159話 一回戦で戦ったら、ダジャレ使いでした
控室
『グンナル、もうすぐお前の戦いが始まる。ここはダンジョンじゃないからくれぐれも相手を殺すなよ』
「分かっています。相手が場外を出る、降伏、あるいは戦闘不能と判断されたら決まるわけですから加減はします」
『・・・それと、これはお前の戦いだ。オリジンの住民として恥のない戦いを見せてくれ』
「御意、必ず優勝の座を手に入れて見せます・・・」
そう決意を目に宿しグンナルはモニターを操作して戦闘用の衣装に着替える。
『いいじゃん、結構似合っているぞ』
「そうですか?自分もこの衣装は気に入っています。プラムの服とワイトの武器・・・絶対に負けられませんね」
そう言い残しグンナルは連絡を切り、やって来た案内係と共にステージに向かった。
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ステージ
「さあ、いよいよ第一試合の始まりです!司会はあたしフユキがお送りしまーす」
四人組の中で一番小柄なフユキがステージの上でアナウンスすると会場のテンションはアゲアゲ状態だった・・・・・主に男集団が。
「フユキちゃん!今日も可愛いよ!」
「フユキちゃーん、ペロペロしたいぜ!!」
「フユキちゃん!俺の妹になってくれ!」
「馬鹿野郎!フユキちゃんは俺達皆の妹だ!」
「つーか誰だ!今俺の心の声を代弁した奴は!」
なんかアホな会話が聞こえ、乱闘している気がするが無視しよう。
「ではまずルールの説明をさせていただきます。ルールは至って単純、ステージの上で二人が戦い、相手を倒すあるいは降伏させたら勝ち。またステージの外に出た場合も場外負けとなります!」
フユキも全く気にしていない様子で説明に入る。
「第一試合!カグツチ出身戦う吟遊詩人、タキマロ選手!」
まず上がって来たのはボロい大太刀を持った糸目の男性だった。
「戦う吟遊詩人か・・・・一体どんな戦いを見せてくれるんだろう?」
「吟遊詩人ってことは楽器が武器なのでしょうか?カグツチの冒険者は何人かダンジョンに来ていましたがあの方は見たことはありませんね」
俺とタマモは興味津々にタキマロを観察する。さっそく相手の分析に取り掛かるためにモニターを開く。
「コウキ様、タマモさん・・・目が仕事時と同じになっていますよ」
焼きそばを差し出してくれたランカの言葉に我に帰る俺達。
しまった、つい仕事柄相手の観察に夢中になってしまった。
「ああ、悪い・・・ラセツさん。タキマロって人そんなに強いのですか?」
「強いと言ったら強いな・・・少なくとも本戦に勝ち上がってくる実力はあるのは間違いない」
ラセツが真剣な顔で説明している様子からかなり手強そうだ。
「でも詩人なんですよね?」
「うむ、奴は詩人であり剣豪でもあるからな。彼が作った詩はどれも戦いの中で生まれたものらしい・・・まあ、旅の詩人なら当然なのだが」
ミュージシャンやシナリオライターがアイディアを創るために刺激のあることをやるのは聞いたことがあるが、この世界では戦いの中で考えるのが当たり前らしい。
「続いてオリジン出身、鬼の守護者!グンナル選手!・・・って、オリジンってどこ?」
聞いたこともない名前にフユキがはてなマークを浮かべる。まあ知らないのも無理はないか。受付するときも役員の人が変な顔をしていたし、いっそグンナルを使って国のアピールでもするか?
そんなことを考えているとグンナルは堂々とした様子でステージに上がる。
プラムがこの日のために用意した軍服と和服をコラボレーションさせたような羽織にワイトの渾身の一振の武器。
ある意味ファッションショーのような光景に俺は口が引きつったが、グンナルは全く気にしていたい様子でステージに上がる。
「それでは戦う前に両者のインタビューを行いたいと思います。タキマロ選手、相手はあのラセツさんを倒したと言われている人物ですが、勝機はあるのでしょうか?」
「当然だ、誰が来ようと、我が勝つ」
淡々と答えるタキマロは多く語ろうとせず、すのまま無言でグンナルを見ていた。
「なるほど、ではその実力を見せてもらいましょう!続いてグンナル選手!色々と謎が多いですが、その前に・・・その羽織はもしかして、テオプア王国で今有名なプラム・グローブさんの作品なのではないのでしょうか?」
フユキは目を耀かせながらグンナルの羽織を見始める。
すると、観客の女子達がざわめく。
「ああ、今回のために作ってもらったものd『ええ!!!プラム・グローブさんのオーダーメイド!!!』」
グンナルが答えるとフユキはテンション上げて羽織を触り始める。
「間違いない、このデザイン・・・このキメ細かな装飾!まさか、カグツチの衣装も作れるとは!これはとてつもない大物が現れました!」
何を判断して大物と言っているのかはツッコミを入れないが、観客も何やらただごとではないことだけは伝わったのかザワザワと話し合っている。
「ほれ、もういいだろ?嬢ちゃん、危ないからステージから離れな」
グンナルはそう言ってフユキの頭を撫でる。フユキは何か言いたげな様子だったが顔を真っ赤にさせて言葉がでていない様子だ。
「テメェ!!フユキちゃんになにしてやがるんだ!」
「そうだそうだ!この若造が!羨ましいぞ!」
「クソー!今すぐ代われ!あああ!羨ましすぎる!」
「つーか、推薦枠だからって調子に乗ってるんじゃねえ!羨ましい!」
「そうだそうだ!どうせラセツ様に勝てたのはまぐれなんだろ!」
男どもの哀れな感情を混ぜた大ブーイングが会場に広がる。なんと言うかカグツチの人間は挑発が安すぎないか?大人買いしてぶっ飛ばそうかとラセツは今に向かいそうになるが、俺とランカで必死に止める。
ここでラセツが暴れても逆効果だ。
すると、ステージでグンナルはフユキの持っていた拡声魔法具を手に取り叫んだ。
「ああ・・・カワキといい、ここの国民は何を見て口にしている?・・・テメーラ!俺の実力が知りたいならその目でしっかり焼き付けておけ!」
グンナルが吠えるように発した言葉に観客たちは何も言い返すこともなく沈黙した。
「あれ?・・・おれまた何かやっちまったか?悪いな、せっかくの試合なのに台無しにしちまったか?」
鋭い目つきからいつもどおりの顔に戻ったグンナルはややフランクな感じでタキマロに言った。その豹変っぷりにタキマロとフユキも少し驚いた様子だ。だがすぐにフユキはインタビューを終えたことでステージから降りて準備を整える。
「・・・それはない、そなたの意見、我賛成・・字余り」
「随分と変わったしゃべり方するやつだな。まあ、気にしていないなら助かるさ。一対一ってのはあまり慣れていないがよろしく頼む」
「強者との、戦いの中で、詩は浮かぶ」
「ふーん、そういえば詩人だったな。良い詩が出来るといいな」
「この勝負、最高の詩が、生まれそう・・・ダッシュで奪取」」
「は?」
「それでは第一試合!開始!」
タキマロが何か呟くのと同時にフユキの号令が重なる。するとタキマロは 物凄いスピードでグンナルに接近し軍服の上着を奪い取った。
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観客席
「な!」
流石に俺達もあのスピートを目にして言葉を失いかけた。
「なんだあのスピート!全然気づかなかった!」
「・・・今、タキマロは小さく『ダッシュで奪取』と呟いていました・・・おそらく、それでグンナルの上着が奪われたのでは」
「『ダッシュで奪取』?・・・ダジャレ?ってかタマモよく聞こえたな!」
「正確にはタキマロの唇の動きから読み取ったものですが」
まさかの読唇術!
「そ、そうか・・・もしかしてそれがタキマロのスキルなんじゃないかな?」
「お見事!正解です」
俺とタマモが放していると割りこむようにラセツが入ってきた。
「正確にはタキマロは【言霊】というユニークスキルの持ち主なのです」
ユニークスキル・・・ごく一部の者だけが持つことが許される超レアスキル。普通のスキルと比べて技の汎用性が非常に高いのが特徴。
「コウキ様、言霊って何ですか?」
俺達の話に興味を持ったワイト達は先生に質問するように挙手して質問してきた。
「言霊っていうのは、簡単に言うと言葉に込められた力で、言ったことが本当になると言われているんだ」
俺がそう答えるとワイト達は目をキラキラさせてタキマロを見た。
「じゃあ、あの人が『自分が勝つ!』って言ったらグンナルさんは負けてしまうのですか?」
「いや【言霊】はそこまで万能ではない。いくつか条件がある」
ワイトがそう質問すると今度はラセツ先生が答えてくれた。
「条件?」
「うむ、条件は二つ。まず【言霊】の対象は無機物、あるいは自分にしか効果を発動できないこと。そしてもう一つが言ったことが言葉遊びじゃないといけないことなのだ」
つまりダジャレが本当になるスキルということか。はかなり頭を使いそうなスキルだな。
「ラセツさん、随分と詳しいですね」
「奴はマサカにも何度化足を運んでいるからな、その内に親しくなったのだ。マサカの恐怖は刺激になるらしいそうで。いくつかの作品はマサカで誕生している」
「・・・そうですか」
詩を創るためなら自ら恐怖に身を投げるとか、とんでもない人物だな。
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ステージ
「おーっと!タキマロ選手!まずは自慢の先制攻撃でグンナル選手の上着を剥ぎとった!これが噂のユニークスキル【言霊】の力か!というか、それ凄いものなんですから大切に扱ってください!」
ステージからやや離れた場所から実況を行うフユキ。何やら変な感情も混ざっているが周りは気にしていない、それどころか女性陣はフユキの言葉に賛成するかのように頷いている。
グンナルの上着を奪ったタキマロは何やら勝ち誇った笑みを見せる。
「悲しいな、そなたの力、この程度」
「テメー!それはプラムが作った大切な羽織なんだぞ!」
そう言ってグンナルも先ほどのタキマロに負けないスピードでタキマロの持っていた羽織を取り返す。
「ああああ!だから大切に扱ってくださいって!」
「驚いた、我の速度を、超えるのか」
グンナルは取り返した羽織を大事に再び羽織武器を構える。
「ふぅ、危ない危ない・・・せっかく作ってもらった羽織を奪われるとか師匠達に知られたら5回ずつ殺されそうだ」
「その余裕、いつまで持つか、楽しみだ」
タキマロはそう言い、太刀を握りグンナルに襲いかかる。
「中々の剣術。これなら34階層のワイバーンを相手に出来るくらいだな」
グンナルは軍服を奪われてもなお冷静にタキマロの動きを観察していた。
「タキマロ選手の猛攻を紙一重でかわすグンナル選手!その表情はまるで相手の太刀筋を見透かしているかのようです!」
「カルラ様の拳に比べたら遅すぎるぜ!」
「意味不明、そなたの瞳、何を見る!」
「おい、呼吸は読みやすくなったぞ」
「っく!」
タキマロの攻撃にカウンターするようにグンナルの拳がタキマロの腹に直撃する。
「がは!」
腹を抑えたタキマロは何か吐き出そうとする口を抑えうずくまる。
「おい、その程度か?ラセツなら今の拳食らっても痛がりはするが怯んだりしないぞ」
再び会場の野次に向けた時と同じ目をするグンナルの前にタキマロは彼の強さに恐怖を覚え始める。今まで戦ってきたものとは違う・・・何か根本的な部分で大きな差を感じていた。
「・・・古い太刀を持って奮い立ち!筋肉がつきマッスル!」
タキマロは自分に【言霊】をかけ恐怖心を取り払り、まるで力を開放したかのように上半身の筋肉が膨れ上がる。今のタキマロの姿はまるで巨人のように3mは超えそうなくらいに肥大化した。
「グラム様がみたら喜びそうだな」
「我が力!その身を持って!受けるのだ!!」
「タキマロ選手!自分に【言霊】を使ってパワーアップです!グンナル選手!追い込まれました!」
タキマロの懇親の一撃にグンナルは避ける動作を見せず、金棒を構える。
「力勝負か・・・面白い!狩りの開始だ!」
グンナルが魔力を金棒に注ぎ込むと金棒は紅色に変色していく。
「ぶっ飛べ!『霊鬼砲』!」
グンナルの渾身の一撃がタキマロを飲み込んだ瞬間勝負は決した。その技はかつてラセツを倒した技と同じであって同じではない。その違いは技を受けたことのあるラセツが一番良く理解していた。
肥大化したタキマロは元の姿に戻り白目をむいて気絶していた。
「タ、タキマロ選手、気絶!よって勝者、オリジンのグンナル!完勝です!」
フユキの宣言と共に会場は歓声で満たされる。その歓声に答えるかのようにグンナルも拳を突き上げて返事をした。
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観客席
「お見事!さすがグンナルだ!それこそ俺が見込んだ男!」
グンナルの勝利宣言を聞いた瞬間ラセツは満面の笑みで扇子を広げて小躍りしていた。その後ろではマヤちゃん達が『勝利♪勝利♪』と連呼しながら踊り始める。
「あはは、ラセツさんまだ一回戦ですよ」
「何を言う!グンナルが勝利を喜ばずにしてどうする!ボダイ、酒だ!酒を用意しろ!」
まるで我が身のように喜ぶラセツ。どちらかというと酒を飲む口実が欲しいだけなのではないか?
「大げさですね・・・グンナルがあの程度の者に負けるはずがないのに」
冷静な分析を行っていたタマモはグンナルの勝利を早い段階で確信していたようで、かなり冷めた反応だった。
「まあまあ、喜ばしいのは事実なんだし。ランカ、今日は初戦突破祝にグンナルの好きなギガントボアの肉を使ったカレーを作ってやってくれないか?」
「御意」
俺がランカにそう指示すると、しっかりマヤちゃん達の耳にも届いたのか『勝利』から『カレー』に変わって踊り始めたのは言うまでもない。