172話 戦いを積み重ねたら妖刀が誕生しました
ラセツからカワキの能力を聞かされた俺達。
20年間カワキはこの大会の為に力を蓄えてきたという事だ。
「っちょ!20年間貯め続けたって・・・どんだけ執着しているんですか?!」
「ちなみに俺と戦った時は10年くらい貯めていたそうだ・・・何度か死にかけたが、まあ何とか勝てたな!」
ラセツは笑いながら言うが目は楽観視している様子ではなかった。
「グンナル・・・ハッキリ言って奴は全盛期の俺が戦った時よりも強い。つまりテオプア王国で俺に勝ったからといってカワキに勝てると思うなよ」
「そんな事は微塵も思ってはいないさ・・・奴と間近で見て明らかにラセツより強いと感じていたし」
グンナルは俺をチラッと見た後ゆっくりと空を見上げた。
「俺はコウキ様の護衛であり、強くならないといけない・・・カグツチ最強の男?上等だ・・・相手にとって不足無し」
グンナルはそう告げてラセツに渡された酒を飲み干した
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風呂から上がり部屋に戻るとワイトが布団に横たわっており、その隣でプラムとタマモが看病していた。
「ワイトどうした?!」
「コウキ様お静かに・・・ワイト君、明日の為にグンナルの武器を仕上げていたのです。かなり精神が消耗したみたいで軽く汗を拭いて寝かせました」
タマモが視線を向けるとそこには一本の金棒が置かれている。
「グンナル、ワイト君からの伝言『僕が出来る事はやりました。後はあなた次第』っだそうよ」
ワイトからの伝言を聞いたグンナルは無言のまま金棒を手に取ると呟くように『解放』と言う。
すると金棒から禍々しいオーラが放たれみるみる一本の刀の形へと変貌した。
「グンナルそれは?」
刀状態を見るのは初めてのラセツ達は興味深そうにグンナルの刀を見る。
そして俺達に見せるように鞘から抜くと美しい漆黒の刀身が目に映った。
だがすぐにその刀の違和感に気付く・・・グンナルの刀が一瞬脈打ったように見えた。
「なぁ、今刀が一瞬膨れなかった?」
「拙者もそう見えた」
ヒュウとヒスイは自分の目を疑うように言うが俺もそう見えた。
「こりゃ珍しい・・・まさかそれは妖刀なのか?」
「妖刀?」
ラセツは驚いた様子でグンナルの刀を見つめていた。
妖刀ってアレだよな?妖怪の魂が刀に憑りついて使用者を操る物騒な刀。
「妖刀とはその名の通り妖人族の妖力によって生み出される名刀なのです」
なんかシンプルに違った。
「それだとそんなに珍しい刀とは思えないんですが・・・ラセツさんだって持っていそうだけど」
「何を言う・・・妖刀になる条件は良業物以上の名刀かつ妖力を流し続け激闘の日々を繰り広げなければ誕生しない代物です・・・それこそ戦争とかで何百人も切り殺さないと!」
大業物とは刀のランクらしく『なまくら』、『業物』、『良業物』、『大業物』、『最上大業物』に分類される。カグツチ以外の国で言えば『業物』が『レア』以上の刀に分類される。『良業物』ともなれば『ユニーク』以上『レジェンド』以下の刀である。
「良業物以上に激闘の日々に何百人も切って・・・」
その条件に物凄く心当たりがある俺達は一瞬思考を辞めそうになった。
グンナルはこの大会前にグラムの代理人として11階層を守護していた時期があった。毎日100人以上の強者達が挑みグンナルは全員切り伏せていた。本人にとっては修行のつもりだったがまさかその成果がこんな形になるとは・・・
「なんか以前よりも手に馴染む感じですね」
「当然だ・・・妖刀は己の妖力を馴染ませて誕生する・・・いわばその刀はグンナルの身体の一部とも言える。妖力の通しが段違いに上がるし何よりその刀が主を認めた証拠でもある」
「俺を認めたか」
グンナルは自分の妖力を刀に流し込むと彼の意思に応えるかのように刀身がすぐにグンナルの妖力を纏った。
「あの戦いの日々はしっかりと実を結だという事か」
グンナルは思い返すように目を瞑ると刀を金棒の姿に戻す。
「コウキ様・・・必ず明日の試合勝ちます」
「ああ・・・でもその言葉は後でワイトにも言ってあげな」
「もちろんです」
その後、明日に備えて俺達は早めの就寝を取ることにした。
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翌日
『さぁ、ついにこの日がやって来ました!カグツチ最強の男!将軍カワキ選手!これまでの敵はまさに電光石火!瞬殺で勝利を収めています!対するはカグツチの外の国からやって来た妖人族のグンナル選手!あのラセツの再来とも言われ、彼もまた圧倒的な実力で勝利を勝ち取っています!この試合、私はカグツチの伝説に残るのではないかと予想しています!』
ステージではナツミがハイテンションで拡声器でアナウンスをし、彼女のテンションに応えるように観客の声が会場を響かせる。
「なんか今日は随分と人が多くないか?準々決勝でしょ?」
「準々決勝ですが注目株がぶつかるのですよ。誰もが見たい試合なのは当然です」
観客の密度が前と比べて5割くらい増したような気がするが、それが当然と言った様子でラセツが答える。
『それでは選手入場です!』
ナツミの声に合わせて二つの扉からグンナルとカワキがゆっくりと歩きステージに上がる。
「ラセツから俺の攻略法でも聞いたか小僧?」
「あんたがこの大会に執着していることぐらいしか聞いていないな」
カワキの質問に答えるグンナルは真直ぐ彼の目を見る。
『おーっと!試合開始前から両者の間に激しい火花が飛び散っているのを感じます!これは試合が楽しみで『オイ』・・っひ!』
二人の会話を開設するナツミであるが、次の瞬間カワキとグンナルの鋭い睨みつけでたじろいでしまう。二人の気迫は離れている観客席からでも感じ取ることが出来、間近にいたナツミにとっては恐怖だっただろう。
「娘・・・試合が開始したら土俵から撤退しろ」
「ハッキリ言って近くにいられるとやりにくい」
『わ、分かりました』
若干涙目状態のナツミは何度も頷くようにステージの端っこまで急いで走り出す。
『ナツミちゃんを泣かせるな!』っと非難する声がいくつか上がるが二人観客席を睨みつけた瞬間観客全員が黙り込んでしまった。
「こえぇ・・・グンナル、なんかいつもより気迫が違くない?」
「男の真剣勝負。誰も邪魔されずに勝負したいのは当然です・・・俺だって同じことしていますよ」
『そ、それでは!準々決勝!カワキ選手対グンナル選手の試合開始!』
グンナルとカワキ、二人の戦いの火蓋か切られる。