164話 同じ釜の飯を食ったら友達になりました
スズカに連れられてやって来た場所は『居酒屋かま』という店だった
「さあ、アキトさんこちらへ・・・ここの釜飯というご飯はとても美味しいのですよ」
何故か自慢気な顔をするスズカはそのまま店の中に入り、俺も後に続いたがその瞬間出迎えてきたのは女性物の着物を着たオッサンどもであった。
「「「いらっしゃいませ〜」」」
「・・・・・・・・・・」
あまりの光景に衝撃を受けて一瞬意識が飛びそうになったがなんとか気を保つことに成功した。
ここは妖人族が営んでいるのか?
「アキトさん、こっちですこっち」
スズカは全く気にしていない様子で奥の方で手招きをしているが、彼女はこの光景に全く違和感が無いのだろうか?いや、コレがカグツチでは一般的なのか?
俺は様々な可能性を考えたが次第にアホらしく思えてその回答を求めることを辞めてスズカがいる方へ歩いて行った。
途中、店員らしき男たちから妙な視線を送られたが、今の俺は普通の人間であるため特に違和感はないはずだ。
「ミチコさん、ただ今戻りました」
そしてスズカと一緒に入った部屋には1人の男性(もちろん女着物を着用)が座って待っていた。
「あら、どうやら会えたみたいね〜うん、やはりイイ男」
ミチコと呼ばれた男性は何故か頬を赤らめながら俺を見るが、その視線に対して俺は背筋が凍りつきそうになった。
「実は彼にお礼をしたくて、食事が良いと思ったのでここに連れてきました。ここの釜飯とても美味しかったので」
「あら、嬉しいこと言ってくれるわね。それじゃ、今から用意するからちょっと待っていてね」
そう言って、ミチコはお辞儀をしてそのまま部屋から出て行く。
どうやら先の件でお礼として食事をおごってくれるらしい。
食事はすでに済ませたがせっかくのお礼だ、ここは何も言わずご馳走うになろう。
「アキトさん、そこに立っていないでここに座ってください。私も最初はビックリしましたが、ミチコさんはとても良い方ですよ」
そう言ってスズカに席へ案内され俺達は向き合う形で座ることになった。
「改めて、今回の件アキトさんには本当にお世話になりました」
「いや、もうお礼の言葉は受け取ったからもういいよ。それにさっきも言ったように原因は俺にもあったようなものだからな」
「それでも、アキトさんが気付いてくれなかったら私は窃盗という犯罪歴がつくことになっていました。本当にありがとうございます」
そう言って再び深々と頭を下げる
「まあ、そのお礼としてここの飯をおごってくれるわけだろ?」
「はい、遠慮せずにどうぞ」
スズカは嬉しそうに言うとタイミングよくミチコが釜飯を運んできた。
「お待たせ〜ミチコ特製、桜釜飯よ〜」
釜の蓋を開けると酸味の効いた香ばしい匂いと、桜色の炊き込みご飯が詰められていた。
「これは美味しそうだ」
俺が素直な感想を言うと作ったミチコも得意げな顔をした。
「フフフ、居酒屋かま特製の梅干しと旬の山菜を使った期間限定定食よ〜。お得意様限定の裏メニュー、どうぞ召し上がれ」
俺はテーブルに置かれた釜飯を口に運ぶと口の中で程よい酸味が広がってくるのが分かる。
そしてその酸味のせいなのか箸が進む。
「コレは美味いな・・・俺のところでは米は白か炒め物が殆どだからこういう飯は初めてだ」
「あら?炊き込みご飯は初めてなの?カグツチではかなり主流の食事だけど」
「え?そうなのですか?私も今日初めて食べたのですが」
ミチコがそうつぶやくとスズカは衝撃を受けたような顔で彼を見る。
「スズカちゃんの環境は特殊だからね・・・あそこは質素な料理が基本だから」
「うぅ、アキトさんはどういう環境で育ったのですか?米は白か炒めると言っていましたが、カグツチのどこ出身なのですか?」
「あ、俺は生まれはカグツチではないんだ、ここより西の国から来てな」
「え?そうなのですか?私てっきりカグツチの人かと・・・・」
スズカは驚いた様子で俺をマジマジと見始める・・・正直顔が近い
「まあ、この髪だし外見はカグツチの人と変わらないからな」
「西というとテオプア王国の方角ね。それより先だとノフソの森があってそれを抜けると聖・ハルモニア王国があるわね」
「じゃあ、アキトさんは外国の方なのですね・・・あの!アキトさんの国の話を聞かせてもらえませんか?私、ずっと陰陽師協会にいたのであまり外のこと知らないのです!」
「話か・・・それほどおもしろいモノはないと思うぞ」
「構いません!ぜひ聞かせてください!」
スズカの目の輝きは一層輝かせながら俺を見た。
とりあえず俺はダンジョンであることは伏せてオリジンについて語りだした。
様々な種族が共存する国。住民の数こそ大国どころか小国と比べても少ないが、技術力、戦力、国の豊かさはどの国にも負けないことを話した。
スズカは凄く興味津々に俺の話に耳を傾けてくれるのかこちらも話していて楽しい気分になった。
「凄いです!アキトさんの国ってそんなに凄い国なんですね!特に国を守る8人の守護者・・・まるで物語に出てきそうな方たちです」
「正直、本当に物語に出てくるような強さだよあの方達は・・・未だに勝てる自信がない」
「でも、アキトさんはそんな凄い方の3人から師事を受けているのですよね?」
「ああ・・・おかげで俺は今の力を手に入れることができた。そしてこれからもあの人たちからもっと学ばせてもらうつもりさ・・・大切な主を護るために」
俺はそう言って拳を見つめながら力を入れる。
もう二度とあんな屈辱を味わいたくない・・・守るために俺は護衛になったのだから。
「羨ましいです・・・アキトさんのその思いはとても輝いて見えます」
「そうか?スズカはどうなんだ?武闘大会で勝ち進んだ実力者だ・・・相当な努力をしてきたに違いない」
事実、武闘大会で彼女の戦いを見たが実力を全て出し切れていない状態だったが、あの時点でも実力はおそらく11階層に挑む冒険者よりやや高い方だ。
「勝ち進めたのは運が良かっただけです。もし、カワキ将軍やあのグンナルと初戦であたっていたら今の私では勝てません」
悔しそうな顔で下を向くスズカを見た俺は初戦で彼女と戦った状況を想像した。
確かに今の彼女の実力だと俺に勝つのは厳しいだろう。
もちろん、もし戦うことになっても俺は手を抜くつもりはない。
「ハハ、すみませんせっかく楽しい会話だったのに、こんな話をしてこんな状態じゃ明日の試合なんて『食え』・・むぐ!」
俺は感情の篭っていない笑顔を向ける彼女の口にそのまま釜飯を食わせる。
「むぐ!・・・何をするんですか!」
「いいから、食え!そんで気持ちを切り替えろ」
そう言って俺は再び彼女の口に釜飯を入れる。
「ぐむ!・・・もう、そんなことしなくても食べられますよ!」
そう言って彼女はムキになって俺が持っていた釜飯を取り上げ1人で食べ始めた。
「・・・コレは俺の主から言われた事なんだが『君達は『生きている』!生きて学び、生きて成長し、生きて助け合う』って言われたんだ」
「素敵な言葉ですね」
「ああ・・・あの言葉を受けたから俺は強くなれると思えた・・・まあ、つまりだ・・・・自信を持って行動することが重要でだな」
俺はそう言って彼女に伝えようとしたのだが途中で自分は何を話しているんだ?と恥ずかしくなってきて会話が途切れ途切れになりだす。
「・・・もしかして、励ましてくれているのですか?」
「え?・・ああ・・・まあ、そうだ」
「ふふ・・・ありがとうございます・・・アキトさんにそう言われて少し元気が出ました」
「そうか・・・それは良かった」
彼女はおかしい物を見たかのように笑い出すが、そこには確かに彼女の感情が篭っている。
「あの・・・・もしよければ私達友達になりませんか?実はこうして親しく話せる同年代はいなくて・・・今日アキトさんと話ができと凄く元気が出ました」
「友達・・・」
「もしかして、駄目ですか?」
「いや、そんなことはない!」
思わず叫びそうに言うと彼女は嬉しそうに笑う・・・そして彼女が笑うとまた頭の中が真っ白になりかけ顔が熱くなる。
「それは良かったです・・・では、今度から『アキト君』って呼ばせてださい」
「それは構わないが、友達なら敬語を使わなくていいんだぞ」
「そうなのですか?・・・えーと・・・アキト君これでいい?」
彼女は少し恥ずかしそうに上目使いで俺を見ながらそういう。
「ああ・・・よろしくなスズカ」
おそらく、コレが俺にとって初めて旅先で友人と呼べる人物と出会った瞬間だろう。
ちなみに一緒に部屋にいたはずミチコは俺達が気づかない内に隣の部屋に移動し聞き耳を立てていたことは知る余地も無かった。