特別編 クリスマス・・・プラズマ祭
間に合いませんでしたが、クリスマスネタを投稿します。
「ふん♪ふん♪ふん♪」
大量に積まれた書類の束に悩まされながら黙々と作業している俺の隣では上機嫌に鼻歌で歌っている女神がスライム型クッションに寝そべりながら本を読んでいた。技術開発部門に頼んで心地よいクッションが欲しいと頼んだらこんなのを送ってきた。見た目はスライムだが意外としっかりしており、肌触りもよく、【温度調整】の刻印魔法が施されているためかなり気持ち良い。
エイミィの仕事は基本的に二つ。世界の住民たちにスキルを教会を通して『恩恵』として与えること。そしてもうひとつは学校の教師である。
前者の方は一括でスキルを送ることで済ませられるため10分もあれば一日分の仕事が終わるらしい。そして後者の方だが、現在は冬季休暇ということで学校はお休み。子供たちは【天候魔法】で降らせた雪で毎日雪遊びを楽しんでいる。
とまあそんなわけでエイミィは現在絶賛『暇中』なのだ。
「・・・なぁ、エイミィ。暇ならこっちの仕事手伝ってくれよ」
「えー、私そういう書類関係の仕事とか苦手なのよね」
「苦手って・・・これこの国の書類なんだぞ。お前は世界の女神だが同時にこの国の代表の一人なんだぞ」
「はいはい分かりました・・・えーと、『国の祝日』についてか・・・そういえばこの国ってまだそういうのは少ないんだよね?」
エイミィはやれやれと言いたげな顔で俺の机に積まれた書類に手に取る。
「ああ、いくつか候補は考えたんだがイマイチ異世界にぴんとこないんだよな」
「そういえば、冬といえばあのイベントじゃない・・・確かイエスマンの誕生日!」
「マンはいらんからな。あと誕生日じゃなくて降臨日・・・ってか女神が何ほかの宗教の祝い事を提案するんだよ!」
「いいじゃない、ハロウィンだってやったし今更でしょ?」
うぐ・・・たしかにそうだが。アルヴラーヴァにはクリスマスは存在しない・・・まあ異世界なんだし当然なんだが。ヒュウ辺りが広めていると思ったがそうでもなく、実はその日はテオの終戦日であり別の理由で祝うらしい。
「それに、そもそも宗教関連の歴史なんて不確かなものよ。要はきっかけよ・・・その日に何をするかの決め事を作るの。別にわざわざクリスマスじゃなくていいのよ。祝うものがあれば何でも」
うーん、女神がいうと何故か説得力があるな・・・ぶっちゃけ、暇だから何か面白いイベントを用意したいだけなんだろうけど。
「ってかクリスマスか・・・あまり思い出ないな」
「なに?ぼっちクリスマスだった?」
「少なくとも学生時代は良かったよ。友人たちとパーティやったり、アメリカでは家を飾り付けしたり・・・ただ日本で就職してからは平日と変わらないな。少なくとも就職してからはクリスマス感は殆どなかった」
エイミィの言う通り要は祝日を祝うきっかけが必要なんだ。祝わなければ祝日もただの一日。
「・・・ならやるかクリスマス」
「え?本当?!」
「と言ってもそんな大げさなものはやらないぞ。簡単なパーティを開いてそれっぽい事やるだけだ」
「いいね、いいね!じゃあメリアスに連絡してとびっきり大きな樅の木を用意してもらうね!ゾアにイルミネーションの材料の手配!グラムたちは街の飾り付け!」
クリスマスをやると決めた瞬間何かスイッチが入ったかのようにやる気を出す・・・そういえば、さっきエイミィが歌っていたのってクリスマスソングだったな。
・・・・・・・・・・・・・・・
エイミィの思考
よっし!やっとクリスマスを祝えるわ!
アルヴラーヴァには『クリスマス』って祝日は無いからね。
光輝の世界のことを知ってからやってみたいとは思っていたのよね。でも、女神である私がいきなり「クリスマスを祝いたい」なんて言い出せないし。それこそ、宗教に関わることで女神が言っていいことじゃないわ!
この日のために光輝の部屋に入っては何度も目の前でクリスマスソングを鼻歌で歌ったり、『世界の祝日』って本を目の前で呼んだり、綺麗な包み紙を見せたり、大きめな靴下を見せたり・・・・とまあ、色々とやってみてやっと動き出してくれた!
クリスマス・・・それは子供たちに夢を与える日。そしてカップルの聖日でもあるわ!
この期に光輝と・・・・って何を考えているのよ!
そうよ、楽しくあればいいのよ!これは皆のため!オリジンのため!
・・・よし、とりあえず最高のクリスマスにしないと!
・・・・・・・・・・・・・・・・
『クリスマスパーティ?』
「ああ・・・まあ、ぶっちゃけプレゼントを持ち込んでパーティをやるんだが。才たちも来ないか?」
『せっかくの誘いだが、テオの方でもパーティを開くことになっているんだ』
「ああ、たしか終戦日だったよな・・・なら仕方ないか」
『誘ってくれてありがとうな・・・この時期は祝日の影響もあってか仕事の量が少ないから時間は余裕がある』
「分かった」
才との連絡が終了すると俺は次のことに眼を向ける。
「・・・・さて、プレゼントをどうするかだな」
エイミィの行動は予想以上に早く住民たちはクリスマスムードに突入していた。何をどう伝えたのかwから無いが、特に女性陣達はかなり盛り上がっている。
前回のハロウィンの影響なのか住民たちも軽いフットワークで次々と街をクリスマス一色に染め上げた。
「・・・本当、ウチの住民たちの行動力半端ないな」
呆れ半分、関心半分の気持ちにさせられる。
「俺が渡すプレゼントなんだしやっぱ俺にしか渡せない物がいいよな」
ダンジョンの魔力を使えば住民たちが望む『物』は用意できる。だけどそれじゃいけないよな。
あまり高価な物を作ると後々になってハードルが高くなる可能性があるしショボイ物だと国の代表としてなんか許せない。
「・・・はぁ。いっそ雪をプレゼントってことにすれば良かったかな」
【天候魔法】で初めて雪を降らせた時は子供たちはそれはもうはしゃぎまくっていた。あの笑顔を見た時のエイミィは本当に幸せそうな顔をしていた・・・そんな顔を見ている俺も嬉しい気持ちになったのだが。
「あ、そうだあれはまだ見せていないよな」
俺はさっそく作業室に子守り実験を開始した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
クリスマス当日
辺りはすでに真っ暗となり、街のイルミネーションが輝きを増していた。
「えー皆さん。急な祝日を決定したにも関わらず見事に街をクリスマスムードへと変えてくれました・・正直ビックリです」
『アハハハ』
俺が呆れた声でいうと所々笑い声が聞こえる・・・イマイチ掴みが悪かったかな。
「まあ、そんな訳ですが今日はオリジンの祝日として『プラズマ祭』を祝いましょう!カンパイ!」
『カンパイ!』
並べられた料理を手に取り住民たちはそれぞれ楽しみ始めた。フロアボス達も俺に挨拶を済ませるとすぐに部下たちのグループへ向かい何か楽しんでいる。
どうやら祝日を決めて正解だったかもしれない。
「光輝、楽しんでいる?」
女神モードのエイミィはコーラの入ったジョッキを手に持ち俺に近づいてきた。
「まあな・・・決めてよかったと思っている」
「そう・・・ところで何で『プラズマ祭』なんて名前を付けたの?」
「ん?それはだな・・・・」
俺はすぐにモニターを開きダンジョンの【天候魔法】を操作する。
すると空が急に明るくなり住民たちは一斉に空を見上げた。
「え?・・・あれって」
「これ・・・まだ皆には見せていなかったよな」
街の空には見事な虹色のカーテン・・・そう、オーロラが出現していた。
「これが『プラズマ祭』の由来さ」
「・・・綺麗」
作業部屋にこもっていた俺はイカに綺麗なオーロラを見せられるかを実験していた。そしてそのデータを元にダンジョンの【天候魔法】でオーロラを見せられるように調整したのだ。
上空に浮かぶオーロラ・・・その空に住民たちは心を奪われた。
「…Happy Holiday、オリジン」