16話 ギルドだと思ったら職安でした
翌日、俺は朝一番でギルドに向かった。旅館では朝食も用意されていたが、すぐにでも用事を済ませてダンジョンに戻りたかった。
相変わらず豪華な建物で庭にはメイドらしい姿をした女性達が掃除をしている。出来れば生のメイドさんを眺めていたいが、今はそれどころじゃない。
「すみません、『冒険者ギルド』の加入申請をしたいのですが」
俺が受付に向かうと昨日と同じ受付のお姉さん、ミルさんが笑顔で出迎えてくれた。
「お待ちしておりましたコウキ様。ようやく申請してくれるのですね。私、昨日ずっと待っていたのですよ」
ワザとらしい泣きまねを見せ、俺は笑いながらモニターを開いた。
「はは、すみません。申請料金はこれで大丈夫ですね」
「はい、それではコウキ様の『冒険者ギルド』への加入申請を行います」
ミルさんが黄色いカードを取り出し、俺の画面にタッチした。
「はい、これでコウキ様の登録が完了しました。詳しい内容を説明できますがいかがしましょう?」
「ありがとうございます。説明もお願いします」
「かしこまりました。現在コウキ様は初級のFランク。冒険者ギルドで依頼されている仕事をこなすことでポイントが加算されます」
これはゲームでもお馴染みの流れだな。依頼をこなして、ランクを上げていくと難易度が高い仕事も請けられるってことだ。
「ランクは以下のようになっています」
ミルさんがモニターを開くとピラミッド型の図が表示された。これがランクの仕分けなのだろう。
「つまり、依頼を沢山こなしてランクを上げればもっと難易度の高い依頼を受けられるのですね?」
「流れ的には合っているのですが。ただ依頼をこなしてランクを上げても、そのランク、あるいは現在のランク以下の依頼を全て受けられるわけではありません」
おや?俺が思っていたのと少し異なっているみたいだ。
「どういうことですか?」
「冒険者ギルドに申請される依頼は様々あります。特定のものを集めて提出する『納品クエスト』、魔物退治の『討伐クエスト』、未開の土地の情報を集める『探索クエスト』、他にも壊れた建物を修復する『工事クエスト』、人員不足で人を短期間雇う『店員クエスト』、など」
確かにゲームとかでもそういう分け方を・・・・って後半明らかにアルバイトじゃないか!ああそういえば、ギルドって『人材派遣会社』のことだったな。
「グランドマスターはなるべく依頼者の依頼を達成させるために『適正試験』を行うシステムを導入しています」
「適正試験?」
「依頼には大抵『○○試験2級以上合格者』など、依頼を受けられる条件が入っています。ランクの高い依頼であるほどその条件は厳しくなっていきます」
ああ、これ完全にアルバイト募集じゃないか。○○試験とか、英検みたいなやつかよ!
なんか、ファンタジー世界に現実を持ち込まれた気分だ。
「依頼によっては試験合格関係無しで受けられるのもありますが、試験を受けたほうがお勧めですよ。いざ自分で仕事をするときに役に立ちますから。試験対策の参考書などは商業ギルドの方で売られていますのでどうぞ買ってみてください」
「分かりました・・・いずれ受けようかと思います。ありがとうございます」
なんだろう、俺が描いていたギルドとはちょっと違うな。そんなことを考えていたら巨漢の老人、ウィリアムさんがやってきた。
「おお、コウキ君。早いなその様子だと『冒険者ギルド』の加入は出来たみたいだな」
「ええ、ですが思っていた以上に大変な場所だなっと思いました」
「はは、入ったばかりの若い冒険者は大抵そういう。だが、ここに入ることで技術が学べられる。稼いだお金はいずれなくなる、だが得た技術は磨いていれば残る。大戦が終わって仕事を探す者たちにとっては『冒険者ギルド』はまさに希望の場所なんだ。社長は職が無い者達に仕事を与えるため、そして育成するためにこの『人材派遣会社』を立ち上げたのだ」
「へぇ・・・その社長って、グランドマスター?」
「ん?・・うむ、儂は創立時のメンバーでな、その時の名残で今でも社長と呼んでいる」
ウィリアムさんの話によると、ギルド・・・もとい人材派遣会社は六年前の大戦が終結後に建てたれ、創立時はたった十数名だけだったらしい。それから5年間、仕事やお金が必要な人のために仕事を与え、どんどん大きくなって、今では各地に支部を建ててネットワークを築き上げているらしい。
「あのころは大変じゃったな、まともな人材が確保できず依頼の失敗とかもけっこう出ていた」
「そのための試験なのですか?」
「うむ、試験に合格すればそれなりの知識や技術を持った冒険者を出せるからな。いやー、社長の考え方は実に面白い。ところでコウキ君、話が変わるのだが・・・・」
「よぉ、ウィリアム。昨日ぶりだな」
噂をすればなんとやら、入り口のほうから入ってきたのは才と後ろにスイちゃんとマヤちゃんだった。才に気付いたウィリアムは直立不動になった。
「社長!すみません。こちらから出向かうべきなのに」
「いやお前は悪くない、俺たちが予定よりも早く来たからな。メイドさんたちも慌ててたさ」
よく見ると、さらに後ろでメイドさんたちがこちらをチラチラと見ている。
「ウィリアム、会議の準備は出来ているか?」
「っは!すでにカンナが会議室で準備を整えているでしょう」
「相変わらず手が早いな・・・ウィリアム俺は先に会議室に行っているぞ」
「社長!すぐに案内係を呼びに・・・」
「ここの事はよく知っている、お前もキリのいいところで来な」
「・・・まったく、ご自信の立場をちゃんと理解しているのですかあの方は・・・コウキ君、すまないが儂はこれで失礼する。社長!待つのです!」
慌てたウィリアムはスタスタ歩いていく才を追いかけていった。ギルドマスターの貫禄から一転、過保護な老人に見えてきた。
話を溜め込んでいたら、投稿に間が空いてしまいました。
しばらくはしっかり投稿できそうです。
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