163話 意気投合したのでストーキングすることになりました
光輝サイド
「コウキ様、グンナルの足が止まりました・・・誰かを探しているようです」
「みたいだな・・・しかし、随分と危なっかしい場所だな」
見渡す限りミカヅチの中でもかなり賑やかな場所だ。
だが、通行人や店を見る限りかなり治安が悪そうな場所であり、いくつか如何わしい店がチラホラ見えた。
「グンナルのやつなんで こんな所に来たんだ?」
「さぁ?・・・ぬらり館から出た時からずっと誰かの気配を探っている様子でしたよ。おそらくどこかで会った人でその人がこの近くにいるのでしょう」
「マジか・・・ってか、この人混みでよく人の気配を探れるな」
「相当特殊な気配を持った人なんでしょうね。私でも一般人の気配を探るのは難しいですから」
つまり、グンナルが探しているのは一般人とは異なる気配を持つ人ってわけか。一体どういう人なんだろう?
「ん〜最初はあんまり乗り気じゃなかったけどコレはちょっと気になるな」
「あ、コウキ様!何かトラブルが起きたみたいですよ!」
タマモが指を指すと一人の女性がゴロツキ集団に絡まれているのを発見した。
「あれ?あの女の人って確か武闘大会に出場していた、スズカって人じゃなかった?陰陽師協会の?」
「そうですね・・・どうやら、あの女性がゴロツキと衝突してもめているみたいです」
「なるほどね・・・コレは助けないとまずくないか?なんかあのスズカって人、なんか別のことを考えていてそれどころじゃないって感じだし」
ああいう状態って、結構問題解決のために手っ取り早い手段を取ろうとする傾向があるからな。男たちを回避するためにいいように利用されそうだ。
「そうですね、周りの通行人達も助ける様子もありませんし・・・あ、待ってくださいグンナルが向かってきます!」
俺が出ようとした瞬間タマモがグンあんるの動きに気づきすぐに俺を止めた。そして次の瞬間、グンナルはゴロツキの一人に関節技を決めて男たちの相手をしだした。
グンナルは襲い掛かってくる男たちを殴り飛ばしはせずさっきからずっと足を引っ掛けては転ばすを繰り返していた。
「アイツ何しているんだ?殴り飛ばせばすぐに片付くのに」
「普段のグンナルでしたらそれで済ませているでしょうが、何か別の目的があるのでしょう」
まあ、グンナルならあの程度本気出さずに圧倒できるよな。ダンジョンに挑む上級冒険者を一斉に相手にしていたんだし。
そしてしばらくグンナルはゴロツキ達をあしらい続けると観念したのか男たちは一斉に逃げ出した。
「どうやら事態は解決したみたいですね」
グンナルがゴロツキ達を追い払うと周りの人たちが歓声をあげえていた。しかし次の瞬間グンナルは観衆達に怒鳴っているのが見えた。
「グンナル、何怒っているのでしょう?」
「多分、グンナルが助ける前に誰も彼女を助けようとしなかったことに腹を立てているんじゃないか?アイツがゴロツキ達と戦っている間も皆見ているだけだったし」
俺達も傍観者側だったから強く言えないが行動を起こしたグンナルからしてみればかなりカチンと来たに違いない。
「ああ〜、なんか皆冷たい視線を送ってますよ」
「あまり知らない人から敵意を向けられた瞬間、人間ってそういう態度を取ってしまうもんだよ・・・まああいつはあまり気にしていない様子だが『のう、そこのお二人さん?』」
俺達は観察を続けていると突如、横から声をかけられた。
「「え?」」
俺達はとっさに声がする方向に顔を向けるとそこには見知らぬ老婆が立っていた。一瞬気のせいかと思ったが老婆は真っ直ぐ俺達を見ながらVサインで笑っていた。
「ウソ、私たちの声は周りには聞こえないはず・・念入りに結界を張ったのに」
驚いたタマモは信じられないものを見るかのように老婆を見ていた。
「ほほほ、驚いたかい?認識阻害はその効果は絶大であるが、それ以上の索敵スキルを持つ者や、同じくらい認識阻害の効果を持つ者には効果が無いのさ」
つまり、このお婆さんは相当な索敵スキルを持つか同レベルの認識阻害の魔法をかけているということになる。
「それよりあんた達はあの男を見張っているのかい?」
「え・・ええ」
「理由は?」
「理由は・・・・」
疑いの目を向ける老婆にどう説明しようか。
部下の行動が気になったので後をついてきましたと正直に話すべきか?
いや、だからといってこんな厳重な結界を貼る必要あるか!
そんな思考を巡らせているとタマモが口を開いた。
「愛です!」
「愛だと?!」
タマモが突然そんな答えを出すと、老婆は目をぱちくりさせる。
「実は仲間の彼が今日一日中誰かのことを気にしている様子で・・・」
おい!何言ってるんだよ!そもそもまだ確証は得ていないだろ!
俺がそんな心のツッコミを入れると老婆は目を耀かせながらタマモに近づいた
「ちょっと!その話詳しく聞かせなさい!」
「実はですね・・・」
タマモは自分たちの正体を隠した内容で老婆に事細かく説明する。俺達のことよりもグンナルの恋話(?)に興味津々だったみたいでそんなことは考えもしていない様子だ。
「ふむ・・・よし!あたしも混ぜなさい」
「は?」
おい、お婆さん!何言ってるの!なにウキウキしながら目を輝かせているんだよ!
「こんな面白そうな展開、見逃せるわけないじゃない!あ・・・あたしのことはツクヨって呼んでくれ」
この人今、『面白い』と言ったぞ!完璧にタマモと同種だ。
そしてタマモも同種と察したのか、無言でツクヨと目を合わせて謎の握手をする。
そして俺達も軽く自己紹介を済ませ、グンナル達を観察しているとグンナルがスズカの手を掴みどこかへ向かおうとした。
「ツキヨさん、二人が手を握ってどこかに行こうとしています!」
「なぬ!いきなり手を握るだと!かなり大胆な行動に出るではないか!陰陽師協会のもやし共には絶対に真似できぬエスコートだな!」
「追いかけましょう!」
「うむ!」
タマモと意気投合したツキヨさんは結界を維持しながらグンナルとスズカの後を追いかける。
「・・・いつまで続けるんだこれ?」
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グンナルサイド
(なぜ、こうなったのだろうか?)
グンナルは気がつけば自身をアキトと名乗り、今現在スズカの手を握って目的の場所へ向かっていた。
(始めはグンナルを名乗ろうとしたが、俺の正体がバレたら間違いなく彼女は警戒して聞く耳を持ってくれない)
(とっさとはいえ、何故この名前を名乗ってしまったのか・・・しかし、もう名乗った以上この姿の時はアキトで通すしかないな)
「ちょっと、アキトさん!どこに連れて行くのですか?」
未だに現状が飲み込めていないスズカは引っ張られる形でついてきている。人混みではぐれないようにしっかり握る二人の男女、端から見ればカップルと言えなくもない状況。
もちろんそんな事グンナルは知る余地もなく、スズカも現状を飲み込めておらず気づいていない。
「やり残したことを済ませるだけだ」
「・・・やり残したこと?」
「ああ、もうすぐだ」
細い路地を何度も通りぬけ二人がたどり着いた場所は本屋であった。
「ここって、あの店じゃない。何でここに?」
「いいから、一緒に来い」
グンナルはそう言ってスズカを引っ張り店の中へ入ると、店長1人が出迎えた。
「おお、兄さん来たか・・・約束通り連れてきたみたいだな」
「ああ・・・コレで彼女の罪は帳消しにしてくれるんだよな?」
「いや、まだだ・・・まずは商品を出してもらわないよ」
グンナルと店長は何かや話始めるがスズカは未だ何が起きているのか把握できていない状態だった。
「ねえ、どういうこと?何で私がここに連れて来られたの?」
「お嬢さん・・・ここの店の本持って行かなかったかい?確か『十六恋物語』ってやつ」
「え?・・・コレのことですか?」
スズカはそう言いながら懐から本を取り出す
「うん、間違いないうちの本だな・・・お嬢さん、コレお金払ったかい?」
「え?」
店長に質問された瞬間、スズカの思考は停止した。
「お嬢さん、あの時慌てていたみたいだったけど、その本まだ未払の状態なんだよ」
「嘘・・・」
スズカはなんとか停止していた思考を稼働させ、あの時の記憶を遡る。確かに思わぬハプニングは起きて本の代金を払った記憶がない。
「ご、ごめんなさい!私、全く気づかなくて!」
「あの妖人族の姉さんと揉め事を起こして、ウチの店は大変だったんだよ。加えて大事な本まで持ってかれて・・・正直、役人に通報しようかと思ったほどだ」
店長の言葉にスズカはただ何も言えず頭を下げることしかできなかった。
「まあ、本はラセツさん達が元に戻してくれたし、本の代金もこの兄さんが払うと言い出したんだよ『これで、彼女を罪にしないでくれ』ってな」
「え?」
「だけど聞く限りじゃ、お嬢さんと兄さんは無関係ってそうじゃないか。だから、儂はお嬢さんを連れこいと条件を出したのさ・・・本人がちゃんとお金を払ってくれたのなら問題ないからな」
店長はそう言って、誇らしげにグンナルを見た。
「随分とお嬢さんを気にしていたみたいだよ、『自分のせいで彼女を犯罪者にしてしまう』ってな」
「店長、その話はやめてくれ・・・スズカ、ここに連れてきた理由は分かっただろ。代金を払ってくれ」
「あ、は、はい!」
スズカは急いでお金を取り出し店長に代金を支払った。
「本当に、申し訳ございませんでした」
「今度から気をつけなさい」
店長はそう言ってスズカから代金を受け取った
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代金を支払った後、グンナルとスズカは人が少ない道を一緒に歩いていた。
「あの・・・ありがとうございました!私、全く気づかなくて、もしかしたら窃盗の罪に問われていたかもしれません。そんなことになれば、他に人たちに迷惑をかけてしまいますし、武闘大会にだって出れなくなっていたかもしれません」
スズカはそう言って深々とグンナルに頭を下げる
「俺はただ自分の責任を果たしただけだ・・・じゃあ、俺はコレで」
そう言い残し、グンナルは立ち去ろうとした瞬間スズカはがっしり彼の腕を掴んだ。
「あ、あの!何かお礼をさせてください!助けられてばかりじゃ納得がいきません」
「いや、そろそろ戻らないとs『お願いします!』・・・」
『仕事が』と言おうとする前にスズカの真っ直ぐな目にグンナルは言葉を失う。そしてさっきから胸の鼓動が早くなり、身体が火照ってきているのが感じる。
(ああ・・・なぜ、この女を前にすると身体が熱くなるんだ・・・・コウキ様、申し訳ございません、帰りはもう少し遅くなりそうです)
グンナルは主に謝罪しながら、今度はスズカに引っ張られる形で繁華街の方へ向かうのであった。