149話 団子屋に行ったら鬼の好物でした
ラセツにマサカを案内された俺達は現在ラセツのお気にい入りの茶屋でのんびりと団子を食っていた。
「うまい!やっぱり団子はみたらし団子だよな!」
トロリとはちみつ色に輝くみたらし団子を見ながら俺は口に入れる。程よい甘みが身体に染みわたる気分になり実に美味い。
「コウキ様、こちらのきなこも中々」
そう言ってタマモがきなこ持ちを手に取り俺に渡そうとするが俺の手はタレで少しべとついているためそのままタマモが持っている団子を口に入れる。正直行儀が悪いと思ったがまあ、あまり人に見られていないしいいか。
俺がタマモのきなこを食べると彼女は顔を真っ赤にして背を向けながら何度も肘を動かす・・・何をしているんだ?うん、きなこも美味いな・・・ちょっと粉が多いからお茶が欲しくなるけど中々美味である。
「コ、コウキ様・・・こちらの抹茶団子はいかだですか?え・・えーと・・・・・あーんしてください」
そう言って彼女が抹茶団子を俺の口元へ持っていく。あれ?これってもしかして、お口あーんのシチュエーション?今更思ったが少し恥ずかしくなってきたぞ・・・まあ、両手はふさがっているし俺の選択肢は食うか食わないかの二択であり、俺は食うの選択肢を選ぶ。
「あーん」
っとまっちゃ団子を口に入れようとした瞬間、間に割り込んだクウによって団子は見事に消えた。
「クウ!あんたまたお邪魔を!」
タマモは激怒した様子でクウを追いかける。
「グンナルも食え・・・って」
俺はグンナルに団子を勧めようと見るとすでにグンナルの横には3皿くらい空になった皿が置かれていた。
「コウキ様、このきびだんごというのは美味しいですね」
「ガハハ、そうだろそうだろ?オバさん、きびだんごあと3皿追加」
ラセツも対抗するかのようにきびだんごを注文する・・・ってか鬼にきびだんごって。ランカもここの味が気に入ったのか店主に頼み込んで厨房を見学させて貰っている。
「・・・コウキ殿」
「ん?」
俺は呼び声がする方向に目を向けるとそこには三本足の烏が隣にいた。
これってまさか八咫烏?
「コウキ殿、私です。カワサギです」
カワサギって確か烏天狗種の・・・
「この烏は私のペットでして、こいつを通してコウキ殿に連絡を取っているのです。すみませんが、少しよろしいでしょうか?できれば長がいない場所で」
どういう意味だろう?
俺はとりあえずオウカと一緒に八咫烏についていく。グンナルとラセツは団子に夢中だし今がチャンスか。
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八咫烏に案内され路地裏に行くとカワサギとボダイが待っていた。辺りには所々御札みたいなのが貼られており鑑定すると防音結界の為の物らしい。
「コウキ殿、わざわざすみません」
「いえ、それよりどうしたのですか?」
「「先日はお見苦しい所をお見せして本当に申し訳ございませんでした」」
急に土下座をする二人・・・いや、確かに昨日は色々あったけどそこまでしなくても。
「いや、気にしていませんし。むしろラセツさんを止めるためとはいえ、グンナルがあんなことをしましたし」
正直、金棒振り下ろして沈めるのはやり過ぎじゃないかと思う。
「長はグンナル殿に出会ってから少し舞い上がっているのです」
「おそらく、グンナル殿をアキト様と見ているのかと」
アキト・・・そういえば昨日ラセツがグンナルを見てそう言っていたな。
「なあ、アキトって誰なんだ?あまり人のプライベートには踏み入りたくないんだがグンナルに迷惑がかかる以上、上司として知っておきたい」
俺がそう尋ねると二人はお互いに向き合い頷く。
「アキト様は長の・・・生まれてくるはずだった子の名前なのです」
「子供?・・・ラセツさん、結婚していたのですか?」
俺としてはそっちの方がビックリだ。
「ええ、奥様のセツナ様と幸せに暮していました。ですが20年ほど前、ラセツ様と我々はある妖怪を退治するために遠征に出ました。その時セツナ様には長との子を身ごもっていました、出産も間近でしたがどうしてもその妖怪は長でなくては退治できず。長は遠征の時もずっと子供の名前をつぶやいていました。男ならアキト、女ならミアと」
「ですが、遠征から戻るとセツナ様はお亡くなりになっていました。理由は出産による激しい体力の消耗と告げられ、遺体もすでに埋葬された後でした」
そんな過去が・・・ってか旦那をまたずに埋葬を済ませるってどういうことだ?
「埋葬が済まされたって・・・遠征はそんなに時間がかかったのか?」
「ええ・・・カグツチの歴史に残る大妖怪、土蜘蛛との戦いは長く続きました。多くの仲間たちが犠牲となりましたがなんとか封印することに成功しました」
土蜘蛛か・・・確か俺の知っているゲームでも強キャラ扱いになっていたな。
「しかし、夫の帰りをまたずに埋葬を済ませるとかちょっと変じゃないか?」
「それは・・・すみません、それは話すことはできません。」
「まあ、深くは詮索しないさ。それで子供は無事だったのか?」
俺がそう質問すると二人は沈黙する・・・マジかよ。
「子供も出産時に亡くなったそうでセツナ様と一緒に埋葬されました」
「・・・・・・・・」
それを聞いて俺はどう言葉を発すれば良いのか分からなくなってきた。
「グンナル殿は昔の長にそっくりなのです・・・外見とかではなく、その心意気、忠誠心、鬼種としての才能を持った妖人族」
「もし、長の子供が生きていたらグンナル殿ぐらいの年になっているかと思います・・・だからこそ、長はグンナル殿をアキト様と重ねているのかと・・・」
なるほどね、初めて会った時ラセツは泣きながら抱きついた。あれは死んだ子供と重ねて見たためか。やけにグンナルに執着すると思ったがその理由なら納得がいく。
「・・・それで、お願いがあります?」
「ん?」
「「どうか、グンナル殿を長に譲ってください!」」
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テオプア王国
地天邸
カグツチの武闘大会が開催される1週間くらい前、テオプア王国で日常の生活を取り戻した地天才はいつものように大量の書類に埋め尽くされた部屋で黙々と作業をしていた。
「才いるか?カグツチで行われる武闘大会のことなんだが・・・・相変わらずとんでもない書類の山だな」
ノック無しで部屋に入ったヒュウはその光景に見慣れているのか小言をいうだけで眉一つ動かさなかった。
「ああ、一応これでも半分は片付いているんだぞ?それで?カグツチがどうした」
「ああ、今度開かれる武闘大会を見に行くメンバーの件だがケイトの奴が欠席したいって言い出してな・・・これ、アイツからの報告書」
ヒュウは少し困った様子でケイトからの書類を渡す。
「なるほどな・・・まあ、優先度かららしたらこっちのほうが上だから仕方ない。ラセツとカグツチの帝には俺から連絡を入れておくが・・・しかし勿体無いよな?特等席を2つ余らせるのは」
数カ月前、テオプア王国で行われた立食パーティで才はラセツから武闘大会への招待状をもらっていた。もちろん参加者としてではなく賓客として武闘大会を見に行くため。
才は光輝も誘う予定で席を一つ多めに頼んでいたのだが、当の本人は別の方で席を確保していたことを後で知り、とりあえずと適当な知り合いを誘うことにしたのだがその適当な人物もまだ決まっていない。
「まあ、テオも色々と忙しいし仕方ないか。とりあえずラセツには俺から『ただいまサイお兄ちゃん!』・・・おかえりマヤ」
話の途中で元気よく扉を空け飛び込んできたマヤは猛ダッシュで才に飛びかかる。
「あのね!あのね!今日ワイトがね!凄いんだよ!」
「はいはい、落ち着け。クッキーがあるから」
「にゃ!クッキー!」
クッキーという単語で眼の色を変え更に積まれたビスケットクッキーに飛びつく。
「最近マヤの奴、学校に通うことが増えていないか?前は学校より仕事を優先にしていたのに・・・まあ、勉強も才が教えているから学力とかは問題ないんだが」
「良いことだよ。アイツには年の近い友達が少なすぎたんだ・・・最近じゃ学校から帰るといつもホワイトリーとプラム・グローブの話ばかりでな。マヤにとっては良い刺激だよ」
「・・・ふーん、お前も保護者らしくなってきたな」
「そうだ・・・マヤ。ホワイトリーとプラム・グローブと連絡が取れるか?」
「にゃ?・・・うん、フレンド登録したからいつでも連絡ができるよ」
「・・・参加メンバーは揃いそうだな」