146話 妖怪の街についたら陰陽師集団に遭遇しました
ラセツに案内され俺達はマサカの大通りを歩いていた。
「どうですかな?マサカの風景は?」
「ええ、なんと言うか歴史を感じさせる建物が沢山あります」
こっちの世界に来る前、映画村に行ったことがあるがあれより断然こっちの方がリアルだ・・・あ、こっちもリアルなんだよな。
歴史を感じさせるというのもあるが大通りを見渡すと俺のように日本人顔の住民が沢山いる。正直、異世界に来たんじゃなくてタイムスリップしたんじゃないかと思うくらいだ。
「あ、ラセツ様こんにちは」
「おお、ろくろ首元気にしているか?今日は随分と首が長いな」
前言撤回、やっぱりここは異世界だ・・いや魔境だ
「ラセツさん・・・あれって」
「ああ、妖怪のろくろ首だ」
「妖怪って・・・妖人族じゃないのですか?」
「ああ、ここは別名『妖怪街』とも呼ばれておってな無害な妖怪たちも住民として暮らしておるんだ。妖人族も妖怪も大差ないからな」
ガハハと笑うラセツ。確かによく見ると妖人族や人間以外にも妖怪が普通に歩いている。
「君の狼と同じさ。心を通わせられるなら共存は可能・・・未だ妖怪を危険な存在と見ている者達もいるがな」
そう言うとラセツは一瞬寂しそうな顔をするがすぐに元に戻る。
妖怪と妖人族と人間が暮らす街か・・・よく考えてみれば俺が目指す国ってのはこれの規模をさらに広げたものなんだよな。今後のことも考えて色々と研究しよう。
そんなことを考えていると急にタマモの鞄がゴトゴトと動き出す。
「っちょ、クウ。もう少しおとなしくしていなさい!」
クウって確かタマモがつれている霊獣だよな?まさかずっと鞄の中に?
「なあタマモまさかずっとその鞄の中に入れていたのか?」
「はい、外に出すとコウキ様にべった・・・ではなく、迷惑をかけてしまいそうなので軽い封印術で眠っていたのですが・・・どうやら自力で解除しつつあるようで・・・」
面目なさそうにいうが、それって動物虐待にならないか?
「構わないよ。ずっと中にいたらストレスが貯まるだろうし」
「分かりました・・・『解』」
タマモが何か任じると鞄がまるで爆発したかのように勢い良く小さな子狐がタマモの顔面にタックルした後華麗に着地する。
「あった!クウ!あなたね!」
タマモがクウに睨みつけるがクウな何もなかったかのように俺にじゃれつく。
「ほれほれ、ずっと閉じこもっていたから運動したかったんだろ?」
俺が軽くクウの首元を撫でるとクウは嬉しそうに尻尾をふる。そしてそれを羨ましそうに見るタマモとオウカ。
「ほほう、これは驚いた。まさか伝説の空狐を間近で見ることができるとは」
ラセツは関心シタ様子でクウを見る。
「珍しいのですか?」
「うむ、カグツチの伝説に登場する狐で、詳しいことは知りませんが災から守る良き存在と伝わっているのです」
へー、狐の妖怪って結構人様に迷惑をかけたり悪名高いのが多いからなそういうの聞くと少し珍しく思う。妲己とか玉藻の前とか・・・・ん?タマモ?
俺は不意にタマモを見ると彼女は顔を赤らめて眼をそらす・・・なぜ?
「さて、珍しい空狐を見れたし。俺もマサカの良い所を見せますかな!」
張り切ったラセツは更にテンションを上げて大通りを歩く。
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道を歩いていると露店などがちらほら見えるようになってきた。おそらく市場だろう。
「随分と外国のものとか売られていますね・・・あれって確か聖・メゾン王国産の布ですよね?あっちにはテオの玩具が売られていますし」
「お気付きになられましたか」
ドヤ顔で自慢するラセツ・・・何故ドヤ顔?
「ここマサカはカグツチの都『ミカヅチ』の門という役割を担っていましてな。都に運ばれる外国の商品などはここで確認するのです。怪しい物や密輸品などを出されては困りますからな。あと露店を出す場合の申請や支払いなどもここで行われるのです」
なるほど、税関みたいなものか。
「なるほどね・・・じゃあここにいる商人たちは?」
「殆どが場所の都合で出せなかった者達が仕方なくここで開いているのです」
なるほど都で店を出せないならここで少し稼いだほうが良いと判断したわけか。商品の数が多いからして都で人も受け仕様と考えた輩がいざ向かったら人数オーバーでできませんでしたという末路か。
「そういえばコウキ殿は商人でしたな。もし店を開きたいのでしたら行ってください。俺の権限で店1つ分位なら問題なく確保できますから」
「ありがとうございます。ですが今回の目的はグンナルの試合を見ることです。店を出すわけではないので」
「そうでしたな。しかし今年の大会は盛り上がりますぞ・・グンナル殿だけでなく世界中の猛者にカグツチの優秀な人材も参加しますから」
「そうなんですか?ちなみに有力な人っていますか?」
「そうですな・・・カグツチですと武将カワキ、妖人族冒険者のイブキ、帝の護衛を務めるセンシュウが優勝候補に上がっています。後は・・・陰陽師協会も確か参加すると言っておったな」
陰陽師って・・・まあ妖怪がいるんだから妖怪退治専門の人がいてもおかしくないか。
「陰陽師って妖怪退治を職業にする人ですか?」
「おお、知っているのですか。その通りです。陰陽師協会は過去に幾度も都を襲う妖怪たちを封印してきました。その功績もあって陰陽師協会は帝から絶大な信頼を得ているのです」
へぇ・・・じゃあ御札とか印を結んだりして妖怪退治をするのかな?
「まあ、それも過去の栄光と言いますか・・今でもその実力派あるのですが・・・・・」
ラセツは急に声に覇気を感じさせなくなりしたを向く。すると急に住民たちが慌てた様子で離れていくのが見える。
「何かあったのですか?」
「はぁ、またあいつらか」
ため息を吐きながらガランと静まり返った大通りに睨みつけると白装束の集団が現れる。なんか見るからにどこかの宗教団体って感じがする・・・というか見た目が思いっきり俺の知っている陰陽師なんだけど。
そして集団の先頭を歩いているのは位の高そうな坊さんだった。
「これはこれはラセツ殿。今日は客人の案内ですか?」
「そうだが・・・あいにくおたくらを相手にしている暇は無い。お互い武闘大会に向けて忙しいはずだが?」
「ええ、忙しいですよ。あなたが承諾してくれないおかげで」
「何度も言っているが、マサカで暮らす妖怪は無害だ。お前たちに手渡すつもりはお前さんの頭だよ」
つまり毛頭ないってことだな・・・っぶ!ヤバイ、思わず笑いそうになった。陰陽師集団も何名か噴き出しているのが見えるがすぐに笑っていない陰陽師にド突かれて戻る。そして肝心の坊さんは見事にゆでダコ状態になっている。
「貴様!妖怪の前に貴様を対峙してくれよう!妖人族も妖怪の仲間だ!」
怒り狂った坊さんは錫杖を構えて叫ぶ。
「やめておけ。武闘大会も近いこんなくだらないことでお互い台無しにするわけにはいかんだろ?・・・まあ、お前たちが不慮の事故に会ったと伝えれば良いのかもしれないが」
ラセツは不敵な笑みを見せると周りの空気が急に重くなる。
「・・・な」
気がつけば大通りの建物の上には大勢の妖人族や妖怪達が囲んでいた。
「いつの間に!」
「ここをどこだと思っている?『妖怪街』だぞ?貴様らなんぞこの街に入った時点で憑いておったわ」
「っひ!」
弱気になっている陰陽師集団の足元に何匹かの犬みたいな妖怪が走りだし陰陽師の何名かが腰を抜かす。
あれって確かすねこすりだよな。
「て、撤退だ!ラセツ!武闘大会では貴様が大恥をかくことになるぞ!後悔するんだな!」
まさに負け犬の遠吠え。
情けない姿を見せながら陰陽師集団が撤退していく。
「はぁ・・・やれやれ。あんな若造集団をよこすとは陰陽師協会も何やら動き出しているみたいだな」
やれやれとラセツはため息を付きながらこっちを見る。
「改めてコウキ殿、グンナル殿、そしてお連れの皆さん」
『ようこそ、『妖怪街・マサカ』へ!』
妖怪・妖人族たちによる歓迎。
人生初めて、怖さとワクワク感を覚えた瞬間であった。