161話 祝勝会が終わったらストーキングすることになりました
ミカヅチ有数の高級旅館『ミヤビ』その中でも最高級の一室にスズカは一人、静かに瞑想をしていた。
彼女がゆっくりと思い浮かべるのは今日の武闘大会の結果。
さすがカグツチだけでなく世界中の猛者たちが集まるだけのことはあり、腕の立つものが多かった。今日戦った相手も実力なら陰陽師境界の師範代クラスの実力があると感じられた。
だが、そんな相手でも今日の初戦で圧倒的な力で勝利した者達と比べると霞んでしまう程だった。
「雷将・カワキの実力は噂通りだが、グンナル・・・か。妖人族であれほどの力・・・もし、私が奴の相手だったら勝てただろうか?・・・いやそれ以前に今日の試合・・・・・」
陰陽師境界最高傑作とも謳われた天才陰陽師スズカ。そんな彼女でも二人の実力は図りしきれないと感じられた。加えて言うなら初戦の相手はスズカにとって格下と言える相手だっただが、本屋で起きた事件がきっかけで集中できない状態で戦ってしまった。
なんとか勝てたがこの雑念が拭えない状態ではあの二人、どころか残りの強者達に勝てるかどうかも分からない。
「随分と悩んでいる様子ですね、スズカ様」
「オババ様・・・お体は大丈夫なのですか?」
スズカがそっと振り組むと白装束の老婆が茶を飲みながら歩いて行きた。
「なーに、あれくらいウルプノ焼きを食って一晩寝ればすぐ回復出来ますよ」
「そうですか、でもあまり無理はされてはいけません。おババ様ももう年なんですから、総本山でゆっくりされていたほうが良いのでは」
「・・・やれやれ、スズカ様までこのオババを老害扱いですか」
「いえ、そこまで言っていませんが」
「まああたしゃ、あそこよりこっちにいる方が落ち着くからいいんだけどね・・・うーん、相変わらずりミカヅチの夜景は美しい。スズカ様もほら、見てみなさい」
オババはそう言って手招きしながらスズカに街灯が照らす都を見せる。
「本当美しいです・・・総本山だったらこの時間にはミ氏の鳴き声しか聞こえないのにここでは住民たちの笑い声が聞こえます・・・それになんか楽しそう」
「・・・スズカ様、ちょっとついてきてもらえますか?」
「え・・・ついていくってどこに?」
「ふふふ・・・カグツチで一番の遊び場さ」
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ぬらり館
「うぅ・・・もう食べきれない」
「ハルカ姉・・・食べ過ぎ」
「フユキだって同じくらい食べてたじゃん」
「あたしは育ち盛りだからまだ平気・・・それより、いいの?最近『ダイエットしないと』とか言っていなかった?」
「「「アアアアアア」」」
カレーを食べ過ぎた春夏秋冬の四人組。フユキだけは平気そうであるが残り三人はダウンした状態で悲壮な鳴き声をあげていた。
「大丈夫なのか、あの四人」
「あれでもカグツチ隠密部隊で厳しい特訓をくぐり抜けた者達でござる。素はあれであるが仕事時はしっかりやってくれる・・・多分」
不安の残るフォローを入れるヒスイだが実力は確かなのだろう。
「そういえばヒスイってカグツチ出身だよね?今はテオプア王国にいるけど元々はカグツチの隠密部隊だったの?」
「正確には今もカグツチの隠密部隊に所属しているでござる。ただそれだと拙者は抜け忍として国の裏切り者になるござる・・・なので、若が帝様と交渉して建前上カグツチとテオプア王国の友好関係として『腕の立つ武人・ヒスイ』が派遣されて働いているってことになっているでござる」
「へぇ、そうなんだ」
「まあ、それでも隠密部隊の中には拙者を裏切り者と見ている者は少なからずいるのだが」
ヒスイはそう言うとゆっくりとハルカの方を見た。彼女もヒスイの視線に気付いた様子でジット彼を睨んでいた。
「久々に会ったのに随分と嫌われたもんでござるな。昔はあんなに拙者を慕って背中を追ってきたのに・・・今じゃ後ろからクナイで刺されそうでござる」
「仕方ないでしょ・・・ずっとも連絡を取っていなかったんですから」
やれやれという様子のヒスイにフユキが会話に割り込んできた。
「え?ずっとってどれくらい?」
「んー、少なくとも若と出会った頃からですから5年くらいは部隊に連絡入れていなかったでござるな。帝様には一応知らせていましたが」
「そう、5年!『個人の依頼が入った』と言い残してそれっきり・・・西の国に行ったことは知っていたけどそれ以外は全く分からずじまい。生きていたことを知った時にはテオプア王国の武人として働いていた・・・皆、ヒスイがテオプア王国の人間と祝言を上げたって噂になったわ」
「祝言って・・・・」
いや、任務だからいたわけで結婚するって発想まで行かないんじゃ?
「あ、コウキ殿は知らないんでしたっけ。カグツチの風習で、カグツチの人間が他国に住む場合はその国の異性を結婚するという風習があるんですよ」
「え?」
「そう・・・ヒスイが死んでいるわけないから、他に理由があるとしたら他国の人間と結婚したんだって話になってね」
マジかよ
「以前才から、俺みたいな名前の人はいるって聞いていたけどそういう理由があったのか」
「まあ、誤解は解いたはずなのですが・・・ね」
そんな風にのんきに茶をすすっていると彼にめがけてクナイが飛んでくるも、ヒスイは涼しい顔で紙一重にかわす。
「・・・まあ、放ったらかしにされていた恨みは大きいわよね。それにハルカ姉は未だに疑っているみたいだよ・・・ヒスイ、あんたあっちでもモテているでしょ」
「まぁ・・・女性にはよく声をかけられるでござるな・・・ちゃんと笑顔で対応しているでござるよ」
「そういえば、立食パーティの時も女性に囲まれていたよな」
そんなのんきな会話に更に複数のクナイが襲いかかる。
「やれやれ・・・コウキ殿、ハルカは拙者が引き離しておくでござる。アイツの腕が落ちていないかも確かめたいし、ついでに食後の運動でござる」
そう言ってヒスイは煙玉を地面に投げつけその場から逃げ去ると、ハルカもヒスイを追ってそのばから離れた。
「ねぇ、もしかしてハルカさんってヒスイのこと」
「・・・ご想像のとおりです」
アイツ早く答えを出さないと本当に刺されるぞ。
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それからしばらくし、ヒスイとハルカが命がけの追いかけっこをしに行ったことを知った才達も出店の売上などを調べるために出て行った。またラセツたちも仕事が残っているらしくその場から出て行く。
「コウキ様、お願いしたいことがあるのですが」
「ん、改まってどうしたんだ?」
才達が出て行ったのを見計らったのかグンナルが少し気まずそうな様子で俺の所にやって来た。
「実は自分、カグツチを観光したいと思いまして、護衛の任をランカとオウカに任せてもよろしいでしょうか?」
「え?別に構わないよ・・・ってか、お前が主役なんだし俺のことは気にせずに楽しんでくればいいさ」
「ありがとうございます、念の為サブアカウントの姿で出ていきますので騒ぎは起こさないようにします」
「あ、グンナルちょっと待って」
俺が許可を出すとタマモが話に割り込んで、グンナルに何かのお守りを手渡した。
「これ、持っていなさい。あんた妖力が馬鹿デカイんだから陰陽師協会に見つかったら面倒な事になるよ」
「タマモ、それは?」
「妖力をを感じ取らせないためのお守りです。テオプア王国が開発した認識阻害のお守りの応用で、漏れだす魔力や妖力を消す効果があります。コレを身に付ければ妖人族だとバレることはないはずです」
なるほど・・・俺は全く気づかなかったがそういう所をちゃんと隠しておかないといけないのか。
「・・・では失礼します」
そう言ってグンナルは人間の姿になって出て行くのを見届けたタマモは次の瞬間黒い笑みを見せる。
・・・あ、これ悪巧みするエイミィの顔にそっくりだ。
「さて、コウキ様行きますわよ」
「行くって・・・どこに?」
「もちろんグンナルの後を追いに!」
その後、俺とタマモは何故かグンナルをストーキングすることになった。