95話 夜会に参加したら変人に会いました
アルラをエスコートしながら会場へ歩いていくと、段々周りから視線を感じやすくなってきた。
「・・・やはり目立つのかな、この服?」
俺はエイミィが厳選したスーツを見る。真っ白いスーツをメインに白いロングコート、青白く輝く魔糸の刺繍は様々な刻印が施されている。正直、黒いスーツが殆どのこの会場ではかなり浮いている。
「まあ、いいじゃないですか。それにそのお姿はとても似合っていますよ」
「そうか?」
アルラが褒めると後ろにいたグンナルとランカも頷いていた。
「はぁ・・・正直、こういう肩に力入りそうな場所って苦手なんだよね」
「これも経験ですよ・・・それに、今後オリジンの交易をしっかりさせるためにもこういう場所には馴れるべきかと思います」
まあ、アルラの言う通りなんだよね・・・ここはある意味パイプを作る良い場所なのは分かる・・・だが、俺はあまり人を見る目には自信が無い。才が来るまではあまり話しかけない方が得策か?
「そこの君、ちょっといいかね?」
俺に話しかけてきたのはボサボサ頭に牛乳瓶のようなグルグル眼鏡をかけた女性だ。見るからに研究者ですと表現したやや汚れた白衣を着ている。その姿は明らかにこの会場とは場違いな人物だ。
「な、なんでしょう?」
「後ろにいる妖人族と獣人族は君の護衛かね?」
「え?ええ」
グイッと近づき、目から発せられる気迫に圧倒される。
「見たところ、鬼種と虎種だけど・・・・魔力が桁違い違いすぎるわね。おそらく、ベースとなっている魔物は上位種・・・それとも原始遺伝?」
なんかマジマジと二人を観察し始めた。
彼女の言う通りグンナルは元々ダンジョンのレアモンスター、『オーガ侍』が進化した妖人族、ランカもレアモンスターの『ライジングタイガー』が進化した姿だ。見ただけでそれを理解できるとは、この人何者だ?
「・・・興味深いわね。フフ・・・フフフ!解剖したいわ」
ヤバい、この人かなり危険だ!変人だよ!
「・・・まさか、あんたがメドウ・ローリン?」
「あら?私のこと知っているの?何を隠そう、私こそテオプア王国、随一の生物マニアにして生物研究所の所長!ローリン伯爵家の自慢の一人娘!メドウ・ローリン!」
色々とツッコミたい所はあるが、才の言う通りこの人は『変人』だ。
「・・・あら?そこのあなた・・・・本当に人間?」
アルラに気づいたメドウは今度は彼女をジーと見る。
「・・・んー、鑑定しても人間・・・だけどなんか違和感があるというか。人間とは思えない潜在能力があるというか・・・それに・・・」
ギクッと一瞬俺とアルラは思った。この人、変人だがかなり感が鋭い。
「ふぅああああ・・・なんだろう、すごく落ち着くこの匂い」
メドウは急にアルラに抱き着くとほっぺすりすりしながら幸せそうな顔をする。
「・・・なんなんだ一体」
変人なのは分かる、才達が危惧するのを分かる・・・だけどどこか憎めないというか・・・
「悪い人じゃないみたいですね」
アルラは少し困った様子だがメドウの態度からそこまで警戒していない様子。
「メドウ!やっぱりいた!」
やってきたのは紺色で胸のあいたドレスを身に纏ったケイトだった。普段ローブを着ているから分からなかったがかなり巨乳だ。パッと見て美人であるケイト、男性たちは彼女に釘付けだった・・・もちろん、一部突出している部分にだ。
「・・・光輝様、どこをみているのですか?」
ジト目で見るアルラ・・・男なんだから仕方ないだろ。くびれ派でも見てしまうものは見てしまう。
「あれ?ケイト・・・どうしたの?ドレスなんか着ちゃって」
「姫様の夜会だからよ!っていうか、あなたなんで研究服のままなのよ!ドレスは?!」
「あんな堅苦しい服なんていやよ・・・それより、ダークエルフは?!花の妖精ちゃんはどこ?!」
ケイトの言葉よりもゾアとアルラを探すメドウ。ちなみに、花の妖精ちゃんは今あなたが抱きついているその子です。
「やあ、ケイト。ドレス似合っているね」
「コウキ殿・・・すみません、メドウが何やらご迷惑をおかけしたみたいで」
俺に気づくとすぐにメドウの頭を鷲掴みにして一緒に頭を下げる。
「いや、気にしていないよ・・・才から彼女のことは聞いていたから」
「え?サイ君のことを知っているの?・・・っていうか君だれ?」
そこからかよ!まあ、まだ自己紹介すらしていないから当然か。
「俺は神崎光輝・・・一応ここの国賓として呼ばれた者だ」
「ああ、お父様が言っていた田舎者か。社交常識が全く分かっていないって笑っていたよ」
っぐ!確かに色々とやらかしたが・・・
「メドウ!いい加減にしなさい。というか、ここに来るなら着替えなさいよ」
「あ、そうだった・・・よいっしょ」
そう言った途端、メドウはいきなり服を脱ぎ始める。周りの人たちもギョッとした様子で今度はメドウに釘付け・・・もちろん邪な眼差しで。そして意外なことにこの人もかなりでかい・・・めくりかけた服から覗かせる南半球・・・ノーブラかよ!。
ケイトは必死に脱ごうとするメドウを取り押さえる。
「っちょ!なんでここで脱ぐのよ!ドレスはここに無いでしょ!」
「大丈夫、着替えはこのバッグに入っているから」
彼女が見せたのは小さめのバッグ。おそらく俺のマジックポーチと同じく【収納】ができるものなのだろう。
「違うわよ!・・・ああ、どうしてあなたはこう」
あきれ果てて、頭を抱えるケイト。本当、この人は苦労しているな。そう考えると魔法具の衝動はストレス発散か?
「とにかく、こっちに来なさい!」
「え~、ダークエルフ見つけたいのに」
開場から連れ出されるメドウ・・・なんというか嵐のような人物だな。あの人はしばらくオリジンには入国させない方がいいかも。
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ケイトたちが出ていった後、入れ替わるように入ってきたのはヒュウとヒスイだ。先ほどの男性の釘付けとは変わって今度は女性たちの黄色い声が聞こえる。二人とも、ホストみたいに少し派手なスーツを着てやってくる。
「よう、光輝ようこそ王都テオへ」
「久しぶりでござるな、コウキ殿」
二人が挨拶しに来ると俺たちはお互いに握手をした。
「ヒュウ、ヒスイ久しぶり。仕事が終わったばかりなのに大丈夫なのか?」
「ああ、ちょっと魔物が沢山暴走していたみたいだから討伐しに行っただけだ。あれくらいダンジョンに比べたら楽勝だぜ」
「ここ最近、地震などが頻繁に起きているでござるかなら・・・魔物たちが活発になっているのでござるよ」
地震だって?そんなの気づかなかった・・・あ、【耐震】の狼車に乗っていたから全然気づかなかったんだ。
「そうなんだ・・・」
「そういえば才から聞いたぜ。オリジンの食材を持ってきたんだって?」
「ああ、才の要望でな。今晩の料理に並べられるそうだ」
「それは楽しみでござる。あの質の食材に若の腕・・・どれほど美味い料理は運ばれてくるのやら」
二人共才の料理が出ることを知ると嬉しそうな顔をする。まあ、気持ちは分からなくもない。
「ところで、ケイトはどうしたんだ?あいつは先に来ているはずなんだが」
「ああ、ケイトならさっきメドウ・ローリンって女性を連れて出ていったよ」
「「ああ、納得」」
メドウの名を聞いた瞬間、二人共納得した様子で頷いた。そんなに有名人なのかあの人?
「二人共知っているの?」
「まあ、あいつのおかげで魔物の生態系とか、弱点とか色々と分かったからな。一応、彼女はこの国ではかなりの成果を出しているんだよ・・・変人だけど」
「うむ・・・あの分析力と発想は正直、天才の領域と呼びたいでござるな・・・変人でござるが」
あ、やっぱり変人なんだ。
「ところで、お前の連れは隣にいるアルラちゃんと、後ろの護衛二人だけか?」
ヒュウがゾアたちの存在に気づいたのか俺に質問してきた。
「ああ、ゾアとワイトはあっちの料理を堪能しているよ。プラムはいろんな服を観察したいために色々と歩いている」
モニターで皆の居場所は分かるから何かあったらすぐに駆け付けられるようにはしている。
「そうか・・・まあ楽しめよ。これからもっと忙しくなりそうだから」
ヒュウがニヤリと笑うと・・・入り口の方からざわついた声が聞こえ始めた。
「セレナ・V・テオプア様、ご入場!」
どうやら、メインがようやくやってきたみたいだ。