17話 朝食食べに行ったらラーメンでした
「さて、これで冒険者ギルドの登録は済ませた・・・急いで戻ろうかな」
俺はモニターを操作してこの町のマップを開いた。円形の町は交通の効率を考えられ設計されており、凄く分かりやすかった。モニターには店の名前などが載っており、どこに何の店があるのかすぐに分かる。観光していきたいが、そんな時間は無いため軽く目を通すことにした。だが、一つの店の名前を見てハッと思い出した。
「ゴリランチ・・・・確か、門番のオバチャンが言っていた店か・・・ランチだから今の時間は無理かな・・」
今は朝のため、ランチは開いていないだろう。
「ゴリランチでしたら、朝食も開いていますよ」
悩んでいるときに声をかけたのは受付嬢のミルさんだった。
「え?でも『ランチ』って」
「最近は朝から晩まで営業しているらしいです。私もそこはお勧めですよ」
笑顔で答えてくれるミルさん。ああ、できれば『ご一緒にご飯でも』とか誘ってみたいが今はまだ仕事中・・・てか仕事が始まったばかりだ。そもそも、俺にそんなナンパセリフを言う度胸は無い。
「そうなんですか?ちなみにお勧め料理は何ですか?」
「ラーメンです」
「はい?」
「ラーメンを知らないのですか?・・・えーと、小麦粉の・・・」
「あ、知っていますラーメンですか・・・・ラーメン」
朝からラーメンとか・・・・たしかそういう文化を持つところもあるし、どこかの漫画に登場するキャラも朝からラーメン食べるやつとかいたが・・・
「私がお勧めはやっぱり、こってりとしたオーク・ボーン・ラーメンですね・・・あのクセになりそうな香り。アレなら朝昼晩食べ続けてもいけますね。他にも激辛ラーメンに酸味が強い、レモン塩ラーメン!」
朝からコッテリかい!どんだけラーメン好きなんだよミルさん!あんたそんなキャラだっけ?ってかオススメって全部朝からきついものばかりじゃないか!
「そうですか・・・じゃあ、行ってみますね」
そう言って、俺はギルドから撤退した。あのまま続いたら彼女のラーメン座学が始まりそうな気がした。
「えーと、この辺かな」
モニターを確認しながら『ゴリランチ』のある場所に向かった
「うわ・・・本当に朝からラーメン食ってるよ」
ゴリランチがある建物を見ると、見るからに老舗のラーメン屋っぽい建物だった。外には数人並んでいるのが見える。入り口には殴り書きされた看板が置いてあり、メニューが書いてあった。
ここで役に立ったのは『翻訳スキル』だった。
昨日才のスキルを見た後、俺にもどんなスキルがあるのかを確認し、使えそうなスキルは一通り『パッシブ』にしておいた。この設定にしておくことで、常にスキルを発動させることが可能になる。
確認すると、遠くからは分からなかった文字だったがすぐに俺が読みやすい日本語になった
「えーと」
本日のオススメ
・トレントチップのスモークサーモンサンド
・ロック鳥の卵かけご飯定食
・ソルトゴーレム・ラーメン
・アブソリュート・サワー・ソイソース・ラーメン
・オーク・ボーン・ラーメン
ラーメンマジであったわ! ってか半分以上ラーメンじゃないか!
呆れながら店の中を見ると、ラーメンを食っている客が沢山いた
「本当に朝からラーメン食っているんだな・・・ってか、皆ラーメン好きすぎだろ」
客の約8割がラーメンを食っていた・・・もう、『ゴリランチ』じゃなくて『ゴリラーメン』に改名しろよ!
「いらっしゃい!何名ですか?」
俺に気付いた店員が元気良く挨拶をしてきた
「えーと、一人です」
「はい、一名様入ります!」
日本にいたときのような元気の良い、ノリ・・・この町に来て思っていたがやっぱり俺、異世界に来ていないんじゃないかと思ってしまう。
「何にしましょう?」
「えーと、ソルトゴーレム・ラーメン」
「こってり、あっさりの二通りありますが」
「あっさりで」
「あいよ!ソルトあっさり一つ入りました!」
元気の良い店員の声で他の店員達の活気がさらに沸いた。場の雰囲気に飲まれてつい、ラーメンを頼んでしまった俺。
ロック鳥の卵かけご飯やスモークサーモンサンドにも興味はあったが、ここはミルさんのオススメのラーメンにしよう。こってりはパスなので、あっさりとした塩ラーメンにする。
ラーメンはすぐに出来上がり俺の想像したとおりのシンプルな塩ラーメンが来た。テーブルには醤油、酢、ラー油らしきものと、割り箸まで用意されている。
「いただきます」
熱々のスープに弾力のある麺・・・俺は食レポじゃないからこの味を表現するのは無理だが一言で言うなら
「ウマイ!」
昨日の日本食もそうだが、この世界では俺の知っている食文化が浸透している。少なくとも、『人材派遣会社』がある場所はこのレベルの食事は食えそうだ。
そして何も言わずスープを飲み干し、ラーメンを完食
「ご馳走様でした」
お会計を済まして外に出ると、昨日会った門番のオバチャンがやってきた。今日は鎧の姿じゃなくて普通の服装だった。両脇には大量の野菜が入った袋を抱えている。
「あら?あんた昨日の・・・」
「おはようございます、紹介してくれた場所早速食べましたよ。凄く美味しかったです」
「そうかい!そりゃよかった!ウチの旦那にもそう伝えておくよ」
「旦那?」
「ほれ、あそこで料理をしているデカイ男・・・あれ、ウチの旦那。んで、ここの店長もしているんだ」
ああ、なるほど。つまり、ここはこのオバチャンの旦那の店でもあり、門番として店の宣伝もしていたわけか。
「今日は門番じゃないんですね?」
「え?ああ、アレね。昨日は暇だったからギルドの依頼で『一日門番』の仕事をしただけさ。普段は別の仕事をしているのさ」
ギルドって色んな仕事を出しているんだな
「その様子だと、もう出るのかい?」
「ええ、ちょっと森に戻ろうかと」
「そうかい。じゃあ、また来な。こんどはオバチャンが料理を振るってあげるから」
そう言って俺はオバチャンと別れ町を出た。
・・・・・・・・・・
ギルドホール
ここはギルドホールの会議室。普段は使われることも無い会議室であるが、その広さはどの部屋よりも広い。それもそのはず、ここはギルドマスター、各部署の代表、重鎮たちが集まり、世界中に拠点を置いているギルドと大会議を行いために使用されるのだ。
部屋にはギルドマスターである、ウィリアム、秘書のカンナ、グランドマスターの才の他にこの町のギルド部門の部門長達が集まっている。
「まだ着ておらぬのか、あの人は・・・少々非常識ではないのか?」
イライラな様子のウィリアムは椅子に座らず部屋の隅でダンベルを待ちながらスクワットをしていた。
「人を待っているときに筋トレするのも非常識だと思うぞ、ウィリアム」
呆れ顔の才は無関心な態度で椅子にリラックスした状態で座っている。
「いやー、遅れちゃった。ウィリアムちゃん、サイちゃん、元気?」
会議室に入ってきたのは一日門番だったオバチャン。両脇には大量の野菜が入った袋を持っている。
「お元気そうですね。マダム・トレスアール」
「いやーね、マダムなんて。サイちゃんは相変わらず口が上手」
「町長!会議の時間は伝えたはずだが?」
「いやー、新鮮な野菜が沢山採れてね・・・はい、サイちゃんこれお土産。また美味しい料理を教えてね」
ウィリアムの話しを華麗にスルーしオバチャンは笑顔で大量の野菜が入った袋を才に渡した。
「相変わらずですね。急いで準備してください。『世界会議』が始まります」
「はいはい♪」
これから世界の重鎮たちと対話するのにもかかわらずオバチャンはマイペースな口調で荷物を下ろして椅子に座った。準備が整ったのを確認したカンナが一度頷き始めた。
「皆様の準備が整ったと思いますので、これより人材派遣会社会議を開始します」
この会議の後、世界は再び大きく動き出そうとした。
ネタ枠のつもりで書いていたのですが、最後にはシリアスな雰囲気が追加されました。
看板にあった醤油ラーメンの名前はとあるカードゲームの技名を見た時に思いついたやつです。
ちなみに作者と光輝は塩派、才は味噌派です。
次から新章が始まる・・・予定です。