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ダンジョン作ったら無理ゲーになりました(旧)  作者: 緑葉
第九章 カグツチ騒乱編
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156話 老が嘆いたので若がメンチ切りました

カグツチの都、ミカヅチに到着してから二日目。日もまだ登っていない早朝にラセツの部下たちが続々と到着し、ぬらリ館の前は大量の荷馬車の行列ができていた。


「長、おまたせしました・・・物資は全て運び込みました」

「ご苦労だったな、ボダイ。道中に不審な輩とかはおらんかったか?」

「いえ、最大限の警戒で進みましたが、拍子抜けするほど何事もありませんでした」


ボダイからの報告を聞きラセツは少し疑問に感じるが杞憂であったと考えボダイの肩を叩く。


「そうか、とりあえずご苦労だった。できれば旅館で休んでもらいたいが今日から忙しくなる。すぐに準備にとりかかってくれ」

「・・・御意」


ボダイはそう言うと部下たちに支持を出し始め馬車を移動させる。全ての馬車が移動されるのを確認したラセツはゆっくりと太陽が登る姿を眺めた。


「さて・・・忙しくなるぞ!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ぬらり館での朝食は食堂で自由に食べられる形式になっていた。


「まさか、コウキさん達もここに泊まっているとは・・・すごい偶然ですね」


浴衣姿のセレナは上手に箸を持ちながらTKGたまごかけごはんを食べていた。


「・・・・・・・・・・」

「コウキさん?」

「あ・・・そうですね。凄い偶然ですよね」


普通に考えたら西洋風のお姫様がTKGを食うという光景を見た時点で吹き出しそうになり、俺は笑いをこらえるのに必死だった。一方、ヒュウ達は見慣れているのか何事もないように目玉焼きに何をかけるかという論争を繰り広げている。


ちなみに俺は中濃ソース派。


「だから、目玉焼きにはマヨネーズだろ!スゲーんだぞ、マヨネーズは!何でも合うんだ・・・これこそ最強味付け!」

「何を言う!目玉焼きと言ったらカグツチ建国の時代から塩か醤油と決まっている!カグツチに入ったらカグツチ流に従え!」

「お前らな、たかが目玉焼きの味付けに何ムキになっているんだ」


呆れる才は淡々とTKGを食べながらツッコミを入れる。・・・・というか英雄様もTKGって・・・いや、TKGは悪くない、ただなんと言うか予想外と言った光景だった。


「コウキさん、どうかされましたか?」

「いや、何でもない・・・ところでセレナ達はこの後どうするの?大会までしばらく時間はあるみたいだけど」

「私達はこの後、繁華街へ向かいますわ。あそこにはギルドが出店するで店がいくつかありますので、その挨拶に」

「へぇ・・・さすが王族の方はしっかりしていますね」

「いや、言い方を変えればライバル店よりもしっかり稼いでこいって喝を入れに行くだけだ・・・金に関しては姫ほどうるさい人物はいないぞ」


俺がセレナに感心していると、足を引っ張るかのように才が彼女の本心を伝えた。


「っちょ!サイ!何を言っているのですか!私は純粋にギルドの創立メンバーとして、王族としてギルドの方たちがしっかり働いているのかを確認したくて・・・というか金にうる咲くなったのは昔あなたが散々私に財政の教育を叩き込んだせいでしてね!」


テオプア王国の暗黒時代・・・内乱が勃発していた時、才は幼いセレナにお金の流れについての知識を叩き込んだらしい。後でスイちゃんから聞いた話だと相当スパルタ教育だったらしく、純粋無垢だったお姫様が今のような性格になったのは才の教育が影響しているらしい。


地天流恐るべし。


「はいはい・・・まあ、そういうことだ。大会が終わるまで繁華街を中心に様々な店が出ている」

「そうなんだ・・・なあ、グンナルのエントリーを済ませたら俺達も繁華街を見てみないか?」

「それはいいですね・・・オリジンへのお土産とかも買っておきたいですし」


俺がタマモ達に提案すると同意してくれて、この後の計画に移りだした。


「そういうわけだから、ワイトとプラムはしばらくこっちで行動でいいか?」

「だったら、マヤも一緒に連れて行ってくれないか。俺もギルドのメンバーに仕事の話をしておきたいし、流石にその間、マヤは退屈するだろうし」


確かに・・・それに元々マヤちゃんがワイトとプラムを誘ったわけだし一緒にいさせるのが当然か。


「分かった・・・それじゃあ合流は武闘大会の会場ってことでいいか?何かあったら連絡を入れる」

「了解した・・・マヤ、話は聞いていたな?」

「分かったにゃ!」


マヤちゃんが元気よく返事をすると嬉しそうにウィととプラムを見た。昨日、二人の話を聞いていたがマヤちゃんは二人のことを相当気に入ったらしく、学校でも色々と教えてくれているらしい。


「ところで、ラセツはどうしたんだ?さっきから見えないが」

「ああ、ボダイさん達が早朝に来たらしく、今帝に連絡を入れているんだ」

「アイツも仕事熱心だな・・・せっかくの祭なんだしゆっくりすればいいのに」

『お前が言うな!』


才の思わぬ一言にその場にいた全員が心を一つにしてツッコミを入れる。


「コウキ殿・・・遅れてすみません、思ったより長話してしまいました」


そしてタイミングよく面目無さそうな顔をしてラセツが食堂へやって来た。


「あ、ラセツさん・・・いえ、大丈夫です。それより大丈夫なのですか?献上品だったらラセツさんも一緒に行ったほうが?」

「いえ、昨日の今日ですし。献上品は全て一度バクザン達が綿密に確認して渡される仕組みになっていますから、直接合う必要はありません」


まあそうだよね・・・むしろ昨日のように直接会うなんてことはレアケース中のレアだろう。


「ところで、何か計画を建てている様子でしたが、もし要望がありましたら遠慮なく言ってください」

「ありがとうございます。大会のエントリーを済ませたら繁華街を回ろうかと思いまして」

「おお、あそこはミカヅチの名所ですからな、俺が案内しますよ。マタタビ、卵かけご飯をくれ!丼ぶり大盛りで!」


「だから鯖は味噌煮込みだろ!」

「いいや!ここはシンプルに塩焼きでござる!」


・・・・まだやってるよこの二人


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

繁華街


「ッスゲー!これは驚きだ」


繁華街に到着すると、オリジンの商店街エリアの10倍はありそうな広い大通りに屋台が行列していた。歩行者天国を想像させるような場所でありどこか懐かしい気持ちになる。


「ガハハ!これぞミカヅチの名所!テンドウです!この道を真っ直ぐ進めば武闘大会の会場となっています」

「へぇ・・・ってことはあのでかい建物が会場って訳ですか」


俺が真っ直ぐ指を指すとそこにイフウ城にも負けない立派な建物があった。


「ええ・・・では参りましょう」


ラセツが先導し、俺達が会場へ進むと急に周りからの視線が集まりだした。始めはラセツの巨体で視線が集まっているのかと思ったがそうではないらしい。人々の目が妙に輝いているのが後々になって気付いた。


「あの・・・もしかして、ラセツ様ですか?前大会の優勝者の?」

「ん?そうだが?」


そして一人の男性が恐る恐るラセツに話しかけるとラセツが答える。すると周りの人たちが急に歓声を上げ始め、ラセツの周りを囲みだした。


「あ、あの!握手してください!」

「私も!」

「ラセツ様!どうか私の息子を抱き上げてください!」


まるでスーパースターが目の雨に現れたかのような人気っぷりに俺達は困惑する。しかし、等の本人はまるで慣れているかのように一人ずつ丁寧に対応していく。


「武闘大会で得られる名誉・・・こういうことか。物凄い人気っぷりだな」

「グンナル・・・アンタが優勝したら、あそこにいるのはあんたよ」

「優勝するつもりだが、あれは勘弁だな」


タマモはからかうようにグンナルにいうとグンナルはやや引きつった状態で返した。正直オレもあんな風に囲まれるのは苦手だな。


「大丈夫です、コウキ様もオリジンではあれ以上に人気ですから!」


タマモは何か勘違いしているのか、俺にフォローを入れる。そしてラセツのファン対応が終わる気配が無くどうしたらいいものかと思っていると後ろのほうから警備兵らしき集団がやって来た。


「コォラアア!!誰だ通行の邪魔をしているのは!」


まるで大砲でも打ち込んだかのような爆音の叫び声を放った男性。見るからに歴戦の兵士って感じの老兵だ。なんとなく体格がウィリアムに似ている気がする


「おお、カワキじゃないか!久しいな」

「ッチ、ラセツお前だったか・・・過去の栄光にでも浸っていたか?」

「俺はただ俺を慕ってくれている者たちへ親身に対応しているだけだが?お前さんは相変わらずカリカリしているな・・・そんなんだから、嫁もできず弟子達も逃げ出すんだ」


とても酒呑童子が言うようなセリフではないが、ラセツは怒りの形相で睨みつけているカワキという男性をなだめている。


「カワキって、もしかして将軍カワキ?!」

「いかにも!カグツチの守護神!雷将のカワキとは俺のことだ」


いや、そんな異名までは聞いていませんが・・・というか、さっきの怒号といい、怖い顔といい、雷将というより口うるさいカミナリオヤジだな。


「ちなみに前大会では決勝戦で俺と戦った相手だ。カワキ、お前さんは今回も出場するんだよな?」

「当然だ!今年こそ雪辱を果たすと決めていたのに・・・・・・・何故だ!何故お前が出場しないんだ!」

「だから言っただろ?年を取って力が衰えたから引退だと」

「っざけるな!お前38歳だろ!!俺は50だ!」


え?ラセツ40もいっていないの?!外見はカワキと同じ50くらいなのに、妖人族の成長速度って人間より早いのかな?それとも単にラセツふけ顔なだけか。


「ああ、悪い悪い・・・とにかくだ、全盛期だった頃の力はもう出せん。代わりと言っては何だがこのグンナルが出場する」


ラセツは嬉しそうにグンナルの背中を叩くとカワキはグンナルに睨みつける。


「こんな小僧がお前の代わりだと?」

「不服か?センシュウやカワサギを含め、新たな世代を代表するに持って来いな人材だと俺は考えているが」

「平和な世の中で生きているようなガキ共が新たな世代だと?・俺は俺の力でカグツチを支える・・・こんなガキ共に何ができる!期待するくらいなら俺は己の力を磨くだけだ」


カワキが見下したように俺達・・・特に年少組達を見るとワイト達は不満そうにカワキを見る。流石に俺も今の言葉にはカチンと来たな。


「おい、オッサン・・・随分と言ってくれるじゃねえか?」

「なんだ小僧?」

「・・・さっきから聞いていりゃ、随分言ってくれるじゃねえか?ガキが何ができるかって?少なくともこいつらは大好きな人たちのために、毎日頑張っているんだ!テメェみたいな奴が知らないで評価してんじゃね!俺はそういう奴が一番キライなんだよ!」


珍しくグンナルが感情的になってカワキに怒鳴りつける。というかグンナルのやつ、カグツチに来てからかなり感情的というかアニキ感が出ているような気がする。


「ほう、ならそこの白髪の少年は何をした?国のために畑仕事でもしてくれたか?芝刈り草むしりでもしてくれたのか?」


ああ、ヤバイ・・・久々に頭が真っ白になりそう。タマモとランカは今にも飛びかかりそうなマヤを必死に止めている。


「その辺にしておけ、カワキ・・・それ以上、俺の客人を侮辱するのであれば許さんぞ?」

「代わりにお前が戦ってくれるならそれはそれで構わんが。言っておくが俺はあの時よりさらに強くなっているからな!」


そう言い放ちカワキの周りから闘気が溢れ出す・・・己の力を磨き続ける・・・・その言葉の意味がなんとなく理解できた。ラセツに敗北してから血がにじむような努力をしてきたのだろう。


「・・・小僧、推薦枠をラセツに返上するなら今のうちだぞ・・・ヤツが出たほうが大会は盛り上がる!」

「冗談よしてくれ。俺が目指すのは優勝だ・・・お前の都合なんかしらねえよ。アンタが武闘大会に出場する以上、俺はアンタを踏み台としか考えていないからな」

「・・・生意気な口を・・・・いいだろう、生意気な小僧に厳しさを教えるのも大人の役目だ」


そう言い放ち、カワキは真っ直ぐ会場の方へ向かった。そしてその光景を見ていた者達は一斉に歓声をあげる。


「スゲー!あんたスゲーよ!あのカワキ将軍に一歩も引かずにあんなこと言えるなんて!」

「俺もあれ聞いてマジカチンと来たが、君の言葉を聞いて心が動かされた!俺絶対応援するから!」


なんかしあいが始まる前からグンナルファンが出来上がった様子だがこれはこれで収まったと言えるのだろうか?


「あの・・・コウキ様、俺何かマズイこといいましたか?」

「え?」


グンナルは何が起きたのかわからない様子で俺に尋ねる・


「言ったも何も、あなたカワキ将軍相手に喧嘩腰で宣戦布告したのよ?覚えていないの?しかも、かなり生意気な口調だったわよ?」

「え?マジ?なんかカワキ将軍が凄くむかつくことを言ったのは覚えているのですが、その後から急に記憶が曖昧に」


おいおい大丈夫か?


「はぁ・・・言ったからには仕方ない。グンナル、ワイト達が馬鹿にされたんだ、あのカワキには絶対に勝てよ」

「は!もちろんです!」


ようやくいつもの調子に戻ったグンナル。俺達はそのまま会場を目指しながら大通りを歩いた。

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