167話 聖地にやってきたらストーカーが現れた
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ぬらり館の中庭でグンナルは一人、大きな岩の上で座禅を組んでいた。
どこの修行僧だよ、お前は?
「グンナルのやつ、2回戦が終わって帰ってきたらずっとあーしているが大丈夫かな?」
俺、ワイト、プラム、タマモは縁側でその光景を眺めていたがさすがに1時間以上経過していれば飽きてきてしまう。
「仕方ありませんよ、二回戦がアレでは」
「ん~、まあ不完全燃焼だろうな」
そんな事を呟きながら数時間前の二回戦を思い出す。
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『さあ、次は1回戦で圧倒的な強さを見せたグンナル選手!対する相手は陰陽師のモモスケ選手!』
グンナルの相手は陰陽師のモモスケという男性だった。ハゲ・・・いや、よく見ると少し神が残っているのが見えるから8割ハゲかな。
というかあの人確か、マサカで保護している妖怪を渡せとか叫んでいた奴じゃないか?
「ふふふ、グンナルよ。貴様を倒せば推薦したラセツの名も落ちる!そして倒した僕の名前がうなぎ上り!そしてスズカ様に認められ隣に立つのに相応しい男となるのだ!」
なんかブツブツ呟いているが禄でもないことなのは何となく分かる。
『妖人族と陰陽師、これは因縁の戦いで熱い展開が期待できそうだ!それでは試合開始!』
「キェエエエエエエ!!!」
モモスケは刀を構えて真直ぐグンナルに突っ込む。その勢いはまさに獲物を狩る獣・・・・
「っざけんなよ!」
グンナルは金棒を持つまでもなく、拳でモモスケの顔面に殴りつける。
見事なカウンターにモモスケはあっという間に場外で気絶した。
『え?・・・しょ、勝者グンナル選手!』
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「陰陽師ってスズカぐらい凄いのかと思ったけどそうでもないんだな」
「ええ、モモスケも弱いとは思いませんが、スズカと比べるまでもありませんね」
まあ、次は準々決勝、ベスト8の戦いなわけだしこの闘争心は次に向けてほしい。
ちなみに、センシュウとカワサキも見事に勝利して準々決勝に進出している。
俺たちが見守っているとグンナルの目が開き静かに立ち上がる。
「コウキ様・・・すみませんが。少し出かけてきます」
「え?・・・ああ、分かった」
落ち着いた声での突然のお願いに俺はただ了承するとグンナルは人間の姿になって出て行った。
「・・・・なんか、思ったよりも落ち着いていたな」
「「「・・・うん」」」
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「・・・・やっぱりいた」
「あれ?アキト君じゃない・・・また会えたね」
グンナルがぬらり館から出て少し歩くと、橋のところでスズカが団子を食べているのを見つけ声をかける。
「今日はあのヒダカが護衛についていないのか?」
「実は式神で作った分身を置いてこっそり抜け出してきちゃった」
てへっと、いたずらっぽい顔を見せるとグンナルは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。
「ぷははは、護衛対象に逃げられるとかその護衛、マヌケなんじゃないか?」
「あら?私の式神分身ってかなり凄いんだよ。陰陽師協会じゃオババ様とお爺様以外、皆騙されてるし」
「ほぉ、それほどなのか。いつか見てみたいな」
昔からの顔なじみのように何気なない会話をしていると二人の目が合う。
「ねぇ、今日も時間あるかな?」
「俺はお前と違って許可を得ているから問題ない」
「むぅ・・・アキト君って優しい人だと思っていたけど、意地悪なんだね」
俺はお前とは違うと言いたげな顔をするグンナルにスズカは顔を膨らませるが、目は笑っている。
「そうだアキト君、私実は行きたいところがあるんだけど一緒に来てくれないかな?」
スズカはそう言ってグンナルの手を引きながらある場所へ向かった。
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「フフフ、グンナル・・・これは完全に脈ありね。というか、あいつ他の皆にはあんな顔見せたことないよ」
「フォフォフォ、いいのぉ・・・青春しているのぉ。スズカ様の顔もとても楽しそう」
店の屋台から狐の妖人族の女性と老婆が団子を食べながら橋で話す二人を眺める。
「ツキヨさん、情報感謝します」
「ふふふ、他の陰陽師たちはスズカ様の式神に騙されていたがこのツキヨの目は騙されませんよ」
嬉しそうに笑う二人に俺は暴走しないか心配になってきた。
「ねぇ、コウキ様この団子美味しいです」
「おじさん、みたらし団子をおかわり!」
そして今回はワイトとプラムも一緒についてきた。グンナルのことが少し気になっているのだろう。ちなみにランカはぬらり館で料理の勉強中でオウカは俺の隣でしっかりと護衛をしてくれている。
「ツキヨさん!二人が手をつないでどこかに行こうとしています」
「ほお!こうしてはいられん!タマモよ!行くぞ!」
どうやら二人が動き出したようで、俺たちも団子代を払って後をついていく。
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「うぁああ、本で読んだ通り凄い綺麗!」
スズカに連れてこられたのは大量の桜の木が並ぶ広場だった。
「スズカはここに来たかったのか?」
「うん!ここはね私が好きな小説の舞台にもなった場所なんだ」
「へぇ・・・小説の。確かに物語に出てきそうな光景だな」
グンナルも舞い散る桜の景色を美しく感じていた。
「それにしても、随分と男女の観光が多くないか?」
グンナルが見渡すと何故か男女のカップルが多いような気がしていた。
「それはそうだよ!だってここはイザヨイ先生の『夜姫物語』の第3巻!『月に誓う』でサカキが夜姫にプロポーズする場所だよ!聖地だよ!」
目の色を変え、活舌に作品について語りだすスズカにグンナルは圧されそうになる。
「そ、そうなんだ」
「最強の侍を目指す侍、サカキがある日、主人公の夜姫と出会うの。その美しさに惚れたサカキが夜姫にこう言ったの。『俺が最強の侍になったら結婚してくれ』って」
「へぇ・・・じゃあ、サカキは最強の侍になれたのか?」
「ううん、サカキは大会で一人の侍に負けるの。その侍も同じように好きな女性のために強くなろうとしていてね。お互いの負けられない気持ちをぶつけ合うの。っで、それでその戦った相手っていうのがイザヨイ先生の外伝物語の主人公で!・・・」
徐々に加熱していくスズカの小説トーク。全く知らない物語を離されてもどう反応すればいいのかわからないグンナルだったが、そんな時予想外な人物が割り込んできた。
「分かるわ!その気持ち!」
突如現れたタマモが何故か、スズカの手を握り真直ぐ見つめていた。