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ダンジョン作ったら無理ゲーになりました(旧)  作者: 緑葉
第九章 カグツチ騒乱編
188/189

178話 刀を研いだらファンが増えました

鍛冶工房「ムラマサ」・・・それはカグツチ随一の鍛冶工房として名が知られている。


毎日多くの鍛冶職人達が熱を帯びた鉄を叩き刀を作っていく。

鉄を叩く音、炉から溢れる炎の轟音、職人達の罵声など常に騒音が響き近隣に迷惑をかけている事でも有名。たとえ武闘大会という一大イベントでも鍛冶場の騒音が消える事は無い。


そんな場所に一人の青年と一人の少年がやって来た。


「あの、すみません!ここにオヤカタさんって人いますか?」

「ん?ボウズ親方に用事か?悪いが親方は忙し・・・え?」


少年に気付いた職人の男性は少年の問いに答えようとするが隣にいる青年を見て固まる。

青年は今では都中の者が知らない者はいないと言えるほどの有名人。かの将軍カワキとの激闘の末に勝利を収めた人物、グンナルが松葉杖で支えつつ隣にいたのだ。


「お、親方!一大事です!あのグンナルさんが来ています!」


男性が叫びながら奥へ走り出すと他の職員達が一斉に入口にいたグンナルの方へ目を向ける。


「マジ?!本物!」

「やべぇ!こんな近くで見られるなんて幸運すぎじゃないか!」

「というかなんでグンナルがここに?もしかして次の試合用の刀の依頼か?!」

「いやそれよりもあの試合からまだ数日しか経っていないのに何で歩けているんだ?!」


興味深そうに彼を見ながら話す職人達を無視しながらグンナルは男が走っていた方向へ歩いていく。まだ傷が痛むのかその歩みはゆっくりであるが職人達はただ彼を見守るように見ている事しかできなかった。


「こりゃ随分と大物が来たな・・・カワキ将軍を下したボウズがウチに何の用だ?」


職人達の中でも特にガタイが良い男がグンナルの前に現れ話しかけてきた。


「あんたがここの親方か?」

「おう!カグツチ随一の鍛冶工房『ムラマサ』をまとめ上げる鍛冶職人!クロガネとは俺の事よ!」


クロガネと名乗る男は自慢げな態度でグンナルに自己紹介をして彼を見る。


「それでここにはどういう要件だ?次の試合の為の刀が必要なら工房の隣にある店にあるが?」

「いや、前の試合で少し無理をしてしまったのでこいつを研ぐ場所を貸して欲しいんだ」


そう言ってグンナルが一本の金棒を取り出す。


「研ぐって・・それ金棒じゃ?」


クロガネがそうツッコミを入れるとグンナルは金棒を握り「解放」と唱える。

すると金棒から黒い刀身の刀へと変わる。


「・・・コレがカワキ将軍の雷を斬ったという・・・それに刀身の波紋が波打っているように錯覚するこの特徴・・・妖刀か!」


クロガネだけでなく周りにいる職人達も作業を中断させてグンナルの刀を観察する。


「妖刀用の研ぎ石がここで管理されていると聞いた」

「もしかして『妖研石(ようけんせき)』の事か?確かにここで管理しているぞ」


妖研石(ようけんせき)それは妖刀専用の研ぎ石であり、刀身に宿る妖力を抑える効果を持つ。


本来、妖刀は妖力を込めた本人以外が手にすると拒絶反応を起こす。しかし妖研石(ようけんせき)を使用する事で妖力が抑え込まれるため、誰でも妖刀を持ち研ぐことが可能となる。


「よっしゃ!グンナルの刀を研ぐなんて名誉なことだ!このクロガネ責任持って仕事をさせてもらう!」


クロガネはやる気満々でグンナルを見るが彼はすぐに断る。


「すまないが研磨はこの子に任せるつもりだ」

「任せるって・・・こんな子供にですか?」


クロガネは目を丸くさせてずっとグンナルの隣にいた少年、ホワイトリーを見る。


「子供だからと言って甘く見ない事だな。この刀を打ったのはこのホワイトリーなんだからな」

『なにぃいいい!』


グンナルの告白にその場にいた職人達が驚きの声をあげる。


「こいつはいわば俺の専属の鍛冶師だ。俺の刀のメンテナンスはこいつ意外に任せるつもりは無いからな」

「じょ、冗談だよな?」

「疑うなら、ホワイトリーの仕事を見ているといい」


グンナルは自信たっぷりにクロガネに宣言したのだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


その日、鍛冶工房「ムラマサ」では数時間の間だけ騒音が一切しなかった。


工房に響くのは一人の少年が一本の刀を研ぐ音だけ。

鉄を叩く音も、炉から溢れる炎の轟音も、職人達の罵声も聞こえない。


「ムラマサ」の職人全員がホワイトリーの作業に夢中になっていた。

刀の持ち方、研ぐスピード、姿勢・・・どれも一流の職人、いやそれ以上の技量を全員が目と音だけで感じ取れた。自分達が目指すべき場所にこの少年は立っている。それをたった一つの作業で思い知らされたのだ。


後に職人達はこう語る・・・「あの時、少年に神が宿った」・・・と。


数時間に及ぶ研ぎ作業を終えたホワイトリーは尋常じゃない量の汗を流しつつも満足そうな笑顔で刀をグンナルに渡し、親方や見ていた職人達にお礼を述べて工房を立ち去った。


「・・・なぁ、次のグンナルの試合が決まったらその日俺は絶対に工房を休んで見に行くぞ」

「あ!親方ズルい!俺も休みますよ!」

「俺だって試合見たいです!」


結局職人全員がグンナルの試合を見たいが為、グンナルの試合の日は鍛冶工房「ムラマサ」は休業する事が決定したのだった。

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