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ダンジョン作ったら無理ゲーになりました(旧)  作者: 緑葉
第九章 カグツチ騒乱編
166/189

158話 買い物が終わったら武闘大会が始まりました

光輝たちが本屋にやってくる数分前、一人の女性が心を踊らせながら目の前に並ぶ宝の山に見とれていた。


「ああ、イザヨイ先生の本がこんなに・・・やはり都は素晴らしい!活気あり、美味しいご飯あり!恋愛小説あり!」


女性の名はセオ・スズカ。陰陽師協会最高傑作とまで呼ばれた天才陰陽師であり、今回の大会に出場する選手でもある。


「やはりガコと比べると品数は雲泥の差ね・・・お祖父様に頼んで輸入する品を増やしてもらえないか交渉できないかな」


陰陽師協会総本山が治める領地、ガコは都より北西の位置に存在し、険しい山に囲まれた場所。そのため人の出入りが少なく外からの流通する物が限られているのだ。


「まあ、この大会で優勝すれば陰陽師協会の地位は安泰になるし、それくらい聞いてくれるわよね。そうすれば好きな小説を沢山読めるし」


スズカはそんな未来図を考えながら鼻歌を歌いながら本棚を眺めた。しかし、そんな時背後の方からとてつもない妖気を感じ取った。


「この妖気は・・・妖人族ね。はぁ、せっかくいい気分で眺めていたのに」


陰陽師であるスズカは例外なく陰陽師協会の思想を叩きこまれている。そのため、妖怪、またその力を行使する妖人族のことも良いイメージを持っていない。


「いらっしゃいませ」


スズカが横目で見ると三人組が店に入って来たのを確認した。一人は妖人族・妖狐種の女性、後ろの二人は人間のようであるがどこか引っかかる気配を感じる。


「オババ様から面倒事は起こさないようにと言われているし、無視するしか無いわね」


そう考えながらスズカは再び本棚に目を向けるが、妖狐種の女性は真っ直ぐスズカの隣に立ち目を耀かせながら本棚を眺めていた。


「ああ、イザヨイ先生の本がこんなに・・・やはり、本場だと本の数が違いますね。コウキ様に頼んで輸入の品を増やしてもらえないかしら?」


妖狐種の女性はそんなことを呟きながら本棚を眺める。今彼女の目には本棚に並ぶ宝にしか向いていない。そのため、隣にいるスズカにも全く気づいていなかった。


(無視よ、無視・・・でもこの妖気は何?・・・こんな気配妖怪でも感じたことが無いわ)


すでに店の中に充満している妖気にスズカは平常心ではいられなかった。普通の陰陽師と比べて妖気を感じ取りやすいスズカにとって、部屋を覆うほどの妖気は無視できないほどの存在感だった。


例えるなら、サンバの衣装を身に纏った力士がいるのがいると知ったくらい、気になって仕方ない気持ちになる。そのため徐々に不快感を覚えるスズカであった。


(はぁ。もしこの人が人間だったら色々とイザヨイ先生の話で盛り上がれたのに)


スズカには同年代の友人がいない。いや・・・友人と呼べる存在すらいるのか怪しい。陰陽師協会最高傑作である彼女はその存在だけで特別であり、同年代の陰陽師たちからは特別視されてきた。


唯一彼女が心をゆるせるのはお世話係のオババくらいと育て親でもある祖父ぐらいだ。


そんなことを感がている内に更に二人の男性が近づいてきた。


「タマモ、どうかしたか?」

「あ、コウキ様!見てください!あのイザヨイ先生が書かれた本がこんなに!」


どうやら女性の名前はタマモというらしい。彼女は嬉しそうにイザヨイ先生の作品を語りだす。

(ああ、私も話に混ざりたい・・・できれば夜通しでイザヨイ先生の素晴らしい作品を語り合いたい)


スズカはそんな気持ちを押さえ込みながら視線をそらす。しかし、そんな時スズカの目に一冊の本が止まる。

(あ、この本まだ読んだことがない・・・もしかして新作?)


そう思い急いで本に手に取ろうとした瞬間、タマモも最新刊に気づき急いで手に取る。


・・・・・・・・・・・・・・・・

その後タマモとの本の奪い合いとなり、なんとか本を手に入れることに成功したスズカであるがその代償は大きかった。

まず、本を手放したタマモによって大きく吹き飛んでしまったこと。

そして手を差し伸べてくれたグンナルという人間の前で肌をさらけ出してしまったことだった。


「あ・・・・」


気まずそうな感じでグンナルは顔を赤らめて視線をそらすが、その時スズカの頭は真っ白だった。


人前・・・しかも全く知らない人の前で素肌をさらけ出してしまったこと。



その瞬間、スズカの頭は真っ白になる


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

グンナルにとって目の前の光景はとんでもないハプニングだっただろう。

良かれと思ってひっかかっていた帯を持った瞬間、女性が急に立ち上がって服がはだけてしまったのだから。


ややきつくまかれたサラシに白いふんどし。この世に誕生してから約二年、精神年齢はだいたい18歳のグンナルにとってこのインパクトは大きかった。


いや、その肉体よりもグンナルにとって衝撃的だったのは、彼女の美貌だ。カグツチの人間らしく美しい黒髪、幼さを感じさせるつぶらな瞳、柔らかそうな唇。グンナルはグンナルで思考が停止仕掛けていた。


もしこの気持ちを自称恋愛マスターのタマモに相談したらなこう答えるだろう。


『一目惚れ』


そしてようやく思考が戻り始めたのか、現状をすぐに理解したグンナルは急いで目を逸らして彼女から離れる。しかし、すぐにとんでもない失態を犯したことに気付く。グンナルの右手には彼女の帯があった。この状況だけを見た者なら誰もがグンナルが帯を引いたように見えるだろう。


そして顔を赤らめた女性もまた同じ事を考えていたのか、物凄い形相で帯を取り返し、そのまま見事な裏拳がグンナルに襲いかかる。


「す、すま・・・・」


謝罪の言葉を言い終えることもなくグンナルは別の本棚へと吹き飛ばされる。

店の店長にとっては泣き面に蜂だろう。


そしてグンナルもまた、泣きたい気分であった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

数十分語


ワイト達は満足そうな顔をして合流地点にやって来た。それぞれ買いたいものが見つかったのかアイテムポーチに入れず、大事そうに抱いていた。


「あ、コウキ様見てください!こんな素晴らしい生地を見つけました!カグツチの伝統なのでしょうか?この技術は是非とも知りたいです!」


相当うれしいのか、プラムは満面の笑みで生地を見せる。後ろにいたラセツは少し微妙な顔をしている様子からおそらくバカ高い値段だったのだろう。

だがAランク職人であるプラムにとってはそれくらい簡単に払えるくらい稼いでいるのだ。以前興味本位で彼女の所持金を聞いたことがあるが正直子供が持っていいような金額ではなかった。


「へぇ、凄い綺麗な生地だね。ワイトはその小刀を買ったのか?」

「はい!安い物が沢山あったので帰ったら打ちなおして強い武器にしようかと」

「・・・程々にな」


最近のワイトは新しい武器の作成よりも、ボロい武器を魔改造することにハマっているらしく、こうした安物を大量に買っては作りなおしているらしい。


ますますゾアに似てきたような気がする。


「ほがほが!・・・むぐ!」


そしてマヤちゃんは顔のサイズを余裕に超える大きさのおにぎりを頬張っていた。

どこにそんなの売っていたんだ?


「オウカ、ランカ護衛ご苦労様。ラセツさんも三人の面倒ありがとうございます」

「いえいえ、子供たちは元気でいいですな・・・若干、買い物は子供らしいとは言いにくいのですが」

「あはは・・・お金の使い方については後で言っておきます」

「コウキ様、ところでタマモさんとグンナルさんはどうしたのですか?二人共なんかモヤモヤっとしていますが?」


ワイトは俺の後ろで待機している二人を見る。一見すると二人共いつも通りの顔をしているが、【魂眼】を持つワイトには二人の感情が丸見えなのだ。


タマモは十中八九買えなかったイザヨイ先生の最新刊を手に入れられなかった事だろう。気晴らしに本棚にあったイザヨイ先生の本を買っていったがやはりまだ気がかりなのだろう。


グンナルに関しては俺も全く分からない。気がついたらあのお客さんが店から消えており、グンナルは別の本棚の所で倒れていたのだ。何があったのかを聞いてみたが何も話そうとしなかった。


「まあ、色々とね・・・ワイト、あまり勝手に人の魂の見るのはやめておきな。人には他人に知られたくない物だってあるんだから」

「はい、分かりました」


うん、本当に素直な子だ・・・


「ラセツさん、そろそろ会場に向かった方がいいのではないですか?」

「うむ、実は先ほどカワサギから連絡がありまして、俺もそろそろ行こうかと思っていた所です」


「分かりました・・・グンナル。ここからはお前の時間だ!頑張れよ!」

「御意」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

会場


カグツチの大通りにそびえ立つ巨大な会場。

中には広い四角形のステージに大量の観客席。一言で表すならでかい相撲会場に近い感じだった。


ステージの上には4人のミニスカートの着物を着た女性たちが拡声魔法具を持って立っていた。


「皆様、おまたせしました。20年に一度、このカグツチで行われる武闘大会がいよいよ始まろうとしています!司会を努めさせていただくのは私達、ハルカと!」

「ナツミと!」

「アキナと!」

「フユキ!」

「「「「帝都娘!春夏秋冬でーす!!!」」」」


『ウォオオオ』


4人の美女が声を揃えて言った瞬間、会場にいる観客、主に男性陣がカラフルな扇をを持って叫んでいた。


「何なんですか、あれは・・・」


俺は会場の特別席で周りについていけない状態で隣りに座っていたラセツに尋ねた。


「彼女たちは、このカグツチのアイドルグループですよ。始めは歌を歌うだけだったのですが外見が可愛いのもあってか次第に人気が急上昇しまして、今ではカグツチ一の人気者なんですよ」


まさかこの世界にアイドルという存在がいたとは驚きだ。そんな熱狂する男性達とは、逆にワイト、プラム、タマモの年少組は武闘大会で販売されていた巨大たこ焼きを美味しそうに食べていた。


色気より食い気とはこのことだな。


「それではさっそく、参加者の皆様の入場です!」


おっとりとした声でアナウンスするハルカが言うとと会場に次々と集まる強豪32名。その中にはグンナル、センシュウ、カワサギの姿もある。ワイト達はグンナルの姿を確認すると必死に声を出して声援を送る。


やはりというべきか、前回の準優勝者であるカワキの登場が一番声援のボリュームが大きかった。


出場者の中には緊張している様子の者もいれば涼し気な顔をしている者もいる。グンナルは後者の方だが、隣にいる女性を気にしている様子だ・・・なんか凄く美人だぞ。おそらく大和撫子という言葉を擬人化したらああいう姿なんだろうな?


女性の方はグンナルの視線に気づいていない様子で涼し気な顔をしている。


「・・・コウキ様、どこを見ているのですか?」


ジト目で見るタマモの視線が妙に痛い。別に美人に釘付けになってもいいだろ?っと言葉に出したいが言ったらなんか怖いので笑って誤魔化した。


「さあ、この場に募った32名の中から今年の優勝者が決まります。一体誰が優勝者となるのでしょうか?その答えは三大神のみぞ知るでしょう」


いや、多分エイミィ達でも確証は思うぞ。


「では、第一試合の組み合わせを発表します」


そう言って春夏秋冬娘が取り出したのは大きな箱。上には大きな穴があるためあれで第一試合を決めるのだろう。


「第一試合は!タキマロ選手と・・・なんと!グンナル選手!」


ナツミが大きくアナウンスすると会場が一斉にグンナルに注目しだす。


「グンナルってもしかして、ラセツさんを倒したって噂の?」

「んなわけないだろ?どうせハッタリだろ?」

「でも、確かラセツさんの推薦枠の出場者だよな?」

「いやいや」


どうやら、未だにグンナルがラセツに勝利したという話は信じられていないようだ。そこら中でグンナルの噂をしている観客を前にラセツは嬉しそうな顔をしていた。


「ふふふ、見ておれグンナルの実力で皆の度肝を抜いてやれ」


どうやら皆の反応を見るのが相当楽しみの様子。そして次々と選手の対戦カードを読み上げると巨大モニターが出現し対戦表が映し出された。グンナル、カワキ、センシュウはいい具合にバラけており、準々決勝までは当たらないみたいだ。


「それでは皆様一度控室に戻ってください。30分後グンナル選手とタキマロ選手は準備を整えてステージに来てください!さあ、白熱した試合が楽しみだぜ!!」


元気なアキナの指示に従ってグンナル達がステージから降りる。




いよいよ、試合の火蓋が切れようとしていた。

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