10話 宿屋に泊まろうとしたら旅館でした
カンナさんに宿屋に案内される途中、俺はギルドの内装とかを見ていた。
「しかし、すごい所ですね。ギルドっててっきり酒場のイメージだったんですが。ここはなんと言うか豪邸ですね」
廊下には冒険者らしい武装した人たちが談笑していたり、のんびりとソファーに座っている魔術師らしい格好をした女性がいた。廊下とかも綺麗なカーペットが敷かれていて、汚れとか見られない。なんというか、冒険者が集まる場所とは思えない場所だ。
「ここは元々国の宰相の別荘として建てられていたのですが、グランドマスターと姫を怒らせてしまい、財産を全て没収されたのです」
「グランドマスター?ギルドマスターじゃなくて?」
「ええ、グランドマスターはギルドの創立者です。各地にギルドの支部が立てられていまして、そこの責任者がギルドマスターなのです」
まるで、本社の社長と支店の店長みたいだな。
「ずいぶんと物騒な話ですね。宰相から財産を奪うとか。何かやらかしたのですか?」
「まあ、色々と悪さをしていたみたいで。詳細などはよく分かりませんが、噂では魔王と手引きしていたとか。それで、没収された財産の殆どがグランドマスターのものになったので、建物などをギルドの支部として使うことにしたそうです」
小説とかによくある展開だな大臣とかが裏で王族を操り自分の物にしようとか。その宰相も似たようなことをしてグランドマスターに看破されたのだろう。
「変わった人ですね。こんな豪華な場所を冒険者が集まる施設にするなんて。俺だったらそんな大胆なことできませんよ」
「グランドマスター曰く『人を正すならまず環境から』だそうで、この豪華さもわざとしているそうです。おかげで頭の悪い冒険者が騒ぎを起こすことは激減しました」
なるほど、確かに場所の雰囲気によって人の行動は変わる。こんな場所で騒ぎを起こすとかとてもじゃないが弁えてしまう。もしここがやや小汚い酒場とかだったら荒くれ者とか集まりそうだ。
「グランドマスターってどんな人なんですか?」
「一言で言うなら国の英雄です」
「国の英雄ですか・・・そんなにすごい人なんですか?」
「もちろんです。六年前突如現れ腐敗したこの国を救ってくれたお方なのです。その偉業は数えきれないほど。エルフかと思うくらい博学な知識、百戦錬磨の軍師のような知略、そして王の器とも言えるカリスマ性。あのお方のおかげで私達はこうして働くことができるのですから」
なんか、かなり大げさな表現な気がするが。そのグランド・マスターって人はものすごい人なんだろうな。グランドマスターを話しているカンナさんは自分のことのように嬉しそうに話している・・・もしかしてこの人グランドマスターにほの字なのか?
「ちょっと、そこの若者さっきギルマスと話していなかったか?」
俺に話しかけてきたのは豪華な宝石を身に纏った小太りの男性だった。後ろには屈強な兵士が数名待機している。
「これはゲルド様、お久しぶりでございます」
「むぅ、カンナ殿も一緒であったか・・・」
俺の近くにいたカンナさんに気づいたゲルドという男は気まずそうな顔をしていた
「カンナさん、お知り合いですか?」
「ゲルド・ミューラ男爵。この町に住む貴族の一人です」
へぇ、やっぱりこの世界にも貴族や階級があるんだな。
「ゲルド様、もしコウキ様との商談の話でしたらすでにギルマスが契約をなさっております」
「んな!・・・むぅ、それは残念だ。若者、名をなんと申す?」
なんだろう、初めから偉そうなおっさんだな。
「コウキと言います」
「そうか、ではコウキ。またな・・・」
そう言い残してゲルド一行は商業ギルドの方へ向かった
「何だったのですか?今の?」
「おそらく、コウキ様の鉱石を狙っていたのでしょう。あの方はお金にかんしては敏感なので気をつけてください。この町にはああいう方がまだいますので。最悪、コウキ様を誘拐して尋問する可能性もあります」
おいおい、物騒だな。まあ、あんな高価な鉱石を取り出したら狙うやつもいるだろう
「・・・そうです、気をつけます」
「できれば、護衛とかいれば安心なのですが。コウキ様には冒険者の仲間がいるのでその方たちに頼むのが安心できるかと思います」
仲間ね・・・フロアボスたちはダンジョンから出られないし、エイミィは狙われている立場だから連れていけないし。
「考えておきます」
そして、カンナさんに案内されて俺達は宿屋に到着した。
「あの・・・ここは?」
俺の目の前には立派な木造建築が建てられている。それは確かに宿泊施設なのは間違いない。だが、この世界にしてはあまりにも違和感がある建物。
「・・・・旅館かよ!」