129話 遊園地に行ったらヒーローが増えました
ダンジョン最上階、44階層を守護するフロアボス、天空龍・リンドが担当するフロアにはアルヴラーヴァ最強の生物と呼ばれる龍が生息する。だが最強と呼ばれているのはあくまで龍としての総称だ。
その強さは階級制で分けられており、下級、中級、上級の三段階に分けられる。
翼龍や蛇龍など亜龍に分類されるものは下級、レッドドラゴン、アースドラゴン、白龍など主に属性持ち、色持ちの龍族を中級、バハムート、リヴァイアサンなど固有名詞を持つ龍が上級に分類される。だが、ダンジョンの上層部に生息する龍はその上の階級が存在していた。
覇王級
その力は絶対・・・龍族の中で頂点に君臨する力を持つと呼ばれる龍族。
その力はまさに覇王、生物の頂点に君臨するのに相応しい強さを持っていた。
・・・・・・・・・・・・
地下45階 リズア・ヴァプ
「はぁ、暇ッスね」
「そう言うな、ソウキ。コウキ様からせっかく頂いた貴重な休日だ有意義に使おうじゃないか」
「と言っても、何をする?このまま何もしないというのも・・・」
リズアの住宅エリアにできたカフェでのんびりとフルーツジュースを飲んでいる、ソウキ、アイガ、カクラの三人。彼らは久々に入った連日休暇をどう過ごそうか悩んでいた。
そもそも、戦い・・・もとい、仕事を楽しんでいる彼らにとって休暇とは必要のないものであった。だが、彼らの上司であるコウキから
『たまには、休暇をとって身体を休めろ』
と言われ、三人そろって2日間の休暇を取ることになった。警備部門もだいぶ練度が上昇し、自分たちがいなくても冒険者の対処はしっかりできている。もとより、冒険者に後れを取るような鍛え方をしていない。
「・・・久々に三人で修行でもするッスか?」
「悪くないがそうなると身体を休ませられないぞ」
「そうですね・・・ですが、他に何か有意義な過ごし方は・・・」
ずっと仕事に没頭していた三人にとって休暇をどう過ごしたらよいのか分からなかった。
「あら?ソウキ達じゃない、珍しいわね」
「あ、本当だ・・おーい、ソウキ、アイガ、カクラ!」
「・・・オアンにメア。久しぶりッス」
三人が悩んでいるとやって来たのは、彼らと同じ有隣族・地聖母龍種の美しい女性、名前はオアン、そして隣には買い物籠を持った有隣族の少女、メアがいた。
彼女たちは元ダンジョン40階層にて君臨した最強クラスの龍種、ガイア・マザードラゴンの親子である。光輝が生み出したモンスターであり、その実力はフロアボスのリンドに匹敵するという設定である。そんな彼女がなぜソウキ達よりも下の階層かというと。40階層の設定では出産を終えたガイア・マザードラゴンとまだ成長しきっていない子と戦闘を行うというものであったため。母親は体力が減少、娘もまだ実力を持たない子龍のため、難易度的にソウキたちよりも下であった。
だがそんなガイア・マザードラゴンも有隣族・地聖母龍種へ進化を果たし無事体力を回復した今ではソウキ達よりもはるかに強く、下手をすればフロアボスであるリンドに匹敵する強さを持つほどと言われている。だがそんな彼女も一児の母として現在はリズアの生産部門で楽しく仕事をしながら育児に専念している。
本来、龍族やそこから進化した龍種たちは非常にプライドが高く高圧的な態度を取るのが殆どである。だが、オアンはその例には当てはまらず非常に温厚で誰にでも親切に接する。そのため、三人も彼女に対してはかなり素直に接している。
「実はコウキ様から三日ほど休暇を貰ったのですが、どう過ごしたらいいのか分からず」
アイガが説明するとオアンが納得した顔をする。
「なるほどね・・・要するに暇ってことね」
「暇」という言葉に三人の胸にグサッと突き刺さる。
「なら、少しメアの面倒を見てもらえないかしら?」
「「「面倒?」」」
三人が一斉に?マークを浮かべる。
「実は急用でこれから工房に向かわないといけないのよ・・・ちょっと、人手が足りないみたいで」
「ああ、確かテオとの交易が決まってかなり忙しいみたいですよね?」
「そうなの、だからその間メアを誰かに預けたかったのだけど・・・三人に任せてもいいかしら?一応夜には終わるから」
リンドからの命令であったら即断っていただろうが、他ならぬオアンからの頼みであれば三人とも断る理由もない。それに子供の面倒なら彼ら三人が疲れるようなことは無いだろうし、丁度良い暇潰しになるだろうと思った。
「「「いいでしょう」」」
こうして三人のベビーシッターが始まった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
メアを預かった三人はさっそく何をするか会議を始める。
「さて、預かることになったのはいいッスけどこれからどうするか」
「っちょ、ソウキお前全く考えていなかったのか?!」
「・・・バカでしょ?」
「っちょ!ならお前たちは何か考えているッスか?」
「「・・・・」」
「はい、ここにバカ二名発見ッス」
まるで子供の喧嘩のような幼稚な罵倒を繰り広げている中、メアはマイペースに三人が頼んだフルーツジュースを美味しそうに飲んでいた。
「とりあえず、俺が修行に使っている41階層に行くッスか?雪遊びとかで遊べるッスよ?」
「いや、あそこは寒すぎる・・・某たちならともかくメアでは耐えきれん。42階層はどうだ?山登りとか楽しいぞ?」
「いや、あそこ山じゃなくて剣山・・・針山地獄じゃないッスか。それにあそこは血生臭くて子供が行く場所じゃないッス」
「なら、43階層は?暗い洞窟の中を探検するの・・・まあ、かなりの頻度でデスドラゴンやシャドードラゴンたちが襲い掛かってきたりするけど」
「「却下だ(ッス)」」
三人それぞれが自分のお気に入りの修行場を提案するがダメであった。そもそも彼らは自分で考えて計画を立てるということが少し(?)苦手なのだ。
「・・・」
三人が悩んでいると亜人の双子、ナギとナミが嬉しそうに大通りを走って来るのが見えた。
「あれ?ソウキさんたち・・・それにメアちゃんも」
「こんにちは」
「おや?ナギナミツインズ・・・そんなに急いで、どこに行くッスか?」
「はい、これからオリジンパークに行くところです」
オリジンパーク・・・最近、光輝が子供たちのために創った遊戯施設のこと。現在では子供たちを中心に住民たちが楽しむ場所となっていた。学校が終われば宿題をやってオリジンパークで遊ぶというのが今のリズアの子供たちの生活パターンであった。
「そういや、俺達あそこにはまだ行ってないッスね」
「そうだな・・・メア、オリジンパークに行くか?」
「うん!行きたい!」
メアが眼を輝かせながら答えると三人はさっそく娯楽エリアへ向かうことにした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
娯楽エリア
「随分とここも人が集まるようになったな」
ソウキ達が娯楽エリアへ歩いていると周りには様々なイベントや大会が開かれていた。リズアでは住民たちがそれぞれイベントなどを企画して申請することで娯楽エリアの一部をレンタルすることができる。
大会では主に生産部門や技術開発部門で作られた新作や失敗作などが景品として提供されている。
「お、大食い大会なんかやってるッスよ」
「ソウキ、目的を忘れるな。某たちはオリジンパークに行くんだぞ」
ちょっと寄り道しようぜ見たいなノリでソウキが大食い大会を行っている会場へ行こうとするがすぐにアイガに摑まれ引きずられる。そしてようやく到着すると巨大な遊戯施設から子供たちの楽しそうな声が響き渡る。
「うぁ・・・こりゃまたすごいもんが作られたッスね」
「うむ・・・なんだろう、戦いでもないのに身体から沸き立つ興奮は・・」
「とても楽しそうですね」
三人共目を輝かせながら乗り物を見るが後ろにいたメアの咳払いですぐに我に返る。
「えー、今日の目的を忘れていない?」
「ああ、そうだったッスね」
「もちろん、忘れていないぞ」
「・・ええ、ささメアも一緒に行きましょう」
話をそらしながら三人はメアの背中を押しながら遊園地の中へ入っていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
オリジンパーク
「ヒャッホーイッス!」
「おおおおおお!」
「いえーい」
全力で楽しんでいる三人組・・・すでにジェットコースターを五回は周回していた。
「いやー、コウキ様もすごいもの作ったッスね」
「ああ、今後も休暇にはここに来るのもいいかもしれないな」
「すごく楽しいね」
完全に遊園地を満喫している三人組
「そう言えばメアはどこ行ったッスか?」
「っちょ!お前たちまさか忘れてたのか!?」
「・・・マズイわよ。オアンにバレたら死にはしないけど5回は殺される」
そう考えた瞬間、三人の身体が一気に凍り付き必死にメアを探すことになるが、すぐに子供たちの歓声が沸き立つのが聞こえた。
「・・・あっちの方に子供が多いみたいッス」
そう言って子供たちの声が聞こえる方角へ走ると子供たちがステージの前で集まっているのが見えた。そこにはナギとナミ、そしてメアの姿もありどうやら二人が彼女を見ていたみたいだ。
そして急にステージから音楽が流れ出すと霊人族・水霊種の司会のお姉さんがステージに上がってきた。
『よい子の皆!こんにちは!』
『こんにちは!!!!』
司会のお姉さんが元気な声で挨拶をすると子供たちはその倍以上の元気で挨拶してきた。
『うん、皆元気だね!それじゃ、今日も呼んでみようか?せーの!』
『マスク・オブ・オリジーン!』
子供達が元気な声で叫ぶ、しかし何も起きない。
『あれれ?どうしたんだろう・・・おーい、マスク・オブ・オリジンさん!どこに『ひゃーははは』・・・?!』
司会のお姉さんがキョロキョロと見渡すと突然黒装束の集団と見たことも無い男がステージに現れ司会のお姉さんの腕をつかむ!
『きゃ!なんなのあなた達!』
「フハハハ!我々は悪の組織!デザスターズだ!そして俺がその幹部の一人!ボーロック様だ!今日からこの遊園地は我々の拠点とする!そしていずれリズアを!そしてオリジンを我々が支配する!」
男が大げさに叫ぶと、子供たちは怯えた様子でボーロックを見る。
「フハハ・・・そうだな!手始めにここにいる子供たちを全員我々の新たな部下として誘拐するのもアリだな・・・ぐほ!」
ボーロックがそうニヤニヤした顔で子供たちを見る・・・すると次の瞬間ボーロックの顔面に大粒の氷が直撃した
『え?』
司会のお姉さんとデザスターズの団員全員が吹き飛ばされるボーロックを見る。
「ほお!オリジンを支配するとか・・いい度胸ッスね!」
「まったく、こんな屑共がリズアにいたとは・・・」
「・・ふふふ、ちょっとお仕置きが必要みたいですね」
ソウキ、アイガ、カクラがモニターを操作して武器を取り出すと華麗にジャンプしてステージに上がる。
「っちょ!何をしているんです・・・じゃなかった!何をしやがる!(ちょっと!これ台本とかに無いんですけど!)」
心の中で叫びながらボーロックが顔を抑えながらソウキ達を見る。
「今からお前らの腐った根性を叩きなおしてやるッス」
そう言ってソウキ達が一斉に散り、デザスターズを叩きのめしていく。
「すごい!カッコいい!」
「頑張れ!ソウキお兄ちゃん!」
「アイガお姉ちゃん、負けないで!」
「カクラお姉ちゃん!気をつけて!」
子供達の声援でいっそうやる気を出した三人・・・だがボーロックもただではやられなかった。
「っく!まったくもって予想外だが・・・いいだろう!お前たちの相手をしてやる!(こうなったら焼けだ!とことん付き合ってやる!)」
そう言ってボーロックが取り出したのは禍々しい二又槍だった。
「ほぉ、その構えなかなかの手練れみたいッスね」
「これでもデザスターズの幹部なのでな(エドワード様に色々と仕込まれているからね)」
「いいッスね、なら俺たちも本気で『そこまでだ!』・・・え?」
「き、貴様は(よかった!やっと来てくれた!)」
全員が声がする空へ顔を向けるとそこには、マントと仮面をつけた男が宙に浮いていた。
「大地の進撃、海の激流、陸の咆哮、天の怒り、悪魔を退き、未知の世界。6つの試練の先に原初が立ちはだかる・・・マスク・オブ・オリジン!ここに見参!」
ステージへ着地しキメポーズを取る男。すると子供たちが一気に歓声をあげた!
「マスク・オブ・オリジン!来た!」
「マスク・オブ・オリジン!デザスターズなんか倒しちゃえ!」
子供達の歓声にマスク・オブ・オリジンが応えるかのように突然巨大な魔法陣が展開される。
「・・・我が新たな戦友『デルタ・ドラゴンズ』よ我が到着するまでよく子供たちを守ってくれた。感謝する」
「え?いや当然のことで・・・え?戦友?」
何を言っているのか分からないソウキ達、だが子供たちはソウキ達がマスク・オブ・オリジンの仲間だと知ってかなり興奮した様子でソウキ達を見る。
「さてデザスターズよ、よくもリズアの大切な子供たちを誘拐しようとしたな!その罪、我が雷で裁いてやる!」
「な!なんて魔力!これがマスク・オブ・オリジンの力!」
「その愚行!我の魔法で償わせてやる!『オーロラ・ボルト!』」
マスク・オブ・オリジンの魔法陣から出現した七色に輝く雷は一斉にデザスターズに襲い掛かる。
「お、おのれ!マスク・オブ・オリジン!覚えてろ!絶対に貴様を・・・(よかった、なんとか無事に終わりそうだ)」
ボーロックは最後まで言い切れずそのまま光の粒子となって消えてしまった。その光景を見て悪は去ったと気づき子供たちはテンションマックスで歓声を上げる。
『ありがとう!マスク・オブ・オリジン!そして新たなヒーロー!デルタ・ドラゴンズ!』
司会のお姉さんがそう言うと、子供たちのマスク・オブ・オリジンとデルタ・ドラゴンズコールが何度も続いた。
「・・・さて、デルタ・ドラゴンズよ。改めて礼を言おう。子供たちを・・・そしてこのオリジン・パークを守ってくれて感謝する」
「い、いや。俺たちは当然のことをしただけッス」
「うむ、某たちがいる限りあんな奴らの好きにはさせん!」
「ふふふ・・・もう少し、お灸をすえたかったけどね」
「これからもともにこのリズアを・・・いや、オリジンの平和を守ってくれ。では我はこれにて失礼」
そう言って、マスク・オブ・オリジンは突然姿を消しステージから去った。
そして残された三人は子供達から歓声の拍手を浴びることになりヒーローショーは無事に終了した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「いやー、予想外のことがあったけど楽しかったっすね」
「そうだな・・・ちょうどいい運動にもなった」
「メア・・・楽しかった?」
「うん!カクラたち凄くかっこよかったよ!」
満足気な表情を見せるメア・・・とりあえず、彼女のことを忘れて遊んでいたことは忘れているようだ。
「あ、お母さん」
そして住宅エリアへ向かう大通りでバッタリ、オアンと出会った。
「メア、どうだった?」
「うん!ソウキ達とオリジン・パークに行ったの」
「そう・・・ソウキ、アイガ、カクラ。今日はありがとうね」
「いやいや、俺たちも楽しかったし。いい休日だったッス」
ソウキがそう言うとアイガ達も頷く。
「それとね、ナギとナミに会ったの!二人と一緒にマスク・オブ・オリジンを呼んだんだよ!」
「まあ、そう良かったね」
「それとね・・・ソウキ達が何度もジェットコースターに乗っているのも見ていて楽しかった。メアは大人だから三人がずっと遊んでいてもベンチで見ていたよ」
ギク
「へぇ・・・三人共、ちょっといいかしら?」
優しい声におしとやかな顔で話すオアン・・・だが目は全く笑っていなかった。
「「「・・・・えーと、スミマセンでした!」」」
その後、三人はオアンの覇王クラスの逆鱗によって三人はヒーローとは思えない情けない姿をさらすことになった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
地下33階層
「それでは、本日のマスク・オブ・オリジンのヒーローショーの成功を祝して乾杯!」
『乾杯!』
司会のお姉さんの掛け声とともにデザスターズのメンバー・・・もとい、オリジン諜報部門のメンバーたちの打ち上げが行われていた。
「いやー、まさかソウキさん達が乱入してきたのは驚いたな」
「そうですよ・・・ってか、あの様子。絶対俺達のこと本物の悪人だと思っていますよ!」
「俺たちの迫真の演技もなかなかってことですかね?」
「子供達も凄く盛り上がっていましたし、次のショーでもまた参加させてみましょうか?名付けて『どっちがヒーロー?!マスク・オブ・オリジンvsデルタ・ドラゴンズ』!」
「お!面白そうだな」
デザスターズの戦闘員たちは楽しそうにお酒や食べ物を食べながら盛り上がっていた。
「・・・リンドの奴。もう少し部下の教養をしっかりしてもらいたいものだ。というか、毎回思うがなんでここで打ち上げを行う?」
面倒くさそうな顔で読書をしているマスク・オブ・オリジン・・・現在は地下33階層フロアボス、原初の魔術師、エドワードは楽しそうに騒いでいる諜報部門のメンバーを見る。
「いや、一応俺達子供達の前では悪の組織デザスターズでいないといけませんし。ソウキさんたちに見つかると色々と面倒ですから」
「そうそう、そのへんここは誰も来ませんし」
「・・・終わったらしっかり掃除はしておけ。食べかす一つでも残したら今度は本気で『オーロラ・ボルト』を放つからな」
「「「はーい」」」
ヒーローと悪の組織、そして司会のお姉さんが一緒にいる空間・・・それは子供達の夢を壊さないための場所でもあった。
ソウキ達の日常回でした。今回は新キャラとして有隣族のオアン、メアが登場しました。二人も感情と龍の身体の一部から名前ができています。
メア 眼安
オアン 尾安
それと、エドワードが担当する諜報部門のメンバーも登場です。意外と楽しいメンバーたちが集まって活動をしています。