所有権はどちらかというと俺とエイミィになるんだが。
さらに協定を結び、独断でノフソの森の領地を独占することを禁じた。勝手に門の入り口に砦とか建てたり、暴力行為で通行止めとかそういうのも禁止にしたらしい。
まあ、モラルとかはちゃんと守って欲しいよね。
また、国がそれぞれがダンジョン周辺に拠点を作り以後はそこに冒険者が集まってダンジョンに挑むらしい。
以前ダンジョン前にキャンプをしていた兵士達も今は撤退して拠点作りの作業に取り掛かっている。
才からは『こちらで把握できる国は何とか協定を結べたが、エイミィを狙う奴がいなくなったわけではないから気をつけろ』と言われた。だから、諜報部を任せているエドワードに調査してもらって各国の様子を探ってもらっているし、リンドには街やダンジョンを守ってもらう兵士の育成を頼んでいる。
「そういえばさ、エイミィが皆に【祝福】をあげた時。俺も貰ったんだよね・・二つ目のゴッドスキル」
「え?!マジ?」
「うん、ほら・・・ってか知らなかったの?」
俺はモニターを開き、エイミィに二つ目のゴッドスキル【リンク】があるのを見せた
「本当だ・・・光輝。それってどういうスキルか分かっている?」
「いや、知らないから聞いたんだけど。エイミィがくれたんじゃないの?」
「・・・あちゃ~・・まあ、いいか。そのスキルなら今の光輝には必要だと思うし」
「なあ、何なんだこのスキルは?」
「簡単に言えば仲間のスキルを自分が使えるようになれるの」
え?それってよくゲームの主人公とかが使っているようなスキルだよな?仲間が増えるほど俺も強くなれる的な。
『これが俺達の力だあああああ!』とか叫びそう。
「まあ、ボッチだと無意味なスキルだけど。今の光輝には沢山の部下がいるから大丈夫だよね」
「じゃあ、これを使えばフロアボスたちの能力も使えるってことか?」
「まあ、そういうことだね」
「すげー!一気に俺TSUEEEになったんじゃん」
俺は早速【リンク】をパッシブにした。すると、俺のスキル欄から一気に見たことも無いスキルがズラーっと並んでいた。おそらく、フロアボスだけじゃなく、住民たちのスキルもここに載っているのだろう。
「このスキルは仲間の力を得るだけでなく与えることも出来るわ」
「・・・ってことは、これでフロアボスたちの強化も出来るってわけか」
フロアボスたちが誕生した後、彼らの設定は編集不可になっている。だが【リンク】を使えば、彼らに新しい能力を追加させられるわけだ。
「そうだね。他にも仲間の情報とかを把握することが出来るよ」
「へぇ・・・あれ?でもリンクってことは俺の情報も相手に伝わるのか?」
「伝えようとすれば出来るけど。上位設定とかすれば特定の人のみ見れるとか設定できる」
なるほど。つまり俺が見せたい情報とかも制限できるってわけか。ある意味、諸刃の剣のスキルだがかなり使えそうなスキルだ。
「なあ、ちょっと試してもいいか?」
「いいけど。フロアボスのスキルはONにしない方がいいわよ」
「え?どういうこと?」
「フロアボスクラスが覚えているスキルはどれも強力で今の光輝が使ったら肉体や精神が崩壊してしまうわよ。特にグラムの肉体強化やエドワードの高等魔法スキルは危険ね。」
なるほど、フロアボスたちのスキルを使いこなすには俺自身のステータスを上げないといけないわけか・・・これもゲームでは定番なお決まりだな。
「じゃあ、俺のレベルが上がれば大丈夫ってことか?」
「まあ、少なくとも光輝のレベルがフロアボスと同じくらいにならないといけないわね」
なら簡単じゃん。経験値ガッポガポの『幸運魚』を大量に出せばすぐにあげられる。
「ちなみに、幸運魚でレベル上げても技量が追いついていないからオススメしないわよ」
おのれ、超能力者か?・・・・いや、神だった
「技量?レベルとは関係ないのか?」
「当然よ。基本的にレベルが上がるのはあくまで攻撃、防御、魔力、精神力、すばやさの五つ、これらは重要だけどスキルを使いこなすのとは別物よ。この世界の強さはレベルよりもスキルに依存していることが多いわ」
なるほど、つまりレベル差で力量を決定付けることは出来ないってことか。
「あれ?んじゃ、レベルが低くてもスキルとかあればレベルの高い奴を倒せるってこと?」
「そういうこと。以前見た才のレベルは50ぐらいだけどスキルとか凄かったでしょ?」
確か、才のスキルはどれも強力なものばかりだ。多分レベル70のモンスターでも普通に勝てそうな感じだった。
「もちろんレベルが圧倒的だった場合、話は別だけど」
なら、最初に挑んできた兵士達もスキルさえ持っていれば1階層はクリアできたかもしれないってことか。レベルが足し算ならスキルは掛け算みたいなものか。これは、冒険者次第ではダンジョンの難易度を変えないといけないかもしれない。
「んじゃ、俺が使えるスキルを教えてくれないか?それらは使いたいし」
「分かった・・えーと」
エイミィが近づいて俺のモニターを見て使えるスキルを指を指して教えてくれた・・・あれ?ちょっと顔近くない?
「どうしたの?」
「いや・・・なんでもない。とりあえずこれらは俺が使っても問題ないって事だな」
「ええ・・・でも、リンクで得たスキルはあくまで親はあちら側。もし元が何かしらの理由でスキルを失った場合は光輝も使えなくなるから気をつけて」
「何かしらの理由?」
「簡単に言えば、スキルの持ち主が死んだ時とか」
それは、俺が一番聞きたくも考えたくもなかった一言だった・




