107話 地脈がヤバそうなので修復作業を開始しました
才が出ていった後に俺たちはゾアのグループとアルラのグループに分けて行動に移した。
「それじゃあグループ分けだが、ゾア、ランカが南エリア、アルラ、オウカは西エリアに向かってくれ。グンナル、ワイト、プラムは昨日みたいに巨大魔物がここに現れる可能性があるためここに待機」
そう説明し全員がうなずく。ワイトはゾアと一緒に行きたそうだが、子供である彼を危険な場所に向かわせたくはない。ゾアも理解してくれているみたいで、ワイトが残ることに異論はなかった。
「それじゃあ、頼むよ皆!」
『御意!』
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南エリア
「ケイトはん、昨日ぶりやな・・・現状はどうなっておるんや?」
「はい、こちらで集められるだけデータを集めました。詳細はこちら」
ケイトの目の前にはダークエルフのゾアと獣人・虎種のランカがやって来るのが見えた。ケイトはすぐにモニターを開きゾアに詳細データを見せる。
「なるほどな・・・かなり細かく情報があるなほんま、おおきに。これで作業が思った以上に早く進められそうや・・・ちょっと、危ないから下がっておいてくれや」
資料を読みさっそく作業に取り掛かるゾア。彼が取り出したのは巨大なドリル
「あ、防音結界を張るから騒音は気にせんでええよ。ランカは敵さんが来ないように見張りを頼むで、ケイトはんはワイのサポートとして同行を頼みます」
「っは!」
「分かりました」
そう言って、ゾアが小さな箱型の魔法具を取り出すと半径20メートルほどの結界が展開される。そして、結界の中でゾアがドリルを回し地面を掘る作業に取り掛かった。
固い岩盤がまるで泥沼のように掘り進むゾア。その光景にケイトや結界の外にいる宮廷魔導士たちはポカンとした顔で見ていた。
「やはり、ゾアさんの行動は我々の想像ははるかに上を行く」
「感心している暇は無いで!超特急で作業を開始や!」
「は、はい!よろしくお願いします!」
緊張感を緩めてはいけない、そう心に決意したケイトであった。
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西エリア
「・・・これはまたすごいでござるな」
ヒスイの目の前には巨大な狼に乗った緑髪の小さな少女。
「ヒスイさん、こんにちは。どうやらまだ邪神は来ていないみたいですね」
そんな愕然としたヒスイにお構いなしにアルラが飛び降りて状況を確認する。
「ではこれから地脈の修復作業に取り掛かりますので皆さんは警備の厳重化をお願いします。修復の間、少し地震が起きますから気を付けてください。オウカさん、いざとなったらアレをお願いします」
「御意、分かっています」
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北エリア
「これが地脈か・・・本当こんな物騒なものが流れているとはな」
何でも知ることができる【万能鑑定】しかし、それは『本人が知りたい』という気持ちがトリガーとなって初めて発動できる能力。その好奇心が強ければ強いほどより深い情報を見ることができる反面、気になる程度では【鑑定スキル】と大差ない情報しか見ることができない能力。
だが今才は『地脈とは何なのか』、『どうすれば修復できるのか』という疑問、好奇心に突き動かされ目に映し出される地脈の情報を徹底的に鑑定していた。
「サイ兄ちゃん、大丈夫かな?」
「今は集中している状態ですから、そっとしておきましょう。それよりも今の才様は集中しているせいで無防備です。絶対に敵の侵入を許してはなりませんよ」
「言われなくても分かっているにゃ!」
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テオヴェップ城
城の会議室にはセレナを始め大臣や貴族たちなど国の重鎮が集められ会議を行っていた。
「姫・・・指示通り、ポイント周辺の住民を避難シェルターへ避難及び、自宅待機命令を出ました」
「ええ、こちらでも確認が取れました。ご苦労様ですヒュウ」
そんな重鎮たちが集まっている思い空気の中、平然と会話をするセレナとヒュウ。
「姫様、先ほどの話は本当なのでしょうか?邪神がこの国を滅ぼそうとしているというのは」
「ええ、本当です。現に私たちはこの王都に流れる地脈が不安定になっているのを確認してきました」
セレナがサラッと答えると大臣たちがザワザワ騒ぎ出す。もしこれが7年前の彼女だったら大臣の殆どが鼻で笑ってこの場から離れていっただろう。だが今の彼女の発言にを笑うものはいない、むしろ真剣に耳を傾けている。そんな光景を見たヒュウは少しだけ彼女が成長したのだと実感した。
「姫様、先ほど申したコウキ・エドワード・カンザキという人物は本当に信用できる方なのでしょうか?」
「・・・どういう意味でしょう?」
一人の大臣がセレナに質問する。
「聞いた話ですと、地脈が乱れていることに気づいたのはその者の部下・・・そして先に直したのも同一人物。自作自演という可能性もありますが」
その発言にセレナとヒュウはイラっと来たがその考えも分かんらなくもない。この場にいる者全員が、神崎・エドワード・光輝という人物を知らないのだ。彼がどういう人物なのかを知っているセレナであるが、今ここで公言できる内容ではない。もし話したら彼を取り入ろうとするものが後を絶たない状態になってしまう。だからこそ、二人は光輝のことを大切な商売相手程度にしか説明できないのだ。
「気持ちは分かります・・・ですが、私はそうとは考えておりません、もちろんアルヴラーヴァの英雄、サイ・チアマも同じ考えです・・・コウキ・エドワード・カンザキを疑うということはサイ・チアマを疑うことに等しいのですよ?」
才の名前を出し、大臣たちはさらに騒めき出す。
「サイ殿も・・・あのノフソの森の住民にそこまでの信頼を」
この場にいる者たちは誰もがセレナを王族として認めている。だがそれでもアルヴラーヴァの英雄、テオプア王国を救った才の存在が未だに大きかった。才の名前を出した途端、大臣や重鎮たちは冷静さを取り戻し始める。
(やれやれ、未だにサイへの信頼が強いことが悔しいわ)
「現在、彼らはこの地脈の暴走を食い止めるために戦ってくれています。彼らの作業が終わるまで地震が多発する可能性があるそうです。ですから皆さんも民が暴走しないようにご協力をお願いします」
『っは!』
セレナの方もまた、国を守るために行動を移していたのだった。