174話 鬼と将軍が戦ったら観客が興奮しました
グンナルとカワキの試合が開始された瞬間二人は『先手必勝』と言わんばかりに距離を詰めてお互いの武器がぶつかり合う。二人のぶつかり合いで生まれた衝撃波は舞台から離れているこの席にまで届いていた。
「ガハハハ、こりゃ凄いな。二人とも最初から飛ばしているな」
「こりゃ20年前の決勝戦を思い出させるわね」
俺の隣にいるラセツと何故か当たり前のように座って酒を飲んでいるツキヨは呑気に観戦している。
「グンナルの奴、まずは金棒の状態で戦うのか」
「相手は電気を使う剣士ですがまだ色々と手を隠しているはずです。20年間ラセツさんを倒すだけに力を蓄えてきたんですから、どんな手を使うか様子見でしょう」
そして俺とタマモは見守るようにグンナル達の戦いを見る。
ちなみにワイト達年少組は元気いっぱいに応援している。
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「やはり一撃では仕留められんかったか」
「それはこっちのセリフだ!」
二人の武器の打ち合いは観客を沸き立たせた。
振り払い、避け、時にはぶつかり合い。
そんな応酬に観客たちは興奮しながら叫び応援する。
だがグンナルが何かに気付くと金棒でカワキの刀を弾きすぐさま距離を取る。
「ふん、ラセツと似ていると思ったがとんだ臆病者だな」
「警戒するには越したことは無い・・・直感的に近づくと危険だと感じただけだ」
「っふ!それは正しいかもな!【雷鎧】!」
カワキが叫んだ瞬間、彼の身体は発光し電気が彼の身体を包み込む。
その光景を舞台の端っこへ避難していたナツミはしっかりと実況をする。
『おーっと!カワキ選手!己の雷を鎧のように纏わせた!これには一体どんな効果が!』
ナツミの実況に応えるかのようにカワキは体制を低くすると彼の姿が消える・・・いや消えると錯覚するくらいの速度で移動した。
「早!」
グンナルの後ろを取ったカワキはそのままグンナルをベアハッグで捉える。
現在カワキは電気を纏っている状態。そんな彼に接触すればどうなるかなんて分かっている。
「あがががが!」
カワキから放電される電気をモロに受けているグンナル。
あれはマズイ
「このまま丸焦げになるまでしてやろうか!」
「っざけんなよ!妖炎!」
放電を受けつつもグンナルが必死にカワキの顔面を掴み至近距離から妖力で作った炎をぶつける。
顔面に直撃を受けたカワキが怯んだ瞬間をグンナルは逃さずすぐにカワキの拘束から逃げる。
『グンナル選手!カワキ選手の拘束を何とか逃れた!しかしカワキ選手の凄まじい電気をモロに受けてしまった・・・これはピンチか!』
「何とか逃れたか・・・だったらもう一度!」
再びカワキが電気を纏い、文字通り光速で移動しグンナルの背後を取り捉える。
だがカワキの攻撃は空振り目の前にいたはずのグンナルが消える。
「な!どこに消えた?」
カワキは急いで辺りを見渡すと5人、10人と次々と増えていくグンナルの姿が目に映る。
「な!何が起きているんだ?」
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グンナルが拘束から逃れたのを見た俺達はひとまず安堵した。
「グンナルが捕まった時はどうなるかと思ったよ」
「全くです・・・しかし今の移動は脅威ですね。肉眼で捉えるのはまず無理です」
確かに光の速さと言えるくらいの速度で移動して背後を取るとかヤバいよ。
「【雷鎧】・・・以前は鎧のように纏って自分の身を守りつつ接近してきた相手を感電させる技なんだがな」
「身雷のように移動するとか人間やめていないかカワキの奴?」
どうやら20年前は違った使い方をしていたみたいだが・・・
「ちなみにラセツさんはどうやって戦っていたんですか?」
「俺?俺は鎧とか気にせずに殴ったな」
「あの時は相手が接近してくるのを利用して放つ技なんだが・・・ラセツはそんなの気にせずに攻撃していたわ」
以前は移動できない弱点があったみたいだが今はそれを克服し、さらに光速で移動しているのかよ。
「じゃあ打つ手は無し?」
「いえ、そう何度も出来そうではないみたいですよ」
タマモがそう指摘するとカワキの様子がおかしかった。
さっきから何もない所に刀を振り回している。
「おそらくグンナルを放った妖炎が直撃したことで幻術を見せられているのかと思います」
「幻術って・・・そんな事が可能なのか?」
「妖力は人を欺く事に適したものです・・・それを脳がある頭に当たったのです何かしらの効果があってもおかしくありません」
つまり今が前項のチャンスタイムって事か
「いっけー!グンナル今がチャンスだ!」
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グンナルの妖術によって幻覚を見せられているカワキ。
その光景を見てグンナルは息を整える。
「昨日のラセツの妖力の応用を聞いた時にもしかしてと思ったが成功したようだな。卑怯と思うなよ!」
グンナルは渾身の一撃を未だ自分に気付いていないカワキに打ち込む。
「ぐふあ!」
グンナルのフルスイングでカワキは舞台の端にまで吹き飛ばすも、刀を地面に突き立ててリングアウトを阻止した。そして幻術が解けたのか真直ぐグンナルを見る。
「っく!幻術とは厄介な!」
「お前の移動の方が厄介だよ!」
お互いがそう言い放ち再び刀と金棒をぶつけ合い弾かれるように距離を取る。
「グンナル、あの電撃を耐えるとはやるではないか」
「オッサンこそ年の割に元気ありすぎだろ」
「俺がこれくらい元気ならお前はもっと元気なんだろ!」
「ああ、いい電気マッサージだったぜ!そっちは良い夢でも見れたか?」
「ああ、闘争心を上げるのに丁度良かった」
二人がそんな風に言葉を交わし何かを覚悟したのか同時に深呼吸する。
「ならお互い本気で行こうか・・・殺す気で行くぞ」
「望むところ!全力で迎え撃つ!」
「「解放!」」
お互いが叫んだ瞬間、電気と妖力がぶつかり合い、試合開始時のとは比にならない衝撃波が観客を襲う。
『何なんでしょうか?!二人がなにか叫んだ瞬間物凄い力のぶつかり合いが起こった!というか端っこにいるあたしも危ないんですけど!』
衝撃波が収まり観客たちは舞台にいる二人を見るとさっきまでの武器が変わっている事に気付く。
グンナルが握っているのは金棒ではなく漆黒の刀身を持つ刀。
一方ラセツは雷を放出する薙刀を手にしている。
二人の武器が変わった事、それが何を意味するのか観客達はすぐに理解した。
さっきまでの戦いはただの小手調べ。
ここからが本番であると。
「「死ぬんじゃねえぞ!!」」
二人の言葉に第二ラウンドが開始される。