110話 地脈を完全に直すため助手を呼びました
南エリア 地中
「ゾアさん・・・ここの地脈少し乱れています」
「オッケー、すぐ直すで」
ゾアの穴掘りによって地中深くまで掘り進んだゾアとケイト。二人は不安定となった地脈を【魔力感知】で確認しながら修復作業に取り掛かっていた。
ゾアのドリルによって掘られた地中は大空洞が出来上がっており100人くらいが作業できるほどだった。
「しかし、地脈を直す作業がこんなに大変だとは思いませんでした。思った以上に時間がかかりましたね」
「せやな・・・地上でワイが魔力を直接流したらもっと早く済んだと思うんやけど」
「えぇ?!じゃあなんで穴なんか掘ったのですか?!」
もっと早く済んだ事実にケイトはが叫ぶ。
「っちょ!声が響くから静かにしてえや!」
「す、すみません。ですが、事は一刻も争うのですよ!わざわざ時間のかかる方法なんかしなくても」
「まあまあ、落ち着き。言っとくけどそれは膨大な魔力と集中力の必要とする作業なんや。とてもじゃないが一般人一人でできる作業じゃないんやで!むしろこっちの方が安心して作業できる方法なんや」
「そうなのですか?こっちもかなり技術が必要かと思うのですが・・・」
ケイトは間近でゾアの修復作業を見てその技量の高さを嫌というほど目にした。それでもこっちの方が安全となると地上だとどれだけの集中力が必要なのだろうか。
「本来ならこうやって穴を深くまで掘って地脈に近い場所で作業を行うのが普通なんや。今回はケイトはんが同行しているから、他の宮廷魔導士たちでもできるやり方でやっとるんや」
「な、なるほど」
「それと、ちとばかし、気になることもあってな。それを確かめるためにここまで来たんや」
「気になることですか?」
「相手の作戦。地脈を暴発させて王都をマグマで埋め尽くすものやと思うやろ?」
「ゾアさんは違うと?」
「正確には作戦の大部分がそれで、他にも目的があるんやと考えているんや・・・ワイトの話やと地脈に『憎悪』が溢れだしたと言っておった」
「ワイトってあの屍人族の少年ですか?なぜ彼がそんなことを?」
「・・・まあ、そこの説明は今はええやろう。つまり相手は感情などを地脈に流すことができるんや。その影響によって今回、魔物や動物などが暴れ出しているらしい」
「ええ、サイからそういう報告を受けています。最近の魔物の暴走化は地脈エネルギーに当てらたことによること。それと魔物の巨大化もそこに関わっていると」
「せや・・・もし今回相手の作戦が成功し、地脈の暴走とマグマの噴火が起こり、ここ一体がマグマに覆われて崩壊したとするやろ?」
「・・・はい」
「その後どうなると思う?」
「どうって・・・王都は崩壊、最悪テオプア王国は亡びるかと」
「ちゃうちゃう、国の存続とかやなくて地脈や」
「地脈でしたらそのまま修復され国中に・・・・あぁ!」
ゾアの言いたいことに気づいたケイトは再び大声を上げ、ゾアがすぐさま耳を塞ぐ。
「気づいたみたいやな・・・憎悪の感情が含まれた地脈はそのまま残り、テオプア王国の領土を巡回する・・・そうなればテオプア王国に生息する魔物は巨大化まではせんと思うんやけど凶暴化することは間違いない・・・結果、王都崩壊に続き魔物の暴走によってテオプア王国は大パニック、それが広まって他国にも影響を出す」
その光景を想像しただけでケイトはゾッと思えた。
「・・・せやから、これからその感情なんかを取り除く。ちと待ち」
そう言ってゾアが取り出したのは何かのシールみたいなもので壁に貼り付ける。
「ワイト、ワイや。こっちは準備整ったからいつでもええで」
『了解しました』
ゾアのモニターから少年の声が聞こえると、シールがいきなり光だし転移魔法陣が出現した。そして中から現れたのは屍人族のワイトだった。
「な!なんですかこれは?」
「これはワイが開発した簡易式転移門や。対となったシールを適当に壁とかに貼り付けるだけで繋げられる優れモン・・・まあ、発動させるのにかなり燃費が悪いのと回数制限があるのが難点なんやけど」
ビックリするケイトを予想し耳を塞ぎながらそう説明するゾア。それがいかに世紀の大発明なのか分かっていないだろう。
「ところで、コウキさんには内緒で来たんやよな?」
「はい、部屋にこもっているふりをしてこっちに来ました」
「了解、とりあえずこれが終わったらすぐに戻り。バレたら何言われるか考えたくもない」
「分かりました」
どうやら、光輝には内緒で来たらしい。
「あの、ゾアさん。この際その転移門については聞きませんが。なぜ彼をここに呼んだのですか?そもそも彼はトーマスの弟子で鍛冶師なのでは?」
「そういや、言っておらんかったな。このワイトはワイの第一助手や、加えて相手の感情を見ることができるユニークスキル【魂眼】の持ち主」
「え?・・・ええぇええ!」
本日4度目のケイトの叫び、ゾアとワイトは揃って耳を塞いだ。
・・・・・・・・・・・・
西エリア
「・・・ふぅ。やっと終わりました」
地脈の流れの修復が完了したアルラは少し足をふら付かせながら隣にいたオウカに寄り掛かった。
「お疲れ様・・・ここはもう大丈夫なのか?」
「はい、では私たちも行きますか」
「了解した」
アルラの護衛も終わり、オウカは彼女を乗せてヒスイたちのいる場所へ走り出す。
魔天狼、固有スキル【空歩】。その名の通り、空を歩ける飛行スキルの一つ。
オウカは猛スピードで空を駆け上がりエンペラー・ヴェレへ突撃する。
『え?・・・ええええ!』
あまりの光景にヒスイを含め忍者集団が叫び出す。
「ほれ、そっちに落とすぞ!」
オウカがそう言いだすと巨大鳥の後ろから咆哮による衝撃波を放つ。そしてその衝撃によって墜落するエンペラー・ヴェレ。
「・・・拙者たちの苦労は何だったのだ?」
空中にいる敵にあれだけ苦戦させられていたにもかかわらずまさかの飛行能力を持っていたオウカに唖然とした。もっと早く動いてくれていたらこんな苦労はしなかったのではと戦っていた全員がそう思った。
「オウカ殿!なぜ空を飛べることを言わなかったのでござるか!」
「聞かれなかったのと、私はアルラの護衛があったのでな」
まあその通りなのだが・・・とヒスイは少し複雑な感情で落下した巨大鳥を見る。
「まあ、いい!全員!口に注意しつつ仕留めるでござる!」
『御意!』
ヒスイの号令と共に忍者集団がエンペラー・ヴェレを取り囲む。
『雷遁!散蛇墓流斗』
忍者集団が一斉に指で印を結ぶと無数の蛇のような電流が一斉にエンペラー・ヴェレに襲い掛かる。
「ぐぎゃああああ!」
電撃に苦しむエンペラー・ヴェレ。
「ふむ、ヒュウの言った通り鳥には電気が有効らしいな・・・『効果は抜群だ』でござったか?」
ヒュウから教わったことを思い出しながら電気で弱まっていくエンペラー・ヴェレ。そしてトドメの一撃を入れようとした瞬間エンペラー・ヴェレの身体が急に光り出す。
「むぅ!まだ何か隠し玉を持っていたか!」
発光する巨大鳥に全員が目を閉じた瞬間、エンペラー・ヴェレはものすごい勢いで羽ばたきだす
「く!しまった!逃げられる!」
羽ばたきによって巻き起こされる突風によって近づけられないヒスイたち。誰もが逃げられると思ったがエンペラー・ヴェレは全く上空へ上がってはいなかった。
「・・・あれは蔦?」
ヒスイがエンペラー・ヴェレの脚や翼の関節部分を見ると、細い蔦が絡まっているのが見えた。
「先ほど上空にいたときに『麻痺蔓』の種を付着させました。後は私の魔法で急成長させれば、動きを封じることができます」
「・・・いつの間に」
驚いてばかりのヒスイ、そして気が付けばエンペラー・ヴェレは力尽きるように倒れこむ。
「・・・あのエンペラー・ヴェレを痺れさせるほどの麻痺毒とは」
「あの程度の麻痺で倒れるなんて・・・やはりおかしい。ヒスイさん、この子を少し調べさせていただけないでしょうか?何か分かるかもしれません」
「それは構わんでござるが・・・拙者はこれから若の所へ向かわないといけない。何名か警備として置いていくから自由に使ってくれ・・・それではこれにてご免」
そう言い残し、ヒスイは影に吸い込まれるように消えていく。
「・・・さて、私たちも次の段階へ移りますか」
アルラはそう言い、ぐったりと倒れるエンペラー・ヴェレを見る。