168話 見破られそうになったら、素直に話した
突如現れ、スズカの手を握るタマモ。
スズカは何が起きているのかわからない様子で彼女を見ていた。
「分かるわ、その気持ち!」
「え?誰?・・・・いや、その尻尾!ああ!あなたあの時本屋にいた妖人族!」
ようやく頭が働きだしたスズカは数日前の記憶を掘り出す。
「ん?ああ!あの時の怪力娘!」
お互いに指を指して驚き、何やら不穏な空気に包まれ心配になるグンナル。
「・・・あなたに一つ訪ねたいことがあるわ」
「・・・答えられる範囲でなら」
ゴクリ
「最新刊はもう読んだ?」
「モチロン!最高すぎだったわよ!特に物語の中盤で夜姫が!!」
「あああああ!!!ネタバレはやめて!」
ズゴー!
予想外な展開にグンナルはガックリと体が崩れかける。
「この前はごめんね。どうしても最新刊の話が気になって我ながらちょっとムキになっちゃって」
「いいよ、私だって話が気になってしょうがなかったし」
「あ、そうだ。お詫びと言っては何だけどこれ・・・私は読んだからこれ貸すね」
そう言ってスズカは小説の最新刊を取り出してタマモに渡す。
「え?いいの?!」
「いいよいいよ。その代わり読んだら感想言いあいましょう!あ、私セオ・スズカっていうの。よろしくね!」
「タマモよ。あなたイザヨイ先生の小説だと何巻が好き?私は4巻と外伝が好きなの」
「うそ!あなたも?!実は私も!特に4巻はやっと夜姫も本当の恋を知ったって思ったわね」
「うんうん、あの試合で戦った対戦相手がまさかの外伝の主人公とは予想外だったけど。だけどあれは熱い展開だったわ。いつもクールな夜姫もサカキを必死に応援して・・・」
「そうそう!」
「「キャー!!!」」
さっきまでグンナルに対して熱く語っていたのとは比較にならないくらいスズカはテンションを爆上げした状態でタマモと語っていた。完全に蚊帳の外になったグンナルはどうすればよいかわからず辺りを見回すと、俺がいることに気付き、すぐに駆け寄った。
「コウキ様!なぜここに?」
「あはは・・・ちょっとワイト達と散歩をね。随分と楽しそうだったみたいだが」
「う!申し訳ございません!護衛でありながら・・・」
「いや、今回はお前が主役なんだから・・・護衛は大丈夫。オウカもいるし」
光輝が横にいるオウカを撫でると誇らしげな顔をして、『私に任せろ』と視線で伝える。
「ところで、隣にいる方はどちら様で?」
グンナルは認識疎外を使用しているはずのツキヨにも気付いたようで、しっかりと彼女がいる方に目を向けた。
「こりゃ、驚いた。あたしの認識疎外を見破ったのかい」
「数メートル近づいてやっと気づきましたよ。見事な隠蔽です」
「ほうほう、中々紳士な男じゃないかい。しかもやっぱりいい男だね。あたしゃ、ツキヨ。見ての通り陰陽師協会のモンだよ。まあ、スズカ様の保護者みたいなものさ」
ツキヨは嬉しそうな顔をしながらグンナルを評価する。
「一つ訪ねたいことがあるがいいかね?」
「はい、なんでしょう?」
「あんた、スズカ様からアキトと呼ばれているそうだが本当は武闘大会に参加しているグンナルだよね?」
ツキヨは見事にグンナルの正体を見破り、真直ぐ彼を見た。
「はい、その通りです。今は彼女がいるため正体を明かせませんが。この姿は仮で本当は妖人族・鬼種です。名前はグンナル、隣にいるコウキ様の護衛の一人です」
「ふむ・・・随分とあっさり認めるんだね。もう少し粘るかと思ったが」
「下手に嘘ついてもすぐバレると思ったので」
申し訳なさそうに肩をすくめるグンナルだが、確かにツキヨはカマをかけるようなことをせず率直に言った。多分この人に嘘は通用しないと思ったのだろう。
「あんた、なんでそんな姿でいるんだい?武闘大会であんたの姿見たが普通にいい男じゃないか」
「妖人族だとどうしても警戒されて話を聞いてくれないと思ったので・・・本当は、用事を済ませたら会うつもりはなかったのですが・・・・彼女と食事してからどうもまた会いたいと思いまして」
グンナルは少し恥ずかしそうに頬をポリポリかくと、視線を彼女に向ける。いまだこっちには気づいていないようでタマモと絶賛オタクトーク中だった。
「ほおおおおお!いいね、いいね!!!青春じゃのお!」
ツキヨは何やらスイッチが入ったようにテンションを上げている。
「グンナル!いや、今はアキト君だったね・・・とりあえずスズカ様には君の正体を黙っておくことにする。だけど約束してほしい・・・武闘大会が終わったら正体を明かしなさい」
ツキヨはグンナルの肩を掴みそう言った。
「分かっています・・・今はお互いに大会に集中すべきですから」
「まあ、あんたが明日負けたらその時に正体を明かすでもいいけどね」
「それだと、永遠に正体を明かしませんよ。俺が優勝しますから」
グンナルがそう宣言すると、ツキヨはニッコリ笑いグンナルの肩を叩いた。
「やっぱり、あんたはラー坊に似ているね。その自信といい行動といい」
「は?ラー坊?」
そういえば、ツキヨがラセツのことを「ラー坊」と呼ぶのは知らなかったな。
「まあ、その話はいいでしょう。今回は君がどんな人なのか何となく分かった。うん、スズカ様のことは任せられそうね。コウキさん、あたしゃ、もう満足です。そろそろタマモさんを回収しましょう・・・あとはお二人っきりにさせましょう」
「分かりました」
俺はすぐにタマモの方へ向かい彼女を回収してきた。かなり小説の話でヒートアップしていたようで、すごく楽しそうな顔をしていた。
「じゃあね、スズチー!・・・コウキ様!どうやら夜姫物語の聖地があっちこっちにあるそうです!ぜひ行きましょう!」
「分かった、分かった・・・それじゃ、グンナルしっかり彼女を『護衛』しろよな」
「は!はい!」
グンナルのストーキング、もとい監視よりも聖地巡礼を優先するスズカを引きながら、俺はそう言って二人の邪魔をしないようにこの場から去った。