134話 グランドクエストを受けたらあの人がやって来ました
カーン カーン カーン
透き通るようなハンマーの打ち込まれる音・・・それは今まで聞いたこともない美しい音色であった。できればいつまでもずっと叩いていたいと願うワイトであったがそれでは仕事にならない。
一振一魂
師匠の教えに従い、一振り一振り魂を込めて叩いていく。
「よし、いい感じだ」
徐々に理想とする形へと変化していく金塊を見ながらワイトは更に集中した。
神霊族・生魂神種へ進化したワイト・・・その恩恵として鍛冶スキルがレベル10へと上がった。レベル10・・・それはまさに神の領域。
おさらいではあるが、この世界でのスキルにはレベルが存在し、1〜2を一般人(初心者)、3〜5が(職人)、6〜7(達人)とランク付けられている。8となれば人材国宝クラスの職人と評され9は未だに達した人はおらず、9,10は神域クラスとも言われている。
だがそんな領域に入ってもワイトは基礎を怠らない。
一振一魂
自分の思いを全て集中させてひたすら金属へ向き合う。
カーン カーン カーン
「・・・よし!未だ!」
金属の色が急に変化した瞬間、ワイトは全力の魔力をハンマーに流し込み叩きつける。すると金属はまるで生きているかのように形を変えていき一本の剣へと変化した。
『神剣・リベラル』
「できた・・・コウキ様!師匠!僕やりましたよ!」
虹色に輝く剣・・・その美しさは使用した素材「ヒヒイロカネ」を上回る輝きを見せていた。これまで何百本もの剣を作ってきたワイトであるがこれほどの剣を生み出したことは一度たりともない・・・そう思いたくなるくらいの最高傑作であった。
「そうだ、どんな効果があるか確かめないと・・・・」
そして感動の時間はすぐに目の前に浮かぶモニターによって途絶えさせられた。
「プラム?どうしたの?」
『どうしたの?じゃないよ!今どこにいるの!今日は仕事でしょ!ケイトさんが迎えに来ているよ!』
「え?!嘘!」
急いで壁に飾られている日付付き時計を確認すると、確かに予定していた仕事の日付になっていた。
「ヤバイ!ゴメン!待っているように伝えて!」
ワイトは急いで荷物を手に取りアトリエから飛び出す。入り口にはしかめっ面のプラムとのんびり紅茶を飲んでいるケイト姿があった。
「こんにちは、ワイト君・・・ずいぶんと慌てている見たいだけど。もしかして今日のこと忘れてた?」
ケイトはクスクス笑いながらワイトを見る。
「いえ、忘れていなかったというか・・・時間を忘れていたというか」
美味い言い訳が思いつかないワイトはたじたじな状態で返事をする。
「ふふ、まあいいわ。それじゃ行こうか・・・ヘレン、ごちそうさま」
紅茶を飲み干すと、ケイトは料理長のヘレンに一言、言った後ゆっくり立ち上がり玄関へ向かう。大の魔法具マニアという一面を知らなければ優雅に移動するケイトの姿に見惚れるかもしれないが、残念ながらそう感じるモノはここにはいなかった。
そしてケイトを追いかけるようにワイトも向かう。
「それじゃあ、行ってくるね!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
ギルド本部
「いつ見ても大きいですね」
キャンパススタイルのギルド本部は各部署によって建物が設けられている。この世界では珍しいガラス張りの建物や刻印魔法などで厳重に管理されているものが並べられている。
「今日向かう場所はギルドホールよ・・・作業員達はそこで集合するの」
「作業員達って・・・どれくらいいるのですか?」
「そうね・・・今回は新武器作成ってことだから『魔法具研究機関』、『武具制作期間』だけ・・・私を君を入れて10人かな」
「・・・それ、一つの武器を作る人数じゃないですよ」
10人が一つの武器作成のために集う?一体どういうこと?
ワイトは今までの作業の規模が違いすぎて混乱していた。トレスアールでの工房では2人が作業をする光景は眼にすることはあるがその5倍となれば想像できない。
「まあ、行ってみれば分かるよ。サイの武器を作るには一人じゃ無理だからね」
ケイトはそう言いながらメインホールへ向かった。
・・・・・・・・・・・・・
ギルドホール
メインホールへ向かうと、何やら以前来た時と比べて雰囲気が違った。・・・なんと言うか妙に緊張感のなる空気。【魂眼】で回りにいる人たちを見ると殆どの魂がある一箇所に意識されているのが見えた。
ワイトもその方角へ見ると、明らかに普通の冒険者とは違う風格を魅せる集団たちが扉の前に並んでいるのが見えた。
「あそこが今回のグランドクエストの受け付けね」
「グランドクエスト?」
聞いたことの無い言葉にワイトは首をかしげる。
「ああ、社長からの依頼だからそう呼ばれているの・・・ヒュウが勝手に名づけたんだけどいつの間にか広まってね」
苦笑いしながら答えるケイト・・・そしてワイトも彼女についていくように扉の前に並ぶ。
そして、もしここに光輝かヒュウがいたら『テンプレ乙』と言いたくなるセリフが出てきた。
「きみ、ここは子供が来る場所じゃないぞ」
そう言って杖でワイトの服を引っ掛け吊るし上げるアラフィフの男性。外見はやや派手な外装のマントを羽織、持っている長杖以外にも腰にレイピアを身につけていた。
「いや、僕もグランドクエストを受けるのですが」
ワイトは必死に言うが、周りの参加者達は信じられないようでクスクス笑っていた・・・ケイトを除いて。
「杖を降ろしなさい『仙杖』、その子は間違いなくこのクエストの参加者よ」
ケイトがそう言うとモリアという男性は少し驚いた様子ですぐにワイトを下ろす。
「これは宮廷魔導師団の団長・・・ケイト様。あなたもこの依頼を?」
「社長の依頼だからね・・・魔法具研究機関の代表として来たわ。ちなみにその子はトーマス・ドゥーリーの代理」
トーマスの名前が出た瞬間、参加者達が急にざわめきだす。
「グランドマスターは了承しているのですか?こんな子供にグランドクエストを受けさせるのですか?」
「社長はすでに認知しているわ・・・それと、子供だからといって甘く見ないほうがいいと思うわよ・・・報告ではすでにその子の鍛冶スキルはレベル6らしいし」
ケイトがそう言うとざわめきは更に増す。
(ごめんなさいケイトさん・・・この前レベル10になりました)
ケイトが皆の前で説明するのを聞き、わいとは心の中で謝罪した。
「それと、鍛冶だけでなく魔法具の知識もそれなりに持っているの・・・武器専門のトーマスよりも彼のほうが適していると思うけど」
地脈の修復に貢献したワイトの実力を十分に知っているケイトは自慢げに褒める。もちろんそのことは極秘なため話すわけにはいかないのだが。
「分かりました・・・では彼の実力は現場で見せていただきましょう」
モリアは薬と笑うとそのまま扉の奥へ進み、ほかの者達も後に続くように入っていく。
「・・あの様子だとまだ信じていないみたいだね。まあ言っている自分もなんだけど気持ちは分からないでもないわ・・・じゃあ、ワイト君行こうか」
気持ちを切り替えたケイトはそう言った。
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「本日はお集まりいただき誠にありがとうございます。本来であれば数日前から始まっていたこのプロジェクトですが魔物の暴走化や度重なる地震の被害に寄る復興作業等で延期にさせてしまったこと・・・本当に申し訳ございませんでした」
部屋に入ってまず始まったのはグランドクエストの依頼主である才の挨拶からだった。
「今回の依頼ですが通常の依頼同様、情報の流出は固く禁じています・・・もし流出した場合、即刻会員剥奪お呼び再登録禁止とさせていただくのでご注意を・・ではさっそく皆さんには依頼内容を遅らせていただきます」
才がそう言い、モニターを操作すると集まった参加者前任に一斉に依頼内容が飛んできた。
「内容は全てそこに記されています・・質問があれば挙手を」
ワイトはすぐに依頼内容を確認すると、中身は何かの設計図であった。タイトルは『新武器作成』と書いてあり、そのしたには主に期限や材料、使用する予算などが明記されていた。内容なども今のワイトなら余裕でできるものだ・・だが気になる箇所がいくつかあった。まず仕事量が思ったより少ないこと・
作るものはけっして簡単なものでは無い。それは見た時にすぐに分かっていた・・だが、これくらいのものであればワイト一人で数日で完成できる自信がある。他の9名の手助けは必要ないと感じた。
「あの・・・この設計図って全員で作るのですか?」
何のためらいもなく質問をするワイト・・・子供故の真っ直ぐさなのか、肝が座っているのか分からないが他の者達は一斉にワイトを見る。
「・・・正確には渡した設計図は個人で作ってもらう」
「・・・どういう意味ですか?」
「ケイト、お前の設計図を見せてやってくれ」
百聞は一見にしかずと言いたい日のように、才が支持するとケイトはモニターをワイトに見せる。すると、ケイトのモニターにも設計図があるがワイトのとは全く異なるものだった・・・かなり複雑な魔法陣を構築するためのもの。
「そういう意味だ・・・全員にはそれぞれ担当する箇所の設計図と指示書を送った。それぞれが指定した日時までに部品を用意する。それが第一段階だ。その後、指定した施設で組み立て試運転を行う。俺が満足のいく武器ができれば依頼は完了、報酬を渡す流れだ」
まるで試験のような流れだが、全員はやる気で満ちていた。
「それでは、次に使用する素材だが、グランドクエストはギルドから支給させてもらう」
おおおぉっと、参加者の声が漏れる。基本納品依頼の場合、提出する完成品を作るための素材などは全て自分で用意しなければならない。素材を集める・・・それだけでもかなりの出費であるとよく先輩鍛冶師がつぶやいていたのをワイトは思い出した。
「では、素材を提供してくれる人物を紹介しよう・・・光輝・エドワード・神埼だ」
才がそう言って別の扉から手を向けると、扉が開きワイトのよく知っている人たちが入って来た。
「どうも、Bランク商人、『雑貨店リズア』のオーナー、光輝と申します・・・この度は才・・・じゃなくて、グランドマスターからの依頼で素材の提供へまいりました」
光輝が軽く挨拶をして、後ろからオリジンの住民達が次々と良質な素材が入れられた箱を運んでくる・・・箱なだけに。
「・・・・え」
ワイトは何が起きているのか分からず混乱した状態で口をパクパクさせる。一方他の参加者たちは、その高級な素材の山に眼を丸くさせていた。
「すげえ!こんな鉱石見たこと無いぞ!不純物が入っていないミスリル・・・レッドドラゴンの爪・・・なんだ、この糸は!魔力の伝達率が良すぎる!」
中には見たことのない素材を眼にし、テンションを上げる参加者たち。
「あんた、本当にBランクの商人か?!いったいこんな凄い素材をどこで!」
「それは機密事項なので教えることはできません」
一人の魔術師が光輝の肩を掴みながら質問するが、光輝は平然とした様子で答える。おそらく【精神鎮静スキル】を発動しているのだろう。そして、かなりしつこく質問していた魔術師の背後に現れた護衛のグンナルがすぐに魔術師の頭を掴み見事なアイアンクローを決める。
「グンナル、離してやれ・・・少し相手が強引なだけだ」
「御意」
光輝がすぐに言うと、グンアルはまるで興味が失せたかのように魔術師の頭を離す。
「あの妖人族・・・以前会った時よりも更に強くなっていないか?何があった?」
「・・・まあ、色々と」
才は関心したようにグンナルを見、光輝は少し困った様子で頬をポリポリとかく。
「さて素材は用意した、設計図もある・・・あとは君たちの技術で完成させてくれ。解散」
才の号令と共に参加者たちはそれぞれ材料を手に持ち部屋から出て行く。残った参加者はワイトとケイトのみ。全員が職人気質な為なのか、良い素材が手に入ったことですぐにでも作業を開始したいようだ。次彼らと会うのは指定された日時であろう。オリジンの住民たちも護衛のグンナルだけが残り、他は屋敷へ帰還した。
「よ、ワイト・・・びっくりした?」
何事もなかったのように片手を上げて挨拶をする光輝。
「なんで、コウキ様がここに・・・いや、素材提供でしたね・・・でも何で?コウキ様から聞いていませんよ」
未だに混乱する頭でなんとか言葉を口に出すワイト。
「まあ、素材提供に関しては2日前に急に頼まえれたからな・・・できればこういうモノは直接ダンジョンに挑んで集めて欲しいんだが・・・そうすれば、タダで手に入るのに」
「悪い・・・早急にこのプロジェクトを終わらせたかったんでな。材料に関してはこちらで用意することにしたんだ・・・その変わり、料金は割増で買い取っているだろ?」
「いや、料金よりもこちらとしてはもっと強い挑戦者が来てもらわないと・・・約二名がいつ暴れるか分からなくてな」
光輝は最強の獣と龍を思い出しながら頭を抱えて息をつく。
「・・・なるほど、そういうことですか」
「まあ、今回のプロジェクトはこっちも色々とバックアップはさせてもらうが・・・才、今回の武器作成で急に俺の所に頼ったのってやっぱり、邪神対策か?」
さり気なく質問する光輝、すると才の眼が鋭くなり光輝を見る。さっきまで親しみのある空気が急に緊張感に包まれ・・・・たように思えたが、すぐに才が大きく深呼吸して椅子に背中を授けるようにして天井を見た。
「ああそうだ・・・本当なら、職人達や技術者達の育成と実験だけの目的だったんだが、邪神の記憶が継承されることを聞かされたからな・・・だから可能な限り最高の武器を作ろうと思ったわけだ」
記憶の継承・・・邪神は撃破されることで他の邪神達に経験が継承される。そのため、邪神に自分たちの情報を他の者達に伝えさせないようにするには『封印』するしか方法が無い。
前回、光輝が倒した邪神はアルラによって封印されたため情報は伝わらなかったが、才たちはそれを知らず倒してしまった。そのため才たちの情報は他の邪神達に伝わってしまっている。
「・・・なるほどな」
最高の武器と聞いた瞬間、光輝は一瞬ワイトの方を見たがすぐに眼をそらす。
「それじゃ、俺はこのまま屋敷に行くよ。ワイトと色々と話をしたいし」
「ああ、材料の提供感謝する」
そう述べて、わいと達はギルドから出た。
・・・・・・・・・・・・・・・・
狼車
「コウキ様、いつこっちに来ていたのですか?」
「んー、ワイトたちが出て少し後かな?屋敷に行ったらプラムがワイトがケイトと一緒に出て行ったことを聞いたな。もっと早ければ一緒に狼車に乗っていけたんだが」
またしても狼車に乗るチャンスを逃したケイトを想像してワイトは引きつった顔で笑った。
「そうですか。そういえば素材の中にアレは無かったですね」
「アレ?・・・ああ、ヒヒイロカネか・・・あれはちょっとな。才なら大丈夫かなと思ったんだが、あれって作るのに凄く魔力が必要だし、人前に出せる代物じゃないからな」
その理由はワイトも分かる・・・あの鉱石に秘められた魔力、魅惑の光・・・あれは流石に人前には出せないものだ。
「あ・・・そうでした。ヒヒイロカネで思い出したのですがコウキ様、これ」
そう言って、ワイトがモニターを操作して目の前に一本の剣を取り出した。
「ワイト・・・・これってまさか」
恐る恐る、目の前の剣を手に取ると、光は更に増した。
「『神剣・リベラル』・・・今の僕の中で最高の剣だと思います」
「すげえ・・・凄いぞワイト!」
光輝はまるで新しい玩具を手にした子供のように眼を耀かせて剣を見た。
「この武器はどんな効果があるんだ?」
「え?・・・えーと。まだそれは確認していなくて・・・確認する前に閉まっちゃったので」
「そうか・・あれ?」
さっそくモニターを開いて武器を鑑定してみると、光輝は首をかしげる。
「どうかしたのですか?」
「いや・・・名前は見れるんだが。肝心のスキルが無いんだよ。ほら」
光輝はすぐにモニターをワイトに見せるとと確かに普通ならあるはずのスキル覧には何も表示されていなかった。それはつまりこの武器には何もスキルが付与されていないことになる・・・言い換えれば、魔剣では無くタダの超頑丈な剣ということだ。
「・・・ああああ!!もしかして僕、失敗して・・・ああ!せっかくの素材が!光輝様!ごめんなさい!僕・・・なんてことを!」
失敗作を渡してしまったこと、そして貴重な素材を台無しにしてしまったことにワイトは今に泣きそうな顔で頭を下げる。
「何謝っているんだ?」
「え?」
涙目で頭を下げるワイトに、光輝はキョトンとした顔でワイトを見る。
「スキルが付与されていないからってこの武器が失敗作ってわけじゃないだろ?」
「え?・・・でも・・・」
「これは、匠・ホワイトリーが作り上げた力作なんだ・・・大事に使わせてもらうよ」
そう言って、優しく頭を撫でるとワイトは泣きながら光輝に抱きつく。
「ゴウギ・・・ざま!僕もっと頑張ります!・・・もっと、もっと凄い武器を絶対に作ります!」
ワイトはそう強く心に決め、さらなる向上を誓った。