151話 準備を進めていたら帝から呼び出されました
ラセツとの問題も解決(?)した俺達はその後、明日向かう都への準備にとりかかった。っと言っても、準備が必要なのはラセツであって俺達は特に何もすることはないのだ。
ラセツの屋敷の前には大量の馬車が並べられており、それぞれに大量の食材や祭の市場に出荷する特産品などが積み込まれている。てっきり馬系の妖怪が引くのかと思ったが見たところ普通の馬だった。そこは朧車でしょ・・・とツッコミを入れたのは心の隅に閉まっておこう。
そんなことを考えているとラセツの前にモニターが出現し誰かと話しているのが見えた。声はよく聞こえないがラセツの顔は少し驚いた様子で隣にいたボダイなんかは硬直した状態だった。そして気まずそうな顔で俺達を見る。
「ラセツさん?どうかしましたか?」
「コウキ殿・・・大変申しにくいのですが今から都に向かう準備をしていただけないでしょうか?」
「え?武闘大会は明日でしたよね?それに開会式は夕方だから朝出ても余裕のはず・・・」
俺はそう言いながらモニターを開き地図を見せる。マサカと都の座標を確認するとかなり近く、普通の馬車でも3時間程度で到着できる距離だ。ちなみに狼車なら1時間以内だ。
「ええ・・・そういう予定だったのですが。都にいる帝が是非グンナルに会いたいと」
「帝?!・・・なんで帝が?!」
帝ってあれだよな?この国で一番偉い人だよな?何でそんな人がグンナルに会いたがっているんだ?というか、何で帝がラセツに直接連絡を入れてくるんだ?
「実は俺と帝は古い友人でして、時折愚痴を言ったりして連絡を取り合っているのです。しかしヒリュウの奴、相変わらず人のことを考えないアホだ」
帝をアホ呼ばわりしてるぞこの人。
「仕方ないですよ、長が散々グンナル殿の自慢話をするからです。昨日だって席を外した時に帝様に連絡を入れてグンナル殿のことを話していたじゃないですか。知ってますよ、廊下で帝に連絡を入れて『今グンナル殿達と宴会中だ!酒が美味すぎる!』って言ってたじゃないですか」
「仕方ないだろ!自慢したかったんだから!」
何やってるんだこの人は!ってか人のこと考えないのはお互い様だろ!なに帝にSNSの呟きみたいに連絡入れているんだ!
「はぁ・・・それで、帝はグンナルに興味を持って会いたいと?それなら明日でもいいじゃないですか?明日ならグンナルも武闘大会に出場しますし大会で見れますよ」
「そうしたいのは山々なのですが、帝は武闘大会には来られないのです。あの方はかなり用心深い方なので人前には滅多に出ないので」
なるほどね・・・まあ、帝となれば命が狙われるって可能性もあるからな。しかし、国の一大イベントに参加できないのか。
「まあ、そういうことでしたら。俺は構いませんが・・・グンナルはどうだ?」
「自分はコウキ様に従います・・・それにコウキ様とカグツチの都との接点を得られるのは好機かと」
はは・・・グンナルそんな真面目なこと考えなくていいんだぞ?
「では、決まりですな。ボダイ、商品のことは任せるぞ。一応カワサギも残していく」
「っは、必ず品を無事に届けます。長もお気をつけて」
そう言ってボダイは一礼した後部下たちに指示をしだした。
「ラセツさん・・・荷物とかそこまで無いのでしたら俺達の狼車に乗って行きませんか?」
「コウキ殿のですか?それは大変興味深いですが、俺なんかが乗れるのでしょうか?」
「大丈夫です。入り口はギリギリですが中はかなり広いので・・・オウカも大丈夫だよな?」
「ええ・・『【重力魔法】の刻印が入っとるから、何人乗ろうが引っ張る重さは変わらんで』とゾア様が仰っていました。」
そういえばそんなことを言っていたな・・・ってかゾアの口調まで真似せんでええよ・・・あ、またうつった。
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「うほおお、これは素晴らしいですな!」
狼車の内装に感動しているラセツは目を耀かせて見渡す。
「まあ寛いでください・・・オウカ、こっちは大丈夫だから出発していいよ。ランカとグンナルは見張りを頼む」
『了解しました。』
俺はそう指示した後はソファーにくつろぎながら外の映像が見えるスクリーンを映しだした。タマモは無言で俺の隣に座るのは言うまでもない。
「これで外の様子が見れます」
「・・・エイミィ様との関係は知っていましたが改めてコウキ殿達の文明がいかに進んでいるのかを理解しました」
文明って・・・ぶっちゃけ、皆好き勝手に作ったりやりたい放題やってできた結果なんだが・・・いや、それもまた文明か。これからオリジンはどんな文明を刻んでいくのか、それはそれで楽しみだ。
ラセツもようやく緊張がほぐれたのかソファーにくつろぎながら外の景色を堪能していた。それからしばらく俺達はお互いの国のことを話し、今後どういう関係でいるかを計画した。流石にラセツの一人だけでは国としての交易は難しいが帝に口添えして良い関係に持ちかけると気合を入れていた。
『コウキ様・・・前方に都市らしい影が見えました』
「な!出発してからまだ30分ぐらいしか経っていないぞ!」
30分か・・モニターで確認すると確かに都らしい建物が見え始めた。オウカの奴張り切ってスピード上げたな・・・この様子だとあと10分程度で到着しそうだな。
「オウカ、スピードを落としてくれ・・・あまり早すぎると警戒される。」
『っは!』
「ラセツさん、一応あなたが乗っていることを照明したいので出る準備だけしておいてください」
「あ、ああ」
未だに信じられない様子でラセツはそう言って頷いた。
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「止まれ!そこの獣人!どこの者だ!」
門兵らしき集団が一斉にオウカ達を方位する。一糸乱れない行動は見事と言いたい。
「そう警戒するな。この者達は俺の大事な客人だ・・・そして帝の客人でもある」
「ラ、ラセツ様!・・・これは、大変ご無礼を!上の方からラセツ様が来ることは伺っています!開門!開門!」
兵士の一人がそう叫ぶと、まるで巨大からくりでも作動したかのように重々しい門が開きだす。
「しかし、ラセツ様・・・予定では後2時間くらい後かと思っていましたが。もしやすでに近くまで?」
「ん?まあ、そんなところだ・・・これ、マサカの土産だ。仕事が終わった後にでも皆んで楽しめ」
ラセツはそう言ってモニターから酒樽を出現させる。
「「「ありがとうございます!」」」
兵士たちは声を揃えてラセツに頭を下げる。そして俺達はそのまま都の中へ入っていった。
「ラセツさん、今の人たちは知り合いですか?」
「ああ、あいつらの上司を昔面倒を見たことがあってな、その繋がりで何度か会っているんだ・・・さてコウキ殿、ご覧ください・・・ここが我が国カグツチの都、『ミカヅチ』です!」
そう言ってラセツの手の先にあるのは広大な大通りに市で賑わう人たち・・・正直、これほど立派な道は見たことが無い・・・百人くらい横に整列して行進できるくらいあるんじゃないか?
そしてしばらくすると、何やら派手な鎧を身に纏った男性が数名の兵士を引き連れてやってくるのが見えた。
「よお、バクザン。久しぶりだな」
「ラセツ、予定より早くないか?部下から聞いた時は耳を疑ったぞ・・・幽体離脱して現れたと言ったほうがまだ信じられたが」
「正直、俺は目を疑っているがな・・・まあ、見ての通り足はあるぞ。それより、客人を連れてきた・・・いや、俺が連れてきてもらったが正しいのだが・・・ええい面倒だ、とりあえずヒリュウのところへ連れて行ってくれ。正直この狼車だけでは目立ってしまう」
「分かった・・・では、そこの獣人と妖人族の方、我々に着いてきてください。イフウ城までご案内します」
バクザンと名乗る男性がそう言うと部下たちは狼車の周りを囲むように歩き出しやじうまとかが飛び出してこないように護衛してくれた。
「今の人がラセツさんが面倒見ていた人ですか?」
「いや、アイツとは腐れ縁でな・・・面倒見ていたのはもっと若いやつで・・・まあ、帝の所にいけば会えるだろう」
説明するのが面倒になったのか、ラセツはそう言ってソファーに寛ぐ。
そして、俺達はそのままバクザンについていきカグツチの城・・・・イフウ城を目指した。