147話 お好み焼きを食べたら大宴会になりました
ラセツに案内された俺達はまるで日本豪邸のような立派な建物の前に立っていた。
「ここが俺の家だ、まあ自分の家だと思って寛いでくれ」
そう言って家の門が開くと、ラセツの部下らしき妖人族達が出迎えてくれた。
『チワーッス!』
強面のオッサン達の大声挨拶・・・駄目だ、これを自分の家だと思いたくない。
「ラセツ親分、宴の準備はすでに整っています」
「おう!お前ら盛大に盛りあげろよ!今日は俺の大切な客人が来ているんだ!粗相な行動見せたらぶっ飛ばすからな!ボダイはいるか?」
「お呼びで長」
ラセツが呼ぶと強面集団の中からスッと赤肌の男性がやって来た。確かテオでラセツと一緒にいたダルマ種の妖人族の人だったな。
「俺はこれからコウキ殿たちを客室へ案内する、その間部下の指揮はお前に任せる」
「かしこまりました・・・お前ら!すぐに持ち場に戻れ!」
そう言ってボダイは威圧しながら部下たちに指示を出すと一斉に散らばる。
「あれ?そういえば烏天狗の人は見かけませんね」
散らばった人たちを見るがテオの時にいた烏天狗種の妖人族は見あたらなかった。
「ああ、カワサギですか。アイツなら今部下たちと稽古をしていますよ。アイツはマサカの代表ですから」
「マサカの代表ってことは・・・もしかして武闘大会に?」
「ええ、詳しい話は客室でしますのでこちらへ・・」
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客室に案内されるとなんと言うかザ・和室という感じでワビサビのある部屋だった。
「何もない部屋で申し訳ないですがどうぞお掛けください」
かなり大きめの座布団に座るとその柔らかさに驚いた。オリジンの技術でもここまで座り心地の良いものはそうそう無いだろう。
「それではまず武闘大会のことを説明します。カグツチにはマサカ以外にも多くの村や領地があります。各場所では武闘大会の予選会場が開かれ、その予選を勝ち抜いた者達がカグツチの都『ミカヅチ』の本戦へと出場できるのです」
「なるほど、ですがグンナルはその予選には参加していませんが何故本戦に出場できるのですか?」
「それは俺の出場枠ということで特別に出場できるのです。俺こう見えて前回の大会で優勝しまして今年も特別に本戦に出場できるのですがすでに冒険者を引退した身、代わりの者を出場させるという条件で今回は参加しないのです」
なるほど、つまりラセツは20年前の優勝者としてのシード権を持っておりそれをグンナルに譲った訳か。
「グンナルが出場できる理由は分かりました。ですができればそういう話はもっと詳しく伝えてくれれば・・・」
「いやーすみません。あの時は魔物騒動がありまして伝えるタイミングが」
そういえばそうだったな。
「まあ、参加できるなら問題はないか。グンナル・・・前回の優勝者の権利で出場しているんだ。しっかりとその強さを見せつけな」
「っは!」
グンナルの力強い返事を聞いて安心したのかラセツは嬉しそうな顔でグンナルを見る。
「それじゃあ、カグツチで行われた予選で勝ち抜いたのがカワサギさんってことですか?」
「そうだ、言っとくがアイツも強いぞ・・・グンナル殿も甘く見ていると痛い目あいかねませんから」
ニヤリと笑うラセツ・・・この人も色々と楽しみにしているみたいだな。
「ところで話は移りますが今日来たあの集団は?」
「ああ・・・お見苦しい所を見せて申し訳ございません。あの者達は陰陽師協会の使者でして、実はここ最近陰陽師協会の動きがかなり活発になっているのです。カグツチに住む妖怪を手当たりしだい対峙やら封印やらして・・・確かに妖怪は人を襲うのが多いです、ですが必ずしも全ての妖怪が該当するわけではありません。ここに住む妖怪を見れば分かりますが彼らは立派な住民なのです」
「それは分かります。今日見ただけでも妖人族も人間族も受け入れているように感じました」
「しかし、彼らはそれを受け入れようとしない。妖怪たちは全て排除する・・・そんな行動がここ最近目立ってきたのです」
まあ陰陽師といったら妖怪退治だもんな・・・その思想が現在暴走中ってところか。
「今回の武闘大会も妖怪たちが邪魔してくる可能性があるという理由で片っ端から妖怪退治をしているそうで・・・今日来た者達もマサカの妖怪を危険視して来たのです」
「そうだったのですか・・・」
カグツチも色々と問題を抱えているんだな・・・こういう時エイミィだったらどうするかな?
「まあ、これはカグツチの問題です。コウキ殿がどうこう出る必要はありません。是非武闘大会を楽しんでいってください」
俺が何か考えているのか察したのかラセツはすぐに話を切り替えて立ち上がる、そしてタイミングよくボダイの声が扉の方から聞こえた。
「長、皆様、大広間で宴の準備が整いました」
「うむ、ではコウキ殿。カグツチの伝統料理『ウルプノ焼き』を堪能してください」
・・・・・・・・・ウルプノ焼き?
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大広間に向かうとそこは縁側のあるだだっ広い和室だった。そしてラセツの部下達が座って待機していた。
「お待ちしておりました・・・それではこれより、カグツチ伝統料理、ウルプノ焼きを提供させていただきます。長、準備は整っております」
「うむ」
ボダイがそう言うとラセツにエプロンを手渡し中庭の方へ誘導する。
え?もしかしてラセツが作るのか?というか中庭にあるのって・・・
中庭を見るとそこに鉄板リングが用意されていた・・・・なんじゃこりゃ!
そして鉄板の隣には部下たちが大量の食材を運んできている。
「それじゃ!行くぞ!油用意!」
ラセツがモニターを操作すると靴底の部分がまるでモップのような髭の生えた靴に変わる。そして部下たちが桶に入った油を鉄板の上にぶっかけるとラセツが鉄板に飛び込みスケートのように滑りだす。
「温度も問題なし・・・まずは生地だ!」
ラセツは部下が三人ほどでやっと支え垂れる巨大なボウルを片手で持ち上げ白い生地らしきものを鉄板にかける・・・形は薄い円形。
そして生地の上に薄い何かをかけ始める・・・匂いからして魚の節だろう。
そして次の瞬間俺達は次々とやってくる部下の行れるに驚く・・・というか、大量の『千切りキャベツ』の入ったバケツを抱えた強面集団の行列を見たら誰だってビックリするだろう。
まさにバケツ作業・・・ラセツの部下たちは次々と千切りキャベツをラセツに手渡し、ラセツはその千切りキャベツを生地の上にかける。次々とできていくキャベツの山・・・見る方向次第ではラセツの巨体すら見えないほどだ。てっぺんにはギガンティスピッグの肉とロック調の卵も乗っけられている。
「それではコウキ殿!お見せしましょう!俺の一大芸。秘技!『天地反転』!」
ラセツは巨大なヘラを持ち、生地をひっくり返す。
そう、カッコイイ技名とは裏腹にただ生地をひっくり返しただけだ。だがそのひっくり返した生地はまさに天地が逆転したかのように形を殆ど崩すこと無くひっくり返ったのだ。
その光景を見た部下たちはラセツに向けて歓声をあげる・・・うん、凄いのは凄いんだが。
俺は微妙な顔を必死で堪え拍手するが、タマモやグンナル達は感心したように拍手をする。特にランカは料理人としての何かい刺激されたのか次は自分が料理したいという風に尻尾を振っている。
というかこれ、超巨大なお好み焼き(広島風)じゃないか!
「コウキ殿。どうぞ召し上がりください。マサカ秘伝のタレを付けて食べると格別ですぞ」
あれが呆れている間にラセツは大皿に移した巨大お好み焼き・・・この世界ではウルプノ焼きの一部を俺に渡す。そしてグンナル、ランカ、タマモ、オウカと渡って行く。
「それでは皆さん、いただきます」
『いただきます!』
ラセツの掛け声と共に部下たちもいただきますを言う。
あの鉄板に何か刻印魔法が施されているのか、巨大食材はしっかりと火が通っており、味も俺の予想通りの美味いお好み焼きだった。
「美味い、マジでウマ!」
久々に食べるお好み焼きの感動もあってかあっという間に食べてしまう。
「ガハハハ、そうかそうか!どんどん食ってください!よっし!次はイカ玉を作るぞ!食材の用意しろ!」
『ウッス!』
上機嫌のラセツはそのまま再び鉄板リングへと上がる。気がつけばラセツの部下以外の住民たちも集まっていた。
「今日は良い日だ!よっし、お前ら今日は徹底的に楽しむぞ!」
その日、マサカでは例年見ない大宴会が開かれ武闘大会の予選以上に盛り上がったと言う。