115話 邪神を倒したら真実を知りました
南エリア 地中
「よし、作業終了や!ワイトお疲れさまや」
「はい・・・正直こんなので良いのか分かりませんが」
未だに有り余る魔力でワイトはまだまだやれるという雰囲気だが、すでに十分すぎる作業をしてくれた。
「ほんなら、これから屋敷に戻すで・・・あのシールに魔力を流せば戻れるから」
「分かりましたが・・・ゾアさま、この姿はコウキ様にどう説明したらいいですか?」
ワイトが不安そうな顔で自分の体を見る。髪の色は白黒のグラデーションから美しい銀髪、さらにあふれ出る魔力・・・どう考えても隠せるものではなかった。
「あ・・・・」
どうやらゾアもそこは考えていなかったみたいだ。
「えーと、イメチェン?」
「魔力はどう説明しますか?」
「なんか、物凄いなんかのパワーを手に入れたとか・・・」
「無理ありませんか?」
「・・・そこは勢いと流れや!案外コウキさんなら気にせんと思うで・・あはははは」
笑ってごまかすゾアだが、おそらく無理だろうとワイトはすぐに理解できた。人の感情を視覚化させる【魂眼】、それが生魂神種へ進化したことでより繊細に見透かすことができるようになっていた。
「分かりました。ゾア様はこれからどうするのですか?」
「ワイはこのままケイトはんを英雄の兄ちゃんの所まで送っていくわ」
「分かりました、気をつけてください」
そう言い残し、ワイトは転送シールで屋敷へ帰還する。のちに彼に待っていたのは光輝の鉄拳とは知らずに。
「そんじゃ、ワイらも戻るで」
「はい」
・・・・・・・・・・・・・・・
南エリア 地上
ゾアたちが地上へ上がると宮廷魔導士たちが何やらそわそわしている様子だった。
「どうしたのよ皆?少し様子がおかしいわよ?」
「あ、団長にゾアさん・・・実は我々、すごいものを見たんです!ランカさんが魔王並みのレベルを持つ巨大な虎を倒して!」
「いや、あのボロボロの虎を何か果実を食べさせた途端一気に回復させたんですよ!しかも、その姿を今調べたら古い文献に書かれていた虎の神獣と一致していまして!」
「神獣を手懐けるランカお姐様、素敵でした!」
どうやらランカもマナの実を使って虎の魔物を進化させたらしい。
「ゾアさん!あの実が何なのか知っているのですよね!教えてください!あれは何だったのですか!」
鬼気迫る勢いで宮廷魔導士たちがゾアに問い詰める。
「ああ・・・ランカの奴あれ皆の前で使ったのか。あれは秘密兵器やからあんまり人前で見せてはアカンのに・・・」
困った様子で髪の毛をかくゾアは何か思いついたかのようにポケットから小さな球体の魔法具を取り出す。
「えーと、その現場を目撃したのはここにいる全員か?」
「はい、今証拠となるものが無いか色々と調べていまして」
「なら、色々とその時の光景を思い出してみ、あ、ケイトはんは眼をつぶっておいて目がクラクラするから」
『え?』
その瞬間、球体から眩いフラッシュが起こりゾアとケイト以外が鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしだす。
「ゾアさん、一体何をしたのですか?」
「ちと、記憶を弄っただけ・・・安心し、脳にダメージはあらへん。ただ、思い出していた部分がちと朦朧となって夢を見ていた気分にさせるんや」
まるで映画に登場する黒スーツの秘密組織員が持つ秘密道具みたいだな・・・とその場にもし光輝かヒュウがいたらそう突っ込んでいただろう。
「記憶をって・・・なんでそんなものを!」
「・・・まあ、いざコウキさんたちの秘密が必要以上に漏れたときのために内緒で作っておいたものや。まあ、極力使いたくないものなんやけどな」
そう言って未だ意識がもうろうとしている魔導士たちを確認する。
「あれ?・・・俺たちは・・・」
「君たちはここで魔物と戦っていたんやで?忘れたんか?」
「あ、いえ・・・確かに巨大な魔物が現れて・・・それで・・・」
記憶があいまいになっているのを確認したゾアはすぐに偽りの記憶を刷り込ませる。
「せや、君たちは勇敢に戦い見事にその魔物を撃破したんや、その証拠に魔物の爪や牙なんかもあるやろ?」
ゾアがそう言って散らばっている巨大な牙や爪に指を指す。
「そ、そうですね!皆!急いで素材を回収だ!」
『おー!』
ゾアの説明をうのみにした魔導士たちが一斉に素材集めや壊れた道路の修復作業に取り掛かった。
「スマンな、ケイトはん。勝手に部下の記憶を弄って」
「いえ・・・おそらく、あれは彼らが知っていいものではないと思います。私の記憶もどうぞ消してください」
ケイトは少し緊張した様子でゾアの持つ魔法具を見る。
「いや、ケイトはんのことは信用しておるし。それにあの実のことは英雄の兄ちゃんたちも知っとることやからな・・『ドオォオオオ!!』・・・な、なんや?!」
そういって、ゾアは魔法具を懐にしまった瞬間、西の方から物凄い轟音が聞こえた。
「今のまさかサイたちが邪神と?」
「・・・おそらくな。とにかく急いであっちに行くで!」
そう言って、ゾアはスクーター型の魔法具を取り出しケイトを乗せて西エリアへ向かう。その光景を見た魔導士たちは再び興奮しだしたのは言うまでもない。
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北エリア
ゾアたちが到着した時にはことはすでに終了していた。目の前には才たち英雄組たちと氷漬けにされた肥満体系の男。おそらくあれが邪神ザズムフなのだろう。
「どうやら、ワイらの出番はなかったみたいやな」
すでに勝負はついており、ゾアはゆっくりと才たちの前へ降りケイトがすぐに才達の元へ駆けつける。
「皆!終わったみたいね!」
「ケイト、遅すぎだぞ!今まで何をしていたんだ?」
「すまない、こっちも色々と仕事があって」
ケイトは面目なさそうに言うが、ヒュウとヒスイはすぐさまゾアを見て目がニヤニヤとしだす。
「お前ってショタコンだったのか?」
「このアホが!」
ケイトの見事なアッパーによってヒュウがノックアウトされる。そしてその光景に呆れながらスイと才がため息を吐く。
「とりあえず、これでテオは元通りですね」
「・・・いや、まだだ」
才はすぐさまセレナに連絡を入れる。
『サイ、やっと連絡を入れてくれましたね・・・・その様子だとまだあるようですが』
「姫、急いでレーモン伯爵の居場所を調べてくれ」
『レーモン伯爵?・・・彼でしたら・・・あれ?なんでコウキさんの屋敷の方に?』
「・・・っち、もうそんなところに!」
セレナから居場所を聞き出した瞬間、才は急いでモニターを切ってゾアの所へ走り出す。
「ゾア、急いで光輝の屋敷へ連れて行ってくれ」
「へ?・・・どないしたんや急に?」
才はザズムフを【万能鑑定】で視たときに、彼の計画を知った。それは殆ど彼らの知っている内容ですでに阻止できたものであったが、一つ才の知らなかった情報をザズムフから視た。
「邪神はもう一人いたんだよ!光輝達が危ない!」