19話 住民ができたのでフロアを作りました
「エイミィ、このダンジョンに町を作ることって出来るか?」
「どうしたの急に?・・・まあ出来なくはないわ。ちなみに広さとかはどうするつもり?」
俺は大まかな構図、フロアの設定、住民の生活に必要な衣食住などを伝え、出来るか相談した。
「ん~その設定は面白いけど全部を一気にやるのは難しいわね。魔力の残量も計算に入れると新しいモンスターが出現するペースも下がるから。少しずつ分けたほうがいいかも」
エイミィはまず、45階層に住民が住めるスペースを確保し、さらにフロアの照明設定などを優先することを薦めた。フロアの広さは自由に変えられるが広いほど消費する魔力が大きいから一度最低限の広さだけ確保して魔力が溜まってきてから広げる方法がいいらしい。家とかの建造物とかの設定も可能だが全ての管理下が俺かエイミィに任されるため、住宅とかは住民たちで作らせる方向にしている。
「住民達が増えれば、吸収する魔素も増えるからしばらくは最低限寝泊りできるものを用意して。数日後に建てた方がいいかな」
「食事はどうする?今はモンスターが出ていないからドロップアイテムは無いぞ」
「そこはメリアスに頼もう。あの人のフロアには大量の果実が実っているから数日は持つはずよ」
ああ、確かに今はダンジョンにモンスターはいないが植物は残っている。しかもメリアスが担当しているフロアは樹海・・・もとい、自然の恵みが大量にある。
「分かった、じゃあ後でメリアスに相談するよ」
これで衣食住のうち「食」と「住」は確保できた。後は衣だが・・・・
「衣服はどうするか・・・」
グラムの進化した者達を見たが、全員の衣服はなんと言うか最低限隠すところを隠していますって感じで薄い布を巻いていた。女性の姿を見た時は眼福って気分だったが、出来れば早く服を用意したいな。男性用なら俺がいくつか持っているが、さすがに全員分は持っていない。作るにしても魔力は足りない・・・
「そういえば、元が魔物であろうと進化してここの住民とあれば、女神の祝福は与えられるはずだから、スキルとかも渡せられるわね。住民の何人かに【建築スキル】や【裁縫スキル】とか渡せば衣服の問題はなさそう」
「マジで?」
ここでまさかの女神発言・・・そういえば、女神だったなエイミィって
「まあ、服のデザインとかは今後住民達で増やしていけばいいでしょう。とりあえず、今は場所を作りましょうか」
俺は早速モニターを開き作業に取り掛かる。設定は範囲、地形、あとオプションとしてフロアのギミックの設定を入れた。まずは住宅を建設するスペースと住民全員が集まれる広場、それと・・・・・
プログラムの設定が終わり「更新」させると「complete」と表示され玉座の後ろに大きな門が出現した。
「では、早速見てみますか」
扉を開くとだだっ広い草原に繋がっていた。上を見上げると真昼のように青い空と雲が見え、さらに気持ち良い風が肌をなでる。
「どうやら、【天候系魔法】と【太陽系魔法】はしっかり作動しているみたいだな」
俺がこのフロアでまず思いついたのがダンジョンの中でも外の環境に近づけることだった。だから外と同じように天井に【太陽系魔法】を使って時間帯によって明るさを調整するようにした。そして、雨や風も起こせるように【天候系魔法】も設置して、必要なときに雨を降らせたりさせることが出来る。俺が操作すれば一日中晴れとかにできるが、特別な日以外はランダム設定にしておく。
「今日の天気は快晴って感じかな。外よりも気持ち良い風来ているんじゃないか?」
そして俺は次に住民達が集合できる会場を設置・・・といっても仰々しいものではなく、外で行われるステージライブみたいなのを設置した。
「とりあえず、挨拶する場所はこんなのでいいかな。住む場所とかはフロアボスたちと相談しないといけないか」
その後、次々とフロアボス達から進化の完了報告を受け住民達を地下45階層へ転送させた。
・・・・・・・・・・
「なんというか異文化コミュニケーションの大会場みたいになっているな」
次々と転送されてくる進化した他種族たち。大半は人型になっているが、中には獣や龍の姿でいる者もいる。以前見た、マヤちゃんのような猫耳、尻尾の獣人がいれば見た目は殆ど人間だが肌の色が灰色だったり、何なんだあの種族は・・・。住民の中にはエルフやドワーフらしき人たちもいる。なにが進化して彼らになったんだ?
さっきまで演説の内容をまとめていた頭の中は一気に種族への興味によって吹き飛ばされた。
「凄い種族の数・・・霊人族もいるじゃん・・・あれは屍人族だね」
エイミィはのんきに関心した様子で住民たちを見ていた。後で色々と彼らのことも知っておかないといけないようだ。
先頭を歩いていたフロアボス達は住民達が集合したのを確認した後、ステージ前に整列した。何だろうこのメンバー・・・これを絵にしてネットとかにあげたら『勝てる気がしない』というタグが付きそうだ。
「コウキ様、ダンジョンで進化した住民、総勢2300名がここに集合しました」
メリアスの言葉に我に返った俺はもう一度住民たちを見た。生まれたばかりのはずなのに老若男女様々な外見の住民達。誰もが俺に興味津々な視線で俺を見ている。ってか、よく考えてみたらフロアボスたちも生まれてそんなに経っていないよな・・・
・・・いや、待て!今更だが俺、こんな大勢の前でスピーチやるのか?!初めての会社でプレゼンした時だってたった十数名の前で心臓バクバクだったんだぞ。その二百倍って・・・今日は俺の命日になるのか?死因は心臓発作か?
俺が緊張しているのをいち早く気付いたメリアスはそっと近づき皆には見えないように背中をすすってくれた。
「コウキ様・・・落ち着いてください。彼らはあなたのダンジョンから生まれた子達。我々を含め家族なのです。そう気を張らなくていいのですよ」
母性溢れるメリアスの言葉に何故かさっきまでの鼓動が落ち着き始めた。おそらくメリアスが放ったアロマ効果なのだろうか、かすかにいい香りがしてリラックスした。「彼らは家族」そう考えると不思議か、安心感を覚えた。そうだ、圧倒的レベルのフロアボスたちを見たとき、俺は恐怖よりも喜びで満ちていた。彼らに会えたことを心の底から喜べた。なら、ここにいる住民も同じに接するべきなんだ。
俺は小さく「ありがとう」と伝え台の上に立った。
「皆、はじめまして。俺がこのダンジョンを任されている神埼・エドワード・光輝だ。そして、ようこそ俺達のダンジョンへ。君達は生まれたばかりで何をしたらいいのか分からないかもしれない。でも今はいい。これから学べばいいんだ。君達がダンジョンから生まれ、元は魔物だろうが、種族が違おうがそんなの関係ない!君達は『生きている』!生きて学び、生きて成長し、生きて助け合う!俺が理想とする未来はそんな場所だ。だから・・・これは俺からのお願いだ!全力で生きてくれ!共に理想とする未来を創ってくれ!」
短い挨拶だが、俺が伝えたいことは伝えた・・・少しやらかした感はあるが・・・まあいいか。
俺の短い挨拶が終わると真っ先に拍手をしたのがエドワードだった。そしてエドワードに続きフロアボス達も拍手し、住民たちも歓声を上げて拍手をしてくれた。俺がステージから下がると満面な笑みを見せたエイミィが入れ替わってステージの中央に立った。
「皆さん・・・ようこそアルヴラーヴァへ。私は、三大神の一柱、『創造の女神:エイミィ』です。皆さんが生まれたこと、この場に集ったこと・・・そして、これからの未来に祝して私、『創造の女神』から祝福を与えたいと思います」
話を終えた瞬間、エイミィは祈りを捧げるように手を組んだ。そして全身から優しい光が彼女を包み、会場にいる者達も包み込んだ。これが女神の祝福なのだろう、久々に俺の頭に機械っぽいあの声が聞こえた。
『祝福を受けたことにより、以下のスキルを習得しました』
どうやらその場にいた者全てにエイミィからの祝福をもらえるそうだ。
ゴッドスキル【リンク】
・・・・・おいおい




