160話 初戦突破したので祝勝会を開きました
「まずは一回戦突破だな」
テンションがMAX状態の観客たちの中で、認識阻害を行っている才とヒスイは冷静にステージを見ていた。
「まあ、当然といえば当然でござったな。決してタキマロが弱かったというわけではないが相手が悪い。しかし、今の技はラセツ殿を倒した技と同じであったな・・・なんと言うかデジャヴでござった」
「ああ、しかも『威力』もあの時と同じだ・・・まるで『この技でラセツを倒したんだぞ』って伝えているようにな」
二人は三ヶ月前テオプア王国で行われたグンナルとラセツの戦いを思い出しながら彼の後ろ姿を見た。
同じ技で勝利したグンナルの後ろ姿、だが明らかに以前と異なり彼には余裕が見える。
「まだまだ色々と奥の手を隠しているみたいだな」
【万能鑑定】を使用すればすぐに分かるだろうが、大会はまだまだ続く。
次の試合まで楽しみを取っておくことにした。
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ステージから降りた後、グンナルは真っ直ぐ控室に向かう。
すると思わぬ人物が廊下で待ち構えているのが見えた。
「・・・まずは一回戦突破か」
「ああ、先に行ってる」
「俺は認めないからな・・・ラセツは『あの程度の技』で負けるわけがない」
グンナルとすれ違う『雷将・カワキ』はそう、怒りの感情を込めてグンナルに告げた。
その後、グンナルの試合に負けずと他の参加者達もまた激戦を繰り広げ、武闘大会初日は例年を超える盛り上がりを見せたそうだ。
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ぬらり館
「それでは、グンナル、センシュウ、カワサギの初戦勝利を祝してカンパイ!」
ぬらり館の中庭で開かれた祝勝会、テーブルに並べられているのはランカが腕を振るって作ってくれた料理。といってもメインはカレーで他にフライドチキンや串焼きとかが並べられているだけだが。
俺達にとっては見慣れた料理であっても、ラセツ達にとっては初めて見る料理ばかりである。
「ほほう、これがコウキ殿の国の料理ですか、これは美味い!」
カレーを絶賛するラセツとカワサギ。見た目が茶色だから少し抵抗するのかと思ったが、杞憂であった。
まあ、ワイト達が先に美味しそうに食べている光景を見たらそんな事も思うはずもないか。
「あのー、カワサギさんは分かりますが自分はここにいて良いのでしょうか?」
一人だけ場違いだと言いたげな、美髪の青年、センシュウは恐る恐る俺に話しかけてきた。
「良いよ、それに君をここに呼ぶって言い出したのはラセツさんなんだし、俺達も知らない仲じゃないんだからもっと堂々としなよ。それに君も主役の一人なんだから」
そう言って俺は、カレーが盛られた皿をセンシュウに渡す。
「あ、ありがとうございます」
観念したのか、センシュウはそのままカレーを食べ始める。
「お、美味しい!何ですかこれ!凄く美味しいです!こんな美味しい料理初めてです!」
相当衝撃的だったのか、センシュウのスプーンの速度は徐々に早まりしっかりと平らげてしまった。
「美味いかそれは良かった。ウチの自慢のカレーだからな・・・」
「これは是非とも帝様に献上したいものです」
帝様にカレーを献上って・・・・一応これ国民食なんですが。
「献上って大げさじゃな『大げさじゃないわよ』・・・セレナ姫?」
俺が否定しようとすると話に割って入るかのようにセレナがこっちに歩いてきた。
後ろには才とヒスイも同行しているが、二人の手にはカレーがあり凄く残念な絵柄になっている。姫の後ろでイケメン二人がカレーってどんな光景だよ!
「こ、これは、セレナ姫様・・・いるとは気づかず、申し訳ございません!」
セレナに気付いたセンシュウは慌てて空となった皿をテーブルに起き頭を下げる。
「あなたは確かセンシュウでしたわね。武闘大会の一回戦は見事な勝利でしたわ」
「あ、ありがとうございます。ですが、自分なんかまだまだです」
「ふふ、謙遜するところはやはりカグツチの風習なのですね・・・例外はいますが」
その例外が誰であることはその場にいる者全てが気付いているがあえて口に出さない。
「セレナ姫・・・何故あなたがここにいるのですか?料理でしたらマタタビさんが用意してくれているはずじゃ」
一応、今回はグンナル、センシュウ、カワサギの祝勝会ということでマタタビさんに今日の料理は必要ないと伝えたわけで、セレナ達の分も必要ないというわけではない。
それに、彼女たちが参加する理由もない。
「あら?マヤから『今日はカレーパーティーにゃ!』と凄く嬉しそうに話してくれましたよ。それとも私達は邪魔かしら?」
セレナの視線の先にはすでに特盛りカレーをお代わりしているマヤの姿。そして次の瞬間、彼女の瞳から発する冷たい視線。
つまり、自分達だけのけ者にするなと言いたいわけか。
「分かりました・・・ですが次から飛び入り参加は遠慮してください」
「コ、コウキ殿!セレナ姫に対してそのような対応は!」
セレナに対する態度にセンシュウがビックリした様子で止めようとするが、セレナはそんなことを気にしない様子で返事した。
「ええ、分かりました・・・オリジンの料理はとても美味しいですからね。旅館の料理も素晴らしいですが、やはり『カレー』と聞いたらね・・・」
どうやら以前、オリジンに来た時に食べたカレーの味が恋しくなったのか、我儘を突き通して参加しに来たわけか。
いや違うな。セレナの性格上どうでもいい理由の中に別の目的で来るはず。
「それで?セレナ姫はカレーの話をしに来たわけじゃないんでしょ?」
「ええ・・・先ほど帝と話をしてきました。試合を直接見れなかったことを後悔していましたよ・・・ふふ、まあそこら中で武闘大会の話で持ち上がっていますからね」
セレナの意地悪な笑みを見るからに帝のヒリュウも楽しみにしていたのだろう。ってか、もう武闘大会のことを知っているのか。耳が早いな。
「帝からは概ねの事情は聞いています。幸い私達テオプアは武闘大会に参加しませんから外の警戒をあたろうかと思っています。こちらには情報に長けている者が二人いますから」
そう言ってセレナは後ろでカレーをお代わりしている才とヒスイを見た。
大丈夫なのかこれ?
というか他国の姫に強力を仰ぐとかあの帝は何を考えているんだ?
「いいのですか?俺が言うのもおかしいですがこれはカグツチの問題ですよ」
「なるべく自国の民には知られたくないのでしょう。それにヒスイは元カグツチ隠密部隊の頭領です・・・事情を伝えれば私が言わずとも勝手に動きます。私に事情を説明したのも彼を借りるという意味なんでしょうけど」
そいういえば、ヒスイはカグツチの人間なんだったけ。名前からしてそうじゃないかとは思っていたが、まさか隠密部隊の頭領だったとは。
「そういうわけですので、これからは私を仲間外れにしないように」
最後の一言はおそらく何かしら面白いことが起こったら知らせろという意味なのだろう。
「分かりました・・・セレナ姫達が協力してくれるのであれば心強いです」
「そう・・・では私も食事にしましょうか」
そう言って、セレナは軽くステップしながらカレーが並ぶテーブルに向かった。
カレーが一番の目的じゃないだろうね?
「そういうわけだから、お前たちは武闘大会に集中してくれ」
「それはいいけど・・・才達だけで大丈夫なのか?」
「問題ない・・・それに協力者は他にいる」
他に?誰だ?
「・・・?コウキ様、誰かいます」
ワイトが何かに気付いたのか誰もいないはずの中庭の壁に指を指す。するとグンナル達も警戒モードに壁を睨みつけた。
「流石に気配を消しても魂が視えていたら意味がないな・・・ヒスイ、呼んでやれ」
「ッハ、お前たち出てきていいぞ」
ヒスイが合図を出すと、壁の当たりが急に空間が歪んだように見え四人の忍者装束の女性たちが現れた。
「おかしいわね・・・気配はしっかり消していたはずなのに」
「ナツミ姉のお腹が鳴っていたからじゃないの?なんかさっき小さな音が来うこえたんだけど」
「っちょ、アキそれ酷くないか?まだ鳴っていない!」
「・・・ゴメン、多分それあたし」
四人組の美女美少女・・・武闘大会で司会をしていたアイドルグループの春夏秋冬のメンバー達だった。
「はぁ・・・お前ら私語を慎められないのか?」
「美味しそうな料理を手に持っているヒスイに言われたくないわ・・・」
「え?何で春夏秋冬が?・・・というか何で忍者装束?」
少し頭が混乱しだす中、春夏秋冬は片膝をついて頭を下げる。
「はじめまして、カンザキ・エドワード・コウキ様・・・カグツチ・隠密クノイチ部隊のハルカと申します」
「同じくナツミ」
「アキナ」
「フユキです」
司会の時とは打って変わってこっちはまさに忍者という感じで冷静だ。ファン達が見たらどう思うか。
「あ、ああ・・・ところで何で春夏秋冬が?」
「私達は元々隠密部隊に所属していまして表はアイドル・・・裏では隠密部隊として活動しています」
まじか・・・どこのスパイ映画だよ。
「まあ、基本的な仕事は他の奴らがしているから暇なあたし達はアイドルのほうが本業になりつつあるけどね」
「っちょ、ナツミ何を言って!」
「だって、本当じゃん・・・ここ最近こっちの方がお金入るし。修行も歌や踊りの方が多いし」
なんか聞いてはいけない話を聞いてしまったような。ハルカは真面目なタイプに対し、ナツミはかなりフランクというか・・・情報をペラペラ話してしまうタイプだ・・・こんなので隠密できるのか?
「はぁ・・・コウキ様。ご安心ください、ナツミ姉さんはこんな性格ですがやるときはやります」
「っちょ、アキナこんなってどういう意味だよ」
「事実です」
アキナも真面目タイプだがこっちの方はやや棘のある言い方をするな。
辛口な秘書みたいな性格だなこれは。
そして、一番幼いフユキはというと。
「もぐもぐ・・・・!何コレ!超美味しいんだけど!」
いつの間にか、目を耀かせながらワイト達と一緒にカレーを食べていた。
「いつの間に・・・ある意味凄いシノビだ」
なんとも個性的なメンバーが協力してくれるようになったわけだが大丈夫なのかこれ?
俺は不安そうな顔でヒスイを見ると、気まずそうな顔で目を逸らした。
・・・大丈夫だよね?