153話 宴会をしたら裏事情を聞かされました
帝の部屋で行われた宴会はただひたすらラセツの豪快な笑い声がBGMとして響いていた。
「ガハハ!飲め飲め!」
帝に対しても容赦なく酒を飲ませるラセツ。しかしそれに対抗するように帝も中々の飲みっぷりだった。
「ラセツ!これは美味いな!今までお前が持ち込んだ酒も美味だったがこれは格別に美味い!」
そんな風に絶賛しながら、センシュウが運んでくる料理を摘んでいる。
「さあ、皆さんもどうぞ」
「ありがとう・・・ところでセンシュウは明日の大会に出るのか?」
「ええ・・・ミカヅチの代表の一人として」
「大会の事、知っていたら教えてくれないか?武闘大会ってことだから武術を競い合うのであっているよね?」
「ええ。参加者32名によるトーナメント式です。カグツチの各地で行われた予選大会を勝ち抜いた猛者達が明日の大会に集結しその武を競います。確か異国では「ころしあむ」というものと同じとラセツさんから聞いています」
トーナメント式でコロシアムと同じか・・・なら特に心配することは無さそうだな。後は参加者の実力だが、予選を勝ち抜いた猛者か・・・これはグンナルでも苦戦しそうだな。
「何でも、参加者の殆どがエイミィ様のダンジョンで修行し実力をつけてきた者たちだそうで・・・」
あ・・・なんか余裕な気がしてきた。
「へ、へぇ。ダンジョンか・・・センシュウは行ったことはないのか?」
「自分は帝様をお守りするという役目がありますから。国を離れるわけにはいかないのです」
カグツチ出身らしき冒険者達はこれまで何度か見たことがあるが全員グラムに返り討ちにされていたな。選手みたいな若い冒険者が大半だったけど彼は見たことがない。
「そうか。センシュウだったら多分ダンジョンでもかなりいいところまで登れると思うが」
「皆さんはダンジョンに挑んだことがあるのですか?」
あるというか・・・そこに住んでいるのですが。
「まあね・・・」
この流れは良くないな。何か話題を逸らさいないと・・・・
「ところで、センシュウさんは何故武闘大会に出場されるのですか?名誉というのもあるかと思いますが、見ている限りあなたはそういうものには興味が無さそうですが」
俺の気持ちを察したのかタマモがすぐに話題をずらしてくれた。
「ええ・・・確かに武闘大会に出場することは武人として誇りあることです。自分の実力を知る良い機会だとも思っています。ですがそれよりも自分は陰陽師協会の方たちを優勝させないために参加したいのです」
ん?陰陽師協会に勝ちたいってことならなんとなく分かるが、優勝させないってどういう意味だ?
「それはどういう意味ですか?」
「あ・・・すみません。今のは忘れて『構わんさ』・・・帝様?」
センシュウがすぐに話を変えようとすると、帝がこっちの方へやって来た。
「もとより、君たちを呼んだのはそれが本題だからな」
酒をあんなに飲んでいたはずなのに顔色変えず話を進める帝。そしてラセツも真っ赤な顔をしながらも鋭い目つきで帝を見ていた。
「ここ最近、陰陽師協会の動きは活発になってきている。妖怪退治だけならまだしもカグツチの民でもある妖人族にまでその冷酷さが向けられるようになってきた。帝としてこれは見過ごすことはできない。しかし、陰陽師協会がこれまでカグツチを支えてきた実績も事実・・・陰陽師協会の思想に感化されている者達が続出しておってな・・・余の息子もまたその一人だ」
「なるほどな、お前のとこのヒダカに地位を渡さないのはそれが理由か」
ラセツがそう言うと、ヒリュウは残念そうな顔で肩をすくめる。実の息子が親友の敵側についたとなれば酷い板挟みだと思った。
「アヤツは優秀だ・・・だが陰陽師協会側についている以上、余は好き勝手にはさせたくない。万が一にも妖人族を追放するなんて宣言でもされたら、ラセツたちの立場がなくなる。これは親友としてだけでなく現帝としての考えだ」
「それで武闘大会で優勝を阻止ということですか?今更なのですが、武闘大会ってそんなに重要なのですか?」
20年という長い間があるとはいえ、少し飛躍しすぎなきがするんだが。
「カグツチの武闘大会は言うなればカグツチを担う次世代を誕生させる儀式。初代帝が考えられたものでな・・・その大会で優勝したものは栄誉だけでなく、確固たる地位を授けられるのだ。ラセツもまた前大会で優勝し、マサカの領主となったからな」
「・・・そんな大切な儀式によその人間が参加してもいいのですか?」
「構わんさ。もとより強き者を集め力を証明することがこの武闘大会の本質であるからな。強き者と戦い成長させること」
なるほどな・・・これは思ったよりも面倒なことになってきたぞ。正直ラセツ達が関わっていなかったら断りたいことだ。
「万が一、陰陽師協会が優勝でもされたら次世代を担うのは陰陽師協会ということになる。帝として頼みたい・・・どうか余の友人を救ってもらえないだろうか?」
そう言って帝が頭を下げると、センシュウも下げだす。なんと言うか、カグツチに来てから頭を下げて頼まれること多くないか?それが風習なのだろうけど。
「グンナル・・・参加するのはお前だ。お前が決めろ・・・俺はお前の考えに尊重する」
「・・・俺はもとよりこの武闘大会に参加するつもりです。そして、優勝を目指す・・・考えは代わりません」
グンナルがそう力強く答えると帝は嬉しそうな顔でこちらを見た。
「ありがとう!・・・心から感謝する!・・・ではさっそく!グンナル君をカグツチの住民に登録しよう!」
「「「「はあああ?!」」」」