131話 頑張ったからご褒美に旅行をプレゼントしました
「はぁ・・・」
管理室に映る大量のモニターを見ながらタマモは深いため息をついた。ダンジョンモンスターたちの引っ越しと入れ替わりが行われ、管理部門も落ち着き平常運転でいつものようにダンジョンに挑む冒険者の監視、そしてドロップアイテムの回収の指示を行う日々を送っていた。
「タマモさん、今日も特に問題はなさそうですね」
「・・・そうね」
同期のフライは嬉しそうに報告をするがタマモはどこか憂鬱そうな返事をした。
「・・・なあ、タマモさん最近元気無くないか?」
「ですよね?機能停止していた時よりはマシですがやっぱりどこか覇気が無いというか・・・退屈そうですよね?」
フライはタマモに聞こえないように部下と小言で話し合う。
「やっぱりアレじゃないですか?」
「アレ?」
「子供ですよ・・・ほら、リズアの住民で子供ができたって話聞いたじゃないですか?」
「ああ、そう言えば・・・確か生活部門のレグルスとアーニャにも子供ができたって話聞いたぞ」
ここ最近、住民たちの間で子供ができたとか、結婚するなどそういう話が持ち切りであった。管理部門でも何組かカップルが誕生しているそうで、彼女彼氏がいない側からが手厚い歓迎が送られた(内容はご想像にお任せします)。
そして、タマモもまた恋をする女性の一人・・・その相手が自分たちの上司である光輝であることは管理部の誰もが知っていること。できればその恋を応援したいという気持ちがあるのだが、当の光輝が神エイミィに気があることも誰もが知っていること。
「なるほど・・・つまりタマモさんはコウキ様との子供が『クウ!』・・・アババ!」
フライがそんなことを言った瞬間、彼の頭上から突然雷が落とされる・・・比喩ではなく文字通り電気の雷だ。
フライが上を見上げるとそこには小さな可愛らしい狐がプイっとそっぽを向いた状態で浮かんでいた。
「っちょ!タマモさん霊獣を呼び出すのは反則です!」
霊獣・・・神霊族に進化したタマモが身に着けた新しい力の一つ。というよりも稲荷神種に進化した時にセットでついてきたものなのだ。霊獣の空狐、名前はクウ。
「黙って仕事していなさい・・・それとも今度は私自ら雷を落とそうかしら?」
「・・・それ、パワハラ『神成!』・・・アババ!」
再び雷が落とされ管理部門は重たい空気に包まれる・・・が、その空気も5分後に一気に解消される。
「よ、皆。ダンジョンの状態はどんな感じだ?」
「あ、はい!冒険者とダンジョンモンスターの一進一退という状況です。特にこれと言った冒険者は今の所現れていません」
彼らの上司、光輝がやって来たことでタマモから溢れだす威圧空気が一気に消し飛ぶ。
「そうか、悪いな退屈な仕事を任せて」
「いえいえ、これはダンジョンにとって重要な仕事ですから!」
タマモの明るい声に光輝は笑ってお礼を言う。
「ありがとうな・・・ところで、フライ・・・どうしたんだ?なんか焦げ臭いが?」
光輝は不思議そうに気絶しているフライの後ろ姿を見る。
「あ・・えーと、お昼に焼肉食べに行ったのですよ!あそこ炭火焼きしているじゃないですか!」
「昼から焼肉か・・・まあ頑張っているからいいか。今度管理部門皆で焼肉パーティやるのも悪くないな」
「素晴らしいです!是非やりましょう」
タマモの嬉しそうな声に管理部門の皆(フライを除く)が賛成する。
「さて・・・ダンジョンの方も順調だし俺も次のステップに移動するか」
「また交易ですか?」
「いや、そう言う訳じゃないんだが、グンナルがカグツチで行われる武闘大会に参加することになって、俺も見に行こうかなって」
日ノ輪の国『カグツチ』、そこには人間族と妖人族が共存する国であると認識していた。タマモもかつては妖人族であったため、興味はあった。
「あ、あの・・・カグツチに行くのでしたら私も連れて行ってもらえませんか?」
自分の立場を忘れ思わずそんなことを言ってしまった。
「構わないが」
「え?」
「ダンジョンもだいぶ回るようになっているし。フライたちも頼もしくなったからな。タマモもたまには長期休暇は必要だろ?」
「それじゃあ!」
「まだ、まだ先だけど一応予定は空けておいてくれ」
「はい!もちろんです!」
タマモは嬉しそうに心の中でガッツポーズを取り、管理部門のメンバーたちも心の中で拍手を送っていた。
「まあ、そう言うわけだ。またしばらく俺は出ることになるがダンジョンの管理は任せるぞ」
『了解!』
全員の良い返事に光輝は少しうれしく思えた。
「本当、頼もしくなったな」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
光輝と一緒にカグツチへ行くことが決まったタマモはまさに至福の時間を堪能していた。
「ああ、コウキ様と一緒に旅行・・・っは!これってまさか、テオの本に書いてあった『新・婚・旅・行』というものでは!」
※違います
「コウキ様と旅行・・・あ、でもやっぱり護衛は付くのでしょうね。男性のグンナルさんは除外して・・・オウカは・・・狼だから大丈夫ね。問題はランカだけど・・・コウキ様に対して脈はなさそうだよね・・・うん!大丈夫!問題無し!」
一緒に行く人のことを考え障害となるものはないと判断しタマモは再び嬉しそうに自宅へ帰ろうとした。
だがそこで一つ、恋愛とは別の不安要素があることを思い出す。
「・・・そうだ、邪神。カグツチに現れる可能性がないわけじゃない。前回はコウキ様自らが退治したらしいけど、結果が同じとは限らない。それにフロアボスのゾア様もいたし」
邪神という存在にタマモは徐々に不安になってきた。もし、邪神が現れたら自分は光輝を守ることができるのだろうか?むしろ足手まといにならないかが不安でしょうがなかった。
「・・・やはり、戦う力は必要だよね・・・となれば修行かな」
そう決心したタマモだが、どう修行すればいいのか分からなかった。
「・・・あら?タマモじゃないですか?随分と不安そうな顔をしていますがどうかしましたか?」
そこへやって来たのはダンジョン最強のフロアボス・・・聖樹神のメリアスだった。
「メリアス様・・・そうだ!お願いがあります!」
「・・・はい?」
その後、タマモの熱意に応え・・・メリアスはタマモの師匠として鍛えることになったのだ。