145話 カグツチに到着したら予選は終了していました
「コウキ様、お腹は空いていませんか?」
「いや、さっき食べたからまだ空いていないよ」
「コウキ様、何かお飲み物はいかがですか?」
「いや、飲み物も今はいいかな?」
「コウキ様・・『なぁ、タマモ」・・はい!」
俺の隣でいつもよりテンションの高いタマモは元気よく返事をする。
「もう少し落ち着いたらどうだ?なんかこの会話出発してからもう10回ぐらいやったしたと思うが・・・」
「そうでしょうか?」
俺は脳裏にある記憶から掘り出してタマモが俺に話しかけてきた回数を思い出す。
うん、10回どころじゃないな。
「はぁ・・・一応今回の主役は俺じゃなくてグンナル何だけどな」
俺は外で警備をしているグンナルに眼を向ける。マジックミラーで中の様子は見れないはずなのに何故かグンナルは俺の視線に気付いたのか『怪しい者はいません』とアイコンタクトで伝える。
「アイツも大会に向けて休めばいいのに」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
20年に一度、カグツチで行われる武闘大会。俺・・・ではなく、グンナルはラセツという妖人族の招待という形で武闘大会に参加することになった。
カグツチには前々から興味があり、是非観光したい国の一つだったので良い機会だと思い俺も付き添いという形で向かうことになった。
つまり俺はおまけなのだ。定食で例えるならおかずではなく付け合せの漬物みたいなもの。メインであるグンナルが本来個々で堂々と座って大会に向けて体力を温存しなければならないのだ。
なのにオリジンを出発してから三日・・・グンナルはいつもどおり俺の護衛という職務を全うしていたのだ。
「そういえばコウキ様、今回向かうカグツチという場所ですが。実際どういう国なのですか?」
「ああ・・・エドに軽く調べてもらったんだが、カグツチは人口と領地の少なさで小国という扱いだがその実力は大国にも引きを取らないことで有名らしい」
「では、もし領地など広ければ大国になりえたと?」
「多分ね・・・歴史もかなり独特で特に芸術や手作業での技術の高さは有名なんだって。グラムが建設部門のメンバーと一緒にゼノに残らなければテスラも一緒に連れて行きたかったんだけどな」
「そ、そうでしたか」
それがポツリと愚痴ると何故かタマモは俺に背を向けてガッツポーズを取る・・・なんで?
「まあ今回はグンナルの大会がメインだし。カグツチの文化に触れるのは次の機会でもいいか」
ラセツとも友好的な関係を持っていればまた行く機会はあるだろうし。ワイトやプラムもいずれ連れて行ってやりたい。今相釣れはテオの学校生活をエンジョイしているだろうし落ち着いてからでいいだろう。
『コウキ様、目的地が見えてきました』
トランシーバーからグンナルの声が聞こえ俺はすぐにモニターで外の景色を映し出す。
「あれが、ラセツが納める領地か・・・・」
モニターには瓦屋根の砦が映しだされ門番は甲冑を身にまとっていた。異世界ではなく戦国時代にタイムスリップしたような気分だ。
「そこの馬車・・・いや、狼車?止まれ」
門番に止められさっそく検問される。俺達は狼車から降る。
「カグツチの者ではないな。何の用で来た」
「俺達はカグツチで行われる武闘大会に参加するために来ました」
「参加だと?武闘大会の受付も予選も昨日終了したばかりだぞ?」
え?
「嘘!いや、だって大会が行われるのって明後日じゃなかったのですか?」
俺はすぐにカレンダーに切り替え確認する。確かにラセツが言っていた日付は間違えていない・・・まさか、聞き間違えたか?それともラセツがボケたか・・・できれば後者であってくれ。
「ああ本戦が2日後、都の『ミカヅチ』で行われるんだ。よくいるんだよね、予選を知らずに本戦の日に来る人」
マジかよ・・・やべぇ、恥ずかしさ以上にグンナルへの申し訳無さでどういう顔をすればいいか分からなくなってきた。
「まあ、気を落とすなよ兄さん。大会に出場できなくても都にいけば元気が出るって。武闘大会で今あそこは祭状態だからな」
「そうそう、それに大会に出場するだけが武闘大会じゃないしな」
同情したのか門番のオッサン達が俺を慰めてくれる。
「はぁ・・・せっかくラセツから参加証貰ったのに無駄になったか」
「「・・・・え?」」
そう言うと、門番が急に顔色を変えて俺を見る。
「・・・すまないが、ラセツ様の参加証というのは?」
「ああ、これだ」
質問を聞いたグンナルはすぐにモニターを操作して金色の札を取り出した。すると門番は急に金色の札に釘付けになった。
「・・・あとステータスを見せてくれないか?」
「ああ」
グンナルは言われるままにステータスを見せると急に土下座ポーズに入る。
「これは大変ご無礼をしました!まさかラセツ様の推薦出場者であるグンナル殿だとは知らず!」
「あ・・え?・・・」
困惑するグンナル・・・うん、こっちを見ても何もできんぞ。俺も状況が分からんからな。
「少々お待ちください。すぐにラセツ様に連絡を入れます。皆さんはどうぞ中に入ってお待ちください」
慌てた様子で門番はモニターで連絡を取り、俺達は中に入って待機させられた。
「なんか思っていた以上に凄い効果があったみたいだなその札」
「ええ・・ところで結局大会はどうなるのでしょう?予選が終了したということは結局出れないということに・・・」
ああ・・・もし本当に出場できなかったらスマナイとしか言いようがない状態だ。だがあの門番の様子からして多分・・・・
「・・・コウキ様、何か来ます」
タマモとグンナルが何かに気がついたのか、空を見上げる。俺も空を見上げつと何か黒い物体が降ってくるのが見えた。
「グ〜ン〜ナ〜ル〜ど〜の〜!!!!!!!!!!!」
「ラ、ラセツ!・・・・さん?」
親方!空から鬼が降ってきました!
ズドーン!
映画のようにゆっくり降りるのは逆にまるで大砲でも打ち込まれたかと思うような轟音を立てラセツが着地する・・・・が。
「だああああ・・・!足がああああ」
相変わらず騒々しいオッサンだな。着地に失敗したのか両足を抱えて転がり始める。っちょ、なんか凄く上物の服着ているのに良いのか?!プラムが見たら激怒思想だな。
「お久しぶりです。ラセツさん」
「おお、コウキ殿・・・そうこそ俺が納める領地マサカへ」
さっき見たのは無かったことにしたのか普通に挨拶してきたぞ。
「そして・・・よく来たな、同士よ!」
ラセツはグンナルを見ると嬉しそうな顔をして抱きつこうとするも、流石に真正面からだったためグンナルは軽々と避ける。以前のグンあんるだったら避けられず抱きつかれるか防ぐぐらいしかできなかっただろう
「む!以前より更に強くなっているな・・・これは大会が楽しみだ!がはははは」
「あ、そうだ大会・・・ラセツさん、さっき門番から聞きましたが受付はもう終了しているらしいじゃないですか。グンナルは出られないんじゃないのですか?」
俺が質問するとラセツはキョトンとした顔で俺を見た。
「おお、そうだった。予選の事を伝えるのをすっかり忘れていたわ。まあ俺が渡した参加証は本戦出場の資格だから特に意味が無いから伝えなかったんだが」
あ、やっぱりそうだったんだ。
「ならせめて本戦出場のことを言ってください。予選のことをさっき知って焦りましたよ」
「ああ、スマンスマン・・・ところでコウキ殿。隣にいる妖狐種の女性は?」
妖狐種?・・・ああ、そういえばタマモには妖狐種のサブアカウントを付けてもらっているんだよな。神霊族って知られたら絶対面倒なことになりそうだし。
「はじめまして。オリジン出身の妖人族・妖狐種のタマモと申します」
「ほほう・・・もしかして、コウキ殿の嫁であるか?」
「よ、嫁?!」
ラセツはニヤついた顔で俺を見るとタマモは顔を赤らめて両手で頬を触る。
「嫁じゃなくてタマモは俺の部下です。今回は彼女にカグツチの観光に同行してもらうために来てもらったのです」
俺が訂正するとタマモは急に元気を無くし暗い顔になる・・・・え?俺なんか間違ったこと言った?
「ほぉ、観光ですか。なら後で良い場所をご案内しましょう。マサカはテオに劣らず数々の観光名所がありますから・・・さてさて皆さん、長旅で疲れているでしょう。俺の屋敷で寛いでいってください」
そう言って俺達はラセツについていく形で彼の屋敷へと向かった。
カグツチ編が良いよ始まりました。個人的には一番書きたかった話なので書く側としても楽しみにしています。
ちなみに今回の主人公はグンナルです。