103話 王都を観光したら王立研究所へ行きました
ワイト達の体験授業を行っている間、俺たちは王立学校の奥にある王立研究所の見学に向かった。そして偶然なのか、白衣に牛乳瓶の蓋のような眼鏡をかけた女性、メドウ・ローリンがやって来るのが見えた。
「あ、サイ君・・・コウジ君たちも来ているね」
「コウジじゃなくて、光輝だ!人の名前をちゃんと覚えてくれよ」
「あはは、ごめんごめん。それでサイ君たちはどうしてここに?今日はデータを受け渡す日じゃないよね?」
昨日会ったばかりなのに、なんちゅうマイペースな人だ・・・まあ、嫌いにはならないタイプだがな。
「光輝たちに王立学校を案内したからついでにここも紹介しようと思ってな」
「ああ、そうなんだ・・・といっても見せられるものは殆どないよ。皆それぞれ自分の研究室に閉じこもっているから。今日は発表会も無いから本当に平穏だよ」
メドウは相変わらずのほほんとした口調で言っている。素材はいいのにボサボサ頭に牛乳瓶眼鏡、そしてなんか意味不明な魔物のイラストが描かれたシャツが白衣から覗かせている。
「あ、気付きました?これ、私が描いたゴライアス・ライオンのイラストなんです。今度商品化させようかと思っているんですよ?」
誇らしげいにイラストシャツを見せる・・・いや、絶対売れない気がする。プラム見たら絶対文句とか言いたそうだ。残念美女ってこういう人のことを指すんじゃないのか?
「まあ、服は置いておいて。別に研究成果とか見たいわけじゃない。適当に建物を見学しようかと思っているだけだ」
「そうなんだ・・・あ、そうだ。だったら私の研究室においでよ、面白いものが沢山あるよ」
「・・・物凄く不安しかないんだが」
俺の意見に全員がうなずく。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
メドウの研究室はなんというかいかにもだらしない研究者の部屋と言いたくなるくらい資料で埋め尽くされていた。うん、なんというか見事に散らかっている。
「決済日前の俺の執務室と比べたらまだマシだな」
「ワイの研究部屋も似たような感じや」
サイたちが何やら言っているが聞かなかったことにしよう。
「あはは、ごめんね。ちょっと色々と調べ事をしていてそのままにしていたんだよ」
俺が一枚の紙を手に取ると、ダークエルフの文献についての資料だった。
「これってダークエルフの資料?」
「うん、一応魔物研究がテーマだけど絶滅した種族のことも興味があるからそういうのも調べているんだよ」
よく見ると、ウチの住民たちの種族の資料とかがちらほら見える。
「不死の肉体を持つ『屍人族』、龍の力を宿した『有隣族・龍種』、かつて五大国に匹敵する国を築き上げた『ダークエルフ族』・・・どの種族も大昔に存在していたけど何故か忽然と姿を消して、絶滅したと言われているのよね」
何か語りだすメドウ・・・そう考えるとリズアの住民たちの存在が知られるのはまずいんじゃないか?雑貨店・リズアのレヴィなんか霊人族なんて呼ばれているし。
「メドウは考古学者でもあるのか?」
「違うよ、私の本職は生物学者・・・魔物だけじゃなくて人種にも興味があるのよね。その人たちと人間はどう違うのか・・・それを解明したいの」
人間とその他の違いか・・・考えたこともないな。
「まったく、こういう考えを堂々と言うからお前は異端者と言われるんだ」
「だって、気になるものは仕方ないじゃない」
「そんで、エルフの里まで言っていきなり『解剖させてくれ』と言い出して追放されたのを忘れたか?あの後、エルフ族との対話がどれだけ苦労したことか」
なんか、色々と問題起こしているなこの人。というかいきなり『解剖させてくれ』かよ。確かにそんな人にワイトとか会わせられないよな。
「あの時はごめんって・・・まあ、その話は置いておいて『おい!』・・・これが魔物の研究資料だよ」
メドウが手渡したのは様々な魔物の生態情報だった。
「これ、かなり詳しく調べあげていますよ・・・交配から誕生する遺伝子データから、特徴まで」
アルラが感心した様子で資料を見ていたが、途中で回収される。
「ふふん、魔物の体についてはかなり調べたからね・・・まあ、調べる方法とかは企業秘密だけどね」
誇らしげに言うメドウだが才もそれは認めているのか何を言ってこない。
「ではお礼にいくつかの私の資料を思いせします」
アルラが取り出したのは生産部門の家畜のデータなのだろう。いかに効率よく家畜が育てられるかについて記してある。
「え?・・・何これ、どうやってこんなに調べたの?というかこんな魔物どこで・・・え?ええ?!」
「企業秘密です」
メドウの真似をしたアルラは途中まで読んでいた資料を取り上げる。
「お、お願いします!この資料全部見せますからそれ読ませてください!何でもしますから!」
いい大人が子供に土下座かよ・・・・ん?今なんでもと?
「冗談です、いいですよ」
なんかアルラが人をからかうなんて珍しいな。
「ほおおお!!!素晴らしいです、こんなに詳しく調べたデータ初めてです。あ、これが私のデータです」
そりゃ、ウチの自慢の生産部門と生活部門が集めたデータだからな。それでもほんの一部なんだけどな。
「君、名前なんて言うの?」
「アルラです」
「アルラちゃん、何時でも遊びに来ていいわよ。大歓迎だから・・・はうぅ、それに本当に落ち着く」
アルラにハグすると気持ちよさそうにほっぺすりすりするメドウ・・・正直羨ましいぞ。
「コウキ様!また来ます」
そんなことを思っていると、オウカが何かに反応し叫ぶと床が大きく揺れだし始めた。
「うぁ!また地震か?!」
横へ大きく揺さぶる地震に俺たちはバランスを崩しそうになる。机に置かれていた置物や紙束は床に散らばり、部屋の外からはガラスの割れる音などが聞こえた。
「ぎゃああ!私の資料が!せっかく整理してあったのに!」
「あれでかよ!」
俺が盛大にツッコミを入れるが、すぐに余裕をなくす。十秒以上続く地震がようやく落ち着き部屋を確認するとまさに大惨事になっていた。
「うへぇ掃除が大変だよ」
メドウは涙目で俺たちを見る・・・やめろ!そんな目で俺たちを見るな!
「光輝様、手伝ってあげましょう。さすがに可哀そうです」
「アルラちゃあん!あなた天使よ!」
いえ、元神です。ちなみに天使は才の後ろで秘書をしています。
それからしばらく俺たちはメドウの大量の資料を片付ける羽目になった。
「あ、順番とかは適当にしていいよ、そのままサイ君に提出すれば彼が直してくれるから」
「おい!お前の資料がごちゃまぜになっている理由ってこれか!」
なんだかんだで全員が片付けたおかげで元以上に綺麗に片付いた。
「そんじゃ、メドウ俺たちはそろそろ出るぞ」
「あ、うん片付け手伝ってくれてありがとう。しばらくはまた研究しているからデータをまとめたらギルドに提出しておくよ」
「ちゃんと順番通りにしておいてくれよ」
そう言って俺たちはメドウの研究室から出ていった。
「面白い方ですね」
「まあ、正直面倒な人だと思うぞ」
「メドウで面倒・・・コウキさん、座布団一枚!」
ゾアが何かアホを言っているがスルーしよう。
「やれやれ悪いな、変なことに巻き込んで。マヤ達の授業が終わるまで時間は少しあるしどこかで休『大変だ!魔物が逃げたぞ』・・・無理そうだな」
特に見回る所が無いと判断し休める場所を探そうとした才が急に窓から叫び声が聞こえた中庭を見る。白衣姿の学者たちが巨大な蛾に襲われているのが見えた。
「あれは、ヘルモスですね。魔糸ほどではないですが繭から作られた絹糸はかなり丈夫です」
おそらく家畜用として研究していた奴だろう。
「でもおかしいです、ヘルモスはあんなに大きくないですし、基本大人しい昆虫魔物であんな風に暴れたりは・・・」
アルラの知っているヘルモスは大体全長30センチくらい。だが中庭で暴れているヘルモスは2メートルを超えていた。
「詮索は後だ・・・まずはあいつをなんとかするか」
そう言って才がモニターを操作して一丁のライフルを取り出した。確か以前俺がカーツを倒した証として渡した『覇者の魔銃』だ。
「才、それって」
『激流之弾丸』
俺の質問聞かず、才は魔弾を空に打ち上げると、ものすごい勢いで雨雲が出現しどしゃ降りの雨が中庭だけに降り注ぐ。そして滝のような雨に耐えきれずヘルモスはずぶぬれの状態で倒れこむ。
「やっぱこれが限界か・・・・よし、警備兵捕縛しろ!」
才が指示を出すと中庭にいた警備兵たちがロープを取り出しヘルモスを捕縛し始める。
「才、今の」
「ああ、お前からもらった武器だ。この世界じゃ飛び道具は弓ぐらいしかないから結構便利なんだよな」
「へぇ・・・そうなんだ。じゃなくて、なんでお前がカーツの技を使えるんだよ!」
「【万能鑑定】がただ相手の情報を見るだけだと思うな。お前のゴッドスキルみたいに【万能鑑定】から習得できる能力があるんだ。視た情報から学ぶ、【学習】で大体のコツは分かっている」
ワォ、さすがチート能力・・・。フロアボスにはあんまり新技を見せないように言っておこう。
そんなことを考えていると、警備兵の一人がこちらへやってきてお礼を言ってきた。
「サイ様・・・ありがとうございます、おかげで被害を最小限に抑えることができました」
「あのヘルモスは確か第5研究所のだよな?・・・何があった?」
「それが、先ほどの地震によって研究用に檻に入れていたヘルモスが急に暴れだし、檻を破ったそうなのです」
警備兵も何か信じられない様子で話してる様子から、ヘルモスが暴れることは無いらしい。
「・・・光輝すまないな、また巻き込んでしまって」
「いや、別に構わないが・・・それより大丈夫なのか?」
「何が?」
「中庭・・・」
「・・・あ」
才が中庭を見渡すと、大洪水の後みたいに酷く荒れていた。
大技は計画的に。
今回登場した、才の【学習】ですが、光輝の【迷宮創造】の【スキャン】のようにゴッドスキルから誕生した能力です。簡単に説明すると【万能鑑定】から視た相手の能力を『見よう見まね』で可能な範囲まで再現できる能力です。ただし自分が持たない能力、ゴッドスキルやユニークスキルは再現できません。
動きも【学習】することも可能なのでどこかのバスケット選手のように完全模倣もできます。