133話 背負い込み過ぎたら空振りました
お久しぶりです・・・私事で投降に大きく間が飽きまして申し訳ございません。なるべくペースを取り戻して再開させたいと思っています。
「・・・はぁ・・・どうしよう」
王都の隅にある屋敷でプラムは大量に積まれた服を眺めながら落ち込んでいた。
それもこうなるのも数時間前
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テオヴェップ城
「ん〜、何か違うのですよね」
「え?」
予想外の言葉が耳に届きでプラムはショックを受けた。今日は彼女がデザインした服を依頼主であるセレナに見せる日であった。
テオの流行服を独自に調べて作成した自信作であったがセレナからは良い印象が来なかった。
「プラムさん・・・これ本当にあなたが作成したものですか?」
「はい・・・そうです」
「これなら、トレスアールで出していた服のほうが好みでしたわ」
ショックのあまり、頭の中が混乱するプラム。自分の中で培ってきた者が一気に崩壊するような気持ちであった。
「・・・もう少し、時間を与えます。次こそ良い作品を期待しています」
「・・・・はい」
セレナから告げられた言葉にプラムは涙をこらえながら城から出て行く。
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屋敷 現在
「プラムお嬢様、お食事の準備の準備が整いました」
「あ、ジェームズさん。分かりましたすぐ行きます」
入口の方からジェームズの声が聞こえすぐに返事をした。できればこのまま部屋に篭っていたいが気持ちを切り替えるため部屋から出る。
光輝がオリジンに帰還した後、プラムとワイトは王都でやるべきことをするため屋敷で生活をすることにした。現在は同郷のワイト、執事のジェームズ、メイドのコリー、料理長のヘレンと一緒に暮らしている。
プラムはダイニングに到着した後、並べられている料理の前に座り向かい側の空席を見る。
「・・・ワイトはまだ部屋にいるのですか?」
「ええ、一応声をかけたのですが返事が無く。中から金槌で叩く音が聞こえましたのでおそらくまだ作業に没頭しているのかと」
ジェームズは少し困った様子で答えるとプラムは深いため息を吐きながらモニターを操作する。
『プラム、どうしたの?』
「どうしたのじゃないよ!もうご飯だよ、早く来なさい」
『え?もうそんな時間?!』
どうやら仕事に熱中していた様子で時間を忘れていたみたいだ。現在屋敷にはワイトとプラム専用のアトリエが用意されている。当初はテオのギルドにある工房を使用するつもりであったが設備に不満があり、光輝に頼んで専用のアトリエを【迷宮創造】で創って貰った。
「・・・来ないなら、ワイトの分も食べちゃうよ?」
『分かった・・・すぐに行くから待ってて!』
そう言って、ワイトとの通信が切れると部屋の外からバタンと扉が開く音とバタバタと足音がこっちへ向かってくるのが聞こえた。
そしてダイニングの扉から、耐熱性の作業服を着たワイトがやって来た。
「何か集中していたみたいだけど、何を作っていたの?」
「うん、グンナルさんの専用の武器をね・・・かなり凄いのができてきたよ」
嬉しそうに話すワイト・・だが、その笑顔が逆にプラムを焦らせた。
「・・・ゴメン、食欲ないから部屋に戻る。ご飯は後で食べるから」
そう言い残しプラムはダイニング空出て行く。
「・・・大丈夫かな?」
プラムの魂の色を観ながら、ワイトは夕飯を食べ始める。
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リズア 作業部屋
プラムの仕事が気になった俺は、才に連絡を入れどうなったかを聞いた。結果は予想を大きく逸れていた。
『とまあ、プラム・グローブの評価はこんな感じだ・・・セレナもかなり期待していたみたいで、少し残念がっていた』
「・・・そうか。ところで、プラムが持ってきた服ってそんなに悪かったのか?」
『いや、実際に見てみたがセンスや技術力で言えば本当に子供かと疑いたくなるくらいのものだ。素材もかなり良いの使っているしテオの流行をしっかりと研究されて作られていた。ギルドの店で出したら文句なしで即完売だろうな。ただ、セレナにはいまいちだったそうだ』
才からはかなり高評価のようだが、セレナは少し不満があったみたいだ。
『・・・相当落ち込んでいたみたいだから、光輝の方からフォローを入れておいてくれないか?』
「ああ、分かった・・・明日にでもテオに行くよ」
『一応、俺からのアドバイスだが『参考にしてもいいが、真似はするな』・・・とだけ伝えてくれ』
・・・どういう意味だ?
「了解、ありがとうな」
そして才との連絡が終わり、俺はさっそくテオへ行く支度を始める。
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翌日
「これはコウキ様、今日は出荷日ではないはずですが」
転移門で屋敷へ到着するとすぐにジェームズが出迎えてくれた。
「ああ、ちょっとプラムの様子をな・・・今はどこにいる?」
「プラムお嬢様でしたら今朝から部屋にこもっています。昨日の晩から食事を一切とっておらず・・・」
なるほど、かなり重症だな。
「分かった。ちょっと俺に任せてくれないか?」
「かしこまりました」
そして俺はプラムの部屋に向かうとワイトが扉の向かい側で体育座りしながら扉を見つめていた。
「ワイト・・・今日は休みか?」
「・・・コウキ様・・・どうしてここに?」
「才から、プラムのことを聞いてな。プラムの様子はどうだ?」
「・・・悔しさ、悲しさ、自己嫌悪とか嫌な色が扉から溢れでているのが見えます・・・昨日よりかなり酷い状態です」
・・・マジかい
「・・・はぁ、プラム。俺だ光輝だ・・・入ってもいいか?」
俺はドアをノックしプラムの返事を待った。そして、ドアノブがゆっくりと回転し、ドアの隙間から泣き崩れた顔のプラムがひょっこりと出た。
「ゴウギザ・・・マ!ゴメンナザイ!」
マジ泣きのプラムはそのまま俺に跳びかかる。
「よしよし・・・悔しいよな。頑張って創ったものが思った成果が出ないのは」
俺は軽く彼女の頭をなでて落ち着かせる。こういうところは歳相応の女の子だよな・・・俺の周りにいる子供って外見の割に大人びた所があるからたまに感覚がおかしくなる。
「デボ・・あたし・・・セレナ様の期待に応えられなかったです・・・テオプア王国とオリジンの友好に傷を!」
・・・・・・ちょっと、まて・・・プラム君?君はどこまで責任を抱えているのかね?
「・・・もしかして、泣いている理由ってそんな理由?」
「グス・・・そんな理由って!あたしのせいで、セレナ姫を怒らせてオリジンとの取引が駄目にしちゃうかもって思って」
・・・おいおい、大人びているとかそんなレベルじゃねえぞ。子供がそんなこと考えるなよ。
「・・・あのな、プラム。そういうことは気にしないでいいんだぞ?そういうのは大人の仕事だ。プラムは一生懸命頑張ればいいんだ」
「・・・でも一生懸命頑張ったけど・・・結果が・・・・・・セレナ姫には気に入られなかったです」
「それはセレナの趣味に合わなかっただけだろ?才から聞いたがお前の服、テオで売ったら絶対に売れるって言っていた。それにしっかりとテオのことを調べていたって」
「・・・本当ですか?」
「ああ・・・ところで、セレナに見えた服ってどれだ?」
「はい・・・私のアトリエにあります」
才の言葉通りならかなりの良作のはず・・・そう思い、ワイトと一緒にプラムのアトリエへ向かう。
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「・・・これはまた凄いな」
内装や設備など創ったのは俺だが、すでにプラムの作品でうめつくされている。マネキン代わりに用意した大量の人型ゴーレムはプラムの服を着せられている。
「今回セレナ様に見せたのはこの3つです」
そう言って、セレナがモニターで操作すると3体のマネキンゴーレムが動き出し俺達の前に整列する。体型はセレナに合わせているらしくやや小さめだ。
3体ともとても豪華な服を着ている・・・正直これをプラム一人で作ったのか?と疑いたくなるくらい細かい装飾が施されている。確かに、これは才がベタ褒めするわけだ・・・だけど同時に才の言っていた意味も理解できた。
「なあ、プラム。このドレス・・・もしかして、アイディアは夜会に来ていた人たちのから取ったか?」
「え?・・・はい、とても綺麗なドレスだったので・・・私なりに再現してアレンジしてみたのです」
・・・はぁ。なるほどな・・・・道理で見たことのあるものだと思った。そりゃセレナが納得しないわけだ。
「なぁ・・・プラム。才からのアドバイスなんだが『真似はするな参考にしろ』だそうだ」
「・・・え?」
「プラムはこの国に来て新しい技術を取り入れたんだよな?」
「はい・・・どれも新しい物で色々と勉強になりました」
「でも、この国ではそれが当たり前だ・・・デザインも技術も」
「・・・え?」
このへんは俺にとっても盲点だったかもしれない。俺達にとっては新しい技術かもしれないがこの国にとっては同じこと。逆もしかり、自分の知らない技術が新しいものとは限らない。オリジナル・・・・それは自分が学んだ物と今持っているものをいかに昇華させて生み出すものかだと思っている。
「プラム・・・今時分の持っている技術全部をデザインに詰め込め・・・そうすればきっとプラム・グローブの作品ができるはずだ」
「・・・分かりました・・・頑張ります!」
プラムも何をしたら良いのか見えてきたのか顔色は少し明るくなりさっそく、作業用のテーブルに設計図を書き始める。
「コウキ様、ありがとうございます」
プラムが元気になったのを確認したワイトは安堵した様子で俺に頭を下げた。
「俺はお前たちにお保護者だからな・・・ワイトも悩みとかあったら遠慮なく言っていいんだぞ?設備の向上とか」
「アレ以上望んだら罰が当たりますよ・・・ただでさえ師匠の工房よりも使いやすい場所なんですから」
そんなことを言い、プラムが集中できるように俺達はそっとプラムのアトリエから出て行く。
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3日後
「これです!この見た瞬間に衝撃が走るような作品!これこそプラム・グローブの作品ですわ!」
セレナの目の前に並べられた三着の服。外出用のカジュアルな服、綺麗な装飾と模様のように刺繍で【刻印魔法】付与されたドレス、そして安眠に最適な素材で作られたパジャマ・・・どれも見た瞬間、セレナの目は輝いていた。
「見事です、プラム・グローブ」
「ありがとうございます」
セレナからお褒めの言葉を授かりプラムはゆっくりと頭を下げる。
「では、報酬を・・・サイ」
「分かっている」
セレナの隣にいた才がモニターを操作すると目に羽ペンが出現した。
「プラム・グローブ・・・本日より君を仕立てギルドのAランク会員へ昇格する」
そう言って、モニターに何か書き込むとプラムの目の前に自分のステータス画面が表示される。そしてそこにはしっかりと『仕立てギルド ランク:A』と表示され、所持金の額も桁違いに増えていた。
「フフフ・・・これからの活躍に期待していまよ」
「ありがとうございます」
「サイ・・・彼女を送って上げてください・・・私はこれから部屋に戻ります」
「・・・了解」
嬉しそうに服を見るセレナに呆れた顔で才が返事をし、プラムと一緒に城の入り口まで送る。
「・・・あの・・・ありがとうございます」
「何のことだ?」
「サイさんのアドバイス・・・あれを聞いてあの作品を作ることができました」
「そうか・・・なら良かった」
プラムの無邪気な笑顔に才も嬉しそうな顔で返事をする。
「・・・私、目標ができました・・・もっと沢山学んで沢山のものを見たくなりました。そしていつかテオにも負けないオリジンブランドの服を作るのです!覚悟してくださいね」
プラムは目を輝かせながら才に宣戦布告した。