128話 人員が足りないので住民を増やしました
オリジンとテオプア王国との調印が完了して数日が経過した。生産部門と技術開発部門に力を入れ始めたがやはりというべきか大きな問題に直面した。
「・・・人員が足りないな」
そう、オリジン・・・主に生産部門と技術開発部門の人員が圧倒的に足りないのだ。自分たちの分だけを作るなら問題ないのだがテオからの注文の量がかなり多く、こちらの生産量が追い付かなくなってきている。
ドロップアイテムから回収する手もあるのだが品質の低下や、ため込んだ魔素の消費も考えてそれは却下となった。俺の【ペースト】と【アップグレード】でやればすぐに量産は可能であるがこれも魔力の消費関係で却下。
「やはり、今後のことを考えて先にダンジョンモンスターたちをこっちに呼ぶか」
俺は久々に新たなポップモンスターを生み出すことを決意した。
そんな時、グラムから連絡が入った。
『コウキ様、今よろしいでしょうか?』
「グラムか、どうかしたか?」
『それが・・・少し申しにくい内容なのですが・・・』
珍しくグラムが困った様子で視線をそらしながら話す。
「いいから話せ」
『はい・・・実は儂の担当フロアにいるダンジョンモンスターたちの何体か身ごもったようなのです』
・・・・はい?
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地下45階層 会議室
グラムからの爆弾発言により、俺たちは緊急のフロアボス会議を行った。
「それで、グラム身ごもったってことは・・・ダンジョンモンスターに子供ができたってことか?」
「はい・・・すみません。まさか子を作っていたとは儂も把握していませんでした」
・・・・まあ、ダンジョンモンスターも生きているんだし性別も存在する。中にはスライムみたいにないのもいるが。子供を作るという未来は予測できたはずだ・・・
「ちなみに、グラム以外の方はどうなんだ?」
現在ダンジョンは表ダンジョン44階層までが解放されている。裏ダンジョンは現在閉鎖状態のためダンジョンモンスターは生息していない。
「俺の所にもいますね・・・人魚や魚人たちも最近太ったなと思っていたが、今思うと妊娠かと」
「・・・えーと、私のフロアにも実は妊娠しているのがいまして・・・・すでに子供が出産しているのもチラホラ」
「・・・こっちも下等龍たちが最近卵を産んだそうだ」
「そう言えば、リズアでも何組か妊娠した女性を見かけましたよ」
マジかよ・・・まさかの結婚ブームですか?
「・・・はぁ、そう言うのはもっと早く行ってくれよ」
「ですが、魔物や生物において自然のことです。我々が手を出すことはできません」
まあ、魔物の世界ではそれがルールかもしれないが・・・
「たとえ魔物でも、ダンジョンモンスターもオリジンの国民だ。そういうのはしっかり報告してほしい」
「そ、そうでした。申し訳ございません」
まあ、ダンジョンのモンスターが子作りするとか俺も予想していなかったから俺も言えた義理じゃないんだが。
「良い機会だ・・・一度、ダンジョンモンスターたちにリズア移住希望を確認してくれ。人数を把握次第、新しいポップモンスターを生み出そうと思う」
ここ最近全然生み出していないからな。久々に動かすか・・・・
そんなことでオリジンでは大規模な引っ越しが行われるようになった。
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作業室
「ねぇ、光輝何をしているの?」
「ん?新しいダンジョンモンスターの設定・・・せっかくかだから少し違うモンスターも混ぜてみようかと思って」
俺が作業していると、後ろエイミィがモニターを覗き込むように話しかけてきた。
「ふーん、やっぱり新しいモンスター生み出すんだ・・・外からの移住者はやっぱりやめたの?」
エイミィはニヤニヤと笑いながら俺を見る・・・なんというかムカつくな。まあ、モンスターを増やす計画を最初に考えたのはエイミィで当時、そのアイディアを却下したのは俺だったから強く言えない。
「やめてはいないさ、ただ予想外の事態でこうなっただけ。それにダンジョンモンスターが妊娠したんだし、ダンジョンよりもこっちに移住させた方がいいだろう?」
「そうね・・・私としては新しい住民が増えてうれしいし、ダンジョンモンスターたちにとってもその方がいいだろうから賛成よ・・・リズアはさらに拡大していくんだから」
リズアの拡大か・・・・大丈夫かな?
「どうしたの?」
「・・・いや、今更なんだがこんなに拡大してちゃんと国として纏められるのかなってちょっと不安になってな・・・俺よりもメリアスの方がいいんじゃないかなって」
以前、トレスアールのオバチャンの愚痴を聞いた時のことを思い出した。急激な成長を成し遂げたトレスアールは一件立派な町に見えるがその影で色々と悪が動いていた・・・自分が上に立つ者としての器がしっかりあるのかそれが不安になって仕方がない。一介の社会人が国のトップとか・・・普通に考えてありえないだろ。その分、メリアスはあらゆる面で超人だ。
そう思うと急にテンションがダダ下がり。すると落ち込んだ俺を見たエイミィはそっと優しく俺の頭を抱きしめて撫で始める
「お、おい何を・・・」
「大丈夫だよ、光輝ならできる・・・なんたって私が選んだ人なんだから」
「・・・・いいのか、俺なんかがこの国のトップで」
「ここまで築き上げたのは光輝がいてこそなのよ・・・今更それをいう?」
俺がいたからか・・・そう言ってくれると少しは自身を持てる。
「それにもし、メリアスがこの国のトップになったらどうなると思う?うっかり国を樹海にでも変えちゃうよ」
・・・確かにヤバいな・・・特にうっかりの部分がありえそう
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管理室
『コウキ様、儂の担当フロアの住民、計893名の進化が終了しました。いつでもリズアへ転送できます』
「随分と早いな・・・」
『コウキ様がダンジョンの魔力も渡してくれたことが大きいかと思います。体内にいる赤子もミーシャに確認してもらったところ、しっかりと人型になっていたそうです』
ふむ、どうやら順調に進んでいるようだ。進化させると言った時、体内の赤子のことが少し心配であったがエイミィ曰く、人型になれば一緒に体内の子供も人型になるらしい、もちろん赤子の分の魔力を注ぎ込む必要はあるが。
ミーシャのユニークスキル【心眼】で中の子供の進化も確認した後はいつも通り安静に寝かせておくだけでいいらしい。
「了解、ミーシャの医療施設ですでに出産用の場所は確保できているから転送が終了した後はそこへ案内させてあげて」
『御意』
さて、グラムの方も問題なさそうだし今度はこっちだな。
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1階層 Aブロック ダンジョンモンスター用部屋
「ガウ(新人のダンジョンモンスター諸君よく来た)」
「ガー!(本日からここでお世話になります!先輩!)」
ダンジョンモンスターだけが入れる特殊な部屋では現在新人研修が行われていた。
「ガウガ!(グラム様からすでに話は聞いていると思うが、本日より君たちは我らの崇高なる方、コウキ様のためにダンジョンで冒険者と戦ってもらう!)」
『ウガアア(うぉおおおお!!)』
「ガ!(よし!良い気合だ!)」
新人ゴブリンナイトたちは気合の入った声で歓声を上げる
「ガゥ!(我々が担当するのはダンジョンの中でも激戦区であるAブロックだ)」
「ガア!(うぉお!気合入ってきた!そいつらを全滅させればいいんですね!)」
「ガァ!(そうだ!我々は決死の覚悟で冒険者に戦いを挑む!玉砕覚悟でだ!)」
「グガ?(でも、死んでも生き返るんですよね?それって決死って言わないんじ)『ガアア!(黙れ屑虫が)』」
ゴブリンナイトの一人が質問した瞬間、先輩ゴブリンナイトが大剣を振りかざし切り付ける・・・即死だ。その光景に交配ゴブリンナイトたちは無言で同期の死体を見る。すると死んだゴブリンナイトは光の粒子となって消え、気が付くと後ろのベッドで気絶していた。
「ゲグガ!(見ての通り、我々は死んでもコウキ様の力でここに復活できる。だが、だからと言って手を抜いて挑むな!我々は常に全力で戦わなければならない!)」
「ガ、ガ!(す、すみませんでした!)」
「ガゥ!(分かればいい!全力で戦え!冒険者たちにここへ踏み込んだことを後悔させるのだ!)」
『ガアアア!(うぉおおおおおおおおおお!)』
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管理室
その頃、新人ダンジョンモンスターたちの部屋を覗いていた管理部門のメンバーたちはというと・・・
「なあ、なんかすごい盛り上がっているみたいだが」
「そうですね・・・今回の新人は結構期待できそうですね」
まさに新入社員の様子を見ている社長の気分な俺。他のダンジョンモンスターたちも自分たちの役割をダンジョンに残った先輩ダンジョンモンスターから聞いて動き出している。
しばらくは冒険者たちに苦戦するだろうけど、すぐに戦いなれるだろう。今後はダンジョンモンスターたちにもローテーションで入れ替わるようにフロアボスたちと話し合った。
まあ、一番忙しいのはグラムの担当フロアのダンジョンモンスターたちなんだし色々と労いは必要だな。
「コウキ様、カーツ様、カルラ様、リンド様のフロアも無事転送が完了しました・・・ただリンド様のフロアだけ少し問題が・・・」
「・・・問題?」
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34階層
「くぎゃ!(ざっけんな!なんで俺がてめえらなんかの言うことを聞かないといけないんだ!)」
「ぎゃーす!(うるせえ!いいから言うこと聞けこの新人が!)」
新たに誕生したワイバーンの巣では現在仲間同士で大乱闘が行われていた。
ワイバーンなど亜龍を含め、龍種とは非常にプライドが高い生物である。そして、龍種には階級制度が存在し、自身より同じ階級かそれ以下の存在には高圧的な態度を取る。
また、自分より一つ上の階級に対しても敵対心を向け、戦いを挑む習性を持っており、常に龍種は戦いに明け暮れる日々を送っている。ワイバーンなど群れで行動する龍族は多く存在するが、仲間意識が強いかというとそうでもないのだ。
「あー、やっぱり騒いているッスね。お前ら、いい加減にしろ!氷漬けにされたいッスか?」
ワイバーン達の前に現れたのは青髪の有隣族の青年。
「ぎゃ!(ソ、ソウキ様!申し訳ございません、この新人がいうことを聞かず!)」
「ぎゃー!(誰がお前なんかの言う事聞くかってんだ!)』」
「はぁ・・・気持ちは分かるッスけど・・・」
ソウキが一度深いため息を吐いた瞬間、ワイバーン達の周りが一瞬で凍り付く。
「テメェらに命令を出しているのはコウキ様ッス・・・それ以上文句言ったら、生き返れないように氷漬けにするッスよ」
ソウキの冷たい瞳と低いトーンでの声にワイバーン達が一斉にひれ伏す
「分かればいいッス」
満足した様子でモニターを開く
「あ、コウキ様。ワイバーン達は大人しくなったのでもう大丈夫ッス」
『あ、ああ・・・すまんな、苦労かけて』
「いえいえ、龍たちのことならお任せください。こいつらは力でねじ伏せるのが一番ですから」
満面な笑みで答えるソウキ・・・その言葉に管理部のメンバー全員が凍り付く。
『分かった・・・それじゃあ、警備部隊の仕事に戻ってくれ。6階層で冒険者の強姦が発生した、急いで対処に向かってくれ』
「了解ッス!」
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管理部
「はぁ・・・疲れた」
ソウキからの連絡の後、同じく龍族の暴走を止めに行ったカクラとアイガからの報告を受ける・・・内容はソウキと同じ。二人共、新人龍族を力でねじ伏せ屈服させていた。
「お疲れ様です・・・これで、ダンジョンモンスターたちの引っ越しは終わりましたね」
「・・・そうだな」
「何か心配事でも?」
タマモは少し不安そうな顔で俺を見ていた・・・最近思うんだが、俺ってそんなに考えていることが顔に出ているのかな?【精神魔法:沈静化】を常にオンにしておこうかな?
「まあ、こんなに入れ替わったんだしダンジョンも今まで通りに行かないかもなって思って」
人が変われば環境も変わる・・・ついこないだまで安定して運営ができていたけどまた荒れそうな気がして少し心配になってしまったのだ。
「大丈夫ですよ。始めのころは大変でしたが管理部も成長しました。どんな状況でもしっかりと対処できます」
タマモがそう言うと他のメンバーたちも深く頷く。
「そうだな・・・皆、これからもよろしく頼む!」
『おお!!』
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翌日
俺の目の前には総勢7000人を超える住民たちで埋め尽くされた。テオのパレードの時を思い出すとそこまで多くないと感じるがやはりこういうのは苦手だ。
新たな住民たちのために挨拶のスピーチをすることになったんだが、これが見事になんも考えていなかった。前回の応用でいいかなと思ったがワンパターンなのはマズイ・・・何よりフロアボスたちがすごい期待の眼で俺を見ている。
「さぁ、コウキ様。皆さんがお待ちしております」
前回のようにメリアスそおっと近づき、彼女から香るアロマの効果で俺は自然と落ち着きだす。
「ありがとう、メリアス」
一度、深呼吸した後俺は目の前に映るリズアの住民たちを見る。あの日から約一年・・・よくもまあ、ここまで大きくなったものだ。
「オリジンの皆、今日は集まってくれてありがとう。この町を築き上げる時からいた人達なら知っていると思うが、ここはかつて何もないただの草原だった。本当に何も無かった・・・何も用意しなかった。だけど、今ここに立派な街が出来始めた・・・神・エイミィでも、俺の力でもなく住民たちの力で築き上げた街だ。俺が作ったのはせいぜい、娯楽施設にある遊園地ぐらいだ・・・たくさんの建物にある中でたった一つの施設だけだ!それ以外は全部お前たちが作った物・・・それがどんなにすごい事か分かるか?・・・建物だけじゃない、食べ物や道具、家畜の世話にダンジョンの運営!それら全てがお前たちなんだ!だから俺は自慢したい!俺達の国はこんなにすごいんだって!これからももっとすごい国にするんだって!自慢したい!だからこれは俺からの頼みだ・・・これからも全力で生きて、これからも素晴らしい国を築き上げてくれ!」
俺の挨拶を終えるとメリアスが拍手しだす。前回はエドが最初だったため、先に拍手を取られたことに少し悔しそうな顔をしていた。
そしてメリアスに続いて他のフロアボス、そして住民たちの各種が広がる。
うぁ、メッチャデジャヴなんだけどこの光景。
そしてエイミィと入れ替わり彼女の挨拶が始まる。内容は殆ど初めての時と変わらない・・・・この手抜きめ!
そして、新たな住民たちに【祝福】を渡した後は恒例の宴である。
広場には大量のコンロが設置され焼肉が次々と焼き始める。陸料理だけでなく、才が教えた焼きそばやお好み焼き(広島風)も並べられておりまさにお祭り状態だった。
そして、前回には無かったものが今回の宴で初披露された。
キャンプファイアーの隣で楽器を演奏する楽団・・・いつの間にそんなのが結成されたんだ?
響き渡る笛と弦楽器の音色、そしてリズムを刻むドラムの音・・・どこか未開地の民族音楽に近いような音楽であるが俺は結構好きだ。
そしてキャンプファイアーの前で一人の妖精が踊る・・・アルラだ。まるで何かの儀式のような衣装をまとった彼女は楽しそうに跳ねては回転し周りの人たちを盛り上げる。
「驚いた?アルラ、実は凄く踊りが上手なんだよ」
俺が見惚れていると横から俺の焼肉をつまみ食いするエイミィが話しかけた。
「あ、俺の焼肉!」
「ふふ、食事は戦場よ・・・うん、美味しい」
笑顔で肉を頬張るエイミィ・・・っち、その笑顔に免じて許すか。
「見事だな」
「昔は舞女神なんて呼ばれていたのよ・・・」
セフィロトの時の話なのだろうか?・・・そう言えば、アルラもエイミィもあまりセフィロトのことを語らないよな。まあ、語りたくないなら別にそれはそれで構わないが・・・
「・・・やっぱり踊っている時が一番楽しそう。あんな顔、セフィロトの時は絶対見せなかったわ」
エイミィは懐かしむようにアルラの踊りを見ていた。彼女の眼に映るのはただ無邪気に楽しそうに踊る女性。
彼女がセフィロトと呼ばれる前の姿・・・女神・マルクトの姿