119話 邪神に怒ったのでぶっ飛ばします
「権限『XUSMF』を発動!『邪剣・災』オブジェクト化!」
ザズムフがそう唱えた瞬間、ザズムフの身体からどす黒いオーラが現れ、オウカは【呪い】と思いとっさに離れる。
そして次の瞬間、オーラは徐々に剣の形を模りザズムフの右手に集まる。
「なにが起きているんだ?」
「分からん、だがすごく嫌な予感がする」
倒すなら今と判断し、二人が一斉に襲い掛かった瞬間、オウカの爪とグンナルの剣が砕かれた。
「「な!」」
あまりの光景に二人は思わず声を出す。そして次の瞬間、全身が金縛りにかかったかのように動けなくなる。
「な、なんなんだよ。その剣は!」
グンナルは滝のように汗を流しながら禍々しいオーラを纏った剣を見る。
「『邪剣・災』・・・俺のお気に入りの神話級武器だ。光栄に思え、わざわざ俺のお気に入りの武器を出させたんだからな・・・まずは妖人族・・・お前からだ」
そう言い放ちザズムフは軽く剣を振る。するとまるで辺りの生命を吸収したかのように地面に生える草花が枯れ始める。
「・・・何が・・・がああああ」
何が起きたのか分からないグンナルたちは倒れこむ。まるで、1週間砂漠の中で水を一滴も飲まないような喉の渇き・・・さっきまで流れていた汗も干上がり、肌がカピカピになっていく。
「どうだ?『干ばつ』地帯を体験する気分は」
「み、水を・・・」
グンナルは必死にポケットに手を伸ばし、水筒を取り出し飲み干す。
「ふん、用意周到な奴だ。ならこれは?」
そして次の瞬間、今度はグンナルの辺りだけ極寒の冷気が纏わり始める。
「次は『吹雪』だ・・・・」
「がああああ!頭が!・・・」
干ばつの次に極寒の吹雪・・・通常の人間だったら一瞬で血圧の変化で脳に異常をきたして死んでいる。
「ぐあぁああ!」
「どうした?さっきまでの威勢はどうした!『グンナルから離れろ!』・・・っち!そういやいたな」
【認識阻害】を発動したオウカはザズムフの首元を噛み砕こうとするも、避けられ蹴り飛ばされる。
「ぐふ!」
「・・・たく、邪魔をするなよ。妖人族は呪いの道具として使えるんだからな・・・さーて、なかなか頑丈な肉体を持っているな。あれだけの環境変化なのにまだ意識を持っているなんて」
「ハァハァ・・・なめるな!こっちはそういった環境での修行は行っているんだからな!」
グンナルがそう言いながらザズムフを睨みつける。事実彼らはカルラの修行でダンジョンの上層部で常に修行を行っていた。あらゆる環境でも生き抜くための肉体はすでに出来上がっている。だが、ザズムフの攻撃はそれ以上の環境であったため耐えきれず今の状況となっていたのだ。
「なるほどな・・・まあいい。そうなればもう少し痛めつけても問題ないな」
そう言うと、ザズムフはグンナルの首をつかみ上空へ投げつける。
「それじゃあ、こんな環境はどうよ!『台風』!」
ザズムフが剣を上へ構えると、彼を中心に突然竜巻が発生する。そして、グンナルは力なくそのまま台風に巻き込まれ瓦礫と共に突き上げられる。
「グンナル!」
オウカは【空歩】で空へ駆け上がろうとするが、ザズムフがそんなことを許すはずがなく、剣でオウカを切り付ける。
「ったく、邪魔すんなって。絶望したまま死んでいく妖人族は最高の呪い素材になるんだから」
ザズムフが笑いながら落下してくるグンナルを見る・・・だが、次の瞬間、少しおかしいことに気付く・・・落下してくるはずのグンナルがいつまで経っても落ちてこないのだ。
「あれ?もしかして外に弾き飛ばされたか?・・・しょうがない、こいつを始末した後に探しに『どごおお!』・・ぶべら!」
剣を構え動けないオウカにトドメを刺そうとした瞬間、ザズムフの横から突如巨大な衝撃波が激突し吹き飛ばされる。
「・・・え?」
・・・・・・・・・・・・・・・・
光輝達が屋敷から出発してから5分が経過
「・・・・これってデジャヴ?」
光輝は今、安全ベルトをしていないジェットコースターに乗っている気分であった。
ズドドドドドドドドドド
彼が乗っているレノ・レオガラ・ブル、名前はヴァプはとてつもないスピードで突進していたのだった。
「光輝様、しゃべっていると舌を『ッガ』・・・~っ!!!!!!!!」
どうやら、アルラの方が舌を噛んでしまったようだ。必死に口を押えて悶える彼女の姿は少し可愛いと思った。
「・・・舌を噛んでしまいますよ(キリッ)」
あ、無かったことにした。
「もうすぐでグンナルの所に到着するが、これからどうするんだ?」
「はい、これを使います」
そう言って彼女が取り出したのは小さなお守りだった。鑑定してみると【認識阻害】の効果が付与されていた。
「これって、才たちが持っていたお守りじゃないか!どこで手に入れたんだ?」
「ヒスイさんからもらいました。光輝様はそれを使って接近してください。私も【認識阻害】の魔法を付与された結界を張ります」
アルラが何か呪文を唱えると急にロセや後ろに乗っていたランカの姿が視界から消え、そして今度はモニターが出現しアルラが映し出される。
『これで接近しても敵に気づかれることは無いでしょう、できれば一撃で仕留めたいところですが、油断はできません』
「・・・だな、それに以前感じた邪気よりもさらに強い気がする」
『おそらく、分散した力がどこかで力を蓄えていたかもしれません。以前光輝様が会ったザズムフがバージョン1とすれば今回のザズムフはバージョン2でしょう』
前会ったザズムフよりも強いか・・・それを聞いて背筋が凍り付きそうになったがここまで来たんだ、覚悟はできている。というかアルラその説明なんかおかしくないか?
「見えた!・・・ってなんだあれは?!」
邪気の反応が強まり肉眼でオウカの姿が見えた瞬間突然巨大な竜巻が現れた。
『自然干渉・・・やはり、力が本体に近いです・・・気をつけて・・・って光輝様あれ!』
アルラがザズムフを分析していると、すぐに竜巻の上の方に指を指す。俺も刺した先を見ると、空中に舞い上がっているボロボロ姿のグンナルが目が入った。
「くそ!間に合え!」
俺は急いでスキル【転移門】を発動し、グンナルを目の前へ転送させる。グンナルの体はとてつもなくボロボロで息をしているのが奇跡と言いたくなる状態だった。俺は急いで【自然回復】、【状態異状回復】、【瞬間再生】など回復系のスキルをグンナルに与え、さらにマジックポーチからハイポーションを飲ませる。
「グンナル!目を覚ませ!」
「うぐ!コウキ様・・・ここは?」
「安心しろもう大丈夫だ」
「申し訳ございません・・・まったく歯が立ちませんでした」
グンナルは悔しそうに俺に謝罪をする。
「お前をやったのはザズムフか?」
「・・・はい。奴は・・・ノフソの森でのザズムフの記憶を引き継いでいるっと言っていました」
苦しそうにも、グンナルはザズムフの情報を俺に伝える。
「・・・っもういい話すな。ヴァプ!あいつに突進だ!」
「ぶもおおお!」
俺はグンナルが振り落とされないように必死に押さえ、ヴァプに【肉体強化EX】などバフスキルを全力で注ぎこむ。
そしてザズムフがオウカに切りかかろうとした瞬間、ヴァプの全身全霊の突進が直撃し、何かアホな声が聞こえた気がしたが今はどうでもいい。
「オウカ!生きてるか!」
俺は【認識阻害】を解除してすぐに倒れているオウカへ駆けつける。辺りには彼女の爪や牙の破片が散らばっており、腹の部分から血が大量に流れているのが見えた。
「まってろ、すぐ回復させるから!」
再びモニターを開き、グンナルに与えていた回復スキルをオウカに移し替える。すると、傷口がみるみる塞がり呼吸も安定していく。
「申し訳ございません・・・予想以上の強さでこのようなザマで・・・」
「大丈夫だ・・・あとは任せろ。ランカ!オウカをヴァプに乗せて安全な場所へ移動してくれ」
「御意」
俺の指示に従いランカはオウカの巨体を持ち上げヴァプに乗せるとすぐさま離れだす。そして俺の隣にはアルラが立っている。まだ認識阻害の結界を張っているため俺でも正確な位置は分からないが近くにいるのは間違いない。
「アルラの言う通り、以前より強いのは間違いないな」
『はい、それに先ほど握っていた剣。あれはザズムフが愛用していたものと同じです。おそらく完全ではないにしても邪神の能力は一部使えるみたいです、さっきの竜巻もおそらく固有スキル【災害】によるもの』
まあ、災害の邪神なんて呼ばれているんだからそんなのを使えるとは予想していた。そして、俺たちが話をしていると、真っ黒な斬撃が襲い掛かるもアルラの結界によって防がれる。
「てめえ!光輝・エドワード・神崎!」
息を荒げながら飛んでくる豪華な服装を纏った邪神。
「やっぱり、貴族にまぎれていたみたいだな。牛の大群を送ったのはお前だな?」
「ああ、そうだ!偶然だったぜ、ノフソの森から城にやって来るって聞いてたまたま見に行ったら。ノフソの森であった小僧がいたんだからな」
グンナルの言う通り、こいつはノフソの森で会ったザズムフの記憶を持っているみたいだ。
「それで?貴族という地位を利用して俺たちの住所を突き止め魔物の大群を送り付けたと?」
「まあ、そうだな。結局お前らを始末することはできなかったみたいだが」
残念そうに肩をすくめるザズムフ。相変わらず、命を命として見ていない目をしているが何だろう?どこかおかしい・・・以前のような凶暴性が全く感じられない。むしろ理性を保っているような・・・・
「お前、本当にザズムフなのか?」
「そうだぞ・・・まあ、お前が会ったザズムフはまだ力を蓄えていない奴だったからな。あいつらは本能に従って破壊をする獣同然・・・まあ、結果的に俺もやることは同じなんだが」
笑いながら話すザズムフ・・・やはりこいつは危険なヤツだ。
「何故、こんなことをする?」
実にテンプレなセリフだが聞かずにはいられない。
「何故?当然あの方が望んだことだからだ。むしろこっちが理解できない。本来亡びるはずのこの世界を何故シンもエイミィもセフィロトも邪魔をする!あいつらもあの方に従っていたはずなのに!」
あの方?誰のことだ?・・・なんか凄くテンプレな組織図が眼に浮かぶぞ。
「・・・まあ、いい。俺たちはやるべきことを果たすまでだ」
そう言ってザズムフは禍々しい大剣を構えて黒いオーラを流し込む。もう少し情報を得たいと思ったがこれ以上は無理そうだな。俺は大量のモニターを出現させて戦闘態勢に入る。
「今度はお前が戦うのか?いいぜ!お前を倒してエドワードもエイミィも殺してやる!あの時みたいにお前を守ってくれる奴はいないしな!」
ザズムフはそう叫び俺に向けて斬撃を放つ。
「あの時と同じと思われたら心外だな!」
俺がモニターをワンタップした瞬間、斬撃は光の粒子となって消え去る。
「な!」
何が起こったのか分からない様子でザズムフは唖然とした顔をする。
「エイミィを狙う輩は全力で迎え撃つ」
再び主人公のターン!