135話 最高の一品を作るので最高の精神で臨みました
グランドクエストを受けたワイトの依頼内容は、ある大剣の鞘を作ること。と言ってもデザインなどは特に指定は無く、ただ用意された素材で作るだけ。
設計図通りに再現すれば、問題ないもので【鍛冶スキル;レベル10】のワイトにとっては難なく作れる代物だった・・・むしろ、簡単すぎるくらいで、予定よりも早く終わってしまった。指定された鞘は3本・・・どれも全く同じ出来栄えだった。大きさはバスタードソードを納めるような細長い形で細かい装飾も施されている。
「・・・んー、なんか違うな」
出来上がった鞘を確認するワイト。設計図通りに作り、指定された要件もしっかりクリアしている。強度。重さ、幅、装飾・・・全て設計図通りだ。
だが、何度確認してもどこか腑に落ちない様子。
「・・・なんだろうこのモヤモヤ感。なんか作りたいものと違うというか」
並べられている鞘と睨めっこしてから一時間・・・結局答えは見つからず。腹時計の合図と共にダイニングへ向かった。
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「ヘレンさん、今日のご飯は何?」
台所から漂う香ばしい肉の焼ける匂い・・その匂いだけで空腹ダメージを受けるワイト。
「あ、ワイト坊っちゃん・・・今日は良い豚肉が届いたのでトンカツにしますよ」
「おお!トンカツですか」
料理長のヘレンから至福の言葉を聞き、さらに空腹ダメージを受けるワイト。
「サラダとスープもあるのでもう少しお待ちください」
「はーい」
ヘレンから待機命令を受け、ワイトは素直にダイニングの椅子に座る。すると、すぐにプラムが何やら難しそうな本を持ってやって来た。
「あ、ワイト仕事どうだった?内容は?難しそう?」
グランドクエストの内容に興味津々のプラムは眼を耀かせながらワイトに質問攻めする。
「ゴメン、依頼内容は他人に教えちゃ駄目なんだよ」
「えー、いいじゃない。知りたいよ!」
ダダをこねるプラム・・・こうなると彼女はしぶとい。
「ゴメン、それも依頼の契約なんだ。もし情報を漏らしたらギルド脱退になるんだよ」
「え・・そうなの?じゃあ仕方ないか」
会員脱退という言葉を聞くとあっさり身を引くプラム・・だがまだ諦めた様子は無いようで、別ルートから情報を仕入れそうで怖い。
「ところで、プラムは何の本を持っているの?」
「え?これ?学校の本・・・今日、国立学校に行ってきてマヤちゃん達に会ってきたの。それで、図書館で教科書を借りてきたの」
セレナからのクエストが終了したプラムはすでに学校に通うことで頭いっぱいだった。
「そうだね・・・やっぱり最高の作品を作りたいよね」
これが終われば行きたかった学校に通える・・・職人として、やはり仕事は最高の出来栄えでやりたい。
「ありがとうプラム!僕、頑張る!」
そう言って、ワイトは急いで工房に戻ろうとする・・・が
「プラムお嬢様、ワイト坊っちゃん・・・ご飯の用意ができましたよ」
ヘレンの料理には敵わず、ご飯を食べた後に出て行った。
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数日後
グランドクエスト参加者たちがそれぞれ指定された品を持ち出す。どれも並の鍛冶師では作るのは困難な代物ばかりだ。
「次、ホワイトリー・・・指定された鞘の提示を」
「あ、はい」
呼ばれるとワイトはすぐにモニターを操作し、5本の鞘を取り出す。他の参加者達もワイトに注目していた。
「ほぉ・・・俺の設計図をここまで正確に再現するのは驚いた。さすが、トーマスの弟子だな」
ワイトの鞘を見て才は感心したように見る、そして何かに気付きすぐにモニターを操作して目の前に木偶人形を出現させた。
「グランドマスター、一体何を?」
参加者の一人モリアがつぶやいた瞬間、才は鞘に魔力を流し込む・・・すると鞘の口から蒼い炎が吹き出し、剣のような形を撮り始める。そして、炎の剣でなぎ払うと、木偶人形は見事に真っ二つとなった。
「・・・ケイト見てみろ」
法理がゲル用にケイトに鞘を見せると【鑑定スキル】で鞘を見た。
「これは【魔力形成】と【圧縮】・・あと【硬化】が付与されています・・・っは、まさか!」
ケイトはすぐに鞘の装飾部分を見る。
「この装飾・・・魔力が伝達しやすい素材。ということはこれは装飾のように見せかけた、刻印魔法」
ケイトがそういった瞬間、他の魔術師たちも鞘をマジマジと見る。一見すると美しい模様のような装飾であるが、まさかの刻印魔法として再現してあったのだ。
「ワイト・・・確かお前の設計図には装飾の自由はあったが、刻印魔法まで入れろとは書いてなかったはずだが」
「はい・・・最初は普通の素材でただ装飾を入れたものを作りました。ですが、やはりそれだけでは満足できなかったのです。僕が目指す武器は、自分の魂をとことん詰め込んだ物です・・だから、鞘をただ武器を納めるだけの器じゃない・・・他にも使い道があると思って色々と加えました。もちろん、他の皆さんの部品に支障が出ない範囲での付け加えですが」
才の質問にワイトは答える。正直、指定した物以外のを付け加えるか迷ったが、最高の武器を欲する才なら設計図以上の物を作ろうと思ったのだ。一応他の
「なるほど・・・これはもはや武器という領域だな。素晴らしい心意気と作品だ」
そう言って、才が鞘を他の部品と一緒に置いた瞬間、モリアが急に自分の部品を手に取った。
「どうした、モリア?お前のパーツは完成しているぞ」
「・・・いいえ、グランドマスター。こんなのは私のものではありません。申し訳ございませんが、一日待っていただけないでしょうか?報酬は引かれて構いません・・・可憐お作品を見た後では自分の作品が恥ずかしくてたまりません」
そう言って、モリアは自分のパーツを手に取り部屋から出て行く。
「あの・・俺も明日提出します!」
「自分も!」
「なら・・俺も!」
「くそ!負けてられるか!」
他の参加者たちも一斉に自分の作品を手に取り部屋から出て行く。
「・・・あの、僕もしかしてとんでもないことしました?」
不安そうにワイトは才を見るが、才はむしろ「よくやった」と言いたげな顔で見る。
「いいや、ホワイトリーはあいつらのやる気に火を付けただけだ・・・これは思った以上に面白い者ができそうだ」
そして翌日・・・才の目の前は最高の部品が揃ったのは言うまでもない。