176話 鬼と鬼の皮を被った人間が本気になったら決着がつきました
カワキは目の前で起きた事が信じられない様子でグンナルを見た。
今彼は何をした?
間違いなく雷がグンナルに降った・・・だが彼は雷が落ちる瞬間、刀で雷を斬った。
そんな事があり得るのか?
「その様子だとラセツはこんな事はやっていなかったみたいだな」
「・・・あいつは雷に打たれなだら突進してきたぞ」
「馬鹿だろ」
「まったくだ・・・だがそんな馬鹿だったからこそ儂はあの時負けてしまった」
20年前の武闘大会・・・カワキはグンナルと同じように雷を落として決めようとした。
だがラセツはその雷を耐え抜き、隙の出来たカワキに逆転勝利を収めた。
「お前はあいつ程馬鹿ではないようだがあいつ以上に出鱈目だな」
それは誉め言葉なのか?
と言いたげなグンナルであるがカワキの身体から溢れる電気が増したのを確認し警戒する。
「あの時の戦いの続きを!お前ならしてくれるよな!グンナル!【雷域】!」
カワキの叫びと共に頭上にあった雷雲から凄まじい雷が舞台に直撃し、その雷はまるで舞台を常に駆け巡っているような状態となった。
「雷雲の雷を舞台に移した?」
「ご名答!・・・そしてこんな事も出来る!」
カワキが薙刀を振ると彼の隣に巨大な雷の蛇が足場から出現した。
「【召雷蛇】!まだまだ行くぞ!」
カワキの叫びと共に次々と雷蛇が現れグンナルに襲い掛かる。
「俺が雷を斬ったの忘れたか!」
グンナルがそう言って雷蛇を次々と切り伏せると彼の背後にカワキが現れる。
「儂が背後を取った事を忘れたか?」
「まだボケてはいねえよ!」
カワキの動きを読んでいたグンナルはすぐに後ろへ振るがカワキの薙刀で防がれる。
「なるほど・・・妖力を纏わせて感電を防いでいるのか」
「完全じゃねえけどな・・・手も足もバチバチいてぇし」
妖力を纏わせて自分に流れる電気を防ぐグンナルであるが、流石に20年近く溜め込んだ彼の【スキル】と国宝が合わさった電力には完全に防げている状態ではない。
着々とダメージを受け続けているのに加え電力による痛みで思うように集中できていない。
長引けば不利になるのは明白。
「・・・あの戦いを見ていて本当に良かった!【妖水】!」
至近距離でグンナルは水の妖術でラセツを押し返す。
はたから見れば水で押し出して距離を取ったように見えるがグンナルの狙いは違う。
電気を帯びた舞台と電気を纏ったラセツに大量の水がかかった瞬間、水は一気に蒸発し同時に舞台の電気は放電して散った。
「からの【妖炎】!」
すかさずグンナルはカワキに向けて【妖炎】を放ちカワキに直撃した瞬間、まるでダイナマイトでもぶつけられたかのような大爆発が起きた。
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グンナルが水の妖術でカワキを襲い掛かり、その水が電気によって蒸発した瞬間俺はフラッシュバックしたかのようにある戦いを思い出した。
そしてその戦いを再現するかのようにグンナルの炎がカワキを襲い凄まじい爆発を起こした。
「なぁこれってもしかして・・・」
「はい、カーツ様とサイ殿の戦いを思い出します」
かつてフロアボスの一人カーツは才の挑戦を受け戦った事がある。
あの時もたしか電気による水の分解を利用して大爆発を起こすやり方をしていた。
俺と同じように思い出していたのか隣にいる才達も少し引きつった顔で舞台を見ていた。
原理を知っていればなぜ大爆発が起きたのか理解できるが、会場にいる観客の殆どは何が起きたのか分からないだろう・・・というよりもグンナルの新技と思っているのかもしれない。
「こりゃ驚いた!グンナルのやつまだあんな隠し玉をもっていたとは」
「いや、放った妖力と爆発が釣り合っていないね・・・多分なにかしらの要因で炎の威力が上がった?あの蒸発が原因?」
ラセツは感心した様子でグンナルを褒める一方、ツキヨは爆発の原因を冷静に分析し答えにたどり着こうとしていた。
様々な思考が巡るも全員が共通して感じ取っていたのはもうすぐで試合が終わるという事だ。
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「やべ!やりすぎた!」
予想以上の爆風にグンナルは刀を突き立ててしがみ付いていた。
以前カーツと才の戦いを見ていたグンナル・・・正確な原理を知っていた訳ではない。
ただ以前カーツの弟子として修行していた時にやたらと才との戦いの話を聞かされていた。
自分が電気を纏った後水を被ったら蒸発しただの、水蒸気が爆発しただの・・・不満気に何度も聞かされていた。だが結果的その体験談がこの場で役立ち形勢逆転の一手となった。
爆風も収まり巻き上げられた土煙が晴れる。
これで決まったと思ったグンナルであったが、目の前にはボロボロの姿でありながら薙刀を突き立て立ち上がろうとするカワキの姿があった。
「ハァハァ・・・流石に今のは効い・・ッブ」
口から血を吐きながらもまだ戦意を失っていないカワキを見てグンナルは戦慄した。
今にも倒れそうな老人・・・だがその気迫はグンナルが何度も体験したものと同じだった。
「バケモンだろオッサン・・・」
「ククク・・・儂は将軍のカワキだ」
死力を尽くす・・・そんな言葉を体現するかのようにカワキから今までにないくらいの膨大な電力が溢れ出る。
「儂を超えてみろ・・・グンナル!【猛りミカヅチ】!」
巨大な龍の姿へと変貌した雷はまるでカワキの意思が乗り移ったかのようにグンナルへ襲い掛かる。
「当ったり前だ!【獄閻】」
漆黒の刀身に紅蓮の炎を纏わせたグンナルを見た観客達は誰もが無謀だと思っただろう。
だが同時に期待もした。
この男なら何かする・・・20年前のラセツのように。
決着は一瞬だった・・・グンナルの刀は雷の龍を真っ二つに切り裂いたのだ。
炎を纏った刀で龍を切り裂く一人の鬼の青年・・・それを見たカワキはカグツチに伝わる御伽噺に登場するある人物と重なった。
地獄の業火で罪人を裁く地獄の王。
その名は
「・・・閻魔大王」
雷の龍を切り伏せたグンナル。
すぐにカワキに攻撃を仕掛けようとするもグンナルの身体は動こうとしなかった。
当然であるカワキの20年分の電力に加え【雷皇薙刀ミカヅチ】の電力を受け続けていたのだ。
普通の人間なら死んでいておかしくない。無論妖人族でも同じだ。
むしろ生きている事が不思議なレベルである。
それでもグンナルは握った刀を手放さずにカワキを見据える。
今もなお威風堂々とこちらを見ている。
自分は越えられなかったのか?
そんな思考が頭を横切るがまだ諦めなかった。
「俺は!まだ何もやり遂げていない!」
そしてようやく身体が動き一歩、また一歩とカワキへ近づくも相手は動こうとしない。
「まだ俺は戦え『グンナル選手止まってください!』」
刀を構えた瞬間、間に割り込んだナツミによって止められる。
「どけ!俺はまだ戦える!」
『もう戦いは終わりです!・・・カワキ選手・・・気絶しています』
ナツミの言葉でグンナルも気付く。
目の前にいるカワキは今も戦意を感じさせつつも気を失っていたのだった。
グンナルVSカワキ戦これにて終了!