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ダンジョン作ったら無理ゲーになりました(旧)  作者: 緑葉
第九章 カグツチ騒乱編
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閑話 ギターを手にしたら蜻蛉はロックになりました

ダンジョン管理部門には優秀な人材が集められていた。


一見、ダンジョンに挑む冒険者を監視したり落とした装備品を回収するために指示を出したりと地味な仕事をしている集団にしか見えないが、これがダンジョン及び国に供給される魔力につながる訳でその重要性は最高クラスなのである。


そんな管理部門に選ばれた優秀な人材の中に一人ひと際目立つ人物がいた。


「えーと、23階層のK班は北に3キロ向かって池に落ちた鎧を回収して。H班は34階層に行って西の山脈にある飛竜の巣に向かってくれ。F班!北北西って言ったでしょ!え?北北西がどっちだって?今まっすぐ北を向いているからちょっと左だよ」


蟲人族・蜻蛉種のフライ。彼は蟲人族が持つ複眼の中でも特に優れた動体視力を持ち、目の前にある大量のモニターを一つ一つ確認しながら指示を出していた。


「フライさん・・・そろそろ交代の時間です」

「え?もうそんな時間?」


交代にやってきたメンバーがフライに声をかけるとフライはモニターに表示されている時間を確認する


「本当だ・・・それじゃ、このモニターは次のメンバーに任せるね」

「はい、お疲れ様です」


フライはそう言って部屋から出ていくのを確認した交代メンバーは残された大量のモニターを見て顔を引きつる。


「相変わらずあの人の情報処理能力どうなっているんだろう?」

「蟲人族の複眼でもこれだけを一斉に見るのはさすがに厳しすぎるだろ」

「このモニターをさばけるのはあの人かタマモさんぐらいじゃないか?」


フライは一見すると地味で目立たない、いわゆる陰キャラである。分厚い牛乳瓶のような眼鏡にボサボサ頭と地味要素をこれでもかと詰め込んだような人物である。そんな彼だが、能力は非常に優秀であり同じ管理部門のメンバーからの評価は非常に高い。

出来ればもっと仲良くしたいと思っていた。


「ところであの人いつも仕事が終わるとすぐに帰るけど普段何をしているんだろ?」

「さぁな、娯楽エリアであの人を見かけたことはないぞ」

「俺も・・・地味だけどミステリアスだよな」


メンバーはそんな言い合いをしながら仕事モードに入る。フライ一人で捌いていたモニターを三人で何とか管理しなければならないのだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ふぅ・・・今日も結構頑張ったな」


フライは自室に戻るとすぐさまドアの近くに置かれたケースを手に取る。


「さて・・・いっちょノリノリに行ってみようかな」


住民の殆どは知らない・・・管理部門の中でも地味で目立たないフライの正体を


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ん何の騒ぎだ」


新しいコンテンツのアイディアのために娯楽エリアを散歩していた俺は何やら人混みが出来ているのが目に入った。すると人混みの後ろの方でグラムの部下である魔人族・巨人種のアールの姿が見えた。巨人種であるため2m近い長身は非常に目立っていた。そして彼も俺に気づきすぐにやってきた


「あ、コウキ様!コウキ様もライブを聞きに来たのですか~?」

「ライブ?」

「はい・・・定期的にここでライブが行われているんですよ。しかもその人すごくギターが上手いんですよ!」


ギターと言えばテオプア王国の輸入品に含まれていた楽器だったな。この世界に音楽を浸透させるために才が楽器を開発して楽団を立ち上げたそうだ。そのおかげもあってテオプア王国では音楽ブームが起こり大量の楽器が開発されるようになったそうだ。


「へぇ・・・うちの住民でももう楽器を扱える人が出たんだな」


一応輸入品として店に楽器を並べていたがどう扱えば音が出るのかなど使い方が分からない住民がほとんどであるためあまり売れなかった。


「ええ・・・しかもその人のギターさばきがマジで凄いんですよ!」


普段はのんびり口調のアールだが今回はやけにテンションが高い。相当そのギタリストのファンなのだろうか?


「お、コウキ様来ましたよ!」


アールがそういって視線をギタリストの方へ視線を送る。残念だが俺の身長ではステージが見えないため耳を澄ませて音楽を聴くしかなかった。


「ヘイ!皆!今日も集まってくれて感謝するぜ!今日も盛り上がって明日の英気を養おうぜ!」


随分とノリノリな口調で話す人物のようだ・・・うちの住民にそんな人物いただろうか?


「そんじゃ、今日のために早速新曲を披露しようかな!」

『おおおおおおおぉぉ!!!』


ギタリストのアナウンスに住民たちのテンションが跳ね上がる。


「そんじゃ聞いてくれ!」


ギタリストがそういうとまるで巨大スピーカーが設置されてるかのようにギターの音色が体中に響き渡る。


「まさか技術開発部門・・・ギターにつなぐスピーカーを開発したのか?そんな報告受けていないが」


俺は気になって後ろの方から飛び跳ねるがそれでもギタリストの姿は見えない・・・なんとか濃い緑色の髪にカチューシャをしたオールバックの人物であるのは分かったがそれ以上の情報は分からない。


そんな俺の探求の間にも音楽は続けられる・・・激しい音色はまさに俺の知っているロックバンドのような迫力と聴く側の気持ちを高ぶらせるような不思議な気持ちにさせてくれる。


住民たちもそんな音色に惹かれて激しく踊ったり腕をブンブンと振り回したりしていた。俺が必死にジャンプしてみようとする動作もただ音楽に乗って跳ねているようにしか見えない。


「っしゃああ!どうも!そんじゃ二曲目も行ってみようかな!」


ギタリストの一曲目が終わるとすぐさま二曲目に入ろうとしていた。


「あれ?コウキ様もしかして見えないのですか?じゃあこうすれば見れますよ?」


俺がギタリストが見えないことに気づいたアールは俺を持ち上げるとそのまま肩車した。

や、アール大の大人が肩車されるのってちょっと恥ずかしいのだが・・・


俺はそんな羞恥心に駆られるも、せっかくのチャンスのためギタリストを見る。するとそこには予想外の人物がギターを持っていた。


「え?フライ?」


ギターを持っていたのは管理部門で働いているフライだった。牛乳瓶の蓋のような眼鏡は外しており、ボサボサ頭もヘッドホンでオールバックにしており印象がガラリと変わっている。背中には蜻蛉の羽がブーンと振動しているように羽ばたいている。


おそらくスピーカーのような重低音も羽を高速で羽ばたかせてギターの音を調整しているのだろう。


この時俺は気づかなかったがフライは元々地下41階層の大森林に生息するこの世界で最速のトンボ・・・スピリッツ・ドラゴンフライである。


その移動速度は音速をかるく超えるそうだが、その驚異的なスピード以上に恐ろしいのは羽音を立てないこと、音速を超える速度で移動しても周囲に衝撃波を出さないこと、そしてそんなスピードで移動しても周りの動きを捉えられる目と情報処理能力である。


そう、この能力を使ってフライは膨大な量のモニターを一斉に見て物事を考えられるのだ。一見地味で目立たない人物であるがダンジョン管理部門にはなくてはならな存在なのだ。


そんな超人フライでも目の前に上司が現れたことで思考が停止する。


「コ、コウキ様?!」


アールに肩車されたことで俺が今一番目立っており、当然ギタリストであるフライも俺の存在に気づく。そして俺がフライの正体に気づいたことにも気づいた様子でフライの顔は沸騰しているように真っ赤になった。


「あぁぁ・・・えーと、大変申し訳ないのだが今日のライブはこれで終了にさせてもらえないでしょうか?」


初めのノリノリだった状態はどこに行ったのだろうか、フライは住民たちに謝罪するとまるで消えるようにその場から去った。まるで幻影でも見せられていたかのようにそれはもう鮮やかな消え方だった。


「あれ~、ライブもう終わりなのかな~・・・まあ、新曲聞けたし明日も頑張ろうかな」


アールはそう言って俺を下した後、その場を離れた。他の住民たちもアールのようにフライが消えたことに不満は持っておらず満足そうにその場から去っていった。


残された俺は空となったステージを見て、あまりの衝撃に頭の処理を行う羽目になった。


「まじかよ・・・」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日


「なぁ、フライちょっといいか?」


ちょうどフライが休憩時間に入ったタイミング声をかけるとフライはこの世の終わりのような表情をしていた。


いや、なにそんな顔してんだ?


「な、なんでしょうか?」

「昨日の件だが」

「すみません!隠していてすみません!調子に乗ってすみません!」


フライは何故か謝罪の言葉をマシンガンのように飛ばしていた。


「いや、なんで謝るんだ?」

「え?だって変じゃないですか・・・俺こんな地味なのにギターを持ってあんなノリノリになって」

「ん~、驚きはしたが別に変じゃないと思うぞ・・・世の中、スイッチが入って変わる人なんて色々といるし」


ハンドルを握ると暴走族みたいになる人もいれば、ゲーセンのシューティングゲームを始めると世紀末のゴロツキみたいな奇声を発するやつとか・・・あっちの世界にもそういうやつはいた。


「フライが管理部門の皆に隠したいなら俺は言わないよ」

「あはは・・・そうしてくれると助かります。いずれバレると思いますがいきなり広まるのはちょっと心の準備が・・・」


フライは少し照れ臭そうに頭をかきながら眼鏡をクイッと直す。


「しかしお前、眼鏡外したほうがイケメンなんじゃないか?なんでそんな地味な恰好してるんだ?」

「いやライブの時は構わないんですけど普段から周りの視線を集めるのはちょっと・・・それに、普段からこういう格好をしていれば演奏時に知り合いに見られても気づかれにくいし」


まあ、俺も一瞬『誰だ?』って思ったからな


「そうか・・・まあ、ともあれ俺も久々にロックな音楽を聴いてテンション上がったし」

「え?ロック?」


あ、そうかこの世界には『ロック』ってジャンルなかったんだよな。


「えーと、なんというか激しい音楽でノリノリな音楽を『ロック』って言うんだ」


正直、本物のミュージシャンとかに聞かれたらぶっ飛ばされそうな説明だがまあ大丈夫だろう。本当ならヘビィメタルとかも説明した方がいいんだろうけどあんまり音楽の知識ないしここで切り上げよう。


「そうか『ロック』か・・・いいですね!よーっし!今度から『ロック』にいくぜ!」


テンションが上がったフライの口調がノリノリ状態になっていたが仕事部屋に戻るといつも通りジミ状態になるが普段の彼を知っているメンバーからはその違いに気づいているらしく『フライさん、何かいいことあったかな?』と噂されていた。


管理部門のメンバーたちにも彼の正体に気づく日もそう遠くないだろう。

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