170話 取り調べを受けたら飯を奢られました
怒りの形相でやって来たカワキにその場にいた全員が彼に釘付けとなった。それだけ今の彼には気迫と存在感を見せていた。
「貴様らか!この場所で騒いでいる馬鹿どもは!」
再びカワキの怒号によって我に返ったチンピラたちはすぐに逃げ出そうとするが、カワキがそれを見逃すはずもなく、まさに電光石火の動きでチンピラたちを圧倒し縄で縛りつける。
「このカワキがいる限り、都での愚行は許さん!」
カワキはそう言うと、奥で倒れているグレンとグンナルに目を向ける。
「先ほどグレンが上空へ飛ばされるのが見えたが、それはお前がやったのか?」
「そうだと言ったら?言っとくが、暴れたのは俺とそこのグレンと今オッサンが捕まえたチンピラどもだけだ」
「っちょ!アキト君!何を言ってるの!私も参加したわよ!」
「お前はただ結界を張っただけだ・・・暴力沙汰を起こしたのは俺だ」
「・・・嘘は言っていないみたいだな。ならお前も連行する」
カワキはグンナルの目を真直ぐ見ると、グンナルの腕を掴み連れて行こうとする。
「ちょっと、待ってください!彼は悪くありません!グレンがあの木を倒そうとしてそれを止めただけです」
「・・・なんだと?」
スズカがすぐに弁明するとカワキはピタリと動きを止める。
「そのお嬢さんのいう通りです。グレンとそこのチンピラたちがここで宴会しようとして、それでここに人が集まる理由があの木だと知ると急にへし折ると言い出して」
「そうです!彼らはここを守ってくれた恩人です!」
「カワキ将軍!お願いです彼らは全く悪くありません」
そしてスズカに続いて見ていた人たちも次々と言い出す。そして捕まったチンピラたちはその言葉ごとに身体を縮めていく。
「・・・理由は分かった。どうやら、俺も少し頭に血が上っていたようだ」
カワキはそう言ってグンナルの腕を放すと、警備兵たちがやってきて、グレンとチンピラたちを連行していった。
「さて、君たちには詳しい話を聞かせてもらうがいいか?」
「私は構いませんが、できれば家の者には知られたくは・・・」
「ん?・・・よく見たら、お前陰陽師協会のスズカじゃないか。なぜお前がここにいる?」
今更になってカワキが彼女の正体に気付くと、それまで全く気付かなかったことに少しスズカはショックを受けるが、返答する。
「えーと、実は都は初めてで彼と一緒に観光を」
「武闘大会中に逢引か・・・若いな」
「あ、逢引って・・・私とアキト君はそういう関係じゃ・・・・」
スズカは顔を真っ赤にして反論しようとするが言葉が出ずに口ごもる。
「まあ、陰陽師協会とは仕事上会うことはあるが特に話すつもりはないから安心しろ」
「わ、分かりました。私は大丈夫です・・・アキト君も良いかな?」
「ああ・・・俺も問題は無い」
「なら、ついでに飯を奢らせてくれ。馬鹿どもを止めてくれたお礼として・・・」
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「へい!特製ウルプノ焼き三人前お待ち!」
カワキが案内した店はカグツチの名物ウルプノ焼きの専門店だった。まだ開店前だったがカワキと店長は親しい仲だったようで特別に案内してくれた。おかげで店は貸し切り状態だ。
「・・・つまり、お前たちはたまたまあそこに居合わせてバカ共が騒いでいるのを止めてくれたわけか」
「ああ、と言っても俺がグレンを吹き飛ばした後にすぐカワキ将軍が現れたわけだが」
「なるほどな・・・では、将軍カワキとして礼を言わせてくれ。バカ共を止めてくれて感謝する」
そういってカワキは二人の前で深々と頭を下げた。
「っちょ、カワキ将軍頭を上げてください!私たちは当たり前のことをしたわけですし」
「その当たり前の行動をとれたのが君たち二人だけだ。他の奴らはただ見ていただけなのだろう?」
「・・・それはそうですが、相手があのグレンじゃ手が出しづらいかと」
「『止めるための行動を起こす』・・・それができていていないのであればやっていないのも同じだ。たとえ相手がグレンだろうがなかろうがな」
カワキはそう言って、目の前のウルプノ焼きを食べ始める。
「儂のおごりだ、好きなだけ食え」
「は、はい。いただきます」
「いただきます」
そういって二人もウルプノ焼きを口に運び一瞬硬直し、すぐに二口目を運ぶ。
「凄くおいしいです!流石名店!こんなウルプノ焼き初めてです」
「ああ、以前食ったウルプノ焼きは馬鹿デカいやつだったが、これはこれで旨いな」
「馬鹿デカいやつってことは、ボウズはマサカ風のウルプノ焼きを食ったことがあるのか?」
「ああ、巨大な鉄板の上で焼いた50人前はありそうな巨大なやつだった。カグツチのウルプノ焼きは場所によって違うのか?」
「そうか、アキト君はカグツチの人じゃなかったんだよね。ウルプノ焼きは領地によって作り方や具材が違うの。確か、マサカのウルプノ焼きは大勢で食べる風習があるからすごく大きいんだったね。あと、ミカヅチやマサカのウルプノ焼きは生地の上に具材を重ねて焼くけど、東の領地とかだと最初から生地と具材を混ぜた状態で焼くのが一般的かな。」
「へぇ、それは面白そうだな」
「ミカヅチには様々な地方のウルプノ焼きの店があるから祭りの間は回ってみるのも良いだろう。ウルプノ焼き食べ歩きツアーなんかやっているくらいだからな・・・」
カワキはそう言って最後の一口を運び、二人を見た。
「・・・お前さんたちを見ると昔のラセツとセツナを思い出すな」
「・・・ラセツって前回武闘大会優勝者のあのラセツですよね?でもセツナって誰ですか?」
「陰陽師なのに知らんのか?・・・いや、話さないだけか」
「え?」
「いや・・・何でもない。昔の知り合いだ。あいつらとはよくここで飯を食っていたのさ」
「あの・・・ラセツとカワキ将軍は親しい仲だったのですか?」
「ああ、儂が最も信頼できる戦友であり、目標の男だ」
「なんか聞いていた話と違いますね・・・カワキ将軍はラセツのことを敵視していると聞いていましたが」
「敵視ではないが・・・儂はあいつの凄さよく知っている。妻と子供を失った絶望もあるが、それで戦いから身を引くような男ではない」
「え?!」
妻と子供を亡くしたことは知らなかったスズカはその話を聞いて衝撃を受ける。
「儂は今回の武闘大会であいつと再び戦うことを望んでいた。なのに、あいつは自分の代わりに外国の妖人族を連れてきたのだ!その行為が俺にとってどれほどの裏切りだと思う!」
「だから、あんたはグンナルを認めないというのか?」
グンナルの質問にカワキは少し黙るが、ゆっくりと息を吐いてグンナルの目を見る。
「・・・実力は認めている。だがあいつがラセツに勝利したことは未だに信用できないだけだ」
「ラセツってそんなに強いのですか?」
「強い!儂が戦ってきた奴らの中で奴ほど強い男は会ったことがない。儂にとってこの大会が20年前の雪辱戦になるはずだったのだ!」
カワキの力強い言葉に二人は返す言葉が見つからなかった。20年という長い年月、カワキはこの日をどれほど待っていたのだろうか。自分たちの人生よりも長い時間、カワキはラセツを倒すためにどれだけの修行してきたのか想像できなかった。だからこそ、武闘大会に出ている二人は安易にカワキに返答することができなかった。
「・・・すまん、少し熱くなってしまった」
「いえ・・・カワキ将軍がこの大会に対する想いは伝わりました。ですが、私は負けるつもりはありません。私はこの大会で優勝すると決めたのですから」
「ほぉ・・・つまり、儂を倒すということか?」
「ええ、あなただけではありません。誰が相手だろうと勝利してみせます」
スズカは真直ぐな瞳でカワキを見た後にグンナルも見る。
「だから見ていてアキト君。私が優勝するところを!」
「あ・・ああ」
今はアキトであるグンナルは少し複雑な感情を持つが、彼女の思いを応えるように頷いた。
「なら、このまま武闘大会に行くか・・・そろそろ明日の対戦発表が行われているはずだ」
「はい!誰が相手でも今の私は負けません!」
そう勢いづいて3人は店を後にして会場の方へ向う。
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会場前
準々決勝の発表ということもあり、すでに会場前には大勢の人が集まっていた。
「随分と騒がしいな・・・何か面白い組み合わせでもあったか?」
「そうだね・・・あ、あれじゃない?」
スズカが指を指した先には複数の弾幕が壁に飾られており、多くの視線がある弾幕に集まっていた。
「え?・・・・嘘」
準々決勝
第三試合
グンナル 対 カワキ
「「ほぉ・・・面白い」」
グンナルとカワキ・・・二人は不敵の笑みを見せていた。