123話 歓楽街に行ったので賭け事をしたました
才からアルラ、ゾア、ランカにテオを救ったことで勲章を渡されることを伝えられた後、俺たちは今後のことについて話し合った。
「それじゃ、やっぱり調印の予定日は先延ばしか?」
『ああ、セレナが凄く悔しそうな顔をしていたがこればかりは仕方ない。地脈の乱れのせいで地震が多発していたというニュースを流すからな。国民たちの不安を取り払うために授章式の準備に取り掛からないといけない。それに伴って、プラムとワイトの依頼は先延ばし、調印もその後になりそうだ』
「了解した。俺は予定通りオリジンに戻る予定だ。屋敷の魔法陣は繋がっているからいつでもそっちに行ける」
『そうか・・・今回は光輝には色々と迷惑をかけたな』
「別に構わないさ・・・友人の国を救えたのなら良かったよ」
『ありがとう・・・いずれお礼をしたいんだが、何か望むものはあるか?』
「望むものね・・・・」
「じゃあ、才の料理を俺の部下に教えてほしい」
『料理?・・・それだけでいいのか?』
「ああ、もちろん移動用に屋敷にある転移門を自由に使って構わない。ジェームズたちには話を通しておくから」
『・・・分かった。それくらいだったら喜んで教えよう・・・トレスアールまでの移動時間が短縮できるし、その分も授業の時間に割り当てられそうだ』
なんか転移門をタクシー替わりにされそうだがまあ、別にいいか。これでますますおいしいご飯が食べられるなら才にはいつでも使ってもらって構わない。ジョージの料理スキルも上がるだろうしますます楽しみだ。
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才との通話が終わり俺はモニターを開いて皆にあるモノを見せた。
「光輝様、これってまさか」
「そう、戦闘中にスキャンしたザズムフのデータだ」
俺のモニターに映し出されたのはザズムフの個人データだ。
「こんなもんいつの間に手に入れたんや?」
「戦闘中にこっそりとね、何か手掛かりにならないかと思って」
今後も邪神との戦闘は避けられないから少しでも弱点や対抗手段は探したいと思っている。
「やはり、邪神が残した力はアストラル体となって相手に憑りつくもののようですね・・・ゴースト系モンスターの固有スキル『憑依』の上位版みたいなものです」
メリアスがモニターの端部分にあるデータに指を指すと確かにそう表示されている。肉体を持たない邪神の力は肉体を持つ生き物に獲り付き行動できるようになるらしい。
この世界に生息するゴースト系のモンスターが持つ固有スキル『憑依』。その名の通り、相手の肉体を一時的に憑りつきコントロールを奪うものだ。しかし、このスキルは時間制限があり、長時間の憑依はできないらしい。ザズムフはそう言った時間制限を持たないものだ。
「そう言えば、グンナルから聞いたのですが。ザズムフは『シルバー・エクソシスト』をかなり嫌がっていたそうです」
ランカが思い出したかのように話すと全員が一斉に制作者であるワイトに目を向ける。
「そうか、確かアレには【除霊】の能力があったな」
グンナルの武器『シルバー・エクソシスト』は基本的に脳筋な能力が大量に付与されており、その中に【除霊】というものもあった。
「【除霊】を持った武器で切りけられればザズムフは肉体から分離されるでしょう、そうなればザズムフは無力に等しくなります」
なるほど、それは良い情報だ・・・戦闘以外にも憑依防止の手段にもなりそうだ。
「ワイト、【除霊】スキルはお前の意思で付与できるか?」
「はいユニーク武器でしたら可能です」
ワイトが自信持って返事をし、今後彼の武器が必要になるだろう。
「時間があるときで構わない。もし武器を作れる時があったらいくつか作っておいてもらいたい」
「分かりました」
できれば、これから忙しくなるワイト達には頼りたくないのだが有効な手段がある以上頼むしかない。
「そう言えば、ザズムフの持っていた武器。あれもスキャンしていたんだよな」
そう言って俺はスキャンしたザズムフの武器のデータをダンジョンに登録させ、アイテム化させると禍々しいオーラを放つ剣が出現する。
「これが邪神の持つ武器ですか?」
鍛冶師としての興味があるのかワイトは剣を細かく見る。
「正確にはその劣化版・・・・いや、劣化の劣化だな」
「どういう意味ですか?」
ダンジョンに登録した物は全てオリジナルよりも品質が下がる仕組みだ。そして劣化の劣化というのは・・・
「スキャンをしたとき、この剣の情報量があまりにも少なすぎたんだ。おそらく、奴が持っていたのも本物ではなく、それをコピーしたものだと思う」
俺がアルラに目線を送るとコクリと頷く。おそらく本来の『邪剣・災』の能力はこれよりもはるかに上のはず。
「ワイト・・・この剣を使ってグンナルに新しい武器を作ってやってくれないか?あいつの武器はザズムフのと戦闘で壊れてしまっているからな。必要な素材とかあれば言ってくれ」
そう言うと、ワイトは欲しい玩具を貰ったかのように嬉しそうに驚く。
「分かりました・・・最高の武器を作ります」
「必要なものがあったら言ってくれ。すぐに用意する」
「はい!」
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「さて、調印日が先送りになったため、明日はフリーとなったわけだが」
才たちは色々と後始末とかで忙しいみたいだから、完全に自由行動ということになる。
「俺はテオの歓楽街に行こうと思っているんだが皆はどうする?自由行動だから皆それぞれ行きたいところに行って構わないしここに残るのもオッケーだ」
「なら、ワイもコウキさんと同行します。面白そうなものが見つかりそうやし」
「僕はギルド本部で素材を色々と購入したいです」
「私もギルド本部で服をゆっくり見たいです」
「私は歓楽街に行きます」
ゾアとアルラは俺と一緒に歓楽街、プラムとワイトはギルド本部か・・・
「ランカ、お前はプラムたちと一緒にギルド本部に行ってくれ。二人のお守りを頼む」
「御意」
グンナルとオウカは大人しく屋敷で待機だ。ジェームズたちに看病を任せる。
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翌日
「では、光輝様何かあったら連絡をください」
「ああ、そっちも楽しんできな」
サブアカウントで普通の牛サイズになったヴァプに狼車改め牛車を引っ張ってもらい王都を移動した俺たち。ギルド本部に立ち寄りプラムたちを下した後、俺たちは歓楽街へ向かった。
「ところで光輝様、歓楽街には何か面白いものがあるんですか?」
「ジェームズの話によると温泉施設が色んな所にあるみたいだが、カジノや競馬場があるらしい」
「カジノ・・・そりゃ面白そうやな」
ゾアは予想通りカジノに食いつき遊ぶ気満々だ。そしてアルラはというと・・・
「光輝様、競馬場とはどういう所なのですか?」
「まあ、簡単に言えば馬を競争させて順位を予想する場所だ」
「それ、楽しいですか?」
アルラが不思議そうな顔で俺を見る。まあ興味無い人にとってはどうでもいいものだろうな。
「まあ、それを賭けて大金が手に入るから。人によっては楽しいのかも」
アルラは「なるほど」と言いながら窓の外を見る。
「もし時間があれば少し見てみたいです。どんな馬がいるのか興味がありますから」
おや、予想外の言葉が出てきたぞ。
「なら先に行こうか。さすがにこの時間帯にカジノってのは気分じゃないし」
カジノと言ったらやっぱり夜とかだよな。俺たちはそのまま競馬場へ向かうことにした。
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競馬場
「オラオラ!どうした!もっと走りやがれ!」
「だああ!また外した!クソ!次こそ!」
「エイミィ様!お願いします、次のレースで大当たりを!」
なんというか、物凄く怖い場所なんだけど・・・・
ギルド運営だからしっかりしているのかと思ったが、俺の知っている競馬場と大して変わらないぞ・・・唯一違うとしたら走っているのが馬の魔物だということ。
「うはー、すごい賑わいやな」
「王都にもこんな一面があったのですね」
相変わらずこの二人は平常運転だな。俺なんか周りの気迫に圧されそうなんだが。
「光輝様、試しにやってみます?」
アルラが少し目を輝かせながら言う・・・・もしかしてやりたいのか?・・・元神様が?
「まあ、お金はあるし少しくらいならいいかな」
競馬場の賭けとか一度もやったことは無いがまあこういう体験もいいだろう。あんまり無駄遣いはしたくないが。
「コウキさん、向こうで次のレースで走る馬が通るそうやで」
ゾアが少し興奮した様子でレースへ向かう魔物の行列に指を指す。
1番:ボム・ホース
2番:ブレイジング・ケルピー
3番:バルーン・ホース
4番:サンダー・ユニコーン
5番:レッサー・ペガサス
何頭かは俺のダンジョンにもいるな・・・鑑定スキルを発動しようと思ったが首には【鑑定防止】の魔法具が装備されていて見れなかった。そりゃ鑑定でどの馬のステータスが上かなんて知られたら賭けにならないよな。ギルドの管理下だからおそらくケイトたちが開発した物だろう。
「なんや、大した馬はおらんようだな」
「そうですね、育て方もそこまで良いとは思えません。あれなら私のアネの方が断然に早いです」
「アネ?」
「レノ・ユニコーンの名前です。古代言語で『馬』という意味があるのです」
神獣の名前が『馬』かよ・・・たまにアルラのネーミングセンスがおかしいと思うぞ。というか、普通の魔物が神獣に勝てるとは思えないのだが。
「アルラの見立てだとどの馬が勝つと思うか?」
「そうですね、基礎ステータスならサンダー・ユニコーンが上です。ですが、トレーニングの仕方次第ではブレイジング・ケルピーも負けていません」
まあ、普通に考えたらそれが当たり前か。賭けのレートを見てもこの2頭の倍率だけ低いからな。
「ですがレースにおいてはおそらく1位はボム・ホースでしょう、そして2位はレッサーペガサス辺りですかな」
おや?2強がトップじゃないのか?
「え?なんで?」
「長年の勘です」
その勘はセフィロトのものですか?
とりあえず俺はアルラの言う通りボム・ホースが1位、2位にレッサー・ペガサスを本命に賭けた。ちなみにレッサー・ペガサスは空を飛べるらしいがレース中に5秒以上空中に居たら失格になるらしい。
『まもなく第7レースを開始します』
アナウンスが聞こえ俺たちは観客席に座って観戦する。まあ、賭け無しでもこういう場所でレースを見るのも悪くないかな。周りの人たちは血眼になっているが・・・・
「兄ちゃんたち初めてかい?」
隣に座っていたのは見るからに競馬で賭けをやっていますという外見のオジサン。耳には細い筆をかけている。
「はい、三日前に観光で来ました」
「そうかそうか・・・まあ楽しめ。ところでそれにかけたんだ?」
オジサンは興味深そうに俺が握る馬券を覗き込む。
「ボム・ホースにレッサー・ペガサスって・・・兄ちゃん穴狙いか?」
オジサンは少し呆れた顔で見る。たしかに、俺が欠けたのは大穴の部類で倍率もかなり高かった。ちなみにオジサンが持っていた馬券にはブレイジング・ケルピーにサンダー・ユニコーンと書かれている。
「まあ、失敗するのも良い経験だ。俺も初めての頃はよくやったよ」
懐かしそうに過去を語るオジサン・・・いや、まだレースは始まっていないんだが。
そしてレースが始まった瞬間事件が起きた。スタートのベルと共にブレイジング・ケルピーとサンダー・ユニコーンが爆走しようと炎と電気を帯びた瞬間、間に挟まれていたバルーン・ホースから破裂音が聞こえた。
バルーン・ホースの特徴は風船のように丸々っとした身体で体内には大量のガスがたまっていること。ヘリウムガスみたいな性質を持っており、大人でも軽々と持ち上げられる。そして、もう一つ、バルーン・ホースは威嚇する時スカンクのように体内のガスを放出する、その時の音が風船の破裂音に似ていることからバルーン・ホースと呼ばれているらしい。
ブレイジング・ケルピーとサンダー・ユニコーンはその音とガスの悪臭に驚き混乱して暴れ出す。そして両端にいたボム・ホースとレッサー・ペガサスが一斉に走る。ボム・ホースは文字通り『爆走』しており、走った場所が後になって爆発していく・・・どういう仕組みなんだ?そして後に続くレッサー・ペガサス。空を飛べればダントツであるがその翼がかえって邪魔なせいでボム・ホースのスピードに追い付いていない。そして未だスタート地点にいる三頭・・・もはや勝負は見えていた。
アルラの予想通り、一位はボム・ホース、2位はレッサー・ペガサスとなり、俺のステータス画面の所持金が跳ね上がるのを確認した。隣にいたオジサンは愕然とした様子で四つん這いになって落ち込んでいた・・・うん、やっぱ競馬は怖い所だな。
「中々面白い所ですね・・・生産部門にいる魔物たちの運動場として使うのもアリかもしれません」
「そうだな・・・賭けを無しにして観戦できるようにするか」
「いや、リズアに観光する人は増えるんやしあった方が収入は増えるんやないですか?」
「まあ、その辺は要検討だな」
その後、俺たちは賭け金は無しの状態でレースを観戦し楽しむことにした。