165話 恋路を応援するために強力することになりました
「いや〜食った食った〜才がつくる料理も美味いが、やっぱこういう場所で食う和食もいいな」
都で最も夜が賑やかな場所、カブキでヒュウは満たされた腹をすすりながら満足そうに大通りを歩いていた。
「以前来た時も結構賑やかだったがさすが武闘大会となればその賑やかは増しているな」
そんなふうに楽しそうに騒いでいる人たちを見ていると所々で白装束を身に纏った集団とすれ違っているのを見かける。
「あれは陰陽師協会の連中じゃないか・・・祭時でもあの恰好なんだな」
見た感じ誰かを探しているようで、人らしき絵が描かれた紙を見せている。
(この人数で探しているとなるとかなりの要人を探している様子だな)
「そこの者、少々よろしいでしょうか?」
そう考えていると、お約束のように陰陽師協会の人たちに呼び止められる。
「・・・なんでしょう?」
「その服、この国の人ではありませんね」
「ああ、テオプア王国の者だが」
「つかぬことをお聞きしたいのだが、この紙に描かれている女性を見たことはなりませんか?」
そう言って、男が取り出した紙にはとても美しい女性が描かれていた。特徴をしっかりと捉えた似顔絵であるため、おそらく描画スキルが高い者が描いたに違いない。
これほど美しい女性であれば、ヒュウでも必ず覚えているはずであるが、残念なことに彼の記憶の中に彼女はいない。
「悪いがこの女性は見たことが無いな」
「そうか・・・時間を取らせて申し訳ない。どうか祭を楽しんでいってくれ」
そう言って男はその場に去って行き、再び別の観光客らしき人に尋ね始めた。
「あっちもあっちで大変そうだな・・・後で、才に連絡でも入れておくか」
そう言葉に出しながらヒュウは自分たちが泊まる宿へ向かったのだった。
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タマモサイド
「ねぇねぇ、ツキヨさん・・・今の話聞きました?」
「えぇえぇ、タマモさん・・・バッチシこの耳に入りましたぞ」
グンナルを追いかけたら何故かオカマが経営する飲食店へと辿り着いた俺達はそのまま店に入りグンナルたちの隣の部屋へ案内された。どうやら店長とツキヨさんは知り合いだったらしく、俺達と会う前にこの店にいたそうだ。
タマモとツキヨは壁と一体化しているかのように張り付き、グンナル達の会話を盗み聞きをし、今現在グンナルのセリフでテンションがマックス状態になっていた。
正直、何故人の恋愛であそこまでテンション上がるのかが分からないが・・・そういうのが乙女心というものなのだろうか?
部下とはいえ、人の恋路を盗み聞きする趣味はない俺はただ静かに注文した釜飯を食うことにした。
オカマが経営するから釜飯なのか?
「にしても、この釜飯美味いな・・・ランカを連れてくればよかったか」
「うふふ〜ありがとう。お代わりを持ってくるわね」
俺が飯を褒めると嬉しそうに店長のミチコさんはお代わりを取りに部屋から出て行く。グンナルとスズカのために二人っきりにさせ、現在はこっちの部屋で俺、タマモツキヨの給仕をしてくれている。
うまい飯、店の内装も老舗っぽくて良い雰囲気であるが店員が全員オカマというインパクトが強すぎた。
ここに来た時はラセツの屋敷以上に妖怪の魔窟かと思った程だ。
「それにしてもグンナルのやつ、あの女性にそこまで気にしているなんて・・・コレは後で色々と聞き出さないとね」
「ほほほ、では、こちらはこちらでスズカ様から根掘り葉掘り聞いてきましょう」
そう言って、二人は再び硬い握手を交わした。
本当にこの二人は似た物同士だな・・・年齢を超えた友情なのだろうか?
それからしばらくグンナルたちの隣の部屋飯を食っていると何やら外が騒がしくなり、複数の人たちが店に駆け込んでくるオトが聞こえた。
「ん、なにかあったのかな?」
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グンナルサイド
飯も食い終わりそろそろ帰ろうとした時、入り口から数人の集団が俺を取り囲むように入ってきた。
「あんたらは何なんだ?」
「動くな誘拐犯、お前の身柄を拘束させて貰う」
集団のリーダーらしき人物がそう言いながら札を取り出して俺に貼り付けようとした瞬間、隣にいたスズカが男の腕を掴み静止した。
「ヒダカ・・・コレはなんの真似ですか?私の恩人をそのように呼ばないでもらえますか?」
「恩人ですか・・・それは大変ご無礼を・・・」
そう言ってヒダカという男は俺に向けてそう言ったがその目は全く詫びる気配が無かった。まあこちらも何かされたわけではないから特に気にはしないが。
「しかし、スズカ様我々に無断で外出されては困ります。ましてや、このような下賎な店な『あ〜ら、どんな店ですって?』・・・な!妖怪!」
「失敬ね!誰が妖怪よ!」
ヒダカが店の悪口を言った瞬間、ぬるりと現れた妖怪・・・もとい、店長のミチコが現れた。
(俺でも気配を感じなかったぞ・・・本当に人間か?)
「あなた達・・・スズカちゃんに用事があるみたいだけど、ここは神聖なる食事処・・・騒ぎを起こすなら陰陽師協会だろうと、帝様の息子様であろうと容赦しませんよ」
帝の息子?・・・ああ、そう言えば帝の息子の名前はヒダカだったな・・・陰陽師協会に懇意にしていると聞いていたがまさか陰陽師協会に属していたのか。
「ミチコさん・・・部下が騒いで申し訳ございません。すぐに帰らせます」
そう言ってスズカは立ち上がりミチコに釜飯の代金を支払った。
「アキト君、今日はとても楽しかったです・・・またお会い出来るこを願っています」
スズカはそう笑いながら言い、ヒダカ達を連れて出て行ってしまった。
・・・まあ、明日になれはまた会場で会えるんだけどな。とはいえ、今回の目的であるスズカの罪はなんとかなったし俺としてはコレ以上関わる必要はないか。
目的は十分に果たしたと結論付け俺は明日の大会に思考を切り替えることにした。
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タマモサイド
「はぁ!グンナルの奴、何で追いかけないのよ!そこは強引にでも『こいつは俺のだ!』とか言って連れ出すものでしょう」
「まったくですな!そこうはもっとグイっといくべきでしょう!」
タマモとツキヨはこの展開にかなり不満を持っている様子だが、出会って初日の女性に対してそういうことを言えるか?
「タマモさん・・・やはりここは我々が架け橋になろうじゃないですか」
「そうですね・・・ここは私達の力であの二人の恋路を整えましょう」
どうやらタマモとツクヨは二人の恋路(?)を勝手に応援する様子だ。しかもちゃっかりとフレンド登録してお互いに連絡を取れるようにしている。
「コウキ様!・・・グンナルのためにも協力してください。グンナルはコウキ様の護衛ですから、基本的にコウキ様の予定に合わせて行動しますから、偶然を装うことも可能です!ね!ね!ね!」
「お・・・おう」
「ホッホッホ、コレは武闘大会以上に楽しみになってしましたぞ〜」
二人の期待する目に俺はやむなく強力するはめになった。