169話 馬鹿がやって来たので成敗しました
光輝たちが去った後、再び二人っきりになったグンナルとスズカ。思わぬことが起きたが、時間はまだたっぷりある。
「スズカ、他に行きたいところは無いのか?」
「ん~一番来たかった所は来れたし、今度はアキト君が連れて行ってよ」
「俺がか?と言っても俺はこの都のことあまり知らないし・・・あ、カブキの方に行かないか?あっちに屋台が色々とあったはずだ」
「あ、いいね。色々と食べ歩くのもいい『オラァ、邪魔だそこをどけ!』・・・え?」
スズカとグンナルが声がする方へ顔を向けると、そこには二人が知る人物たちがやってくるのが見えた。
「オラオラ、ここは今からアニキの残念会の会場になるんだ!よそ者はけぇれ!」
「んぐんぐ・・・ぷは!おい、残念会言うな。これは俺様のこれからの第一歩を祝すための宴だ!」
「っよ!アニキ、立派な考えです!というかもう酒飲んでいるじゃないですか」
「うっせぇ!この程度の酒、喉の渇きを潤す水みたいなもんだ。テメェら!今日はとことん騒ぐぞ!」
「「「うぉおおお!!!」」」
酒樽を豪快に飲み干す巨漢の男性。スズカが2回戦で戦ったグレンであり、その周りにいる取り巻きはスズカにいちゃもんつけてグンナルにやられたチンピラ集団だった。
そしてそのチンピラ集団を中心に蜘蛛の子を散らすように他のカップルたちがその場から去っていく。
「っけ!カップルがイチャイチャしやがって。なんでこんなに男女のカップルが多いんだ?俺への当てつけか?」
「仕方ないですよ。ここはあの『夜姫物語』のモデルになった有名な場所ですから。ほら、あの木で主人公の夜姫がサカキに誓いを立てる場所で」
「・・・・・・お前、随分と詳しいな」
ミーハーなチンピラAが熱弁するが、グレンや他のチンピラたちは呆れた様子だ。
「・・・まあ、とりあえずあの木のせいでここにカップルが集まるっていうなら、俺がへし折ってやるさ」
グレンはそう言うと、腰を低くし立ち合いの体制の入る。
「はっけよーい!のこ「させるかよ!」・・・ぶべ!」
グレンが突進しようとした瞬間に上から飛んでいたグンナルのドロップキックによって地面に頭を打ち付け倒れ込む。
「ア、アニキ!」
「テメェ!あの時の!」
チンピラたちがグンナルに気付くとすぐさま懐から刃物を取り出す。
「お前ら・・・人様に迷惑かけてんじゃねぇよ。学習しない奴らだな」
「はぁ?うっせぇ、つーかお前に関係ねぇだろ!俺たちはこれからアニキのために残念会を開いてあげようとしているだけだ!」
「残念会じゃないって言ってるだろ!」
すぐに立ち上がったグレンはそう叫びグンナルにめがけて張り手をかますが、彼を守るように結界が瞬時に現れた。
「な!これは!」
「アキト君!勝手に突っ込まないでよ!」
「悪い悪い・・・この馬鹿が木をへし折るとか言っていたからな、とりあえず止めるために蹴りかました」
「よし、許す!むしろよくやった!」
後からやって来たスズカは親指を立てながらグンナルの隣に立った。
「アキト君、グレンは私が相手するから他の人たちをお願いしてもいい?」
「いや、あのバカは俺が相手をする。お前は明日の試合のために無理はするな」
「アキト君?!」
スズカは何か言おうとしたがグンナルはそのままグレンに向かう。
「テメェ、なにスズカちゃんとイチャイチャしてやがる!」
「そう見えたのなら悪いな」
余裕の表情で返答するグンナルにグレンの怒りは爆発する。
「テメェみたいなモテそうなやつが俺が一番嫌いなんだよ!」
グレンは全身全霊の張り手でグンナルを襲い掛かるがグンナルはその張り手を両手で防いで見せた。
「は?」
「え?」
「マジかよ?!」
グレン、スズカ、チンピラーズ全員がその光景に目を丸くさせる。
「さすが武闘大会に出場した実力者のだけのことはあるが、グラム様のパワーほどじゃないな」
そんな光景にグンナルは素直にグレンの力を評価していた。それに対してグレンは自分の張り手を止めた瞬間、全身から危険信号のようなものを感じていた。
(こいつ!俺の渾身の一撃を受け止めた?!・・・いや、それよりなんだ?こいつに触れた瞬間、全身が焼かれるような危機感を感じた・・・何者なんだこいつは?!まるで獣・・・いや、鬼?!)
「テメェ・・・何者なんだ!」
「それを教える義理は・・・・無い!」
グンナルはグレンの腕をはじくとすぐさま、グレンの体に容赦ない殴りと蹴りを浴びせる。
「ごぶ!ぶべ!がば!おご!」
攻撃されるたびに変な声を漏らすグレンだがグンナルの攻撃が衰える様子はない。
「凄い、アキト君あんなに強いの?」
「ぶべええ!悪かっ!・・・お!・・出!」
「お前の罪の分だけ反省しろ!カルラ師匠直伝『百獣王』!」
グンナルの叫びと共に拳から放たれた獅子の形をした魔力はそのままグレンを包み上空へ押し上げる。
「「「「えええええええ」」」」
誰もがその光景に目が飛び出そうな状態だっただろう。巨体を持つグレンがまるで風船のように押し上げられたのだから。
そして重力に引っ張られながらグレンは大きなクレーターを作って地面に激突したのだった。
「うっし、スズカこっちは片付いたぞ」
「え・・・ええ」
あっけらんとしたグンナルにスズカは茫然として答える。
「ア、アニキ!・・・やっぱりこいつバケモノだ!」
そして現実を理解したチンピラたちがそう叫びながら逃げ出そうとした瞬間、雷でも落ちたのか、まばゆい閃光が一直線に走り、チンピラたちを襲った。
「貴様らか!ここで騒いでいる愚か者どもは!」
怒号と共に現れたのは全身に電気を帯びて、怒りの形相のカワキだった。