20話 住民が来たので宴会を始めました
エイミィからの【祝福】を受けて新たに二つ目のゴッドスキル【リンク】を手に入れた俺。エイミィは「やりきったぞ」と言いたそうな表情で俺を見た。【リンク】のことを聞こうと思ったが、今の彼女はやや疲れ気味の様子だった。それもそのはずか、2300人分の【祝福】を与えたんだ。今それを聞くのを野暮だし、俺は小言で「お疲れ様」といってやった。
エイミィはゆっくりステージから降り、そして入れ替わるようにメリアスがステージに上がった。
「皆さん、エイミィ様からの【祝福】はいただけたでしょうか?それはあなた達がこの世界に受け入れられた証です。ですから胸を張って生きてください。このダンジョンのために、そして大魔王であるコウキ様のために!」
メリアスの言葉を終えると同時に住民・・・計2300人もの住民達が一斉に片膝をついて頭を下げた。よく見たらフロアボス達も同じことをしている。
「「「「「全てはコウキ様のために!」」」」」
おい!やめてくれ!俺はそんな風にされたくてこんな集会を開いたんじゃないんだよ!
メリアスのアロマ効果が切れたのか、俺の心臓の鼓動が再び爆発しそうになった。
「それでは、皆様がこのダンジョンで暮らすことを祝しましてコウキ様と我々フロアボスより皆様へ宴を開かせていただきます」
メリアスの宴発言によって住民達の歓声が再び響かせた。
もうどうにでもなれ!
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宴はかなりシンプルなバーベキューパーティとなった。
まあ、食器とか設備が充実していない今はこんなものが精一杯のおもてなしである。大きな葉っぱの皿に山積みされた果実。肉はグラムが溜め込んでいたドロップアイテムの肉を使ったが流石に住民全員分の肉は足りそうにはない。
肉は俺やフロアボスたちだけに行き渡るだろうと思ったが、いつの間にかカルラとエドワードが大量の巨大猪を運んできた。
「エイミィ様に代理をお願いしまして。私が森に行って狩ってきました」
「我が主よ、沈黙なる闇に門を繋げましたので闇の眷属共には気付かれることなく、生贄を集められました」
・・・つまり、人がいない場所に門を繋げたので、誰にも見つからず食料を取りにいけたってことか?分かりづらいわ!・・・ってかこいつが言っている意味が分かる俺が悲しくなってきた。
俺は呆れ顔で隣にいたエイミィを見ると、慌てた様子で目を逸らした。どうやら俺を驚かせるためにやったらしい。だけどこれだけの肉があればなんとかなりそうだ。
リンドは悔しそうな表情でカルラに睨みつけていた。どちらが狩り出るかもめていたらしく、結果カルラが狩りに出かけたようだ。
「俺ならもっとデカイ猪を狩って来れたぞ」っとブツブツ言っているが、まあ次の機会があれば彼に出てもらうとするか。
【鍛冶スキル】を持った者達が石を【研ぎ】、石包丁を使って【調理スキル】を持った者達が肉をさばき始めた。
スキルは10段階のレベルに分けられていて、簡単な作業だったら取得したばかりの者でも出来るらしい。
辺りを見回すと様々な種族たちが談笑し合っている。楽しそうに話している者がいれば、どちらが強いか腕相撲している者もいる。
「コウキ様、エイミィ様、肉が焼けました。こちらの果実をつけてお召しになってください」
肉を運んできたのはメリアスと隣にメリアスの妹かと思うくらい可愛らしい少女がいた。セミロングの藍色の髪に可愛らしい花飾りをつけている。
「ありがとう・・・そちらのお嬢さんは誰だい?」
「は・・始めまして!植物人族のアルラです」
アルラという少女は元気よく挨拶をしてきた。植物人族ってことはドリアードやトレントとかが進化した姿なのかな?一見人間にしか見えないが。植物人族というより、森の妖精と表現したほうがしっくりしそうな容姿だ。
「アルラは私の従者の一人です。今後は私の補佐として働いてもらう予定ですので、その紹介も兼ねてつれてきました」
なるほど、自分の部下の紹介ってわけか
「そうか、アウラちゃんよろしくね」
「は、はい!よろしくお願いします!」
まるで新人社員のように緊張した様子のアウラ。よく考えてみたらダンジョンを会社に例えたら俺は一番偉い立場の人間ってわけか・・・あんまり自覚は無いけど。
「光輝、肉が冷めてしまいますわよ。せっかくのお肉です。暖かいうちに頂きましょう」
おしとやかな口調で言うエイミィだが、俺の頭の中では『光輝!肉が冷めちゃうよ!早く食べたいんだから急いで!』っと聞こえた。
「そうだな、せっかくの肉なんだし。頂くとするか」
皿の上には様々な種類の肉があり、どれも美味しかったが中には大当たりと言えるくらい美味い肉があった。
「これってなんの肉だ?」
「それは先ほどカルラが取ってきたビッグボアの肉ですね・・・お口に合いませんでした?」
「いや・・・じゃあ、こっちは?」
「そちらは、ドロップアイテムの肉ですね・・・同じ猪肉ではありますが」
どういうことだ?同じ肉でも狩りをして取ってきた肉の方が美味い・・・別に舌は肥えていないけど例えるならスーパーで買ったやや高い焼肉用の肉と本場焼肉店で食べる肉ぐらいに差があるように感じた。
「おそらく、ドロップアイテムとして登録したことで品質などが劣化したのでしょう」
エイミィ、曰くドロップアイテムに登録されているアイテムは元々、オリジナルが存在しそれをコピーしてドロップアイテムとして登録している。ドロップアイテムとして登録すれば、ダンジョンの魔力で自由に量産できるがその分オリジナルより品質などが劣っているらしい。
「じゃあ、俺が出した鉱石もオリジナルはもっと上等な物ってことか?」
ウィリアムが鑑定したときは『上物』と太鼓判押されるほどの評価を得ていた。それが劣化版だとすればオリジナルは相当なものなんだろう。
「そういうことになりますね・・・まあ、その話は後でいいでしょう。アウラ、そのお肉を頂きますわ」
もうすでに食べることにしか頭が無いエイミィは美味しそうに食べていた。
「それでは、コウキ様私達はこれで失礼します。他のフロアボス達も自分の部下たちを紹介しに来ると思います」
メリアスたちが下がると彼女が言ったとおり今度はグラムが数人引き連れてやってきた。
「コウキ様、お食事中のところ申し訳ございません。紹介したい者達がいまして」
「ああ、随分と大きい人たちだな」
グラムの身長は現在2メートル弱、そのグラムと肩を並べるほどの人達が後ろに立っていた。
「彼らは儂のフロアで進化した者達で、是非コウキ様にご紹介したいと思いまして・・・」
それから次々とフロアボスを通して住民たちの代表を紹介された。正直覚えるのに苦労したが、これも大魔王の役目だと考えそれぞれ丁重に挨拶をした。それに、おかげで色んな種族の住民たちと交流も出来たし彼らのことも色々と知れた。
挨拶が終わった頃には色んな種族たちが打ち解けあっている姿がチラホラと見えた。
肉の大食い対決をしている者たち、談笑している者たち、キャンプファイアーの周りで踊っている者達。種族が違えどここに住む住民同士、思ったよりも順調に進みそうで安心した。
「どうしたの?光輝?」
「ん?いや、なんというか・・・この人たちのためにも頑張らないとなって思っただけ」
「・・・そうだね。これからが忙しくなるよ」
そして俺は・・・俺達はそのまま、この永遠に続いて欲しいと思える幸せの空間を可能な限り眺めていた。




