130話 英雄が料理を教えに来たのでゴリラが弟子入りしました
ここは、トレスアールの名所の一つ『ゴリランチ』。『伝説の料理人』とも謳われた人物、地天才の弟子、ドナルド・トレスアールが開いた店としてその名はテオ王国で有名であった。
そんな店ではここ最近来客数の記録を更新し続けていた。
「ジョージ!ロック鳥オムライス3人前、ゴリラーメン4人前、パッフィーオークチャーハン2人前だ!」
「ウッス!」
大量の客の注文を耳にしたアルバイトの獣人・ゴリラ種のジョージ。その頼れる後ろ姿はすでに料理人としての貫禄を見せつけていた。次々と店員が運んでくる食材をジョージは次々と調理をし、客たちはその調理を感心した様子で見ていた。豪快な調理から繊細な盛り付け、すでにジョージの知名度はかなり広く知れ渡り、彼を見るためにわざわざ遠くの町からやって来る者もいた。
「へい!お待ち!」
ジョージに手渡される料理を食した客たちは満面な笑みで料理を堪能した。(けっしてリアクションでおはだけになるようなことはありません)
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休憩時間
「ふぅ・・・今日もなんとかさばけたな」
最後の客が出ていったのを確認した後、店長のドナルドが疲れた様子で椅子に座った。他の店員たちも満身創痍の状態だった・・・ただ、一人を残して。
「はい、余った食材で賄いを作りましたので皆で食べてください」
厨房に残っていたジョージが大皿に乗ったチャーハンを持ち込んでくると店員たちが一斉にテーブルに集合する。
「うぉおお!ジョージさんマジ愛してる!」
「美味い!これマジで美味いぞ!」
「ジョージさん!毎日俺の飯作ってくれ!」
マナーなど気にせず店員たちは貪るようにジョージのチャーハンを食べる。さっきまで元気が無かったのが嘘みたいだ。
「お前らな・・・」
呆れながらも店長もジョージのチャーハンを小皿に移し食べ始める。
「美味いな・・・ジョージ、また腕上げたんじゃないか?」
「恐縮です・・・ですが食材が良いからだと自分は思っています」
「いやいや、確かに雑貨店リズアから購入した食材は一級品だがそれを活かすジョージさんの腕は確かだよ」
謙遜するジョージだがすぐに店員の一人が否定し、全員が頷く。
「この腕ならもう自分の店を構えても問題ないんじゃないか?」
「というよりも、王都から宮廷料理人として選ばれたりして」
「え?!それはダメだよ!ジョージさんいないと美味い賄いが食えないし・・・というよりもいないと店が回せられないよ」
すでにジョージはゴリランチに無くてはならない存在であった。料理人としての腕、そしてその外見とは裏腹に親しみやすいその性格から店の者やトレスアールの住民からも人気があった。
チャラーン
全員がチャーハンを堪能しながら雑談をしていると店の入り口から一人の男性が入って来るのが見えた。
「あ、スミマセン。今営業時間外で・・・・え・・え・・」
店員の一人がお引き取り願おうと言おうとした瞬間、その男を見て固まり出す。
「ああ、すまない。客がいない時を見計らって来たから・・・久しぶりだな、ドナルド」
アルヴラーヴァの英雄、地天才であった。
「「「才様?!」」」
店員たちが一斉に手に持っていたレンゲをテーブルに置き直立する。
「お久しぶりです師匠。最近忙しいみたいで・・・」
「ああ、前回トレスアールに来た時もちょっと用事があってな。すまないな顔を出せなくて」
「いえいえ、師匠が忙しいのは昔から知っています。ところで今日はどうしてここに?」
「ああ、ちょっとここで働いている『ジョージ』に用があって・・・」
才がそう言った瞬間、全員が一斉に厨房で皿を磨いているジョージを見た。
「お前がジョージか・・・そう言えばギルド支部で会ったな」(34話参照)
「ええ、あの時はまだ新人でしたし、自分はただのコウキ様の付き添いでしたから」
「そうだったな・・・それが今ではゴリランチの有力戦力ってわけか」
才たちは懐かしむように話しながら握手を交わす。
「・・・まさか、本当に王都へ引き抜き?!」
「チクショー!ただの貴族だったら塩撒いて追い払っていたのに!よりによって才様かよ!」
「・・・俺、今から王都に行けないか仕事探そうかな?」
店員たちがコソコソと話しているようで、才が笑いながら言った。
「ああ、引き抜きとかそういうのじゃないから安心しろ。俺は友人に頼まれてここに来たんだ・・・これ、お前が作ったものか?一口貰うぞ」
そう言って、才はテーブルの上にあったチャーハンを見て、余ったレンゲを手に取り一口食べる。
「・・・なるほど。カグツチ産の米にテオプアで飼育しているオークの肉、オリジン産の人参と玉ねぎ、味付けにクリスタルクラブの甲羅のダシとゴリランチ秘伝のタレをミックスしたって所か・・・となると、今日の日替わりラーメンは海鮮ラーメンかな?」
才がそう言うとジョージはビックリした顔で彼を見た。
「お見事です・・・あと、自分で調合したスパイスを少し混ぜました」
ジョージは才達に見えるように小瓶に入った香辛料を見せる。
「おいおい、店にあるもの以外を使ったのかよ」
「すみません、どうしても皆さんに食べてもらいたくて」
面目なさそうにジョージは謝罪をするが、あんな美味い賄いを食べさせられたら文句は言えない。
「なるほどな・・・こりゃ教えがいのありそうな人材だ。ジョージ、その香辛料少し使ってもいいか?」
「え?構いませんが」
ジョージの了承を得たことで才はコートを脱ぎ香辛料の入った瓶を手に取り厨房へ入っていく。
「え?もしかして・・・」
「才様の手料理食えるのか?!」
店員たちが期待を膨らませながら厨房でモニターを操作する才を見る。すると才の目の前にはいくつもの調理器具が出現する。どれもしっかりと手入れされた一級品の物ばかりだ。ジョージはこの時点で才が並みならぬ料理人だとすぐに理解した。
「流れ的に俺もチャーハンで対抗したいところだが、別に勝負するつもり無いから好きにやらせてもらうぞ」
そう言って才は冷蔵庫に余った食材を手に取り次々と調理を開始する。その光景に他の全員が釘付けになった。
「ほい、お待たせ・・・特製ピリ辛餃子定食」
大皿に盛りつけられた餃子やシュウマイ、肉まん。ジョージの特性香辛料の香りが引き立つ。店員たちは今にでも料理を食べたい気持であったが、ジョージが口に入れるのを持った。
「・・・・素晴らしい。こんな料理自分は食べたことがありません」
「素材が良いからな・・・お前の香辛料を含め」
先ほどジョージが同じことを言ったのを思い出し店員たちが笑いを堪える。
「今の自分にこれほどの料理を作れる自信はありません・・・完敗です」
ジョージは少し悔しそうに才を見て頭を下げる。
「いや、俺は料理勝負しに来たわけじゃないから・・・しばらくはお前たちのいる別荘によることになるから、その時に料理の知識を叩き込んでやるさ」
「別荘に?・・・何故です?」
「・・・・聞いていないのか?光輝から?」
「えーと、確か大きな商談が決まったというのと、いずれプレゼントがあると・・・」
それを聞いた瞬間才は呆れた顔で天井を見た。
「光輝・・・ちゃんと報告しておけよ」
その後、事情を知ったジョージは嬉しそうに才から料理を教わること承諾し彼のことを『大師匠』と呼ぶようになった。