175話 第二ラウンドが始まったので鬼と将軍は本気になりました
【雷皇薙刀ミカヅチ】
それはカグツチの国宝の一つであり代々将軍が受け継いできた最上大業物の武器である。
神の雷を宿したという伝説があり、カグツチの歴史ではたった一振りで敵軍100名を葬ったという記憶も残っている。その巨大すぎる力を持つがために歴代の将軍の中には一度も使用しなかった代すらある。
カグツチの住民からすれば伝説上の代物でありその力を見る事はまずなかった。
だが武闘大会で将軍カワキはその国宝を解放した。
ユニークスキル【充電】を持つカワキにとって雷の力を宿した【雷皇薙刀ミカヅチ】はこれ以上ないくらい相性の良い武器であった。まさに『鬼に金棒』、『カワキにミカヅチ』であった。
雷を帯びた【雷皇薙刀ミカヅチ】を握りしめるカワキはゆっくりとグンナルを見据える。
彼の手には先ほど握られていた金棒ではなく黒い刀身の刀だった。
「そいつは妖刀か?随分と物騒なもん出してきたじゃないか」
「お前の方が物騒だ!」
グンナルの盛大なツッコミに応えるかのようにカワキが武器を振り下ろす、するとグンナルの真横に雷が落ちた。
「ふむ・・・久々に使ったせいで照準がまだ正確じゃないな」
カワキがそんな事を言うとグンナルはすぐに真上を見る。
「おいおいここは会場の中だろ」
グンナル達の頭上・・・正確には会場の天井に黒い雷雲が出来ていた。
「安心しろ、範囲内はこの舞台だけだ。観客席には落ちない」
『それあたしが危ないんですけど!』
舞台の端っこに避難していたナツミは涙目で叫ぶと舞台から飛び降り観客席の最前列に避難する。
「それじゃ!行くぞ!【雷時雨】!」
「来るか!【霊鬼砲】!」
雷雲から無数の雷が舞台を襲うがグンナルはすぐに手を翳し妖力の塊を雷にぶつける。
頭上で激しい爆発が起きるとグンナルはその隙にカワキへ接近する。
「感電しな!」
「そのまま斬られな!」
グンナルが接近した瞬間カワキはすぐさま【雷鎧】でカウンターを狙う。
しかしグンナルの妖刀に禍々しい妖力が集まるのを見た瞬間今度はカワキが文字通り光速の速度で距離を取った。
「良い勘しているな」
「・・・勘が働いていなければ将軍はやっていけんよ」
一瞬自分の死を感じたのかカワキは恐ろしい物でも見たかのように大粒の汗を流し息を乱していた。
「【蓮獄刀・鬼灯】・・・ウチの最高の鍛冶師、ワイトが打った刀だ。こいつに切れないものは何一つない!」
見せつけるように妖刀の刀身を見せるグンナル。そして彼の感情に応えるかのように鬼灯が脈打つように妖力を纏わせていく。まるで刀が彼の腕と一体化していくように錯覚させるかのように。
「面妖な・・・一点集中!落ちよ!」
カワキが薙刀を振り下ろすと今度は巨大な雷の塊がグンナルに襲い掛かる。
だが直撃するよりも前にグンナルは刀を振り雷を切った。
「な!」
その光景は誰もが驚いただろう・・・一人の妖人族が雷を切るなんて芸当を見せたのだから。
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「ガハハハ!グンナルの奴やりおるわ!」
「カワキが国宝を出した時は何とち狂ったんだと思ったが・・・ありゃ国宝を出さざるえないわね」
「というかアレ、全盛期の俺でも無理じゃね?」
呑気な会話をするラセツとツキヨ。
その一方で俺達はカワキの武器に注目していた。
「カワキ将軍の武器・・・なんか雷がさっきよりメッチャ纏っていないか?」
「おそらく元々雷の力を持った武器にカワキ将軍のユニークスキルが相乗効果をもたらしているのだと思います」
雷使いに雷系の武器か・・・威力が1.5倍どころじゃないな。
「しかしグンナルはユニークスキルを使わないみたいですね・・・何故でしょう」
「使わないというよりも使ってもさほど効果が無いんじゃないかな?」
以前グンナルのユニークスキルの事を聞いたことがあるが、彼のユニークスキル【断罪魔法】は言うなれば悪人キラー。対象がこれまで犯した罪の重さによって魔法の威力が変動するという、かなり使い勝手が悪いものだ。また犯した罪に対して意識し、償い行動を取ろうとする意識を持っていると効果が薄れるそうだ。
「つまりあのカワキはそこまで罪を犯していないと?」
「というよりも責任感が人一倍強いんだと思う・・・グンナルのユニークスキルはそういうのも見抜けるから使わないんじゃないか?」
元々そういう人物なのかまたは将軍という立場が彼をそうさせているのかは分からない。
「ほほう、グンナルのユニークスキルはそういう効果があったのですか?」
俺達の話を聞いていたラセツは興味深そうに割り込んでいた。
「ちなみにラセツさんはそこそこ威力があるそうです」
「何?!俺だって責任ある立場で悪さなどせんぞ!」
「罪状・・・酒と食料の盗み(常習犯)・・・だそうです」
大した罪じゃなくてもそれが悪い事と自覚し、やり続ける事も【断罪魔法】の威力上昇につながるらしい。
「ぐぬ!・・・まぁとにかくグンナルのユニークスキルはカワキ相手にはあまり効果が無いということか」
「そうですね・・・生きていれば大なり小なり悪いことをしたりします。何が彼をそういう生き方をさせているのか分かりませんが」
俺はそんな感想を述べて再び二人の戦いに集中するのだった。
「・・・カワキ・・・あんたはあの時から全然変わらないんだね」
観客の歓声に紛れてツキヨはそんな事を述べていた。