104話 王都がおかしいので地脈を調べました
巨大ヘルモスが警備兵たちに捕縛されると、白衣を着た研究員がこっちへ歩いてきた。
「第五研究所の所長ヒューイです。皆様にご迷惑をおかけして本当に申し訳ございませんでした」
「ヒューイ、確かお前の研究テーマは効率的な畜産物の生成だよな?あの巨大化はお前たちがやったのか?」
「才様に我々の研究を覚えていただいて光栄です・・・確かに我々の研究テーマはヘルモスの繭を効率的に生産することですが、あの巨体は我々がしたことではありません」
ん?どういうことだ?ってことはあのヘルモスは自然にあんなに巨体になるのか?
「・・・そうか。とりあえず騒ぎを起こした処分として来月の第五研究所の研究費は削減だ」
「・・・はい」
ヒューイも納得したのかその処分を受け入れていた。むしろその程度で済んでよかったのかもしれない。もしあのヘルモスが外へ逃げ出していたら大変なことになっていたに違いない。
「とりあえずここは警備兵たちに任せよう・・・思わぬハプニングが起きたが時間は潰せたな」
才がそんなことを言っていると丁度そのタイミングでマヤちゃんから連絡が入ってきた。
『才兄ちゃん、授業終わったよ!すっごく楽しかったにゃ!』
ハイテンションに連絡を入れてくるマヤ、後ろにはプラムが楽しそうにクラスの子と話している姿が見えた・・・どうやらすんなり打ち解けたみたいだ。
「そうか、それじゃ少ししたら迎えに行く」
『分かったにゃ!プラムとワイトも一緒に待っている!』
元気に返事をするマヤちゃんに才も少し嬉しそうだ。
「それじゃあ、保護者は迎えに行くとしますか」
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王立学校に戻るとプラムがニコニコの様子で手を振っていた。相当楽しかったのだろう、だがワイトやけに外を気にした様子だ・・・何かあったのか?
「ワイト、どうかしたか?元気が無いみたいだが」
「あ、コウキ様・・・・いえ、何でもありません」
とてもそんな感じではなさそうだが・・・あれ?ワイトの目が光っているってことは【魂眼】を使っているのか?
「お二人共本当に優秀でしたよ。特にホワイトリー君は数学がとても優秀で、教師も知らない数式で答えていました」
感心したように褒めながらワイトの頭をなでるミズ・ミランダ。勉強についていけないって感じではなさそうだな。となると問題があるとしたら対人関係かな。
「そうですか、もし二人がこの学校で通うとしたら」
「もちろん特進クラスですね・・・クラスの子たちも二人が来ることをすごく楽しみにしていましたよ」
あれ?喧嘩したって感じではないな、むしろ歓迎されているみたいだ。
「分かりました、要件が終了次第。正式に入学手続きを行わせていただきます」
「楽しみにしています。プラムちゃん、ホワイトリー君またね」
『はい、また』
二人を回収した後、俺たちは屋敷に戻ることにしたのだが・・・
「頼む!せめて【衝撃吸収】の刻印を!」
「改造はダメ!あと、魔法具を使って一人で帰るのもダメ!」
揺れる馬車を拒否するゾアを乗せるのに一苦労した。
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屋敷に戻った俺たちは各自自由時間とした。才達は観光案内が終わるとすぐに帰っていった。屋敷でゆっくりしても良いっと言ったのだが地震で自分の屋敷が心配らしい。メドウの研究所みたいに大惨事になっていないといいけど。
アルラは庭の花壇の手入れ、ランカ、オウカとグンナルは今朝仕掛けた罠を確認、ゾアとワイトは倉庫の改造、プラムはデザインの作業。
そんで俺はというと・・・・
『光輝遅いじゃないの!』
「悪い悪い・・・思ったよりも楽しくて」
執務室に鍵と傍聴結界を張ってエイミィに定期連絡を入れていた。
『アルラから聞いたわよ、すごくおいしい料理を食べたそうね。特にプリン!』
プリンを強調するエイミィ・・・そんなに食べたいのか?
「レシピとかは才から聞いてあるから今度ジョージ辺りに作ってもらうよ」
『約束よ!・・・それで?テオとは交易結んで問題なさそう?』
「まあ、セレナや才がいるから交易事態は問題なさそうかな。改めてギルドのすごさも分かったし、やっぱり繋がりは持った方がいいよ」
『そう・・・光輝がそう言うなら私も賛成だわ。テオは他の国と比べて衣食住の品質が上だからね。交流が深まればオリジンももっと豊かになるわ』
それには同意、建物や食事とかは明らかに地球の知識を組み込んだものが多い。
「ただ、少し不安なのはオリジンの住民かな?」
『どうして?光輝が交易を結ぶことに皆賛成してくれているわよ』
「そうじゃなくて種族だよ・・・才たちは気にしていなかったけどウチの住民の種族って世間ではかなり珍しいのが多いから」
『ふーん、随分と世間を気にするようになったのね』
なんか棘のある言い方だな
「どういう意味だ?」
『光輝はそんなくだらないことで悩んでいたの?』
「くだらないって・・・俺は皆のことを考えてだな・・・」
『いいじゃない、堂々とすればいいのよ!皆自分の姿に自信を持っているのよ、そんなの隠す必要がないじゃない、むしろ別の姿にさせるのは失礼なことよ。こういう種族がいる、それがオリジンの住民』
随分とあっさり言うじゃないか。だけど、その通りかもしれない・・・そうなるとゾアたちに酷いことをしたかな。あとで謝らないと。
「そうだな差別とかあったら・・・俺たちが守ればいいか。ありがとうな」
エイミィに励まされて少し心が軽くなった気がする。その後は近状報告や雑談で楽しい時間が過ぎていった。
・・・・・・・・・・・・・・・
『コウキ様!大変です!』
エイミィとの雑談も終了し新コンテンツのアイディアをまとめていた時、プラムが慌てた様子で俺に連絡を入れてきた。
「どうしたプラム?」
『すぐに庭に来てください!』
何やら慌てている様子だったので、俺も急ぎ足で庭に出た。
するとそこには大量の巨大な猪型の魔物が横たわっていた。
「コウキ様、見てください!物凄い獲物ですよ」
ランカが嬉しそうに猪の腹の上から手を振っているのが見えた。
ちょっと、ランカさん?あなた何を捕まえたのですか?それにグンナルとオウカもなんか誇らしげに巨大猪を見上げていた。
俺が猪を鑑定してみるとジャイアント・ボアと出た・・・確か俺のダンジョンにもいたな、でも明らかにサイズが5倍くらいあるぞ。
「罠を仕掛けたところを確認しに行ったら引っかかっていた獲物が全部こいつに食われてしまいまして、仕方ないからグンナルたちと一緒にこいつを仕留めたんですよ」
嬉しそうに話すランカ・・・ってか、なんでこんな巨大猪が山にいるんだ?
「光輝様、少しよろしいですか?」
驚いている俺に手招きをしてきたのはアルラだった。そしてその隣にはゾアとワイトもいる。
「どうしたんだ?アルラ、それにゾアとワイトも・・・」
「少々お話ししたいことがあるのです・・・できれば、内密に」
「・・・分かった、執務室で話を聞こう」
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執務室
「それで、話ってなんだ?」
「はい、実はこの国に来てからずっと違和感を感じていたことがあったのです」
違和感?
「コウキさん、この国に到着する前にワイが乱れていた地脈を修復したと言いましたよね」
「ああ、お前が山を吹き飛ばしたあの時な」
「うぐ、それは言わんといてな・・・本来地脈とは川の流れのように地中を巡っておるんや。せやけど、極たまに地脈の流れが詰まったりして動きが不安定になることがあるんや。そうなった場合、地震や火山の噴火などを起こして自然エネルギーを外に出して流れをもとに戻す・・・まあ、喉に詰まらせたものを胸叩いて通すようなものや、あるいはオナラによるガス抜き」
ゾアがジェスチャーをしながら地脈の説明をしてくれる。最後の説明は余計だが。
「つまり、これまで起きた地震は地脈の流れを修復するための自然現象だってことなのか?」
「大正解!さすがコウキさんや!このテオプア王国では地脈の数がギョウサンあるんや、せやから自然の恵みや資源などが豊富に獲れるようになってるねん」
なるほど、地震が頻繁に起きるのも地脈が多いのが原因という訳か。
「だけど極たまに起きるんだろ?今日で二回、ヒスイの話だともっと前から起きているんだぞ?それが全部地脈が原因のはずないだろ?」
「ところがドッコイ、全部地脈の修復作業によるものやったんや」
な、なんやて!・・・あ、ゾアの口調が移った。
「そんなに地脈の流れが不安定になることなんてあるのか?」
「少なくとも自然現象でこんなことはあり得ません・・・ですから私たちはその乱れが人為的に行われているのだと考えているのです」
人為的に地脈の流れを乱すそんなことが可能なのか?・・・いや、修復できる奴がここにいるんだし乱すのも可能か。
「実は今日学校で起きた地震なのですが・・・見えたのです」
「見えたって何を?」
「地面から物凄い悪意が地脈の自然エネルギーと一緒に溢れだすのを」
そうか、学校で【魂眼】を発動していたのはそれが気になっていたからか。
「おそらく、この国に対して悪意のあるものが地脈を乱しているのだと思います。そしてその影響は自然現象だけではありません」
「・・・魔物の巨大化?」
俺がそう言うとアルラがコクリと頷く。
「研究所にいたヘルモス、そして先ほどのジャイアント・ボアも体内の魔力以外に自然エネルギーが巡っている反応がありました・・・おそらく地震によって溢れだした悪意を含んだ自然エネルギーに触れて巨大化、凶暴化したのかと」
なるほどね・・・そうなると最近魔物が暴走しているのもうなずける。
「分かった、このことは才に伝えよう。何か対策を考えてくれるはずだ」
「お願いします・・・私とゾア様はこの辺り一帯の地脈の修復作業に取り掛かります。また地震が起こってしまう可能性は高いですし」
そうだな、さすがに夜中とかに地震が起きたら面倒だ。
「分かった、せっかくの観光で悪いが修復作業を頼む。それともし証拠らしきものがあったら持ってきてくれ」
『御意!』
・・・・さて、何やらもっと面倒なことが起こりそうだぞ。