162話 ご飯を食べたら再び運命の出会いをしました
「なぁタマモ、何でこんなことになっているんだ?」
グンナルが観光したいと言い旅館から出て行った後、俺とタマモは何故かストーキングしていた。ご丁寧にタマモは気配遮断の結界を張ってくれている。
「コウキ様、グンナルがオリジンでどう呼ばれているか知っていますか?」
「ん?『守護鬼』だよな・・・誰が名づけたのかは知らないがそう呼ばれているのは知っているよ」
「それもありますが、彼・・・『仕事の鬼』なんて呼ばれているんですよ」
『仕事の鬼』か・・・確かにあの真面目なグンナルならそう呼ばれていても仕方ないな。あいつ、俺が行くとこに常に護衛としてついてくるからな。ダンジョンの中は安全なのに『自分はコウキ様の護衛ですから』とか言って最近は寝る時間以外は俺のそばにいることが多い。
「そのグンナルが自分から護衛を離れるなんて何かあるに違いありません!フフフ、見てなさいグンナル。あんたの弱みをこの手で握ってあげるわ」
なにやらタマモから黒いオーラが見えているんだが・・・いいのかな?
「それに今日の武闘大会の開会式・・・彼はずっとスズカという女性を気にしていました」
「スズカって・・・確か陰陽師協会からのだったよね・・・凄く美人な」
『美人』という単語に反応したのか、タマモは振り向かなかったが背中から溢れる黒いオーラは更に禍々しくなった気がする。
「私の感だとこれは『恋』だと思います!」
「恋・・・なのか?」
あまりにも根拠が欠けている発言だが、タマモの恋愛レーダーは意外と鋭い。ダンジョンで起きた恋愛イベントとか真っ先に反応して女子メンバー達とテンション上げながら観察していたり、住民の恋話とかで盛り上がっている姿を目にしている。
「まあ、それならなおのこと、こういうのはよくないんじゃないか?正直人のプライベートに踏み込むのはあまり好まないんだが」
「何を言いますか!グンナルは大切な仲間!その仲間が恋しているなら陰ながらサポートするのが私達の役目です!」
・・・タマモ、もしかして凄く面白がっていない?というか、さっき弱みを握るとか言ってまえんでした?
「というか、『恋』で確定なんだね」
その後、俺達は再びグンナルのストーキング・・・もとい、恋のサポートをすることになったのだった。
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「オババ様・・・ここはいったい」
オババに案内されたスズカは昼とはまた違う活気にあふれた道だった。
「ここはカブキ・・・ミカヅチの中でも夜が盛り上がる繁華街さ。昼には出せない店とかがかなり立ち並んでいるんが特徴ですね。いやー、随分と長くここには来ていませんでしたが相変わらずの雰囲気で懐かしいことです。しかし、武闘大会も会ったのか今日はかなり騒いでいるみたいですね」
昔を懐かしむように嬉しそうに話すオババに対してスズカは落ち着きのない様子で周りをキョロキョロする。明らかにガラの悪そうな人たちが騒いでいたり、開いている店も怪しい雰囲気を放っていてる。
「オババ様・・・ここは危険です。初めてですが、こういう場所はあまり近づかないほうが良いとお見ますが」
「まあ、スズカ様のような美女が一人で歩いていたら間違いなくカモにされるでしょうね」
「か、カモって」
「まあ、すぐ到着ですから・・・ほらここです」
そう言ってオババが入った店は『居酒屋かま』と書かれた看板が飾られた店だった。
「・・・かま・・・ここは釜飯を出すお見せなのでしょうか?」
「ん〜・・・頼めば出してくれるかと思います。ここの店長は少し・・・いや、かなり変わっていますが味は保証します」
「・・・・え?」
そう言って二人が店に入ると出迎えてくれたのは髭を荒く沿ったピンクの着物を着た男性。そして周りにも強面の男性が何故か女性のように化粧して客に料理を出していた。よいうよりも不気味であった。
「あらぁ〜、ツキさんじゃない。久しぶりじゃないの、随分と可愛い娘を連れているわね」
「よ!妖怪!」
「失礼ね!人間よ!」
あまりのインパクトにスズカは思わず口から本音が漏れる。
艶のある長い髪、女性が好みそうな綺麗な着物、しかしそれを身にまとっているのはむさ苦しいオッサンであった。
「ほほほ、スズカ様ご安心ください、この子はミチコあたしの知り合いですよ。見た目はアレですが料理とかは凄く美味しいのですよ」
「スズカ様って・・・もしかして武闘大会に出場している陰陽師のスズカさん?!きゃああ、本物?!見たわよ今日の試合!」
スズカの正体を知ったミチコはテンションを上げてスズカに握手した。
「ど、どうも」
「コレ!スズカ様が驚かれている、初対面にそれしたらイカンでしょ。ただでさえお前さん達は衝撃的なんだから!それに他の客に知られたら面倒じゃ!」
オババはそう言って二人を引き離し、周りの客に目を向けるとすでに遅しか、客達は興味津々な様子でこちらを見ていた。
「あら、ごめんなさい。今日の武闘大会を見ていたからずっと興奮していてね・・・小膣へ案内するからこちらへ」
オババとスズカはミチコに案内されるように人のいない個室に案内される。
「そういえば今日はいつも異常に賑やかだったわね」
「そうなのよ、今年の武闘大会は例年以上の盛り上がりを見せているわ。特に熱いのはグンナルちゃんね・・・ほら、ラセツちゃんの推薦で出場している国外の妖人族の」
「ああ、国外に妖人族がいるのは珍しいからアタシの耳にも届いているわよ。っで、そのグンナルってやつは強かったの?」
「強いも強い・・・あのラセツちゃんの推薦ってだけのことはあるわ。アタシも観戦していたから分かるけどあの子は『悪鬼再来』って思うくらい強かったわ。顔も超アタシ好みで!もうファンクラブとかあったらすぐに入会したいわ!正直今日の主役は間違いなくあの子だったわね。他にも若手の選手で目を見張るのも参加していたけど・・・」
テンション爆上げ状態のミチコの口から『グンナル』という単語を聞いた瞬間スズカはピクリと反応を見せた。
「ほほう、あのラー坊の再来ね・・・これは興味出てきたわ。っで、スズカ様はそのグンナルって男に臆したわけですか?」
「そ、そうでは!・・・・私だって本気を出せば彼に勝てる可能性はあります・・・ただ・・・」
「ただ?」
「・・・すみません、今日の試合は心の乱れがあり危うい箇所がありました。今の状態ではグンナルどころか、他の選手達にも勝てるかどうか」
弱音を吐くスズカを見た、オババはミチコにアイコンタクトするとミチコは何を言いたいのかわかったのかすぐに個室から出て行った。
「なるほどね、ならその不安を解消しましょう!何が会ったのかを話してください・・・このオババ、スズカ様のためなら助力は惜しみません」
「分かりました・・・ですが、できればコレは内密に・・・・」
そう言ってスズカはオババにだけ聞こえるように今日の出来事を話した。
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「なるほどね・・・・そんなことが」
本屋での出来事を知ったオババはゆっくりと目を閉じる。
「・・・正直、今思い出しても頭が真っ白になりそうです」
顔を真っ赤にさせながらもじもじするスズカを見て少し初々しく思うオババであるがなんとか気持ちを抑える。
「スズカ様も乙女ということでしょうね・・・しかし、その男もさぞ幸せでしょうな・・スズカ様の肌を『だああ!オババ様!』」
他人ごとのように笑いながら言うオババにスズカは顔を真っ赤にして口を塞ぐ。
「そういう話は口にしないでください」
「ほほほ・・・っで、スズカ様はどうしたいんのですか?」
「・・・少なくとも謝りたいです。あの時は思わず引っ叩いてしまいましたけど、今思うと彼は悪くありませんから」
「なるほどね・・・とりあえずその男を探すとしましょうか。何か手がかりはありませんか?」
「そういえば、彼は誰かの護衛をしていたと思います。若い人間の男性が主でもう一人護衛に妖人族・妖狐種の女性がいました」
「ふむ、妖人と人間の護衛ですか・・・カグツチの貴族でしょうかね」
オババは色々と当てのありそうな人をブツブツと言い始める。そして丁度そのタイミングでミチコが大きな釜飯を持ってきた。
「はい、お待ちどう様。ミチコ特製!釜飯定食よ〜」
「おお、きたきた。ほれ、スズカ様、まずは飯にしましょう・・・ミチコの料理はあたしが保証しますから」
「は、はい・・・・いただきます。・・・・・お、美味しい!凄く美味しいです!」
「あら・・・陰陽師協会のお嬢様にそう言ってくれるとは嬉しいわね」
釜飯の美味しさに衝撃を受けたのかスズカは無言でご飯を食べ始めた。
「料理の腕は落ちておらんようだね」
「当然よ・・・料理と相談事なら『居酒屋かま』ってね」
「そうだ・・・スズカ様、丁度良いです。スズカ様が探している男をミチコに占ってもらったらどうです?」
「・・占いですか?」
「ええ、ミチコはこんな外見ですが鏡を使った占いをしていましてね。特に人探しとかが得意なんですよ・・・アタシも昔はよく世話になったわね」
「ちょっと〜、こんな外見って失礼じゃないですか!身体は逞しく!心は美しく!それが信条なんですよ」
「その結果がそれかい・・・まあ、料金は払うから頼むよ」
「いいですよ〜」
そう言うとミチコはモニターを操作して小さな鏡を取り出した。
「それじゃ、スズカちゃんこの鏡に手を当ててその人を思い浮かべて頂戴。可能な限りその人の細かい特徴を全部」
「え・・・はい、分かりました」
そう言われ、スズカは鏡に手を当てて今日会った男性の姿を思い浮かべた。
「さぁて〜、鏡よ鏡よ鏡さん・・・スズカちゃんが探している人は誰?」
ミチコが呪文(?)らしきものを唱えると、鏡から今日会った男性が映し出される。この場に光輝がいたら色々とツッコミが入っていただろう。
「あら、随分と良い男ね、惚れちゃいそう」
「ほう、これは中々の男前ですな」
男の姿を見てミチコはそんな感想を述べると、オババも同意する。しかし、スズカだけは思い出したのか顔を真っ赤にしていた。
「あら?彼がいるのってカブキじゃない?ほらここ、ウチの店が映っているわよ」
「おや、そうですな・・・スズカ様!コレはチャンスですよ!」
「え?・・・でも」
「でもではありません!その迷いで一生の後悔につながるかもしれませんよ!ほれ!とっとと行きなさい!」
「は、はい!」
何やらオババの異様な気迫に押されてなのか、スズカは慌てて店から出て男を探そうとした瞬間、男性集団と激突してしまった。
「あぁ?嬢ちゃん、どこに目ン玉つけてんじゃ!」
「ご、ごめんなさい」
「謝って済む問題じゃねえんだよ!俺の大事な一張羅が汚れちまったじゃないか!」
男は見せびらかすようにボロい服を見せびらかし、後ろにいたゴロツキ達も同意するように頷く。しかし、明らかに汚れているのはぶつかったせいではなく、元々そうであったがあたかも彼女のせいで汚れてしまったように見せていた。
助けを求めようとするにも道を歩く人たちは注目しても仲介に入ろうとはしなかった。そして、あまりのパニック状態にスズカは再び謝ってしまう。
「ご、ごめんなさい!でも私急いでいるんです!」
「ならよ、今すぐ金払えや!しめて10万だ!」
「そんな・・・わ、分かりました。ちょっと待っていてください」
「え?マジで払うのか?」
急いでいることと罪悪感、そして金銭感覚が一般人よりずれているという要素がかみ合わさってスズカは急いでモニターを操作しだす。男たちは笑いをこらえながら彼女が払うのを待っていた瞬間、ゴロツキの男の一人が急に叫びだす。
「あだだだだ!何しやがる!」
「テメェら、よくもまあそんなくだらねえ冗談いえたもんだな」
ゴロツキ達が振り向くと黒髪の男性がゴロツキの一人が取り押さえられていた。そして、その黒髪の男こそスズカが探していた男性だった。
「あ、あなた何でここに?」
「お、やっと見つけた・・・なあ、少し話があるんだが」
男はスズカに気がつくと男を話すぐにスズカに近づいた。
「テメェ俺達を無視すんじゃねぇ!お前ら!やっちまうぞ!」
『応!』
ゴロツキ達が一斉に襲いかかると男は次々と攻撃を避け、足を引っ掛けて転ばせる。そして再び立ち上がるゴロツキが男に殴りかかろうとするとまた歌詞を引っ掛けられて転ばされてしまう。コレを一人4,5回ほど繰り返されゴロツキたちのいきは上がってしまった。
「ゼェゼェ、なんなんだよお前!」
「随分と大事な服が汚れちまったな・・・さて、聞こうか。お前たちは何でこの女に金を払わせようとしていたんだ?」
「だから!その女がぶつかって俺の大事な服を汚してだな!」
「ほぉ、俺にはついさっき無様に転んだ汚れしか見えないが?それともさっき以上に汚してしまった俺にも金を払わせようとでも考えているのか?」
男が不適の笑みでゴロツキ達を見下す。今の動きで明らかな実力差を感じたゴロツキ達はこれ以上関わるのは危険だと判断し一斉に逃げ出した。
「覚えていやがれ!」
「・・・しねぇよ」
ゴロツキ達が逃げ出した瞬間、観戦していた通行人達は歓声をあげる。
「すげぇぞ兄ちゃん!あのゴロツキ達をこうもあっさり倒しちまうなんて!」
「やべぇ、武闘大会でも興奮したが今のもかなり興奮したぜ!」
お大通りの中央で盛り上がる通行人。しかし次の瞬間おt子は大声で怒鳴った。
「ざけんな!テメェら!俺が戦っていなかったらどうしていた!ただ見ていただけか?!」
「な、おいおい兄ちゃん・・そんなに興奮するなって。俺達も助けようと思ったけど、相手があのゴロツキだったからさ」
通行人の一人が落ち着かせるように近づいた瞬間、男はその人の襟を力強く握り顔を近づけた。
「いいか、俺は悪さをする奴が嫌いだ!だがな、その悪さを見て見ぬふりをする奴も嫌いなんだよ!」
そう怒鳴り男は通行人の襟を放す。
「な、なんだよお前!」
さっきませ英雄のように歓声をあげていた通行人達は急に冷めた視線で男を見始め去っていった。まるで、この男が何かあ悪さをしたかのように。
「随分とまあ手のひら返しが激しいことで」
男はやれやれと言った様子で一度ため息を吐くとすぐにスズカの方へ剥いた。
「あ、あの!助けてくれてあいがとうございます!」
「いや、気にすることはないさ。実は俺も君に用があったんだ」
「そうなんですか?・・・あの私は陰陽師のセオ・スズカといいます。あなたの名前を教えてもらえませんか?」
スズカは自己紹介をし名前を尋ねると男はこう答えた。
「俺はアキトだ」